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第1話 ヤミー

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「大丈夫ですよ。痛くはありません。
 こちらへきてリラックスして下さい。
 変に緊張するとお肉が固くなっちゃいますからね」

 そう言いながら、大柄で鬼の様な異形の男が、十代後半かと思われる少女を、自分の方に招き寄せる。
 おそるおそる彼に近づいていく彼女は、ロングの黒髪を頭の後ろでポニテにまとめていて、着衣はブラとショーツだけだ。 

 男は、彼女の頭を数回撫でながら言った。
「ほら、怖くないでしょう。
 もっとよく顔を見せて下さい」

 すると、男と視線が合った彼女の眼から光が消え、何か催眠状態にでもなったかの様に崩れ落ちる。

 脇に控えていた血色の悪い悪魔の様な顔の執事が声をかける。
「キング。それではフォークとナイフをお持ちしましょうか?」

「いや、ちょっと待ってね。
 僕、この皮舐めるのが好きなんだ。
 ここへ来るまでの緊張感で汗一杯かいてて、ちょうどいい塩加減なんだよね」
 
 キングと呼ばれた異形の男が、少女の右腕を上に持ち上げ、脇の下を数回ぺろぺろなめだした。
 執事は、その光景を見ない様、目を背けている。

「どっこいしょ」
 キングが、少女をお姫様抱っこし、側の大きなテーブルの上に横たえた。
 そして彼女が身に着けていたわずかな防具をはぎ取ると、ジロジロと細部を眺めだした。

「うん、いい。すごくいい。
 まさに今が食べごろって感じだよね。
 今日は失禁させないようすごく注意したから、おしっこ臭くも無いし……これなら、あれも味わえるよね」
 そういいながら、キングは少女の両太ももを持ち上げ、女性の秘部が露わになるようにし、おもむろにそこを嘗めだした。

 ……ちゅちゅちゅっ、ちゅる! 
 意識が無くても少女は感じてしまっているのか、だんだん、股間の割れ目部分が湿ってきているのが判る。

「おっ、きたきた。これこれ。このちょっと酸味の利いた清水を味わうのも人間食べる醍醐味の一つだよねー」

 このキングと呼ばれた男は、食人鬼グールと呼ばれる魔族で、今日は恒例の、エルフから献上された生贄の晩餐会だ。
 この少女をここへ連れてきたエルフ共も、そばでキングの晩餐を鑑賞している、というより最後まで見届けないといけない。そうしないと目的のものがキングから下賜されないのだ。

「それじゃ、今日はがっつり脳髄からいこうか。
 君、頭割っちゃって」

「はっ、かしこまりました。キング」


 ◇◇◇


「あれ、ヤミー。また何か食べてる!」
「いいじゃん、休憩時間なんだし……。
 このナイスバディを維持するには燃費がかかるのよ!」

 ヤミーと呼ばれた茶色い髪でボブカットの少女は、山本碧やまもとみどり、十六歳・高校生。

 自分で言うのも何だが、確かにいい線いってるスタイルとルックスで、成績は普通だが、活発で運動神経もまあまあ……。
 なにより人懐っこくて男女問わず人気が高い。
 しかもなぜか小さい子供にも好かれやすいし、碧も子供が大好きだ。
 そして特技は早弁・早おやつと、とにかく食いしん坊で、好き嫌い無くよく食べる。それでヤミーな訳だが、それでも全然太ったりしないため、友人達に大変うらやましがられている。

「それにしても、こんなに大食いじゃなければ、もう少しモテただろうに……。
 ヤミーと結婚したらエンゲル係数鬼上がりだよねー」
 同じバスケ部のえっちゃんは、いつもそう言ってヤミーをからかう。
「何よー。いいもん。自分で食べる分くらい自分で稼ぐんだから!」

 確かに、もう少しおしとやかで少食だったらと思う事は自分でもある。

 恥ずかしながら、この歳になるまで彼氏は出来た事がないし、男子から告白とかされた事もない。やっぱり、女子は少食がいいのかなー。
 などど考えながら、日が落ちたとはいえ、夏の盛りでまだ蒸し暑い中を、自宅へ向かって歩いていた時だった。

「ん? なんだ、この匂い。悪い香りじゃないし、むしろ美味しそうな……」
と、匂いにつられてその方向に行ってみる。

 数百mは歩いただろうか。
 こんなに遠くまで匂うとか、ますます興味が沸いてきたよ。
 どうやらあの角を曲がった先らしい。
 早足で近づく。

 何かの屋台とかだったら、買っちゃうかも……。
 などど思い、角を曲がったところには、なぜか道路の真ん中にドアが一枚立っていた。ど〇でもドアとかって多分こんな感じだよねと思いながらよく見ると……。

 ドアに『!』と張り紙がしてある。

 見るからに怪しい!
 でも、このいい匂いは、確かにドアの向こうから来ている様だ。

「うっわー、どうしようこれ。
 というか、普通こんなのに近寄っちゃいけないよね。
 でも、気になる―――――この匂い。
 何かすごく美味しそうな、懐かしいような……ちょっとだけ開けてみる?
 いやいや、何が起こるのか分かんないし。
 そうだ、えっちゃんまだ近くにいないかな。
 二人で開ければまだ何とかなるかも」

 そう思い直してスマホを取り出し、さっき別れたえっちゃんを呼び出してみるが、電波が届かない様だ。

「うーん。勇者歓迎って事は、勇気を出してこの戸を開けなさいって事だよね?
 何かのいたずらとかドッキリみたいな気もするけど‥‥‥。
 ここで思い切ってチャレンジするのも芸人魂……みたいな?」

 そう言いながら、ドアノブに手をかけ右に捻ったら、カチリとドアが開いた。

 そしてゆっくり扉を開けていくと、一瞬何かが光ったような気がしたが、次の瞬間、周りがすべて真っ暗になり、上下左右・東西南北の全ての感覚をロストし、身体が宙に浮いた。

「えっ? ええっーーーーーー!!」


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