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第1章

第162話 条件確認

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 世界の使徒になるための条件は、地上世界の住人であること、レベル40以上であること、神命により神敵の討伐を行っていること、そして、主神による評定の場でその資格を示すこと。

「アルダナ公国から来たという天馬騎士の一団が居ますが、あれは別の世界の住人でしょうか?」

『君ねぇ・・今、大事なところよ? そんな羽根付きの馬の話とかどうでも良いじゃん?』

 少年神が不満げに唇を尖らせる。

「主神が世界を纏める動きは、もう始まっているのですか?」

『・・まあ、そうだろうね。余波であっちこっちが混ざり合ったりし始めているかも?』

「天馬騎士は別世界の住人なのですね?」

 シュンは念を押して訊いた。

『そうだね。あれは別世界の住人です』

「地上世界の代表に、龍人は含まれますか?」

 シュンは、次の質問をぶつけた。

『普通は無理だね。ただし、ボクの迷宮のように・・74階のような低層に棲まわせたりしていると参加資格を得ちゃうかも』

 迷宮低層域を地上世界に含めるという主神の決定は、他の世界の迷宮にも共通に適用される。正確には、100階層以下の・・という括りらしい。

「どこの世界がどんな使徒を選んだのか分かるのですか?」

『すぐに分かるよ。神々が推薦した使徒は、一度、主神様の眼の前に並べられちゃうからね』

「・・評定で?」

『うん、ちょっとした試しがあるのさ』

 少年神が苦笑した。

「その場で他の世界の使徒と戦えるのですか?」

 せっかく集められるのなら、そこで決着をつけてしまえば手っ取り早いのだが・・。

『いつ、どこで始めるのかは主神様が決めるよ。過去の例で言うなら、それぞれの世界に戻ってから開始したけどね』

「私は守護霊、水霊獣、憑依魔、悪魔、死人を宿している身ですが、全員が参加できますか?」

『もちろんさ。使徒である君の"能力"として認定されるよ』

「神様から頂いた武器はすべて使用可能ですか?」

 テンタクル・ウィップや"魔神殺しの呪薔薇"が使用可能かどうかで戦い方が大きく変わる。

『うんうん、全部がっつり使えます』

 少年神が大きく頷いた。問題無く使用できるようだ。

「その他の自作、他作の武器や薬品類、食糧などは使用可能ですか?」

『これまで通りさ。まったく同じ効果を発生するよ』

 どうやら、"ネームド"の力を完全に発揮して戦えるようだ。

「使徒のレベル上限はあるのでしょうか?」

『無いです』

 少年神が首を振った。下限はレベル40と区切られているが、上限の設定は無いそうだ。

「蘇生魔法など、魔法の効果に変化はありますか?」

『効果に変化は無い。ただし、場所によっては使用に支障がでることがある。これは、今でも変わらないけどね』

「使徒以外の者を援軍に呼ぶことはできますか?」

 手数が必要な場面で、他のパーティやレギオンに協力を仰げるのかどうか・・。

『対魔王戦は自由さ。でも、使徒同士の戦いは迷宮で言うところの"決闘"扱いだから援軍は呼べません』

「使徒や魔王を斃すと何かのドロップ品がありますか? 経験値は得られるのでしょうか?」

『ドロップ品は無いよ。使徒が斃れると光の粒になって消えるだけ。でも、経験値は入ります』

「報酬としては少ないのですね」

 ただ苦労するというだけで、実入りは期待できないらしい。

『あぁ・・もちろん、報酬は別途出るよ? ボクがちゃんと出すからね? だって、ボクの使徒なんだからね? そりゃあ、もう大盤振る舞いさ!』

 少年神が取りなすように笑みを浮かべて言った。

『そういうわけで、使徒を・・』

「ところで、私は迷宮に来て3年が経ちましたか?」

 シュンの質問に、少年神の顔が引き攣った。

『えっ!? あ、ああ・・まあ・・そうだね。うん、3年経っちゃってるね』

「そうですか」

『ええと・・あれっ? 迷宮出てっちゃう? 管理人の仕事とか上手くやってくれているし、ボクの結界の代わりに迷路とか面白い防衛手段も講じてくれて、ボクとしてはこのまま続けて貰いたいんだけど?』

 少年神がシュンの近くへ寄ってくる。

「迷宮を離れるつもりはありません。ただ、1度は里帰りをするつもりです。魔王云々ということなら、早い内に行って来なければ、育ての親に2度と会えなくなる可能性がありますから」

 すでに何度も口にしていることだ。シュンは迷宮で暮らすつもりなのだから・・。

『ああ、そういうことね! そりゃあ、急いだ方が良いよ! なんたって、世界が混じり合っちゃうんだからね』

「もう一つ・・迷宮を隅々まで探しましたが、ダーク・グリフォンや奈落蛭を発見できません。低確率なのだろうと思っていましたが、さすがにここまで遭遇しないとなると違和感を覚えます」

『あちゃぁ・・気が付いちゃった? 君が奈落蛭って呼んでる奴は"火"という弱点を消したら、どう考えても中層から上の魔物になっちゃってさ。中層に移動させたんだ』

「なるほど・・」

 シュンは頷いた。

『ダーク・グリフォンは居ません。正確には"不老の実"が無くなっちゃったんだけど。ああ、君達が食べちゃったやつね? あれは永く生きたグリフォンでないと辿り着けない場所に生えている樹の実でね。千年に一度、一個だけ実をつける。それを食べたグリフォンが昇華してダーク・グリフォンに進化を遂げるんだ。その途中で、君達によって食べられちゃったので、まあ・・しばらくは巡り会えないね』

「あの実はほとんど未消化でしたが・・あの消化具合で進化していたのですか?」

 シュンは首を傾げた。ダーク・グリフォンの胃袋から出て来た果物は多少皮が傷んだ程度だったのだ。

『ちょっぴり食べただけで劇的な効果があるんだよ。しっかし・・魔物が未消化の果物をよく食べようと思ったよね?』

「・・あれを魔が差したと言うのでしょうか」

 シュンは、両手に抱えているユアとユナを見た。2人とも人形のように固まって動かないが、温もりだけは感じられる。

『ははは・・さて、それじゃあ』

 気を取り直したように、少年神が使徒の話へと戻そうとする。

「死者の丘の大賢者はどこへ行ったのでしょう?」

 シュンは質問を続けた。輪廻の女神と同様に、死者の丘の骸骨を捜しに行ったが、出会うことが出来なかったのだ。

『ん? ああ、彼には上で頑張って貰ってるよ』

 少年神が上方を指さす。どうやら、上層の争いごとに、元大賢者を駆り出したようだ。

「下層迷宮には、他に・・」

『間違い無く、迷宮内では君達"ネームド"が一番の戦力さ。地上世界には他にも条件を満たしたのが居るけど・・一応の参加資格があるっていうだけだね』

 少年神が言うには、天啓という形で、魔物の討伐をさせた人間が他にも居るそうだ。迷宮を出た探索者だったり、原住民だったり・・様々らしいが。

「迷宮内の他の探索者達は使徒になれませんか? レベルが100を超えた者がかなり居ますが?」

 強さだけなら、外の連中より、アレク達の方が上だろう。

『ボクが直接依頼して何かを討伐させたりしていないからね。管理人として正式にお願いしたのは"ネームド"だけでしょ?』

「・・なるほど」

 神様の討伐依頼を受けたかどうかが重要らしい。

『ええと、そろそろ良いかなぁ?』

 少年神が遠慮がちに切り出した。

「何でしょう?」

『使徒になってもらえるかな?』

 少年神が愛想笑いと共に訊いてくる。

「毎月レベルがあがるという報酬は継続中ですか?」

『・・もちろんさ! ああ、忙しくてボクが来られなくても、ちゃんとレベルアップするから心配いらないよ!』

「どうして、私達のレベルは40のままなのでしょう?」

『えっ!? あああ・・これはミスだね! うん、ボクのうっかり! ちゃんと加算しますよ! ええと・・あれぇ? 何ヶ月経ったっけ? もしかして半年くらい過ぎちゃった?』

「神様・・」

 シュンは少年神の顔を見つめた。

『大丈夫、大丈夫~、抜かりないよ! ようし、だいたい5ヶ月過ぎたでしょう! だから、5レベル加算して、レベル45だね!』

「今後もレベルは上がるのですね?」

『もちろんさ! きちんと上がるよ! ほら、あの時はバタバタしてて、ちょっと口約束的なアレだったけど・・ほうら!』

 少年神が指を鳴らした。

『これでもう、今から30日毎に1レベルアップだ!』

「・・感謝します」

 シュンは丁寧に低頭してみせた。

『はははは・・』

「しかし・・魔王がレベル8000になるのでしたら、今、私のレベルを8000にして頂ければ良いのではありませんか?」

 シュンは訊いた。

『へ? いやいやいやいや・・何言っちゃってんの? ありえないからっ! 世界が終わるからっ!』

 少年神が真っ青な顔で喚く。

「・・神様?」

 シュンは少年神の眼を見つめて首を傾げた。

『えぇと・・ほら? 何て言うの? 常識的に考えてよ? レベル8000の人間とか存在しないし、だって・・そうだっ! 君にはレベル上限があるでしょ? 規則上、不可能だよ?』

 冷や汗を滲ませながら、少年神が同意を求めてくる。

「そうですか・・すると、8000ヶ月が過ぎても、レベル8000には到達しないのですね?」

 じっと少年神の眼を見たままシュンは訊いた。

『そりゃぁ・・まあ、そうだね。何にでも限界ってものがあるよ。世の中、そんなに甘くありません』

 少年神が、ややふて腐れたように答える。

「ところで、使徒としての報酬というのは何になるのでしょう?」

 シュンは質問を転じた。

『ええと、それはまあ・・練度とか? お金はいっぱいあるし・・そもそも、使う場所が滅んじゃいそうだからね』

「練度にも上限があるのですよね?」

『うぅ・・うん、そうだね。さすがに無制限ってわけにはいかないねぇ』

 少年神が腕組みをして唸りながら、仰向けに浮かんで漂う。

「能力を鑑定する魔法は無い。相手を隷属させる魔法は無い・・最初に、神様が説明して下さりましたが、それは他の世界でも同様でしょうか?」

 シュンは静かな笑みを浮かべて少年神を見つめた。

『いや、ボクの世界だけの規則だ。やっぱり魔法で隷属とかつまんないし・・鑑定もそうさ。相手の能力を盗み見るのはどうかなって・・それで禁止したんだけど』

「他の世界の使徒は、そうした魔法や魔導具を使ってくる可能性があるのですね?」

『・・そうなるね』

 宙を漂っていた少年神が上下逆さまになってシュンを見る。

「防ぐ道具を用意することは、神様の規則に違反しますか?」

『え? ええと、いや、それなら別に・・』

「では、隷属化と鑑定を防ぐ魔導具を製作する許可を正式に下さい。後に、違反だったと言われるのは困ります」

『そんなこと言わないけど・・まあ、そうだね。じゃあ、神として・・いや、そうか。そうだね、神具を贈ろう! うん、使徒になってもらう報酬の先払いってことでどうだい?』

 少年神が提案した。

「ありがとうございます」

 シュンは穏やかな表情で一礼した。
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