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序章 迷宮脱出編

訳ありの臭いがする

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 —-ゴゴ…ゴ…ゴォォン…、ガシャンッ

 大きな両開きの扉とかんぬきで広間は固く閉ざされた。
 洞窟で閉じ込められていた時にあれだけ出たかった事を思えば、なんだか複雑な気持ちになる。

「…ふぅ。待っててくれてたけど、最後だったからなんか焦ったぁ」
「はぁ…、ふふ、久しぶりに、ちょっと走ったかも」

 乃愛はなんだか可笑しくなって、小さな笑い声がつい出てしまった。体を動かしたことで緊張感が緩んだのかもしれない。

「えー?そうなの。じゃあまた一緒に走ろうよ、ね」

 君島はニカッと笑って掴んでいた手を挙げたかと思えば、少し揺らしてからパッとその手を離した。
 冗談だとは思うが、家族以外で誰かと一緒に行動したのはいつぶりだろうかと思い出しかけて、気恥ずかしい気持ちになる。
 何となく微笑み合っていると、揶揄した声がかけられてハッとした。

「おーい、アオハル組。紹介始めるからこっち来い」

 河内がじとっとした目を向けているのを見て、きまり悪くそそくさと近寄っていく。この場の空気は全然笑い合っている場合ではなかった。乃愛は小さくなって輪に紛れた。

♦︎

「この御方は、我がアーシア王国、第三王子殿下のハーラルト=クリスター•ヘルム•アーシア様、そしてこちらは、第一王女殿下のレオノーラ=ナーテ•ヘルム•アーシア様であらせられる」

 騎士三人の前に、小さな男の子と女の子が並び立つ。二人とも身綺麗な出立ちで、サラサラの鮮やかな赤髪に整った風貌をしている。だがその顔色はまだ青褪めており、どこか俯きがちだ。
 ずっと黙したままだが、それが礼式なのか、幼き故か、或いは言葉を発せられる精神状態ではないのか、そこまでは読み取れない。

・-・-・-・-・-・-・-・-・-・
 名前: ハーラルト=クリスター•ヘルム•アーシア
 年齢: 7
 性別: 男
 出身: 第三王子<アーシア王国<ピセス<KC3631-Qj82

 種族: ヒューマン
 天職: -
 魔法: 風属性、地属性、無属性
 能力: 風魔術、地魔術、護身術
 才能: 魔力感知、王威

 魔力: 30
 気力: 20
 知力: 20
 視力: 10
 聴力: 10
 筋力: 10
 持久力: 10
 瞬発力: 10
 柔軟性: 10
 敏捷性: 10

 装備: 王位継承指輪、癒しの首飾り

 状態: 心身疲労
・-・-・-・-・-・-・-・-・-・

 思っていた以上に幼い。女の子の方はまだ五歳だった。それに、王族。王子が持つ指輪はすごく訳ありの臭いがする。

 騎士二人が兜を手に少し横にずれて、それぞれ口を開いた。

「私は、王国騎士団近衛隊所属のヴァレアス=コンラート•アルファン」
「右に同じく、ギルベルト=レーメンスだ」

 どちらも青年男性で、ステータスはフォルガーと似通っていた。
 おそらく覚えきれないだろうが、礼儀としてクラスメイトも順に前へ出て、ステータスにある自分の名を告げていく。

「あとこちらは…我が近衛隊の隊長フィリッツ=ローベルト•バスティンだ。私と別れた時点ではご存命だったのだが、合流した時にはもう…。古代のものだがここはちょうど神殿になっているようだから、略式で先に弔いたい。少し時間をもらえるかな」
「…そうでしたか。お悔やみ申し上げます。私たちにお気遣いなく、どうぞ」

 フォルガーが一礼して、騎士三人で遺体を祭壇の方へ運んでいく。王子と王女は少し離れたところでそれを見守っている。
 クラスメイト一同は邪魔にならないようにさらに距離を取り、遠目にその様子を見ながら静かに待つ。

(やっぱりここは神殿だったようね。人の手入れはされていたようだけど、古代と言っていたし、この辺一帯は遺跡か何かかな)
(適当な物に鑑定をかけたけど、王城地下遺跡って出てるやつがあった)
(え、てことはこの真上は城ってこと?あ、だから王子とかいるんだ。向こうから見たら私らってもしかして不法侵入者?)
(あー…まじでやべぇ…あの像崩れたままだし絶対あとで怒られる)
(叱られるだけならまだマシだろ。敢えてこちらから言う必要もないが、もし指摘されたら変に言い訳せずにきちんと謝れよ。痕跡見たら最近のものだってすぐわかりそうだし)
(はぁ…だよなぁ…分かったよ)
(お前、なんで像狙って試しちゃったの?)
(別に狙ったわけじゃなくて…。こう使うのかなぁって思いながら手を出した先にたまたまあの像があったというか…)
(おいおい…勘弁してくれよ…。もしその先に人がいたらと思うとゾッとしたわ)
(スキル確認まだ途中だったけど、続きやるなら人がいるところで攻撃系を試すのは絶対禁止。わかった?)

 その時に埴生の一番近くにいた有原が、顔を引き攣らせてそう念を押す。それには皆青褪めながらこくこくと頷いた。

 一方、騎士たちは非常にテキパキとした動きを見せていた。祭壇上に安置していたローブの遺体はどこからか引っ張り出してきた棺に移し替え、祭壇には新たに隊長の遺体を仰向きに横たえさせた。甲冑は取り外され、胸に組んだ手には隊長の所持品だろう剣を体に添わせて握らせている。

(マップだけどさ。近くにいる人には共有できそうなんだ。見え方は鑑定っぽくなるかも。だから傍からは見えないと思うけど…。試してみてもいい?)
(うん、それくらいなら大丈夫かな。距離も向こうから充分離れてるし)
(じゃあやってみるね)
(…お?おぉ、見えた。こんな風になってたのか)
(わぁ、なんかすごいね。スマホにあるマップみたいなのイメージしてたけど、レーダー地図?ぽいんだね)
(私もそっちの方が見慣れてるはずなんだけど、何でかこうなっちゃうみたいで。パパの職場で航空管制レーダーのスクリーンを見たことあるんだけど、それに似てるような気がしてる)
(かっこいいなぁ。鑑定みたいに見ただけでは詳細までわからないのか)
(そうなの?スキル使ってる私はなんとなく分かるんだけど)
(共有されている方は視覚情報のみみたいだな。見方がよくわからないが…中央の印があずまなのか?その周りに固まってる三角形の点が俺らか)
(まぁ、うん。そんな感じ。今はちょっと拡大してて、最大広域にすると、こう。使い慣れるともっと範囲は広げられそうだけど今はこれが限界かな)
(うん?距離感がいまいちピンとこない…あ、でも点が小さくなってごちゃごちゃした。…なるほど、これは慣れないと点も見落とすか)
(…うん。もうちょっと使い勝手良くしたくはある)

 一通り準備が整ったのか、気づけば王子王女含め騎士たちが祭壇を囲んで黙祷を捧げていた。離れたところからだが、クラスメイトらもそれに倣う。
 しばらく静寂が続いた後、また別の棺に遺体を納めて、元ある場所に戻した。通常は墓地などに移すのだろうが、そのような余裕は今はなさそうだ。晒しておくこともできないだろうから、これは応急的な処置といったところなのだろうか。

 王子と王女を端の方で座って休ませると、騎士二人はまだ何かあるのか、奥の方で作業を始めた。フォルガーだけがこちらに近寄ってくる。

「待たせたな。おかげで一息入れられそうだ。それで、君たちのことで分かる限りのことを話そう。我々が置かれている状況に絡んでもいそうなので、先にそちらから順に説明をしたい」

 そう言って、フォルガーは淡々と事情を話し始めた。


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