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第1章
第205話 マーク・ツー
しおりを挟む『いや、君ね? 普通、主神を呼び出す? おかしくない?』
マーブル主神が腕組みをして座っている。
「いけませんでしたか?」
シュンは気に入っているラージャ茶を、マーブル神の眼の前に置いた。
『別に規則通りだから良いけどさ? もうちょっと、こう有り難がたぁ~い取り扱いにしてくれても良いんだよ?』
「お茶請けです」
「高級茶菓子です」
ユアとユナが、アイスモナカを皿の上に置いた。
今回は3人一緒に神界へ来ることができた。
シュンから連絡を取り、マーブル主神が神界に招き入れたのだ。
場所は、いつぞや凶神が居座っていた"庭園"である。
美しい花が咲き誇る庭園の中程に清らかな水が湧く泉があり、水の中に大きな樹が生えていた。
『あ~あ・・この庭には、美しい乙女達がいっぱい居たんだけどなぁ』
マーブル主神がぼやきながら、アイスモナカを口へ運ぶ。
「少し賑やかな方が良いですか?」
『へ? 女神ちゃん達を呼んでくれるの? みんな気位高くて大変だよ?』
マーブル主神が期待に満ちた顔でシュンを見た。
「女神ではありませんが・・」
シュンは周囲へ視線を巡らせた。
「カーミュ、マリン」
『はいです』
『はいです~』
白翼の美少年と白毛の精霊獣が姿を現した。
途端、マーブル主神が酷くがっかりして顔を曇らせた。
『いや、別に期待はしてなかったけど? 悪霊とケダモノじゃん』
『カーミュは、悪霊じゃないですぅ~』
『マリンはマリンですぅ~』
カーミュがマーブル神に向かって舌を出し、マリンがシュンの肩に乗って毛を逆立てる。
続いて、
「テロスローサ」
シュンの呼び掛けに応じて、薔薇の薫りと共に豊麗な肢体をした美女が現れた。陽に透けそうな白いドレスを薔薇の柄が大胆に彩っている。妖艶な美女が蕩けるような眼差しでマーブル主神を見つめながら、重たげな胸乳を抱えるようにしてお辞儀をして見せた。
『おおぉぉぉぉぉ・・すっ、すごいじゃん! なに? どういうこと? とんでもないじゃん!』
「"魔神殺しの呪薔薇"が、人の姿を模した霊体を見せるようになりました」
『いやぁ~、これはすっごい眼の保養だ! 眼福ってやつだね!』
マーブル主神が椅子の上で跳ね上がらんばかりに喜んでいる。
「ジェルミー」
さらに、シュンは身に宿している女剣士を呼び出した。元は魔物だが・・。
切れの長い双眸をした美麗な容姿の女剣士が、折り目正しく背を正してからお辞儀をする。
『むはぁ・・良いなぁ~、良いっ! やっぱり美人は良いよ! ボクの心を癒やしてくれるよ! なんか、ドロドロしたものが、サラサラになるよ!』
マーブル主神が御機嫌な様子で目尻を下げている。
「ボス、危機的状況です」
「我々の存在意義に崩落の兆し」
ユアとユナがシュンの左右で項垂れているが、チョコアイスを頬張ったままなので、さほどのダメージは受けていないのだろう。
「ところで、神様・・」
シュンはマーブル主神に話し掛けた。
『うん、なんだい?』
マーブル主神が笑顔で応じる。
「アルマドラ・ナイトの封印はどのようになりましたでしょうか?」
『ああ・・まあ、仕上がってるよ』
マーブル主神の視線が逸らされ、テロスローサの胸の辺りへ向けられた。
「では、もうアルマドラ・ナイトの使用は可能なのですね?」
『そりゃあ、可能だねぇ』
「・・一番大きい姿での使用は出来ますか?」
『あれはちょっと厳重な封印にしたよ。逆に、その前の大きさなら長時間使っても大丈夫さ』
「身の丈が15メートル程度の?」
『そう、それ!』
マーブル主神がシュンを見て頷いた。
「龍人の魂石による強化が済んでいるのですよね?」
『うむ。ばっちり強化したとも! まあ、ちょいと細工もしたけどねぇ~』
マーブル主神が意味ありげな笑みを浮かべた。
「何か使用に条件が?」
『無いよ? ああ、君にとっては、無いって意味ね』
「私にとっては?」
『濃すぎる原液は薄めれば良いってこと』
「原液?」
シュンは首を傾げた。
『アルマドラ・ナイトを薄めるってことさ』
「・・よく分かりませんが?」
『まあ、廉価版だけどねぇ~・・アルマドラ・ナイトを15体に分裂させることで、強すぎる力を分散させることに成功しました。計算上、世界は壊れません!』
マーブル主神が腰に手を当てて胸を張った。
「おおっ! まさかのMK2」
「おおっ! 禁断のMK2」
ユアとユナが身を乗り出した。先ほどまでの真っ暗な顔から一変、大きな黒瞳を輝かせている。
「・・凄いのか? 弱くなったように聞こえるが?」
シュンは2人に訊ねた。
「今は、十の力で魔王種を斃せるのに億の力がある」
「使いたくても使えない。世界が消える」
「・・ふむ?」
「必要十分な力に分ける」
「遠慮無く、ばんばん使える」
ユアとユナが説明する。
「なるほど・・しかし、弱くなりすぎるようでは困りますね」
シュンはマーブル主神を見た。
『素体と写し身では能力が段違いだけどね。でも、大丈夫。だって、分裂させた写し身ナイトですら、先日の強化前のナイトより強いんだから』
「操者がラグカル病になる心配は?」
シュンは、ちらとユアとユナを見た。
『無い。これは、親機と子機の関係だ。親機を操る君だけがラグカル病に気を付ける必要がある』
「そもそも、どうやって分裂を?」
『君達に与えた神具と一緒さ。"文明の恵み"なんかと同様に、君が貸与することで、相手に紋章が刻まれる。ただ、通常のアルマドラ・ナイト単体で自立行動させることはできません。あくまでも、鎧として合身する形で顕現します。あと、写し身ナイトは何をどうやっても巨大化しません』
「そうですか・・数は15体ですね?」
『今はそうだね。将来的に魂石で増やすことは可能かも』
「なるほど・・」
シュンは小さく頷いた。
「ゴッド、お願いがある!」
「ゴッド、色を変えたい!」
ユアとユナがマーブル主神の左右へ駆け寄った。
『色? 写し身ナイトの?』
「写し身ナイトは、ルドラ・ナイトと命名」
「ルドラ・ナイトにする」
『お、おう・・うん、分かったよ。呼称は、ルドラ・ナイトで決定しよう』
圧され気味にマーブル主神が頷いた。
「そして、色」
「ぜひ、打合せを」
ユアとユナが、帳面を取り出した。
マーブル主神がちらとシュンの方を見たようだが、シュンは湧水の美しい泉を眺めていた。
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