235 / 316
第1章
第235話 スキンシップ
しおりを挟む「どうだった?」
シュンは、ユアとユナ、そしてロシータを見た。
ブラージュという龍人との会談中、神聖魔法による真偽の判定を依頼してあったのだ。
約束の時間を過ぎ、ブラージュは何処かへ去って行き、霊気機関車"U3号"は迷宮に戻っていた。今は、ユアとユナ、ロシータとリール、そしてシュンが部屋の中に居る。
「私の神聖術では、言葉の真偽が判別できませんでした」
ロシータが首を振る。
「同じく・・見えず」
「同じく・・無念なり」
ユアとユナも首を振る。
この3人の神聖術で真偽を判定できないとなると、魔法による真偽の判定は不可能ということだ。
「リール、どう思う?」
シュンは女悪魔を見た。
「彼奴の言葉に嘘は感じられなかったが・・魂を乗っ取られているなら、言葉の真偽は意味を成さぬ」
「そうだな。カーミュはどう見た?」
シュンの呼び掛けに、白翼の美少年が姿を現した。
『魂は汚れていなかったのです。でも、異物の痕跡はあったです』
カーミュが言った。
「どういうものなんだ?」
『線虫みたいなものを霊魂で創造したです。あの龍人が言っていたように、霊魂を一定量食べると数が増えるです』
「寄生を防ぐ方法は?」
『定期的に霊気で体を包むだけで良いのです。霊虫自体は弱いのです』
「寄生された後の対処は?」
シュンは訊ねた。
『霊魂にくっついて直ぐなら、霊気で体を包めば良いです。でも、時間が経って、魂深くまで食い込まれたり中で増殖されたら、とても難しいのです』
「手立てはあるのか?」
『魂を削るです』
「削る?」
シュンは眉を顰めた。
『林檎を剥くみたいに・・魂を外側から削っていくです。すべての"虫"を取り除けるところまで剥くです』
カーミュが手元に毬のような光球を出現させて、文字通りに薄皮を剥ぐように削って見せる。
「それで、魂は無事なのか?」
『ボロボロになるです。生き物として不完全な・・体を持った幽霊みたいな状態になるです』
「・・なるほど」
無事とは言えない状態になるようだ。魂を"削る"とはそういう事なのだろう。
『でも・・カーミュは、ご主人と色々な場所に行っているのに、まだ一度も見たことがないのです』
「霊虫を?」
『霊体の虫・・どんなに小さくても、カーミュは見えるです。なのに見なかったです』
カーミュが首を傾げる。
「これまでに、神を何柱か斬ったが・・その時はどうだった?」
神の魂に霊虫が付着していたなら、なにかの弾みで離れたり、飛んで逃げたりしなかったのだろうか。
『体の外には出て来なかったのです。魂はちゃんと死の国へ旅立ったです』
カーミュが首を振る。
「魂の持ち主の死と共に消えたか・・霊虫には自分で移動する能力が無い?」
『そうかもしれないです』
カーミュが頷いた。
しかし、自分で動けない"虫"がどうやって獲物の魂に付着できたのだろう?
『分からないのです。動いている実物を見てみたいのです。カーミュが知っている"虫"とは違うのです』
「・・そうだな。リール、その霊虫とやらは、探せないか?」
「リセッタ・バグとやらが運んでいるのやもしれんぞ? 眼に見える大きさでは、すぐに気付かれるからのぅ」
リールが笑う。
「確かにな」
シュンも笑みをこぼした。
「リセッタ・バグは、ムーちゃんが調査中」
「ムーちゃんは霊虫だいじょうぶ?」
ユアとユナがシュンとリールを見る。
「マージャは霊気の虫ごときに侵食されぬ。むしろ、侵食する側じゃ・・あぁ!」
リールが何かを思い付いた顔でシュンを見た。
「神界に、神々に霊虫を付着させる仕掛けがあるのではないか? 地上に散った後に霊虫を付けるより容易であろう?」
「・・なるほど」
頷いたシュンは、すぐさまファミリア・カードを使ってマーブル主神に連絡を入れた。
****
『急ぎの用事? リセッタ・バグ用の対抗バグは完成したやつから撒いているよ? もうちょっとで、別の種類のも出来るんだけど?』
マーブル主神が作業服らしい白い上着を羽織って登場した。いつものように空中に浮かんで胡座を組んでいる。
「失礼します」
シュンがいきなり近付いた。
『・・へっ?』
よく分からない顔でマーブル主神が何かを言いかける。
その肩をシュンが掴むなり、くるりと回して背を向けさせると、霊気を満たした平手でマーブル主神の背中をひっぱたいた。
パァァァーーン・・
とても良い音が鳴った。
『・・っだぁーーーー! なっ、なにするんだいっ!』
「霊虫予防です」
『な、何んだい、それは? れい? なんだって?』
真っ赤な顔でシュンを睨むマーブル主神の背中を、ユアとユナが左右から優しく摩る。
「ゴッド、注射のようなもの」
「ゴッド、ちょっとした荒治療」
『いやっ・・治療って何なの? どうして叩いたの? 何が注射っ?』
「実は・・」
シュンは手短にブラージュから聴いた霊虫のこと、異界神に支配されているだろう神々のことを伝えた。
『・・だからって、いきなり叩かないでよ! 滅茶苦茶、痛かったんだからね?』
「万一、主神様に霊虫が付着していた場合、不意を突かなければ、対策をとられる可能性があります。ご無礼をお許しください」
シュンは深々と低頭した。
『・・酷いよ! とうとう、君まで裏切ったのかと、泣きそうになったよ? 心が痛かったんだからね!』
マーブル主神が膨れっ面で口を尖らせる。
「私が主神様を裏切るなど、有り得ない事です」
シュンは断言した。
『・・それで、ボクは背中をひっぱたかれて・・どうなったの? 霊虫というのは?』
「どうだ?」
シュンは、カーミュを見た。
『変な虫はいなかったのです』
カーミュが残念そうに首を振った。
「良かった。主神様には付着していなかったようです。オグノーズホーンが居ますから、心配はしていませんでしたが・・」
『いやいやいやいや、心配してない割に、思いっきり叩いたよね? すんごい音が鳴ったよね? 絶対、手の形に腫れているでしょ?』
マーブル主神がシュンに詰め寄る。
「ゴッド、これは優しさの裏返し」
「ゴッド、ボスはとても心配だった」
ユアとユナが宥めるように言った。
『・・そう? ボクのことを心配してくれたの?』
「はい」
シュンは小さく頷いた。
『ふうん・・それなら、良いんだけどさ? まあね? 霊虫だっけ? なんだか気味が悪いし・・』
「主神様・・神々は、異界神によって魂を侵されていたからこそ、主神様を裏切るような愚行を行ったのだと思います」
シュンの言葉に、マーブル主神が表情を明るくした。
『そうだよ! それだよっ! ほら、やっぱり・・何か理由があるって思ってたんだよ! 異界神が悪さしてたのかぁっ!』
「・・それをはっきりさせるために、主神様のお力を借りたいのです」
『む?』
「霊虫なのか、何なのか・・地上に降りた神々が、どこでどうやって異界神から接触されたのか。それを突き止めなければなりません」
『ふむっ! そうだね! 対抗策をとらないといけないし・・ああ、そっか! まずは、神界の掃除だね?』
マーブル主神が納得顔でシュンを見た。
「はい。もし、神界に仕掛けが無ければ、地上で個別に接触したか・・何にせよ、一つ一つ疑わしい場所を確かめながら、絞り込みを行う必要があるでしょう」
『その通りだね!』
「色々とご無礼を働きましたが・・」
『もう良いよ! ボクのためにやってくれたんだ。水に流します!』
「ありがとうございます」
シュンはお辞儀をしてから、右手にポイポイ・ステッキを取り出した。
途端、
『え?・・なんだい?』
マーブル主神の顔が蒼白になった。
「実は、龍人を大量に仕留めまして・・」
つい最近の戦いにより、龍人の魂石が大量に収納されている。
『・・まさかの?』
「今後の戦いに備え、アルマドラ・ナイトの強化と、ルドラ・ナイトの数を増やして頂きたいのです。十分な数の魂石を用意しました。どうか、よろしくお願い致します」
シュンが丁寧に頭を下げた。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
505
1 / 4
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる