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序章 迷宮脱出編
眠る者と眠れぬ者
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皆で静かに後片付けを手伝っていると、フォルガーが大きめの毛布を何枚か回してくれた。
「今夜はこれで暖かくしてくれ。人数分なくて済まないが、三人くらいであれば一枚でも共有できるだろう」
「…あの、今日は本当に色々と良くして頂いてありがとうございます。これだけの人数がいて、負担をかけたと思います。残りの物資の方は大丈夫なのでしょうか」
「いや、いいんだ。せめてここから出るまでは任せてくれ。元々もっと大人数で地下に籠城するつもりだったので、物資には余裕があるんだ。と言っても十日ほどが限界だと思うが、あの状況ではここが敵に見つかるのも時間の問題だろう。できるだけ早く脱出するためにも、今は助け合いができる方が望ましい」
「分かりました。それではお言葉に甘えさせてもらいます。何ができるかまだわかりませんが、出来る限りのことはしたいと思います」
(食料だけはどうしようもなかったから、それは本当助かったね)
(そんな悠長にいつまでもここに留まるつもりはなかったけど、外に出るまでどれだけかかるかわからなかったし、ひとまずは良かったかな)
ようやく王子と王女が眠りに就いたようだ。それで他の騎士二人も落ち着いたのか、自分たちの身の回りを片付け始めていた。
その様子をなんとなく眺めていると、あれこれとどこからか物を取り出していたのは、各々が身につけている小さなウエストバッグからだった。明らかにサイズに合わない物をそこから自由に出し入れしている。
〈鑑定〉をかけると、それも魔道具と呼ばれる空間収納機能が魔法付与された便利グッズの一つで、一定の容量までであれば大きさや重さを気にすることなくその中に保存しておくことができ、更に鞄として持ち運べる代物のようだった。
(あれは相当便利そうだな。水もそうだったけど、どんな仕組みなんだ?文明レベルがチグハグすぎる)
(魔法って、ここでは科学並みの扱いなのかもね)
(水とかは魔術でなんとかできそうだけど、あれはさすがに無理そう。付与限定なのかな?良いなぁ)
(俺はあれ、作れるような気がする。錬金術とやらで。まぁ素材がないと意味ないから、今はほとんど宝の持ち腐れだけど)
(上総の能力ってそういう感じなのか。てか、小高!お前魔法使えるならもっと早く言えよ)
(え?魔法はみんな使えるんじゃないの?)
(潜在的には?なんか使えるらしいが、どうやって出すかわかんねーんだけど)
(私も似たような感じ。小高は魔術ってやつ分かるの?)
(うん。まだ実際に試してないけど、知識だけはあって…あ、これって僕のジョブがウィザードだから?)
(いや知らねぇし。とりま明日でいいからちょっと試してみろよ。てか教えろよ)
(あー…うん、わかった。でもこれ、ほんとに僕しかわかってないの?)
(私の場合は才能やスキルに絡んだ魔法は使えそうだけど、誰でも使えるものじゃなさそう。言ってた通り、ジョブ特有のものなんじゃない?)
(…あの、ちょっといい?)
(ん?美濃さん?なに?)
(あの人たちが持ってる空間収納アイテムだけど、君たちも既に持ってるはずよ。誰も今着てる制服を鑑定してみなかったの?)
『え!』
┏[アイテム鑑定]━━━━━━
【?】校章バッジ
◆––––––––––––––––––––––––
空間収納用の魔道具
専用亜空間に物を収納する
空間内は時間停止
容積: 百万 立米
※所有者のみ使用可能
※紛失防止機能付き
※不壊
状態: 良好
価値: 評価不能
相場: 評価不能
┗━━━━━━━━━━━
(なんか…物をしまう概念崩れそう)
(なんでこのバッジが魔道具に…?)
(そこまではわからないけど…誰も鞄を持ってなかったからとか?)
(おーすごい。試しにスマホ当ててみたら、吸い込まれるように消えた。出すときはそれをイメージしてバッジに触れるとその通り出てくる)
皆思い思いにバッジに触れて、所持品を出し入れしてみている。その不思議な感覚に目を丸くしていると、他の騎士たちと何事かを話していたフォルガーが声をかけてきた。
「ここは大丈夫だとは思うが、火の番も兼ねて最低一人は見張りを立てる。我々は三人交代制でやるつもりだ。それとは別に、君たちがどうするかは任せる。我々に任せてもらってもいいし、不安であれば同じように交代制にするといいだろう」
「いえ、何もかも甘えるわけにもいきません。私たちも交代で見張りを務めようと思います」
夜も更けてくると、さすがに冷え込みが気になってきていた。今の季節がいつかはわからないが、昼間はそこまで気にならなかったので、真冬ではないことは確かだろう。
いくら建物内でも、地下でこれだけ広い場所だと、暖房なしの薄掛け一枚では眠れそうにない。身の危険も気になるが、焚き火は確実に欲しいところだった。
見張り役は普通にジャンケンで決めることになった。
「じゃあ負けた人が当番ね。あっちに合わせて三人でいいよね」
「さいしょはグー、ジャンケン、ポン」
「ち~けった!」
「イィ~ンジャァ~ンで、ほぉ~い」
「じゃんけんホイホイ、どっちだすの」
「じゃ~い~け~ん~で、ほ~い!」
「さいっしょはぐー、じゃんけん、ぽい」
「ちょ…ちょっと待って待って」
「…こんなバラバラになることってある?」
「そもそもこんなに大人数でジャンケンしても決まらないよ」
「てか、え?みんな同じ地元だよね?」
なぜか見事に出だしが揃わず相馬が混乱している。
仕切り直そうとするが、主に、最初はグーから始めたい勢とグーとパー別れ勢で対立が始まった。
結局、勢力別に六~七人ずつ分かれてジャンケンして、その中から負けた者が選出された。
本日の当番は、河内、埴生、有原だ。
ソワソワと先ほどからいつまでも落ち着かない乃愛は、思い切って皆に声をかけることにした。
(あの…念のため、私たちの周りにバリアを張っておくね)
(え、それはありがたいけど…寝てる間もそんなことができるの?)
(うん。一度張ってしまえば、意識して解除しない限りずっと効果は続くみたいで)
(そうなの!それは助かる~)
(でも、そうすることで体に負担とかはかからないのか?)
(それも特に問題ないみたい。発動時にちょっと魔力が減るだけで、体を休めればそれもすぐに回復するから)
(そうか。何かあればすぐ言えよ)
(実感はないけどなんか御守りみたいな安心感ある~。よろしくねー)
(うん)
この念話は特に乃愛にとっては、とても便利で素晴らしいものだと感動していた。相手の前に立つことも声を発することもなく、思ったことをすんなり言葉にして伝えることができる。ずっとこのままでコミュニケーションを取っていきたいくらいだった。
就寝組は男女別に分かれて座っていた敷物の上にそのまま横たわると、毛布を分け合って眠りに就く。横になればすぐに寝息が聞こえ始めた。
慣れない環境ではなかなか眠れないかと思いきや、やはりこれだけ濃密な一日を過ごすと無意識のうちに疲れも溜まっていたのか、ようやく落ち着けたことで気が緩んだのかもしれない。
見張りの先陣を切った河内は、同じ立場のフォルガーと並んで座ると、お茶を飲みながら静かに何か話し込み始めた。
乃愛も毛布に包まって横になっていたが、目はギンギンで、全く眠れそうになかった。先ほど言ったことは本当だったが、精神的には張り詰めたままで、こんなに他人が大勢いる中でいきなり落ち着けるはずもない。
いくら体が作り変わって身体的負担は減ったとはいえ、中身は何も変わっていないのだ。これまでキャンプどころかお泊まり会などの経験もないので、このような時どうしたらいいのかがわからなかった。
しばらくモゾモゾしていると、隣にいた新田が小さく声をかけてきた。
「…眠れないの?」
「あ、う、うん…。ごめんね、邪魔しちゃった…?」
「ううん、私も同じでなかなか寝付けそうになかったの。今日は色々ありすぎて、まだ頭の整理ができないというか…」
「…そう、だよね」
「そうだ。ちょっとこっちに横向きになれる?」
言われるがまま、乃愛は仰向けにしていた体を少し新田の方へと傾けた。すると、目の前に飴玉サイズの小さな水玉がパッと現れた。
「これ、飲んでみて。少しは落ち着くよ」
新田はそう言って、二つ浮いていた水玉のひとつを口に含んだ。
不思議に思いながらも、乃愛も釣られるようにしてそれを口に入れると、そのまま飲み込んだ。味があるわけではないが、何となく水が美味しく感じられた。
「これね、聖水っていうものらしくて。私が出せる水って全部これになるみたい。浄化の付随効果で精神安定作用も少しあるから、寝付きが良くなるかも」
「…うん、なんか温かくなってきた気がする。ありがとう」
乃愛は自然と顔がほころんで、新田の気遣いに感謝した。
普通の水と何が違うのか、急激な変化は感じられないが、しばらくすると気持ちがゆったりとしてきた。
目を瞑っていると少しずつ眠気がやってきて、乃愛はそれに逆らわずにそのまま意識を手放した。
「…」
新田は乃愛が寝息を立て始めたことを確認すると、小さく溜め息を吐く。
今日あった出来事を振り返ってはそれを反芻し、様々なことに整理をつけて熟思する。
新田の眠れない夜はまだ続いていく。
「今夜はこれで暖かくしてくれ。人数分なくて済まないが、三人くらいであれば一枚でも共有できるだろう」
「…あの、今日は本当に色々と良くして頂いてありがとうございます。これだけの人数がいて、負担をかけたと思います。残りの物資の方は大丈夫なのでしょうか」
「いや、いいんだ。せめてここから出るまでは任せてくれ。元々もっと大人数で地下に籠城するつもりだったので、物資には余裕があるんだ。と言っても十日ほどが限界だと思うが、あの状況ではここが敵に見つかるのも時間の問題だろう。できるだけ早く脱出するためにも、今は助け合いができる方が望ましい」
「分かりました。それではお言葉に甘えさせてもらいます。何ができるかまだわかりませんが、出来る限りのことはしたいと思います」
(食料だけはどうしようもなかったから、それは本当助かったね)
(そんな悠長にいつまでもここに留まるつもりはなかったけど、外に出るまでどれだけかかるかわからなかったし、ひとまずは良かったかな)
ようやく王子と王女が眠りに就いたようだ。それで他の騎士二人も落ち着いたのか、自分たちの身の回りを片付け始めていた。
その様子をなんとなく眺めていると、あれこれとどこからか物を取り出していたのは、各々が身につけている小さなウエストバッグからだった。明らかにサイズに合わない物をそこから自由に出し入れしている。
〈鑑定〉をかけると、それも魔道具と呼ばれる空間収納機能が魔法付与された便利グッズの一つで、一定の容量までであれば大きさや重さを気にすることなくその中に保存しておくことができ、更に鞄として持ち運べる代物のようだった。
(あれは相当便利そうだな。水もそうだったけど、どんな仕組みなんだ?文明レベルがチグハグすぎる)
(魔法って、ここでは科学並みの扱いなのかもね)
(水とかは魔術でなんとかできそうだけど、あれはさすがに無理そう。付与限定なのかな?良いなぁ)
(俺はあれ、作れるような気がする。錬金術とやらで。まぁ素材がないと意味ないから、今はほとんど宝の持ち腐れだけど)
(上総の能力ってそういう感じなのか。てか、小高!お前魔法使えるならもっと早く言えよ)
(え?魔法はみんな使えるんじゃないの?)
(潜在的には?なんか使えるらしいが、どうやって出すかわかんねーんだけど)
(私も似たような感じ。小高は魔術ってやつ分かるの?)
(うん。まだ実際に試してないけど、知識だけはあって…あ、これって僕のジョブがウィザードだから?)
(いや知らねぇし。とりま明日でいいからちょっと試してみろよ。てか教えろよ)
(あー…うん、わかった。でもこれ、ほんとに僕しかわかってないの?)
(私の場合は才能やスキルに絡んだ魔法は使えそうだけど、誰でも使えるものじゃなさそう。言ってた通り、ジョブ特有のものなんじゃない?)
(…あの、ちょっといい?)
(ん?美濃さん?なに?)
(あの人たちが持ってる空間収納アイテムだけど、君たちも既に持ってるはずよ。誰も今着てる制服を鑑定してみなかったの?)
『え!』
┏[アイテム鑑定]━━━━━━
【?】校章バッジ
◆––––––––––––––––––––––––
空間収納用の魔道具
専用亜空間に物を収納する
空間内は時間停止
容積: 百万 立米
※所有者のみ使用可能
※紛失防止機能付き
※不壊
状態: 良好
価値: 評価不能
相場: 評価不能
┗━━━━━━━━━━━
(なんか…物をしまう概念崩れそう)
(なんでこのバッジが魔道具に…?)
(そこまではわからないけど…誰も鞄を持ってなかったからとか?)
(おーすごい。試しにスマホ当ててみたら、吸い込まれるように消えた。出すときはそれをイメージしてバッジに触れるとその通り出てくる)
皆思い思いにバッジに触れて、所持品を出し入れしてみている。その不思議な感覚に目を丸くしていると、他の騎士たちと何事かを話していたフォルガーが声をかけてきた。
「ここは大丈夫だとは思うが、火の番も兼ねて最低一人は見張りを立てる。我々は三人交代制でやるつもりだ。それとは別に、君たちがどうするかは任せる。我々に任せてもらってもいいし、不安であれば同じように交代制にするといいだろう」
「いえ、何もかも甘えるわけにもいきません。私たちも交代で見張りを務めようと思います」
夜も更けてくると、さすがに冷え込みが気になってきていた。今の季節がいつかはわからないが、昼間はそこまで気にならなかったので、真冬ではないことは確かだろう。
いくら建物内でも、地下でこれだけ広い場所だと、暖房なしの薄掛け一枚では眠れそうにない。身の危険も気になるが、焚き火は確実に欲しいところだった。
見張り役は普通にジャンケンで決めることになった。
「じゃあ負けた人が当番ね。あっちに合わせて三人でいいよね」
「さいしょはグー、ジャンケン、ポン」
「ち~けった!」
「イィ~ンジャァ~ンで、ほぉ~い」
「じゃんけんホイホイ、どっちだすの」
「じゃ~い~け~ん~で、ほ~い!」
「さいっしょはぐー、じゃんけん、ぽい」
「ちょ…ちょっと待って待って」
「…こんなバラバラになることってある?」
「そもそもこんなに大人数でジャンケンしても決まらないよ」
「てか、え?みんな同じ地元だよね?」
なぜか見事に出だしが揃わず相馬が混乱している。
仕切り直そうとするが、主に、最初はグーから始めたい勢とグーとパー別れ勢で対立が始まった。
結局、勢力別に六~七人ずつ分かれてジャンケンして、その中から負けた者が選出された。
本日の当番は、河内、埴生、有原だ。
ソワソワと先ほどからいつまでも落ち着かない乃愛は、思い切って皆に声をかけることにした。
(あの…念のため、私たちの周りにバリアを張っておくね)
(え、それはありがたいけど…寝てる間もそんなことができるの?)
(うん。一度張ってしまえば、意識して解除しない限りずっと効果は続くみたいで)
(そうなの!それは助かる~)
(でも、そうすることで体に負担とかはかからないのか?)
(それも特に問題ないみたい。発動時にちょっと魔力が減るだけで、体を休めればそれもすぐに回復するから)
(そうか。何かあればすぐ言えよ)
(実感はないけどなんか御守りみたいな安心感ある~。よろしくねー)
(うん)
この念話は特に乃愛にとっては、とても便利で素晴らしいものだと感動していた。相手の前に立つことも声を発することもなく、思ったことをすんなり言葉にして伝えることができる。ずっとこのままでコミュニケーションを取っていきたいくらいだった。
就寝組は男女別に分かれて座っていた敷物の上にそのまま横たわると、毛布を分け合って眠りに就く。横になればすぐに寝息が聞こえ始めた。
慣れない環境ではなかなか眠れないかと思いきや、やはりこれだけ濃密な一日を過ごすと無意識のうちに疲れも溜まっていたのか、ようやく落ち着けたことで気が緩んだのかもしれない。
見張りの先陣を切った河内は、同じ立場のフォルガーと並んで座ると、お茶を飲みながら静かに何か話し込み始めた。
乃愛も毛布に包まって横になっていたが、目はギンギンで、全く眠れそうになかった。先ほど言ったことは本当だったが、精神的には張り詰めたままで、こんなに他人が大勢いる中でいきなり落ち着けるはずもない。
いくら体が作り変わって身体的負担は減ったとはいえ、中身は何も変わっていないのだ。これまでキャンプどころかお泊まり会などの経験もないので、このような時どうしたらいいのかがわからなかった。
しばらくモゾモゾしていると、隣にいた新田が小さく声をかけてきた。
「…眠れないの?」
「あ、う、うん…。ごめんね、邪魔しちゃった…?」
「ううん、私も同じでなかなか寝付けそうになかったの。今日は色々ありすぎて、まだ頭の整理ができないというか…」
「…そう、だよね」
「そうだ。ちょっとこっちに横向きになれる?」
言われるがまま、乃愛は仰向けにしていた体を少し新田の方へと傾けた。すると、目の前に飴玉サイズの小さな水玉がパッと現れた。
「これ、飲んでみて。少しは落ち着くよ」
新田はそう言って、二つ浮いていた水玉のひとつを口に含んだ。
不思議に思いながらも、乃愛も釣られるようにしてそれを口に入れると、そのまま飲み込んだ。味があるわけではないが、何となく水が美味しく感じられた。
「これね、聖水っていうものらしくて。私が出せる水って全部これになるみたい。浄化の付随効果で精神安定作用も少しあるから、寝付きが良くなるかも」
「…うん、なんか温かくなってきた気がする。ありがとう」
乃愛は自然と顔がほころんで、新田の気遣いに感謝した。
普通の水と何が違うのか、急激な変化は感じられないが、しばらくすると気持ちがゆったりとしてきた。
目を瞑っていると少しずつ眠気がやってきて、乃愛はそれに逆らわずにそのまま意識を手放した。
「…」
新田は乃愛が寝息を立て始めたことを確認すると、小さく溜め息を吐く。
今日あった出来事を振り返ってはそれを反芻し、様々なことに整理をつけて熟思する。
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