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新しい家族編
2 過保護なんかじゃない、これは当たり前なんだ。
しおりを挟む「アンジー、そこに段差がある。抱っこするから待って」
そう言って抱き上げようとすると、僕の胸に手を当てて押し返す。
「ヴァル、あのね……私、食べていないと気持ち悪くなっちゃうの。でも、食べ過ぎは太り過ぎて赤ちゃんを産む時に大変になっちゃうんだって……だから、無理のない範囲で動いた方がいいって先生に言われたわ」
「……わかった。先生がそう言うなら」
ううむ。
なんてことだ。
アンジーをたくさん甘やかしたいのに!
でも、先生の言うことは、絶対だ。
今も、小さく切ったセロリを口の中で転がしながら気持ち悪くならないように対処している。
しばらくしたらこの食欲もおさまるだろうって、今は僕もポケットにたくさんの食べ物を詰めて歩いている。
小魚を包んでポケットに入れていた時に、なぜかバラけてちょっと、いやだいぶ大変だったけど。
今はむいて食べれる果物とか、丸かじりできる野菜を忍ばせている。
というのも、胸ポケットから飛び出したキュウリを見た母様に、眉をひそめられたから胸ポケットには小さな人参を挿しておいた。
葉っぱがハンカチーフみたいに華やかに……見えないこともない!
緑に癒されるし、アンジーは笑ってくれるし、食料になるし……いいんだ。
「ヴァル、手をつないでくれたらすごく嬉しい。もしも、つまずきそうになっても、すぐ助けられるでしょう?」
つまずく?
それはあってはならない!
「わかったよ。僕が二人を守るから!」
「うん。ありがとう……私って幸せね」
「幸せなのは僕のほうだよ。アンジーの願いはすべて叶えたいから、なんでも言って! ね?」
アンジーが僕の手をぎゅっと握る。
「……ありがとう。それなら、このまま一緒に少し歩きたいな」
社交シーズンで王都に戻って来ていたから、庭園をゆっくり一回り。
アンジーの体調がよくなったら、一緒に領地に戻って出産準備に入ることになっている。
たいていの夫は王都で楽しんで、妻だけ領地に戻るのだけど、僕は絶対に絶対にアンジーから離れない。
そうじゃないと、妻を守れないからね。
幸い、父様と母様は現役だから僕にそこまで重要度の高い行事はほぼない。
夜会になんて行きたくないけど、今のうちにちょっと顔出して挨拶して帰る。
留守番のアンジーが心配だから。
僕が妻に夢中だって噂も、噂じゃなくて本当だし、僕にすり寄ってくる既婚者信じられない!
もちろん、顔は覚えた。
要注意人物として。
「そろそろお茶にしようか」
庭園の隅にある、大きな日傘の用意されたテーブルに向かう。
アンジーが冷えちゃうと良くないから、僕の膝に抱っこした。
すぐさまアメリアがススーッと出てきてテーブルにお茶や軽食をパパッと並べる。
アンジーのためになるべく身体に負担の少ないものを少量ずつ。
「どれ食べたい? まずはお茶かな?」
身体に負担にならないハーブティのカップを受け皿ごと持ち上げた。
「ありがとう。いただきます」
アンジーがカップだけ持ち上げて二口ほど飲んで置いた。
「ヴァルも飲んで?」
ものすごくお行儀が悪いけど、二人で一つのカップでお茶を飲み、軽食を摘んだ。
これまで二つ用意していたけど、膝に抱っこしているからお茶を間違うこともあったし、アンジーの気分で違うお茶にすぐ替えられる。
こんなふうに過ごす、なんでもない日々も幸せだ。
なんでもない、っておかしいな。
素敵なことがいっぱいあるんだから。
アンジーのお腹にそっと手を当てて僕は幸せを噛みしめた。
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