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第1章
第126話 花の洞窟
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(ここは・・?)
シュンを瞠目させる光景が広がっていた。
19階の壁も床も淡い桃色に染まり、足元を色とりどりの花が埋め尽くしている。
「幻惑効果があります。レジストを」
そう言ったのは、ロシータだった。
途端、無数の草が生え伸びてロシータを襲った。
「総長っ!?」
声をあげた"ケットシー"の面々にも足元の草が襲う。
「声を抑えなさい」
指示をしながら、ロシータが長柄の大鎌を一閃して伸びてきた草を切り払った。"ケットシー"の少女達は風魔法で切断し、火魔法で焼き払っている。
その間、シュンはVSS、ユアとユナはMP5を構えたまま動いていない。"ガジェット"のミリアムが、喉元のスカーフを持ち上げて鼻から下を覆った。
(カーミュ前方を灼いてくれ)
声に出さず指示をする。
『はいです』
待ってましたとばかりに、白翼の美少年が姿を現し、純白の火炎を噴射した。一瞬にして灰も残さず草や花が消え去り、本来の褐色の岩肌になった。
「ロシータ、幻惑の効果はまだ残っているか?」
シュンはVSSを構えたまま後方のロシータに訊ねた。シュンやユア、ユナは護目が無効化している上に、身体の耐性自体が高くて何も感じないのだ。
「・・薄れました。幻惑香を精製する妖花に似た香りです」
ロシータが言うには、28階に咲く妖花に酷似しているらしい。あまり興味を持って採取したことがなかったが、成分を強くすると幻覚剤になり、匂いだけでも幻惑され半催眠状態になるという。
「ごく少量を使うと良い香水になるというので、女の子には人気だったのですが・・精神防御を行えない殿方には効果が覿面で、いいように操られてしまう方が続出したものですから、エスクードでは大手パーティが協定を結んで禁止薬物に指定し、採取を自粛しております」
「なるほど・・ミリアム、意識は?」
シュンに問われ、目元近くまでスカーフで覆ったミリアムが頷いてみせる。
「私は調味料に使えないか研究していた時期があるから、妖花の香りには耐性があるわ。"ネームド"の装備ほどではないけど、このスカーフは防毒マスクになっているの。ケイナが縫い込んだ繊維に精神干渉を防ぐレジスト効果があるから、この程度の幻惑香なら問題ないわ」
シュンは小さく頷いた。同行は、"ケットシー"から3人、ガジェットからはミリアム1人だけだった。残りは後詰めとしてエスクードに待機させている。
「今の草花は神様が創ったものではなかった」
「お分かりにいなるのですか?」
ロシータがシュンの顔を見た。
「ドロップ品が無い」
カーミュが大量に灼いたというのに、灼けた床には何も残っていなかった。
シュンは、ポイポイ・ステッキから『行動規範書』と書かれた分厚い本を取り出した。迷宮管理人が何をするもので何をしてはいけないのかを記した本である。もちろん、神様が作った本だ。
「ボス?」
「何を読んでる?」
ユアとユナが行動規範書を覗き込んでくる。
「迷宮内で神様の創った魔物とは異なる異物を発見した場合は、速やかに対処しろ。対処の方法は管理人の裁量に任せる・・ということらしい」
シュンは記載内容に目を通してから本を収納した。
「いつもと同じ」
「見つけて斃す」
双子がMP5SDを構えてみせる。
「そういう事らしいな」
シュンは2重の水楯を展開し、通路を進み始めた。後方左右に双子、後ろをミリアム、ロシータ達が続く。
埋め尽くす草花をカーミュが灼きながら奥へ進むが、いつまで経っても魔物が一匹も現れない。
黙々と焼却作業をしながら狭い道を進んで行くと、行く手に広々とした空洞が現れた。
なだらかな斜面を下った先に、木塀に囲まれた小ぢんまりとした町が見える。赤や桃色の灯りが町中のあちらこちらで揺れていた。
「あれが城か?」
シュンは眼を凝らした。アルヴィらしい外見の者、迷宮人、それに背に小さな羽根のある女・・。
「女ばかりだな」
「・・ボス?」
「何を見てる?」
双子が左右から肩を寄せてきた。シュンは見えているままを伝えた。
「幻惑香に、女ばかりの町・・ですか」
ロシータがミリアムと視線を交わした。ミリアムが顔を抑えて嘆息する。
「スコット、こんな町に入り浸っていたのね。どこかに、スコットがいない?」
「いや、男はいないが・・」
シュンは護耳の神珠に指を触れた。
「サヤリ、町が見える位置に来た。町の中なら1回、外なら2回叩いてくれ」
『・・コツ・・』
「探索者の他は殲滅する。そこに、探索者は居るなら2回、居ないなら1回」
『コツコツ』
「探索者を保護できる位置にいるなら1回、できないなら2回」
『・・コツ・・』
「よし、これより町の掃討を開始する」
シュンはユア、ユナを見てから、ミリアムやロシータ達へ眼を向けた。
「ネームドが先行して殲滅戦をやる。巻き込んで死なせた場合は蘇生を頼む」
「了解よ」
「畏まりました」
ミリアムとロシータが頷いた。ミリアムには蘇生薬を持たせているし、ロシータは神聖魔法による蘇生ができる。
「根こそぎ駆除」
「巣穴ごと抹殺」
双子が物騒なことを口にしている。ちらっと2人の表情を確かめ、シュンは小さく頷いた。
「蘇生術があるとはいえ、見えない場所で死なれると間に合わない可能性がある。相手の風体を確認してから斃す。対人だ。気分が悪かったら撃つな」
「半裸族に慈悲は無い!」
「トリガーに迷い無し!」
双子が硬い表情で宣言する。
「・・広域殲滅は許可しない」
「アイアイサー!」
「イエッサー!」
ユアとユナが勢いよく敬礼をした。
シュンを瞠目させる光景が広がっていた。
19階の壁も床も淡い桃色に染まり、足元を色とりどりの花が埋め尽くしている。
「幻惑効果があります。レジストを」
そう言ったのは、ロシータだった。
途端、無数の草が生え伸びてロシータを襲った。
「総長っ!?」
声をあげた"ケットシー"の面々にも足元の草が襲う。
「声を抑えなさい」
指示をしながら、ロシータが長柄の大鎌を一閃して伸びてきた草を切り払った。"ケットシー"の少女達は風魔法で切断し、火魔法で焼き払っている。
その間、シュンはVSS、ユアとユナはMP5を構えたまま動いていない。"ガジェット"のミリアムが、喉元のスカーフを持ち上げて鼻から下を覆った。
(カーミュ前方を灼いてくれ)
声に出さず指示をする。
『はいです』
待ってましたとばかりに、白翼の美少年が姿を現し、純白の火炎を噴射した。一瞬にして灰も残さず草や花が消え去り、本来の褐色の岩肌になった。
「ロシータ、幻惑の効果はまだ残っているか?」
シュンはVSSを構えたまま後方のロシータに訊ねた。シュンやユア、ユナは護目が無効化している上に、身体の耐性自体が高くて何も感じないのだ。
「・・薄れました。幻惑香を精製する妖花に似た香りです」
ロシータが言うには、28階に咲く妖花に酷似しているらしい。あまり興味を持って採取したことがなかったが、成分を強くすると幻覚剤になり、匂いだけでも幻惑され半催眠状態になるという。
「ごく少量を使うと良い香水になるというので、女の子には人気だったのですが・・精神防御を行えない殿方には効果が覿面で、いいように操られてしまう方が続出したものですから、エスクードでは大手パーティが協定を結んで禁止薬物に指定し、採取を自粛しております」
「なるほど・・ミリアム、意識は?」
シュンに問われ、目元近くまでスカーフで覆ったミリアムが頷いてみせる。
「私は調味料に使えないか研究していた時期があるから、妖花の香りには耐性があるわ。"ネームド"の装備ほどではないけど、このスカーフは防毒マスクになっているの。ケイナが縫い込んだ繊維に精神干渉を防ぐレジスト効果があるから、この程度の幻惑香なら問題ないわ」
シュンは小さく頷いた。同行は、"ケットシー"から3人、ガジェットからはミリアム1人だけだった。残りは後詰めとしてエスクードに待機させている。
「今の草花は神様が創ったものではなかった」
「お分かりにいなるのですか?」
ロシータがシュンの顔を見た。
「ドロップ品が無い」
カーミュが大量に灼いたというのに、灼けた床には何も残っていなかった。
シュンは、ポイポイ・ステッキから『行動規範書』と書かれた分厚い本を取り出した。迷宮管理人が何をするもので何をしてはいけないのかを記した本である。もちろん、神様が作った本だ。
「ボス?」
「何を読んでる?」
ユアとユナが行動規範書を覗き込んでくる。
「迷宮内で神様の創った魔物とは異なる異物を発見した場合は、速やかに対処しろ。対処の方法は管理人の裁量に任せる・・ということらしい」
シュンは記載内容に目を通してから本を収納した。
「いつもと同じ」
「見つけて斃す」
双子がMP5SDを構えてみせる。
「そういう事らしいな」
シュンは2重の水楯を展開し、通路を進み始めた。後方左右に双子、後ろをミリアム、ロシータ達が続く。
埋め尽くす草花をカーミュが灼きながら奥へ進むが、いつまで経っても魔物が一匹も現れない。
黙々と焼却作業をしながら狭い道を進んで行くと、行く手に広々とした空洞が現れた。
なだらかな斜面を下った先に、木塀に囲まれた小ぢんまりとした町が見える。赤や桃色の灯りが町中のあちらこちらで揺れていた。
「あれが城か?」
シュンは眼を凝らした。アルヴィらしい外見の者、迷宮人、それに背に小さな羽根のある女・・。
「女ばかりだな」
「・・ボス?」
「何を見てる?」
双子が左右から肩を寄せてきた。シュンは見えているままを伝えた。
「幻惑香に、女ばかりの町・・ですか」
ロシータがミリアムと視線を交わした。ミリアムが顔を抑えて嘆息する。
「スコット、こんな町に入り浸っていたのね。どこかに、スコットがいない?」
「いや、男はいないが・・」
シュンは護耳の神珠に指を触れた。
「サヤリ、町が見える位置に来た。町の中なら1回、外なら2回叩いてくれ」
『・・コツ・・』
「探索者の他は殲滅する。そこに、探索者は居るなら2回、居ないなら1回」
『コツコツ』
「探索者を保護できる位置にいるなら1回、できないなら2回」
『・・コツ・・』
「よし、これより町の掃討を開始する」
シュンはユア、ユナを見てから、ミリアムやロシータ達へ眼を向けた。
「ネームドが先行して殲滅戦をやる。巻き込んで死なせた場合は蘇生を頼む」
「了解よ」
「畏まりました」
ミリアムとロシータが頷いた。ミリアムには蘇生薬を持たせているし、ロシータは神聖魔法による蘇生ができる。
「根こそぎ駆除」
「巣穴ごと抹殺」
双子が物騒なことを口にしている。ちらっと2人の表情を確かめ、シュンは小さく頷いた。
「蘇生術があるとはいえ、見えない場所で死なれると間に合わない可能性がある。相手の風体を確認してから斃す。対人だ。気分が悪かったら撃つな」
「半裸族に慈悲は無い!」
「トリガーに迷い無し!」
双子が硬い表情で宣言する。
「・・広域殲滅は許可しない」
「アイアイサー!」
「イエッサー!」
ユアとユナが勢いよく敬礼をした。
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