上 下
205 / 316
第1章

第205話 マーク・ツー

しおりを挟む

『いや、君ね? 普通、主神を呼び出す? おかしくない?』

 マーブル主神が腕組みをして座っている。

「いけませんでしたか?」

 シュンは気に入っているラージャ茶を、マーブル神の眼の前に置いた。

『別に規則通りだから良いけどさ? もうちょっと、こう有り難がたぁ~い取り扱いにしてくれても良いんだよ?』

「お茶請けです」

「高級茶菓子です」

 ユアとユナが、アイスモナカを皿の上に置いた。

 今回は3人一緒に神界へ来ることができた。
 シュンから連絡を取り、マーブル主神が神界に招き入れたのだ。
 場所は、いつぞや凶神が居座っていた"庭園"である。
 美しい花が咲き誇る庭園の中程に清らかな水が湧く泉があり、水の中に大きな樹が生えていた。

『あ~あ・・この庭には、美しい乙女達がいっぱい居たんだけどなぁ』

 マーブル主神がぼやきながら、アイスモナカを口へ運ぶ。

「少し賑やかな方が良いですか?」

『へ? 女神ちゃん達を呼んでくれるの? みんな気位高くて大変だよ?』

 マーブル主神が期待に満ちた顔でシュンを見た。

「女神ではありませんが・・」

 シュンは周囲へ視線を巡らせた。

「カーミュ、マリン」

『はいです』

『はいです~』

 白翼の美少年と白毛の精霊獣が姿を現した。
 途端、マーブル主神が酷くがっかりして顔を曇らせた。

『いや、別に期待はしてなかったけど? 悪霊とケダモノじゃん』

『カーミュは、悪霊じゃないですぅ~』

『マリンはマリンですぅ~』

 カーミュがマーブル神に向かって舌を出し、マリンがシュンの肩に乗って毛を逆立てる。

 続いて、

「テロスローサ」

 シュンの呼び掛けに応じて、薔薇の薫りと共に豊麗な肢体をした美女が現れた。陽に透けそうな白いドレスを薔薇の柄が大胆に彩っている。妖艶な美女が蕩けるような眼差しでマーブル主神を見つめながら、重たげな胸乳を抱えるようにしてお辞儀をして見せた。

『おおぉぉぉぉぉ・・すっ、すごいじゃん! なに? どういうこと? とんでもないじゃん!』

「"魔神殺しの呪薔薇"が、人の姿を模した霊体を見せるようになりました」

『いやぁ~、これはすっごい眼の保養だ! 眼福ってやつだね!』

 マーブル主神が椅子の上で跳ね上がらんばかりに喜んでいる。

「ジェルミー」

 さらに、シュンは身に宿している女剣士を呼び出した。元は魔物だが・・。
 切れの長い双眸をした美麗な容姿の女剣士が、折り目正しく背を正してからお辞儀をする。

『むはぁ・・良いなぁ~、良いっ! やっぱり美人は良いよ! ボクの心を癒やしてくれるよ! なんか、ドロドロしたものが、サラサラになるよ!』

 マーブル主神が御機嫌な様子で目尻を下げている。

「ボス、危機的状況です」

「我々の存在意義に崩落の兆し」

 ユアとユナがシュンの左右で項垂れているが、チョコアイスを頬張ったままなので、さほどのダメージは受けていないのだろう。

「ところで、神様・・」

 シュンはマーブル主神に話し掛けた。

『うん、なんだい?』

 マーブル主神が笑顔で応じる。

「アルマドラ・ナイトの封印はどのようになりましたでしょうか?」

『ああ・・まあ、仕上がってるよ』

 マーブル主神の視線が逸らされ、テロスローサの胸の辺りへ向けられた。

「では、もうアルマドラ・ナイトの使用は可能なのですね?」

『そりゃあ、可能だねぇ』

「・・一番大きい姿での使用は出来ますか?」

『あれはちょっと厳重な封印にしたよ。逆に、その前の大きさなら長時間使っても大丈夫さ』

「身の丈が15メートル程度の?」

『そう、それ!』

 マーブル主神がシュンを見て頷いた。

「龍人の魂石による強化が済んでいるのですよね?」

『うむ。ばっちり強化したとも! まあ、ちょいと細工もしたけどねぇ~』

 マーブル主神が意味ありげな笑みを浮かべた。

「何か使用に条件が?」

『無いよ? ああ、君にとっては、無いって意味ね』

「私にとっては?」

『濃すぎる原液は薄めれば良いってこと』

「原液?」

 シュンは首を傾げた。

『アルマドラ・ナイトを薄めるってことさ』

「・・よく分かりませんが?」

『まあ、廉価版だけどねぇ~・・アルマドラ・ナイトを15体に分裂させることで、強すぎる力を分散させることに成功しました。計算上、世界は壊れません!』

 マーブル主神が腰に手を当てて胸を張った。

「おおっ! まさかのMK2」

「おおっ! 禁断のMK2」

 ユアとユナが身を乗り出した。先ほどまでの真っ暗な顔から一変、大きな黒瞳を輝かせている。

「・・凄いのか? 弱くなったように聞こえるが?」

 シュンは2人に訊ねた。

「今は、十の力で魔王種を斃せるのに億の力がある」

「使いたくても使えない。世界が消える」

「・・ふむ?」

「必要十分な力に分ける」

「遠慮無く、ばんばん使える」

 ユアとユナが説明する。

「なるほど・・しかし、弱くなりすぎるようでは困りますね」

 シュンはマーブル主神を見た。

『素体と写し身では能力が段違いだけどね。でも、大丈夫。だって、分裂させた写し身ナイトですら、先日の強化前のナイトより強いんだから』

「操者がラグカル病になる心配は?」

 シュンは、ちらとユアとユナを見た。

『無い。これは、親機と子機の関係だ。親機を操る君だけがラグカル病に気を付ける必要がある』

「そもそも、どうやって分裂を?」

『君達に与えた神具と一緒さ。"文明の恵み"なんかと同様に、君が貸与することで、相手に紋章が刻まれる。ただ、通常のアルマドラ・ナイト単体で自立行動させることはできません。あくまでも、鎧として合身する形で顕現します。あと、写し身ナイトは何をどうやっても巨大化しません』

「そうですか・・数は15体ですね?」

『今はそうだね。将来的に魂石で増やすことは可能かも』

「なるほど・・」

 シュンは小さく頷いた。

「ゴッド、お願いがある!」

「ゴッド、色を変えたい!」

 ユアとユナがマーブル主神の左右へ駆け寄った。

『色? 写し身ナイトの?』

「写し身ナイトは、ルドラ・ナイトと命名」

「ルドラ・ナイトにする」

『お、おう・・うん、分かったよ。呼称は、ルドラ・ナイトで決定しよう』

 圧され気味にマーブル主神が頷いた。

「そして、色」

「ぜひ、打合せを」

 ユアとユナが、帳面を取り出した。

 マーブル主神がちらとシュンの方を見たようだが、シュンは湧水の美しい泉を眺めていた。

しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

妹の身代わりに、サディストと悪評高き男の妻になりました。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:156pt お気に入り:66

侯爵様、今更ながらに愛を乞われても

恋愛 / 完結 24h.ポイント:1,441pt お気に入り:2,795

武田義信に転生したので、父親の武田信玄に殺されないように、努力してみた。

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:28pt お気に入り:326

あずき食堂でお祝いを

キャラ文芸 / 完結 24h.ポイント:21pt お気に入り:52

処理中です...