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第1章

第174話 主神の裁き

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・・使徒を咎めはせぬ。その決定に変更は無い・・

 幽閉されていた空間に、主神の声が響いている。シュンだけが自由に動ける状態で、ユアやユナ達はぴたりと動きを止めていた。
 シュンだけが、対話の相手に選ばれたという事だろう。



「感謝致します」

 シュンは真白い空間の中で丁寧に頭を下げた。



・・甲胄人形の"参の封印"は永久封印とする・・



「はい」



・・他の封印については、これまで通りだ。負荷の増減は行わない・・



「ありがとうございます」



・・今後、甲胄人形が成長をする際には、甲胄や武器の、膂力の上昇など、破壊光とは別の強化へ導くよう、神に申し伝えた・・



「恐縮です」



・・すべての迷宮に、使徒を蘇らせた。しかし、使徒同士の戦闘は固く禁じる・・



「無論です。しかし、攻撃をしてくる者がいる可能性があります。その場合は討伐しますが、よろしいでしょうか?」



・・先んじて攻撃をすることは許さぬ。だが、相手が先に攻撃を仕掛けてきたのなら、これを斃すことは認めよう・・



「肝に銘じます」



・・魔王種には城を与える・・



「城を?」

 シュンは無表情を保ったまま訊き返した。



・・迷宮のように経験値を稼ぐ場にはならぬ。だが、迷宮と同じく、外部からの攻撃を受け付けず、魔王の配下たる眷属が延々と出現する、魔王の居城である・・



「なるほど・・しかし、魔王は、眷属を斃せば経験値が入るのでは?」



・・入らぬ。魔王種の糧となるのは原住民、迷宮産の生き物や冒険者・・探索者と呼ぶ迷宮もあったか? そうした迷宮に出入りを認められた者達のみだ・・



「魔王の城はいくつあるのでしょう?」



・・空き城を含めて、九つある・・



「繰り返しになりますが、魔王は城の眷属・・魔物を斃してもレベルは上がらないのですね?」

 そういう事であれば、急激にレベルが上がる危険は少なくなる。




・・その通りだ・・



「主神様・・」

 シュンは、別の懸念事項を訊いておくことにした。



・・なんだ?・・



「神界の揉め事はいつになったら終わるのでしょう?」



・・愚か者の争い事が気になるか?・・



「下層・・地上世界の争乱は、すべて神々の争いが根源にあるという理解でよろしいでしょうか?」



・・その通りだ。神々の醜い争いが地上へ影を落とす結果を招いている・・



「私は下層迷宮を管理する役を与えられておりますが、できれば中層へ・・いずれは上層へと上って行きたいと思っております」



・・ふむ、使徒ならばその資格を有しておるだろうな・・



「そうした知識はどう学べば良いのでしょう?」



・・知識か?・・



「使徒とは何か? 迷宮とは何か? 中層とは? 上層とは? 私は、下層迷宮の管理の役を与えられておりますが、どうも基本的な知識が足りていないように感じています」

 今後の事を考えていくためにも、正しい知識を少しでも多く得ておきたい。



・・主神に対し、怖じずに物を申すような使徒だからな・・

 主神の声にわずかに笑いが混じったようだった。



「それらについて記した書物などは無いのでしょうか?」



・・そうだな。あるにはあるが・・



「あるのですね?」



・・残る魔王を見事討ち果たして見せよ。褒美に知識の書をくれてやる・・



「励みます」

 シュンは深々と頭を下げた。



・・人の身で、甲胄人形を駆り、数多の使徒を滅し、すでに魔王種の討伐にも成功しておる。本来ならば、知識の書くらいくれてやっても良いほどの功績だが・・



「魔王にせよ、それに連なる魔物にせよ、探し出し、追い詰めて仕留める事は狩人の本分です。この世のどこに隠れようとも必ず見つけ出して狩ってみせます」

 シュンの口元に、薄らと笑みが浮かんだ。



・・魔王種をレベル500で生誕させるべきだったかもしれぬな。いや、500でも足りぬか?・・



「主神様?」

 シュンの双眸がわずかに細められる。



・・分かっておる。口にした事を軽々に覆すなと申すのであろう? 死者の女王が小煩く言うてきておるし、この度はこれ以上戯れるのは止めにしよう。神々はそれぞれ世界を失い、罰を受けた形だからな・・



「ところで、私の世界の神様は何処におられるのでしょう?」



・・あのお調子者か? 龍神との争いで青色吐息といった様相だな。主力の一角が戦いを渋っておるようだ。かなり慌てておる・・



「その戦いで龍神が勝利した場合、地上世界はどうなるのでしょう?」

 が輪廻の女神であるのなら、確かに危ういかもしれない。闇烏が迎えに来ている前で、光の乙女について熱弁を振るっていたのだ。おそらく、あの様子はそのまま輪廻の女神に伝わったのだろう。



・・地上世界にさらなる災いが押し寄せるだろうな・・



「それでも、迷宮は存続するのですよね?」

 主神の加護が与えられるはずだ。



・・うむ。主神として約定しよう・・



「感謝いたします」

 シュンは安堵の息と共に深々とお辞儀をした。



・・それにしても、あの道化めの使徒が世界を統べるとはな。まるで想像をしていなかったぞ・・



「私は迷宮の管理人です。世界云々は範疇の外ですね」



・・人の世の事では無い。神域としての地上世界の話だ・・



「神域・・ですか」



・・人の子に分かりやすく例えるなら、神にとっての領地のようなものだ。厳密には少しばかり違うが・・



「なるほど・・」



・・この世界の神は一気に神域を拡げる。使徒を失った神々の世界を吸収して神域の力に変えるのだ・・



「すると、この・・私がいる迷宮も?」



・・迷宮に限らぬ。あの道化めが創った全ての物が力を得るのだ・・



「神様がお創りになった物が・・」

 銃や武器、魔法、それに神具などだろうか?



・・何も聴いておらぬのか? 使徒戦に勝利した使徒には、褒賞を与えることが義務づけられている。これは、おまえの好きな"定め"というやつだ・・



「・・それは、頂かないといけませんね」

 シュンは何となく上方を見上げて呟いた。

「そういえば、迷宮の神様のお名前は何というのでしょう?」



・・神に名など無い。人が勝手に名を付けて呼んでいるだけだ。不便に思うのなら、使徒が付けてやれば良い・・



「神様に名を? よろしいのでしょうか?」



・・人の世の移ろいに合わせて様々な呼ばれ方をしている。どのような名でも構わんだろう。あれには後で伝えておく・・



「では・・ユアとユナを、そこの2人を動けるようにして頂けますか?」



・・構わんが、なぜだ?・・



「2人は名付けが得意ですから」

 シュンは固まったように動かない2人を見て微笑した。どうやらチョコレートを頬張ったところだったらしい。2人の頬が小さく膨れていた。


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