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第1章

第11話 異邦人達

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 突然の昏倒・・そして、落下浮遊感。

 そして、また見覚えの無い部屋の中へ・・。

(今日だけで、一生分の驚きを体験できたな)

 シュンは苦笑を漏らしつつ、周囲へ視線を配った。すでに人の気配は感じている。それが、異邦人達だろうとの見当もついている。

(多いな)

 ざっと30名くらいか。異邦人だからと言って、角や牙があるわけでは無いらしい。背丈や身体付きなど、どちらかと言えば、ひょろっとしていて屈強な身体付きの者は4、5名くらいか。
 男女比は半々くらいか、少し男が多いくらい。みんな同じような衣服を着ていた。

(動けそうなのは・・いいとこ、10名程度かな)

 全体に弛緩した空気感で、切迫した危機感を覚えている人間は居ないようだった。

 シュンが立っているのは、四角い箱状の部屋の隅だ。
 異邦人達は揃った大きさの机椅子に座って、シュンには背中を向けていた。

(右手に、引き戸・・窓には・・鉄線が埋められている?)

 天井では、細長い円筒の物が青白い光を放っている。

(様子を見よう)

 シュンは、後ろ手に触れている壁と同化するように気配を断った。

 その時、いきなり奇妙な音が鳴り始めた。

 ビービーー と耳に障る音もあれば、リンリンリン・・と鈴のような音もある。誰かが歌を歌い始め、動物らしき鳴き声も混じる。

 途端、整然と前を向いて並んでいた男女が慌てた様子で鞄を開いたり、ズボンのポケットに手を入れたりして騒がしくなった。

(・・なんだ?)

 ほぼ全員が、小さな長方形の板のような物を手に握って指でつついている。
 ちょっと異様な光景だった。

『やあ、こんにちは』

 聞き覚えのある少年の声がして、シュンとはちょうど反対側、異邦人の男女から見たら正面に、少年神が姿を現していた。

 呆気に取られたような沈黙があり、すぐに少年少女が声をあげて何やら言い始める。異邦の言葉なのだろう。シュンには分からなかった。

『うふふ、みんな大好き、異世界転生のお時間でぇ~す。ボク? もちろん、神様ですよぉ?』

 少年神が人差し指で天井を指さした。

(これは・・?)

 円形の歯車がいくつも回りながら、雪のように降って来る。

『はい、異世界に来ちゃいましたぁ~、おめでとうございまぁ~す』

 少年神が笑顔で手を叩いて見せる。

 再び、少年少女が大騒ぎを始めたが、少年神は、その反応が楽しいらしく、満面の笑顔で見守っていた。

『異世界転生と言えば、チートなスキル、チートな魔法、チートな武器ですねぇ~』

 少年神が言うと、異邦人の男女が急に声を潜めて鎮まっていった。

『うんうん、良い子ですねぇ。皆さんがとっても素直なので、特別に3つの力をあげましょう』

 少年神がふわふわと宙を浮かんで移動すると、埃でも払うかのように手を振る。途端、机ごと少年少女が吹き飛ばされて壁際に転がっていた。

『さあ、ゲームの時間ですよぉ?』

 少年神が楽しそうに言いながら、小さな指を鳴らす。

 途端、床から大きな円盤を取り付けた台座が現れた。円盤の表面に、円形で囲った文字が無数に刻んである。

『3つの力の内、一つは遠距離からの攻撃能力・・いわゆる飛び道具ですよぉ。"武器の書・銃"ですね。皆さんにお馴染みの銃器からマニアックな逸品まで様々です』

 少年神の説明に、異邦人の男女が声を潜めたまま囁き合っている。

『2つ目は、近接距離での攻撃能力・・刀剣が選べる"武器の書・刀剣"ですねぇ。運が良ければ皆さんが大好きな日本刀もゲットできますよ。3つ目は、"魔法の書"です。攻撃魔法から回復魔法まで選択が可能になっています』

 再び、少年少女達がざわつき始めた。

『は~い、嬉しいのは分かるけど、静かにしてねぇ~ むかつくと何もあげないので気を付けて?』

 少年神がにっと白い歯を見せる。
 しんっ・・と静まり返った。

 怒りを覚えるのが当然の状況だ。
 それでも少年神の言う事に従うということは、この少年少女はよほど信心深いか、チートというものがよほど価値あるものなのか。

『武器の書も魔法の書も、皆さんの魂にリンクしています。誰かにあげることも、もちろん奪うことも出来ません。そして、一度、書から選択した武器は二度と変更できません』

 少年神が空中に浮かんだままあぐらを組んで、頭を下にお尻を上に、上下逆さまで浮かんだまま移動する。

『最後に、よく質問があるので先に言っておきますね。鑑定眼とか、そういう能力は存在しません。相手の能力を奪ったり、コピーする能力も存在しません。相手を奴隷化、隷属させる魔法や道具も存在しません。一夫多妻も、一妻多夫も認められています。死んだら蘇りません。それから・・』

 少年神が、ええと・・と腕組みしつつ考え込んだ。

『無限収納という魔法自体は存在しないけど似たような魔導具ならありますよ。あと、重たいお金を持ち歩くのは大変なので、聖印銀貨、聖印銀板、聖印金貨、聖印棒金の4種類に限って収納できる魔法陣を皆さんの体に魔法陣として刻印します。小さなシール状の物を渡すので、自分で好きな場所に貼り付けて下さい。そこに刺青のように金庫の魔法陣が刻まれるので、気を付けて下さいね』

 その時、1人の少年が挙手をした。

『なんでしょう?』

 少年神の問いに、少年が何やら真剣な顔で質問をしていたが、残念なことに、シュンには言葉が理解出来ない。

『なかなか、良い質問ですね。聞こえなかった人も居るかもしれないので説明しておきましょう』

 少年神が、ちらとシュンの方を見たようだった。

『銃という武器は、火薬を爆発させて金属の弾丸を撃ち出します。誰が撃っても威力は固定です。当たる当たらないは個人の技量ですけどね? 質問は、この威力に変動は無いのか? つまり、ここで手に入る銃器はずっと同じ威力のままなのか? 強い魔物を相手にすると、そもそも銃の威力が足りなくなるんじゃ無いのか?・・といった内容です』

(ふうん・・銃というのは、そういった物なのか。弩でも同じ事だな。弦の強さと、鏃の工夫・・それでも通用しない魔物は多い)

 剣なら、体の力が威力に反映される。銃器にはそれは無いということか。

『結論から言うと変化しません。ただし、1発の弾丸は、最低でも1ポイントのダメージを与えます。0ポイントは無い。どんな強敵であろうと、当たれば1ポイントは保証されています』

 少年神の言葉に、少年少女達がざわつき始めた。

『1000発当てれば、1000ポイントのダメージです。これ・・強いですよ? もちろん、弱い魔物なら、もっと高いダメージポイントが出せます』

 今度は別の少年が挙手をした。かなり興奮した顔色をしている。

『ああ、弾丸の発射には魔力・・マジックポイントを消費します。弾丸の補充も同様ですね。連射をすれば、あっという間に魔力切れ。ちゃんと考えて使ってね?』

(・・やれやれ、また意味不明の単語が)

『それでは、お待ちかね! 抽選会の始まりですよぉ~』

 少年神が部屋の真ん中に設置した円盤台の上に移動して指を鳴らすと、大きな円盤が勢いよく回転し始めた。

『まずは、"武器の書・銃"だよぉ? ボクが君達の魂玉を投げて円盤に当てると、そこに書いてある武器の書が君達の手元に落ちてくるからねぇ。じゃあ、いっくよぉ~』

 そう言うと、少年神が高速で回転する円盤めがけて、無造作にぽいぽいと小さな玉を投げつけていく。

(・・なるほど)

 少年神が言ったように、異邦人の少年少女の手元に次々に本が出現していた。

(おっ・・と)

 シュンの手元にも一冊の本が現れた。

『・・だからぁ、もう交換とかできないの。言ったじゃん? やり直しは出来ないよ?』

 少年神の声に視線を向けると、1人の少年が本を手に何やら懇願しつつ少年神に詰め寄ろうとしていた。そして、やや離れた所に居る少女を指さして騒いでいる。

『君、煩いな』

 少年神が面倒臭そうに言って指を鳴らした。
 それで、詰め寄って何やらお願いをしていた少年の手から本が消え去った。

『はい、じゃあ続いて、"武器の書・刀剣"ですよぉ~』

 少年神が言った時、先ほどの少年が追い詰められた獣のような奇声をあげながら、少女の抱え持っている本めがけて飛びついて奪おうとする。直後、雷に撃たれたかのように仰け反り、派手に痙攣しながら絶息した。

『言ったよね? 他人の本は奪えないってさ? 他の皆も気を付けてねぇ? 奪おうとすると死んじゃうから』

 少年神が、静まり返った異邦人達を見回した。

『じゃ、気を取り直して、"武器の書・刀剣"いきますよぉ~』

 再び、円盤が高速で回転する。少年神がぽいぽい玉を投げつけ、また本が降ってきた。
 今度は誰も文句を言わずに、ただ本を受け取っただけだった。

『はいはい~、じゃあ、"魔法の書"ですよぉ~』

 しん・・と静かな部屋に、円盤の回転する音だけが響き、少年神がにこにこと上機嫌な様子で玉を投げつける。

(魔法の書か・・これで3冊・・と、さっき言っていた魔法陣?)

 手の平くらいの正方形の紙が落ちて来た。

(え・・?)

 追加で、紙が3枚落ちて来た。

"うふふ、それは君にあげる。君がパーティのリーダー・・隊長をやった時だけ、メンバーも使用ができる玩具だよ。これも異世界の子が欲しがった物なんだ。闇迷宮クリアの報酬に加えてあげよう。"

 耳元で声だけがした。少年神は部屋の中央に浮かんだまま悪戯っぽい笑みを浮かべている。

(魔法陣か・・)

 なんにせよ、有り難く貰っておこう。
 パーティというものを組むかどうかはさておき・・。

『武器や魔法を選ぶのは後にしてねぇ~ 今から大事な事を説明するからねぇ~ ちゃんと聴いていないと死んじゃうぞ?』

 少年神の声に、異邦人の少年少女が本を置いて注目した。


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