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第1章
第101話 新たな獲物
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西龍の討伐は4日目、北龍が6日目、北龍を討伐した"一番隊"が東の"二番隊"に合流して8日目に東龍の討伐が完了した。ついに、当初の目標であった四龍討伐を達成したのである。
歓声を上げながら意気揚々と引き上げてくる"狐のお宿"を、東通路を封鎖して待機していた"竜の巣"が出迎え、喜びを爆発させている。
当然ながら、シュン達だけは闘技場の観覧席に居座って周囲を警戒し続けていた。
用意が無駄に終われば一番良い。そう思っていたのだが・・。
『ご主人』
カーミュの声が聞こえた。
「現れるのか?」
『もうすぐです』
「ユア、閃光手榴弾だ」
「アイアイ」
ユアがXMを高々と放り上げた。警報代わりだ。ケイナがEX技を使用し、"陣地"を構築する間に、爆発音が円形闘技場に響き渡った。
歓声を上げていた"狐のお宿"と"竜の巣"がぎょっと振り返る。
「打合せ通りだ」
シュンはケイナ達に声をかけつつ、VSSを手に握った。
「全員が蘇生薬を持っているし、なんとか粘ってみるわ」
「レベル詐欺だけどね」
"ガジェット"の面々が笑った。
「何事です?」
「どうしました?」
観覧席上をタチヒコとロシータが駆けてきた。
「次の魔物が出るようだ」
シュンは闘技場の中央を指さした。まだ何も居ない広々とした場内だったが、注意深く観察すればどこか重々しい気配が満ち始めている事が分かる。
「・・これは、確かにおかしい」
「なんか禍々しいです」
ロシータが眼を眇めて場内の一点を注視する。何かの魔法を使っているのか、瞳が青白く光っていた。
「龍より弱いとは思えない。ここに防衛陣地を築く。薬品も置いておくので、治療や休養をする場として利用してくれ」
「なるほど・・野戦病院というわけですね」
タチヒコが大きく頷いた。
「遠慮無く使わせて頂きます」
ロシータが神妙な顔で低頭した。
「"ネームド"は休養十分だ。先に戦ってみる。どんな魔物なのか見極めて作戦を立ててくれ」
「了解です。アオイに伝えておきます」
「こちらも、アレクに言っておきます」
タチヒコとロシータが身を翻し、それぞれのレギオンめがけて走り去った。
(さて、どんな魔物が出るのか)
シュンはユアとユナ、ユキシラを連れて闘技場の中へ進んでいった。
"竜の巣"も"狐のお宿"も、一旦観覧席へ退避して"出現"を見守ることに決めたらしく、壁上へ移動を始めていた。伝達が行き渡ったのか、先ほどまでの浮かれた雰囲気は消え去り、戦いに備えて付与魔法を掛け合う魔法光が方々で明滅している。
そんな中、急に円形闘技場内から光りが失われて闇に包まれていった。
すかさず、魔法の明かりが灯された。
しかし、さすがに70階を越えて上がって来た探索者達だ。光球の近くには身を置かず、魔法の光球だけを浮かべて術者達は離れて立っている。
沈黙が支配する中、円形闘技場の中央に巨大な光の渦が出現した。青白い光る玉が無数に飛び交い、螺旋を描いて下から上へと噴き上がり、闘技場の遙か上方へと伸びていく。
ゴーーーン・・
ゴーーーン・・
ゴーーーン・・
不意に、大きな鐘の音が場内を震わせた。
最後の鐘の音に合わせて、噴出していた光りの奔流が止み、辺りを包んでいた闇が消え去った。
「水楯」
シュンが水楯を展張した。
直後、中央部めがけて上空から何かが落ちてきた。重々しい地響きと共に、真っ白な塊が床石を粉砕して大きく陥没穴を開けていた。落下の衝撃波に殴りつけられて、方々で悲鳴があがる。
「召喚、アルマドラ・ナイト」
シュンは漆黒の巨甲冑を喚び出した。
「迎え撃て」
シュンが命じた直後、重量物が衝突し合う激しい音が鳴り、アルマドラ・ナイトが騎士楯を構えたまま押し返される。
(悪魔か?)
19階で遭遇した悪魔に似た姿をしていた。ただ、あの時の悪魔ほど大きくは無い。
身の丈は、2メートル少し。ツルリと白っぽい肌身を細かい鱗が覆っている。蛇を想わせる逆三角形の頭部から斜め後方に向けて2本の角が生え伸びていた。背にはコウモリのような膜の張った翼がある。
『幼い白龍人なのです。気をつけるです』
カーミュの呟きが聞こえた。
(白龍人・・?)
シュンはVSSの引き金を絞った。
(・・ん?)
VSSの銃弾は、白鱗に届く直前で、眼に見えない壁にぶつかったように弾かれて落ちていた。
同時に足下から生え伸ばしたテンタクル・ウィップも、不可視の壁に阻まれて届いていない。白龍人は、避ける素振りすら見せなかった。
(魔法の障壁?)
アルマドラ・ナイトが白龍人めがけて長剣を振り下ろしたが、白龍人は片手を持ち上げて長剣を受け止めた。
シュンは、VSSを連射した。
ユアとユナも、MP5SDを腰だめにして連射を始めた。
しかし、無数の銃弾が跳ね、周りに転がるばかりで、一発も白龍人の体には届かない。
そんな中、アルマドラ・ナイトが長剣を振り払い、踏み込みざまに騎士楯で殴りつけた。
白龍人が、アルマドラ・ナイトの騎士楯めがけて上体を捻りざまに拳を打ち付けた。それだけで、激しい衝撃音が響き、アルマドラ・ナイトの巨体が数メートル近くも後退させられる。
(だが、まだ楯は無傷だ)
アルマドラ・ナイトはダメージを受けていない。
シュンは展開した水楯から水渦弾を放った。
その間も、双子はまだMP5SDを撃ち続けているが、白龍人は全ての攻撃を受けながら平然と立っていた。
シュンは大きく前に出た。一気に距離を詰めて白龍人に肉薄する。
「カーミュ!」
『はいです!』
呼び掛けに応じて、白翼の美少年が姿を顕すなり白炎を噴いた。
初めて、白龍人が翼を広げて上へ跳んだ。しかし、わずかにカーミュの白炎の速度が上回り、白龍人の左脚が白炎に包まれて燃えあがる。
銃弾をまったく寄せ付けなかった白龍人に、カーミュの白炎が届いている。
カァァァァーーーー
白龍人が牙の並んだ大口を開いて声を咆吼をあげた。
追撃で白炎を噴くカーミュめがけて、白龍人の口腔から雷光が吐き出されて襲う。直前でカーミュが姿を消した。
直後、身体強化を使ったシュンが"魔神殺しの呪薔薇"で白龍人めがけて斬りつけた。
重たい衝撃を両手に感じたのも一瞬、"魔神殺しの呪薔薇"が不可視の壁を抜け、白龍人の背に生えた翼を切り裂いた。
(・・避けられた!?)
白龍人の肩口を狙った"魔神殺しの呪薔薇"は、翼を切り裂いただけで背中まで届かなかった。
踊るように上体を捻った白龍人が尾を振り回して距離を取る。その時、双子のMP5が撃ち出す銃弾が白鱗に当たって火花を散らし始めた。今の攻防で、不可視の壁が消えている。
("魔神殺し"が・・?)
シュンは、テンタクル・ウィップを振り下ろした。12本の黒い触手が縦横に跳ね躍って白龍人を襲う。
今度は、白龍人がテンタクル・ウィップを避けた。
触手の一本が裂けた翼の辺りに当たったが、白龍人の体に巻き付かせることは出来なかった。
シュンが斬りかかる。
だが、今度は余裕を持って回避され、鉤爪の生えた腕で殴りつけられた。"魔神殺しの呪薔薇"で受け、続いて迫る龍尾の一撃をかいくぐり、シュンは白龍人の脚を狙って斬りつける。
無傷な方の右脚を狙った一撃だったが、身軽く跳んだ白龍人に回避され、逆に口腔から雷光を放たれた。至近からの雷撃だ。回避はできない。
咄嗟の動きで、シュンはディガンドの爪と水楯を重ねて受け止めた。それでも、体の方々に激痛が爆ぜる。
(そろそろ時間切れか・・)
身体強化の時間が切れる。
シュンは、"魔神殺しの呪薔薇"を収納した。
「ユキシラ、アレク達の近くへ行け!」
薙ぎ払われた白龍人の腕を避けつつ、VSSを連射する。
銃弾によるダメージポイントは60~90だ。この敵も再生持ちだろうから、有効な攻撃手段とは言えないが・・。
(あの障壁は無いままだな)
魔神殺しの呪薔薇で切り裂いて以降、目に見えない防壁は生成されないようだった。
「ユア、ユナ、常にあいつとの間に俺を挟んで移動しろ。指示するまで、攻撃は銃だけで良い」
「アイアイ!」
「ラジャー!」
背後から返事が返る。
防御魔法、回復魔法、霧隠れ、水楯、"ディガンドの爪"・・。
息をするように自然に魔法をかけ合いながら、シュンとユア、ユナは白龍人との距離を詰めていった。
白龍人が、アルマドラ・ナイトの攻撃をいなし、鉤爪や雷息を浴びせているが重鎧も騎士楯も無傷のままだ。
シュンは長剣で斬りかかるアルマドラ・ナイトに合わせて踏み込んだ。白龍人が片腕でアルマドラ・ナイトの剣を掴み止め、もう片腕を横殴りに振ってシュンを打ち払おうとする。
シュンは白龍人の鉤爪を躱さずに短刀で受けた。足を踏みしめ、下から押し上げるように前に出るなり、タクティカル・グローブを着けた左拳を白龍人の脇腹へ叩き込む。
電撃衝が爆ぜた。ムジェリ作の防御力を無視してダメージを徹す装備だ。
ガァッ・・
驚いたように鳴き声を漏らし、白龍人が大きく距離を取ろうとする。しかし、背後へ回り込んだアルマドラ・ナイトが騎士楯で退路を塞いでいる。
姿勢を乱した白龍人が、迫るシュンを見て咄嗟に腕を交差させて身を守ろうとする。シュンは、白龍人の腕へ短刀を当てて抑えつけながら、右拳を腹部へと突き入れた。
衝撃が白龍人の内へ浸透して爆ぜる。衝撃に身を折った白龍人の手足、尾、首、胴へ、テンタクル・ウィップが次々に巻き付いていく。
完全に捉えた。
「テン・サウザンド・フィアー」
シュンが呟く。
無数の黒い槍が降り注いで白龍人を貫き徹す。
続いて、巨大な蚊が次々と舞い降りて白鱗の上から口器を突き入れていく。
シュンのVSSが連射され、9999のダメージポイントが10個ずつ乱れ跳んだ。
白龍人が体に巻き付いた黒い触手をそのままに、じっとシュンを睨んでいた。並みの魔物なら一瞬で斃しきる与ダメージだったが・・。
(・・まさか?)
危険感知が背を駆け抜ける。
シュンは、咄嗟に"ディガンドの爪"を前に出して腰を落とした。激しい衝撃音が鳴って、ディガンドの爪が粉砕され、重ねて展張していた水楯を突き破る。
白龍人がテンタクル・ウィップの拘束を脱け出て殴りつけてきたのだ。
辛うじて、水楯の最後の1枚で防ぎ止め、シュンは至近から白龍人の眼を狙ってVSSを連射した。いくら再生するとはいえ、眼に物が当たるのは気持ちが良いものでは無い。
わずかに勢いを弱めた白龍人へ、テンタクル・ウィップを打ちつけるが、今度は白龍人が大きく跳び退って12本の触手全てを回避した。
(・・なるほど)
床に落ちたものを見てシュンは苦笑した。
そこに、テンタクル・ウィップから白龍人が抜け出た理由が落ちていた。服でも脱ぐようにして皮一枚を脱皮したらしい。
今度は白龍人の方から襲いかかって来た。
鉤爪を振るい、口から雷息を吐き、尾が自在に角度を変えて足元を薙ぐ。
シュンは、短刀で鉤爪を受け流し、雷息を寸前で潜って白龍人の脇を抜けた。
「あだっ・・」
「いだっ・・」
背後で小さく悲鳴があがる。
「無事か?」
シュンは、白龍人を見たまま、雷息を浴びたらしい双子に声をかけた。
「無問題」
「痺れただけ」
強がる双子の声には、まだまだ余裕がある。
シュンの後ろに居るのだ。シュンが避けた雷息などの攻撃を浴びる事になる。それでも、シュンが離れていろと言わなかったのは、連続して追い討ちの攻撃を浴びない限り、今のユアとユナは斃れないからだ。
ユアとユナはHPが増えた上に、底無しのMPによる回復力が凄まじい。防御に専念する2人を斃すことは簡単ではない。シュンに連れられて乱戦の場数を踏んでいるおかげで、小さなダメージを無視して、大きなダメージを回避する勘働きが絶妙だった。
苛立ちからか、白龍人の動きが荒々しくなってきた。雷息を無差別に周囲へ吐き散らし、打ち振るう鉤爪から赤い光刃が放たれて襲ってくる。初見の技だが、飛来の速度が速いだけで、水楯5枚で防げる威力だった。
(・・身体強化)
シュンは、2度目の身体強化を使用した。
何とか捉えようと強引に突進して掴みかかる白龍人めがけて真正面から突進する。
(捉えた)
シュンは、短刀で白龍人の右腕を斬り飛ばし、体当たりにぶつかりながら腹部を短刀で貫いた。短刀の切っ先が白龍人の背へ抜ける。100万を超えるダメージポイントが跳ね上がり、さらに2度、3度と連続して跳ね出る。シュンが腹部を貫いた短刀を胸めがけて斬り上げているのだ。
ガアァァァーーー
白龍人が咆吼をあげて強引に身を振って暴れ始めた。刺した短刀ごと振り回され、大きく飛ばされたシュンだったが、白龍人の方も追い討つ余裕が無いようだ。再生して塞がる傷口へ手を当て、シュンを睨み付けて何やら吼えている。
「カーミュ!」
『はいです!』
白翼の美少年が出現して、思いっきり息を吸い込むと白炎を噴射した。
歓声を上げながら意気揚々と引き上げてくる"狐のお宿"を、東通路を封鎖して待機していた"竜の巣"が出迎え、喜びを爆発させている。
当然ながら、シュン達だけは闘技場の観覧席に居座って周囲を警戒し続けていた。
用意が無駄に終われば一番良い。そう思っていたのだが・・。
『ご主人』
カーミュの声が聞こえた。
「現れるのか?」
『もうすぐです』
「ユア、閃光手榴弾だ」
「アイアイ」
ユアがXMを高々と放り上げた。警報代わりだ。ケイナがEX技を使用し、"陣地"を構築する間に、爆発音が円形闘技場に響き渡った。
歓声を上げていた"狐のお宿"と"竜の巣"がぎょっと振り返る。
「打合せ通りだ」
シュンはケイナ達に声をかけつつ、VSSを手に握った。
「全員が蘇生薬を持っているし、なんとか粘ってみるわ」
「レベル詐欺だけどね」
"ガジェット"の面々が笑った。
「何事です?」
「どうしました?」
観覧席上をタチヒコとロシータが駆けてきた。
「次の魔物が出るようだ」
シュンは闘技場の中央を指さした。まだ何も居ない広々とした場内だったが、注意深く観察すればどこか重々しい気配が満ち始めている事が分かる。
「・・これは、確かにおかしい」
「なんか禍々しいです」
ロシータが眼を眇めて場内の一点を注視する。何かの魔法を使っているのか、瞳が青白く光っていた。
「龍より弱いとは思えない。ここに防衛陣地を築く。薬品も置いておくので、治療や休養をする場として利用してくれ」
「なるほど・・野戦病院というわけですね」
タチヒコが大きく頷いた。
「遠慮無く使わせて頂きます」
ロシータが神妙な顔で低頭した。
「"ネームド"は休養十分だ。先に戦ってみる。どんな魔物なのか見極めて作戦を立ててくれ」
「了解です。アオイに伝えておきます」
「こちらも、アレクに言っておきます」
タチヒコとロシータが身を翻し、それぞれのレギオンめがけて走り去った。
(さて、どんな魔物が出るのか)
シュンはユアとユナ、ユキシラを連れて闘技場の中へ進んでいった。
"竜の巣"も"狐のお宿"も、一旦観覧席へ退避して"出現"を見守ることに決めたらしく、壁上へ移動を始めていた。伝達が行き渡ったのか、先ほどまでの浮かれた雰囲気は消え去り、戦いに備えて付与魔法を掛け合う魔法光が方々で明滅している。
そんな中、急に円形闘技場内から光りが失われて闇に包まれていった。
すかさず、魔法の明かりが灯された。
しかし、さすがに70階を越えて上がって来た探索者達だ。光球の近くには身を置かず、魔法の光球だけを浮かべて術者達は離れて立っている。
沈黙が支配する中、円形闘技場の中央に巨大な光の渦が出現した。青白い光る玉が無数に飛び交い、螺旋を描いて下から上へと噴き上がり、闘技場の遙か上方へと伸びていく。
ゴーーーン・・
ゴーーーン・・
ゴーーーン・・
不意に、大きな鐘の音が場内を震わせた。
最後の鐘の音に合わせて、噴出していた光りの奔流が止み、辺りを包んでいた闇が消え去った。
「水楯」
シュンが水楯を展張した。
直後、中央部めがけて上空から何かが落ちてきた。重々しい地響きと共に、真っ白な塊が床石を粉砕して大きく陥没穴を開けていた。落下の衝撃波に殴りつけられて、方々で悲鳴があがる。
「召喚、アルマドラ・ナイト」
シュンは漆黒の巨甲冑を喚び出した。
「迎え撃て」
シュンが命じた直後、重量物が衝突し合う激しい音が鳴り、アルマドラ・ナイトが騎士楯を構えたまま押し返される。
(悪魔か?)
19階で遭遇した悪魔に似た姿をしていた。ただ、あの時の悪魔ほど大きくは無い。
身の丈は、2メートル少し。ツルリと白っぽい肌身を細かい鱗が覆っている。蛇を想わせる逆三角形の頭部から斜め後方に向けて2本の角が生え伸びていた。背にはコウモリのような膜の張った翼がある。
『幼い白龍人なのです。気をつけるです』
カーミュの呟きが聞こえた。
(白龍人・・?)
シュンはVSSの引き金を絞った。
(・・ん?)
VSSの銃弾は、白鱗に届く直前で、眼に見えない壁にぶつかったように弾かれて落ちていた。
同時に足下から生え伸ばしたテンタクル・ウィップも、不可視の壁に阻まれて届いていない。白龍人は、避ける素振りすら見せなかった。
(魔法の障壁?)
アルマドラ・ナイトが白龍人めがけて長剣を振り下ろしたが、白龍人は片手を持ち上げて長剣を受け止めた。
シュンは、VSSを連射した。
ユアとユナも、MP5SDを腰だめにして連射を始めた。
しかし、無数の銃弾が跳ね、周りに転がるばかりで、一発も白龍人の体には届かない。
そんな中、アルマドラ・ナイトが長剣を振り払い、踏み込みざまに騎士楯で殴りつけた。
白龍人が、アルマドラ・ナイトの騎士楯めがけて上体を捻りざまに拳を打ち付けた。それだけで、激しい衝撃音が響き、アルマドラ・ナイトの巨体が数メートル近くも後退させられる。
(だが、まだ楯は無傷だ)
アルマドラ・ナイトはダメージを受けていない。
シュンは展開した水楯から水渦弾を放った。
その間も、双子はまだMP5SDを撃ち続けているが、白龍人は全ての攻撃を受けながら平然と立っていた。
シュンは大きく前に出た。一気に距離を詰めて白龍人に肉薄する。
「カーミュ!」
『はいです!』
呼び掛けに応じて、白翼の美少年が姿を顕すなり白炎を噴いた。
初めて、白龍人が翼を広げて上へ跳んだ。しかし、わずかにカーミュの白炎の速度が上回り、白龍人の左脚が白炎に包まれて燃えあがる。
銃弾をまったく寄せ付けなかった白龍人に、カーミュの白炎が届いている。
カァァァァーーーー
白龍人が牙の並んだ大口を開いて声を咆吼をあげた。
追撃で白炎を噴くカーミュめがけて、白龍人の口腔から雷光が吐き出されて襲う。直前でカーミュが姿を消した。
直後、身体強化を使ったシュンが"魔神殺しの呪薔薇"で白龍人めがけて斬りつけた。
重たい衝撃を両手に感じたのも一瞬、"魔神殺しの呪薔薇"が不可視の壁を抜け、白龍人の背に生えた翼を切り裂いた。
(・・避けられた!?)
白龍人の肩口を狙った"魔神殺しの呪薔薇"は、翼を切り裂いただけで背中まで届かなかった。
踊るように上体を捻った白龍人が尾を振り回して距離を取る。その時、双子のMP5が撃ち出す銃弾が白鱗に当たって火花を散らし始めた。今の攻防で、不可視の壁が消えている。
("魔神殺し"が・・?)
シュンは、テンタクル・ウィップを振り下ろした。12本の黒い触手が縦横に跳ね躍って白龍人を襲う。
今度は、白龍人がテンタクル・ウィップを避けた。
触手の一本が裂けた翼の辺りに当たったが、白龍人の体に巻き付かせることは出来なかった。
シュンが斬りかかる。
だが、今度は余裕を持って回避され、鉤爪の生えた腕で殴りつけられた。"魔神殺しの呪薔薇"で受け、続いて迫る龍尾の一撃をかいくぐり、シュンは白龍人の脚を狙って斬りつける。
無傷な方の右脚を狙った一撃だったが、身軽く跳んだ白龍人に回避され、逆に口腔から雷光を放たれた。至近からの雷撃だ。回避はできない。
咄嗟の動きで、シュンはディガンドの爪と水楯を重ねて受け止めた。それでも、体の方々に激痛が爆ぜる。
(そろそろ時間切れか・・)
身体強化の時間が切れる。
シュンは、"魔神殺しの呪薔薇"を収納した。
「ユキシラ、アレク達の近くへ行け!」
薙ぎ払われた白龍人の腕を避けつつ、VSSを連射する。
銃弾によるダメージポイントは60~90だ。この敵も再生持ちだろうから、有効な攻撃手段とは言えないが・・。
(あの障壁は無いままだな)
魔神殺しの呪薔薇で切り裂いて以降、目に見えない防壁は生成されないようだった。
「ユア、ユナ、常にあいつとの間に俺を挟んで移動しろ。指示するまで、攻撃は銃だけで良い」
「アイアイ!」
「ラジャー!」
背後から返事が返る。
防御魔法、回復魔法、霧隠れ、水楯、"ディガンドの爪"・・。
息をするように自然に魔法をかけ合いながら、シュンとユア、ユナは白龍人との距離を詰めていった。
白龍人が、アルマドラ・ナイトの攻撃をいなし、鉤爪や雷息を浴びせているが重鎧も騎士楯も無傷のままだ。
シュンは長剣で斬りかかるアルマドラ・ナイトに合わせて踏み込んだ。白龍人が片腕でアルマドラ・ナイトの剣を掴み止め、もう片腕を横殴りに振ってシュンを打ち払おうとする。
シュンは白龍人の鉤爪を躱さずに短刀で受けた。足を踏みしめ、下から押し上げるように前に出るなり、タクティカル・グローブを着けた左拳を白龍人の脇腹へ叩き込む。
電撃衝が爆ぜた。ムジェリ作の防御力を無視してダメージを徹す装備だ。
ガァッ・・
驚いたように鳴き声を漏らし、白龍人が大きく距離を取ろうとする。しかし、背後へ回り込んだアルマドラ・ナイトが騎士楯で退路を塞いでいる。
姿勢を乱した白龍人が、迫るシュンを見て咄嗟に腕を交差させて身を守ろうとする。シュンは、白龍人の腕へ短刀を当てて抑えつけながら、右拳を腹部へと突き入れた。
衝撃が白龍人の内へ浸透して爆ぜる。衝撃に身を折った白龍人の手足、尾、首、胴へ、テンタクル・ウィップが次々に巻き付いていく。
完全に捉えた。
「テン・サウザンド・フィアー」
シュンが呟く。
無数の黒い槍が降り注いで白龍人を貫き徹す。
続いて、巨大な蚊が次々と舞い降りて白鱗の上から口器を突き入れていく。
シュンのVSSが連射され、9999のダメージポイントが10個ずつ乱れ跳んだ。
白龍人が体に巻き付いた黒い触手をそのままに、じっとシュンを睨んでいた。並みの魔物なら一瞬で斃しきる与ダメージだったが・・。
(・・まさか?)
危険感知が背を駆け抜ける。
シュンは、咄嗟に"ディガンドの爪"を前に出して腰を落とした。激しい衝撃音が鳴って、ディガンドの爪が粉砕され、重ねて展張していた水楯を突き破る。
白龍人がテンタクル・ウィップの拘束を脱け出て殴りつけてきたのだ。
辛うじて、水楯の最後の1枚で防ぎ止め、シュンは至近から白龍人の眼を狙ってVSSを連射した。いくら再生するとはいえ、眼に物が当たるのは気持ちが良いものでは無い。
わずかに勢いを弱めた白龍人へ、テンタクル・ウィップを打ちつけるが、今度は白龍人が大きく跳び退って12本の触手全てを回避した。
(・・なるほど)
床に落ちたものを見てシュンは苦笑した。
そこに、テンタクル・ウィップから白龍人が抜け出た理由が落ちていた。服でも脱ぐようにして皮一枚を脱皮したらしい。
今度は白龍人の方から襲いかかって来た。
鉤爪を振るい、口から雷息を吐き、尾が自在に角度を変えて足元を薙ぐ。
シュンは、短刀で鉤爪を受け流し、雷息を寸前で潜って白龍人の脇を抜けた。
「あだっ・・」
「いだっ・・」
背後で小さく悲鳴があがる。
「無事か?」
シュンは、白龍人を見たまま、雷息を浴びたらしい双子に声をかけた。
「無問題」
「痺れただけ」
強がる双子の声には、まだまだ余裕がある。
シュンの後ろに居るのだ。シュンが避けた雷息などの攻撃を浴びる事になる。それでも、シュンが離れていろと言わなかったのは、連続して追い討ちの攻撃を浴びない限り、今のユアとユナは斃れないからだ。
ユアとユナはHPが増えた上に、底無しのMPによる回復力が凄まじい。防御に専念する2人を斃すことは簡単ではない。シュンに連れられて乱戦の場数を踏んでいるおかげで、小さなダメージを無視して、大きなダメージを回避する勘働きが絶妙だった。
苛立ちからか、白龍人の動きが荒々しくなってきた。雷息を無差別に周囲へ吐き散らし、打ち振るう鉤爪から赤い光刃が放たれて襲ってくる。初見の技だが、飛来の速度が速いだけで、水楯5枚で防げる威力だった。
(・・身体強化)
シュンは、2度目の身体強化を使用した。
何とか捉えようと強引に突進して掴みかかる白龍人めがけて真正面から突進する。
(捉えた)
シュンは、短刀で白龍人の右腕を斬り飛ばし、体当たりにぶつかりながら腹部を短刀で貫いた。短刀の切っ先が白龍人の背へ抜ける。100万を超えるダメージポイントが跳ね上がり、さらに2度、3度と連続して跳ね出る。シュンが腹部を貫いた短刀を胸めがけて斬り上げているのだ。
ガアァァァーーー
白龍人が咆吼をあげて強引に身を振って暴れ始めた。刺した短刀ごと振り回され、大きく飛ばされたシュンだったが、白龍人の方も追い討つ余裕が無いようだ。再生して塞がる傷口へ手を当て、シュンを睨み付けて何やら吼えている。
「カーミュ!」
『はいです!』
白翼の美少年が出現して、思いっきり息を吸い込むと白炎を噴射した。
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貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
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【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
【収納∞】スキルがゴミだと追放された俺、実は次元収納に加えて“経験値貯蓄”も可能でした~追放先で出会ったもふもふスライムと伝説の竜を育成〜
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貢献してきた勇者パーティーから、スキル【収納∞】を「大した量も入らないゴミスキル」だと誤解されたまま追放されたレント。
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失意の中、追放先の森で出会ったのは、もふもふで可愛いスライムの「プル」と、古代の祭壇で孵化した伝説の竜の幼体「リンド」。レントは隠していたスキルを解放し、唯一無二の仲間たちを最強へと育成することを決意する!
辺境の村を拠点に、薬草採取から魔物討伐まで、スキルを駆使して依頼をこなし、着実に経験値と信頼を稼いでいくレントたち。プルは多彩なスキルを覚え、リンドは驚異的な速度で成長を遂げる。
これは、ゴミスキルだと蔑まれた少年が、最強の仲間たちと共にどん底から成り上がり、やがて自分を捨てたパーティーや国に「もう遅い」と告げることになる、追放から始まる育成&ざまぁファンタジー!
地獄の手違いで殺されてしまったが、閻魔大王が愛猫と一緒にネット環境付きで異世界転生させてくれました。
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「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作、面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
高橋翔は地獄の官吏のミスで寿命でもないのに殺されてしまった。だが流石に地獄の十王達だった。配下の失敗にいち早く気付き、本来なら地獄の泰広王(不動明王)だけが初七日に審理する場に、十王全員が勢揃いして善後策を協議する事になった。だが、流石の十王達でも、配下の失敗に気がつくのに六日掛かっていた、高橋翔の身体は既に焼かれて灰となっていた。高橋翔は閻魔大王たちを相手に交渉した。現世で残されていた寿命を異世界で全うさせてくれる事。どのような異世界であろうと、異世界間ネットスーパーを利用して元の生活水準を保証してくれる事。死ぬまでに得ていた貯金と家屋敷、死亡保険金を保証して異世界で使えるようにする事。更には異世界に行く前に地獄で鍛錬させてもらう事まで要求し、権利を勝ち取った。そのお陰で異世界では楽々に生きる事ができた。
出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜
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