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領地で新婚生活編

8 帰る場所を間違えている 1

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 三年ほど前に商家に嫁いだ従姉、マーラが大荷物を持ってやってきた。
 そもそも五つほど歳も上で、面識はあるけど仲がいい訳でもない。

 カーターの件を片付けてようやく、ようやくアンジーとの蜜月生活に入ったばかりだったのに。

「……離縁されて、行き場がないの。……しばらくここに置いてくれない?」
「無理だね」

 わざとらしくショックを受けたような顔をしている。
 マーラって相手によって態度をコロコロ変えるから、きっと何か企んでいるかもしれない。

「そんな……子供もとられて、実家に帰ったら出来損ないだと両親に責められて身の置き場もないと思うの……だから」
「無理。口添えはするから」

 マーラは一般的に美しいとされる女性で、涙ながらに訴える姿は儚げに見えなくも……ないけど、僕のアンジーが特別美しくてかわいいから心が全く動かない。

「ヴァル……しばらくの間はいいんじゃないかな……?」
「いや、でもね」

 僕が説明しようとしたら、かぶせるようにマーラがお礼を言った。

「ありがとう! さすが優しい奥様ね! ヴァル、あなた、見る目あるじゃない‼︎  それに比べて私は……商売が傾いてお前の面倒までみれないって、追い出されて……うぅっ……子供に、会えなくて、つらいわ……」

 贅沢三昧したんじゃないの?
 マーラってそんな女だと思うんだ。
 結婚相手も金で選んだと聞いているし。

「ヴァル……?」

 優しいアンジーは従姉の境遇に同情してるみたい。
 アンジーを褒められたし、仕方ないか。

「……わかった。部屋を用意させる」
「ありがとう、ヴァル! しばらくの間だけ、だから」

 僕たちの寝室から一番離れた部屋を準備させないと!
 にんまり笑うマーラに嫌な予感しかしなかった。
 






「アンジーと二人きりになれなくて残念だ」

 その夜、アンジーを抱きしめながらベッドに横になった。

「でも……こうして、一緒にいられるから……」
「うん、だけど! 昼間だって、たくさんアンジーに触れていたいのに……」
「そう、なの? それなら、二人で出かけたらいいんじゃない、かな?」

 アンジーの提案が嬉しくて、音を立てて唇を重ねる。

「ふふっ……大好き、ヴァル」
「僕も! 大好き‼︎ ああ。父様達が帰ってくるまで二人きりのはずだったのにな……」

 ついついぼやく僕に、アンジーが宥めるように軽く唇を触れ合わせた。

「そうね……でも、マーラさん可哀想だと思って。……私も、ヴァルの子を置いて離縁されることになったらすごく悲しいと思うの……想像するだけで、胸が苦しくなる」

「ないよ! それは絶対ないから! 僕が大好きなアンジーと子どもを引き離すとか、り、離縁とか‼︎  絶っ対に、ないから!」

 離縁なんて、口に出すのも嫌だった‼︎
 必死な僕の気持ちが伝わって、アンジーがふんわり笑った。

「うん、信じてる」
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