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彼女の妹 1

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 僕たちは十三歳になった。
 少しずつお互いの距離も近づき、アンジーも僕の前で屈託なく笑うようになった。
 彼女は博学でお喋りするのも楽しい。

 ほんの少し痩せて大人の女性に近づきつつある彼女は今日もかわいい。
 僕の隣に並ぶのにきれいになりたいって言った彼女に、今もすごくかわいいと伝えたけど、首を横に振って頑張るって言う。

 努力する彼女を尊敬している。
 やっぱりあなたと結婚したくないと言われないよう僕も自分を磨こう。
 いつか僕のことを男として好きになってほしいから。
 今はきっと友だちの好きくらいかな。
 好きじゃないって言われたら悲しいからまだ訊かないけど!

 近頃バターや乳製品を控えた果物の菓子や、ナッツやドライフルーツを使った噛みごたえのあるビスケットが並ぶようになった。
 僕と一緒の時だけ、甘いものを少し食べることにしているって。
 だから僕は彼女に最初の一口だけ食べさせる。
 だって、それが一番かわいく笑ってくれるから。

「おいしい……ありがとう、ヴァル」
「どういたしまして。……僕にも食べさせてくれる?」

 彼女が僕の口元にそうっとビスケットを運ぶ。 
 いつも野生動物に餌付けするみたいな態度なのはどうしてだろう。
 本当は彼女の白い指ごと食べてしまいたいのが……バレてる?

「アンジーに食べさせてもらうと、すごくおいしい。もっと食べさせて」
「もう、ヴァルったら……」

 彼女と二人で過ごすこの時間が一番のご馳走だと思う。


 そんなアンジーには美少女と評判の妹、オーロラがいた。
 少し前から、伯爵家に遊びに行くと彼女は僕たちの邪魔をする。
 伯爵夫人もそう。
 僕が心変わりしてオーロラを選ぶとでも思っているのかな。

 アンジーのほうが見た目も中身も数百倍かわいいのにそんなこと起こるはずがない。
 今日はその二人が観劇に出かけた後だから、のんびり過ごせている。

「僕はアンジーが好きだし、二人でいたいんだ」

 ぽそりと漏らすと、彼女は眉を下げて困ったように笑う。

「オーロラはかわいいから……」
「アンジーのほうがかわいい。好きだよ」
「……ありがとう、ヴァル」
「本当に本当だよ。アンジーは僕の天使だ」
「……ヴァル、恥ずかしい……もう、やめて?」

 婚約者として初めて会った時に失敗してしまったし、その結果、伯爵夫人や彼女の妹が変な態度をとっているのかもだし、アンジーはどうも自分に自信がないから僕は一生懸命気持ちを伝え続ける。

「でも、本当のことだから言いたい。愛しいアンジー、すごくかわいいよ」
「……ヴァルはかっこいいわ」

 僕がかっこいい⁉︎
 好きな子に言われて嬉しくて幸せすぎて固まる僕に、アンジーが笑った。

「その顔、久しぶりね……」
「……ひどい顔してる?」
「いいえ、でも……私が、かっこいいって言ったからそんな顔になったの……?」
「うん……嬉しすぎて死ぬかと思った」
「まぁ……ふふっ……ヴァルは大袈裟ね。いつも心の中で思ってたの……」

 心の中で思ってくれてたの⁉︎
 嬉しい。すごく、嬉しい。

「……アンジー、大好きだ」

 僕はテーブルに置かれた彼女のやわらかい手をとって、そこへそっと口づけた。
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