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第1章
第280話 遠征
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「ユキシラ、どうだ?」
シュンは、護耳の神珠を使って迷宮のユキシラに連絡を取った。
『未だ宵闇の女神の居所は把握できません。発見した痕跡をリール殿が辿っていますが・・途切れるそうです』
「ユキシラとリールが捜して見つからないとなると、通常の方法では発見できない場所にいるということだな」
マーブル主神や輪廻の女神も同じような事を言っていた。
輪廻の女神と同様、闇に同化し、自在に場所を移っていくらしい。
その場に居て、その場に居ない。
この世界で斃したとしても、すぐにまた蘇って現れるそうだ。前の主神が手討ちにした時のように・・。
異界の機神のように代わりの霊体などを用意しているのかも知れない。
「スコットの周辺はどうだ?」
『監視を開始してから、8度接近しています。ただ、気配が近付くだけで姿を現していません』
ユキシラが監視の"眼"で、リールが小悪魔を派遣して監視をしている。
「監視の"眼"に気付かれているな」
『あるいは警戒心が強いだけかも知れませんが・・』
「ケイナは快方に向かっているが、意識が戻るまで時間がかかりそうだ」
シュン達はすでに霊気機関車"U3号"の中だ。
『待ちますか?』
「・・いや、先に終わらせよう」
宵闇の女神を見つけるために放置していたが、やはりこちらを警戒しているのだろう。リールの小悪魔を張り付かせているが、未だに女神の姿を捉える事はできていない。
まず宵闇の女神を仕留めようと考えていたシュンの目論見通りにはならなかったようだ。
『ユア様、ユナ様には?』
ユキシラが訊ねた。
「伝えてある」
シュンは短く答えた。
「ユキシラは、空からの監視を続けておいてくれ」
『畏まりました』
「リール?」
シュンは後ろに控えていた女悪魔を振り返った。
「主殿、時間切れかの?」
訊ねるリールの声が、わずかに笑いを含んでいる。
「そうだな。向こうへ行く」
「雑魚掃除など、妾に任せてくれれば良いのじゃ」
「宵闇の女神が出て来れば良いと考えている」
シュンはリールに向けて手を伸ばした。その手をリールが握った。
「スコットなんぞを助けに来るかの?」
「どちらでも構わない」
シュンは瞬間移動をした。
移動先はリールが設置した転移の魔法陣だ。
「良いかの?」
リールの問いかけに、シュンは無言で頷いた。
足下から噴き上がる転移光に包まれながら、シュンは"魔神殺しの呪薔薇"を手に握った。
移動は一瞬だ。
海の向こうにある大陸、その港にある大きな建物の地下にリールの小悪魔が転移陣を埋設してあった。岩室では無く、石壁で造られた広大な広間だった。明かりは無いが、シュンには広々とした広間を見渡せる。
「・・ここは、"眼"が届かないな」
シュンは上を見上げて言った。
上空から見下ろす眼では建物の地下を見る事は出来ない。
「じゃが、妾の使い魔は常時監視しておる」
リールが手招くと、石床から滲み出るようにして透明な粘体が現れた。
「消して良いかの?」
「そうしてくれ」
シュンは床の魔法陣を見回した。帰りは、エスクードへ転移できる。
「スコットを含め、レベル300超が8000名ほどおる。異常じゃな」
粘体が魔法陣を消していく様子を見守りながらリールが言った。
「全て人間だったな?」
「そうじゃ」
リールが頷いた。
神籍の存在は混じっていない。無論、悪魔も居ない。
「もう迷宮は無い」
シュンは呟いた。
今の世界には、短期間で効率良くレベルを上げる手段は少ない。そして、その手段は高レベル者になればなるほど少なくなる。
スコット1人ならともかく、8000人もの人間がレベル300を超える事が可能な場所は存在しない。少なくとも、シュンの知識には無い。
「じゃが、実際におるからのぅ」
「そうだな」
シュンは無表情に頷いた。
「・・やれやれ、怖いのぅ」
シュンの顔を見て、リールが苦笑する。
「マーブル主神の世界で、主神の知らない方法で、短期間に限界を突破し、レベルを上げる・・有り得ない事が現実に起こっている」
シュンは、独白するように呟いた。
「そうじゃな」
「殲滅の理由が一つ増えるだけだが・・」
「使徒の仕事かの?」
リールが微笑する。
「そうらしい」
シュンの双眸がゆっくりと周囲を見回した。
広間の中に、先ほどまで感じられなかった気配が押し寄せて来ていた。
階段も扉も何も無い場所だが・・。
「おいおい、妙な客が入り込んでるじゃねぇか」
「転移かぁ? うちの結界は笊だな」
呆れたような口調で言いながら、男達が次々に姿を現し、シュンとリールを包囲していく。
いずれも、剣や弓、甲胄といった装備だ。銃器を持った者は見当たらない。
瞬く間に、数百名といった人数となっている。
「すっげぇ、佳い女じゃねぇか!」
「とんでもねぇな!」
リールの美しい容姿を見た男達が興奮気味に囃し立てる。
「妙だな」
シュンは首を傾げた。
「こいつら、探索者では無いのか?」
「・・そうじゃな」
リールが不愉快げに眉をしかめた。
「スコットは何処だ?」
シュンは、武装した男達を見回しながらテンタクル・ウィップを打ち振るった。
シュンは、護耳の神珠を使って迷宮のユキシラに連絡を取った。
『未だ宵闇の女神の居所は把握できません。発見した痕跡をリール殿が辿っていますが・・途切れるそうです』
「ユキシラとリールが捜して見つからないとなると、通常の方法では発見できない場所にいるということだな」
マーブル主神や輪廻の女神も同じような事を言っていた。
輪廻の女神と同様、闇に同化し、自在に場所を移っていくらしい。
その場に居て、その場に居ない。
この世界で斃したとしても、すぐにまた蘇って現れるそうだ。前の主神が手討ちにした時のように・・。
異界の機神のように代わりの霊体などを用意しているのかも知れない。
「スコットの周辺はどうだ?」
『監視を開始してから、8度接近しています。ただ、気配が近付くだけで姿を現していません』
ユキシラが監視の"眼"で、リールが小悪魔を派遣して監視をしている。
「監視の"眼"に気付かれているな」
『あるいは警戒心が強いだけかも知れませんが・・』
「ケイナは快方に向かっているが、意識が戻るまで時間がかかりそうだ」
シュン達はすでに霊気機関車"U3号"の中だ。
『待ちますか?』
「・・いや、先に終わらせよう」
宵闇の女神を見つけるために放置していたが、やはりこちらを警戒しているのだろう。リールの小悪魔を張り付かせているが、未だに女神の姿を捉える事はできていない。
まず宵闇の女神を仕留めようと考えていたシュンの目論見通りにはならなかったようだ。
『ユア様、ユナ様には?』
ユキシラが訊ねた。
「伝えてある」
シュンは短く答えた。
「ユキシラは、空からの監視を続けておいてくれ」
『畏まりました』
「リール?」
シュンは後ろに控えていた女悪魔を振り返った。
「主殿、時間切れかの?」
訊ねるリールの声が、わずかに笑いを含んでいる。
「そうだな。向こうへ行く」
「雑魚掃除など、妾に任せてくれれば良いのじゃ」
「宵闇の女神が出て来れば良いと考えている」
シュンはリールに向けて手を伸ばした。その手をリールが握った。
「スコットなんぞを助けに来るかの?」
「どちらでも構わない」
シュンは瞬間移動をした。
移動先はリールが設置した転移の魔法陣だ。
「良いかの?」
リールの問いかけに、シュンは無言で頷いた。
足下から噴き上がる転移光に包まれながら、シュンは"魔神殺しの呪薔薇"を手に握った。
移動は一瞬だ。
海の向こうにある大陸、その港にある大きな建物の地下にリールの小悪魔が転移陣を埋設してあった。岩室では無く、石壁で造られた広大な広間だった。明かりは無いが、シュンには広々とした広間を見渡せる。
「・・ここは、"眼"が届かないな」
シュンは上を見上げて言った。
上空から見下ろす眼では建物の地下を見る事は出来ない。
「じゃが、妾の使い魔は常時監視しておる」
リールが手招くと、石床から滲み出るようにして透明な粘体が現れた。
「消して良いかの?」
「そうしてくれ」
シュンは床の魔法陣を見回した。帰りは、エスクードへ転移できる。
「スコットを含め、レベル300超が8000名ほどおる。異常じゃな」
粘体が魔法陣を消していく様子を見守りながらリールが言った。
「全て人間だったな?」
「そうじゃ」
リールが頷いた。
神籍の存在は混じっていない。無論、悪魔も居ない。
「もう迷宮は無い」
シュンは呟いた。
今の世界には、短期間で効率良くレベルを上げる手段は少ない。そして、その手段は高レベル者になればなるほど少なくなる。
スコット1人ならともかく、8000人もの人間がレベル300を超える事が可能な場所は存在しない。少なくとも、シュンの知識には無い。
「じゃが、実際におるからのぅ」
「そうだな」
シュンは無表情に頷いた。
「・・やれやれ、怖いのぅ」
シュンの顔を見て、リールが苦笑する。
「マーブル主神の世界で、主神の知らない方法で、短期間に限界を突破し、レベルを上げる・・有り得ない事が現実に起こっている」
シュンは、独白するように呟いた。
「そうじゃな」
「殲滅の理由が一つ増えるだけだが・・」
「使徒の仕事かの?」
リールが微笑する。
「そうらしい」
シュンの双眸がゆっくりと周囲を見回した。
広間の中に、先ほどまで感じられなかった気配が押し寄せて来ていた。
階段も扉も何も無い場所だが・・。
「おいおい、妙な客が入り込んでるじゃねぇか」
「転移かぁ? うちの結界は笊だな」
呆れたような口調で言いながら、男達が次々に姿を現し、シュンとリールを包囲していく。
いずれも、剣や弓、甲胄といった装備だ。銃器を持った者は見当たらない。
瞬く間に、数百名といった人数となっている。
「すっげぇ、佳い女じゃねぇか!」
「とんでもねぇな!」
リールの美しい容姿を見た男達が興奮気味に囃し立てる。
「妙だな」
シュンは首を傾げた。
「こいつら、探索者では無いのか?」
「・・そうじゃな」
リールが不愉快げに眉をしかめた。
「スコットは何処だ?」
シュンは、武装した男達を見回しながらテンタクル・ウィップを打ち振るった。
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