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21 風を追う者
21-4 逢魔時
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戦国武将たちの習慣の中でもフロイスが指摘した、ひどい悪習慣のひとつに、酒の飲み方がある。酒宴では相手が下戸でもない限り、泥酔するまで飲ませるのが常であり、皆、吐くまで飲むが、どうやら南蛮ではそうではないらしい。
岐阜以来の忠三郎の友人の一人、美濃の牧村長兵衛も都に来るたびに声をかけ、つい先日までは屋敷に洛中の傾城屋から遊女を呼んで楽しく酒を飲んでいたが、最近になって誘いを断るようになった。
忠三郎は不審に思い、上洛すると洛外にある長兵衛の屋敷に赴いた。すると主の長兵衛は留守で、南蛮寺にいるという。
(高山右近殿が度々、南蛮寺に誘っているという話であったな)
致し方なく、南蛮寺へ向かうこととした。
「牧村様はもしや、キリシタンになろうとしておるのでは?」
町野長門守の言葉を忠三郎は笑い飛ばす。
「まさか、左様なことはあるまい。長兵衛殿には側室が三人おる。ロレンソ殿は側室は認められぬというし、三人の側室を追い出すわけにも行くまいて」
振り返ってそう言うと、長門守の後ろからついてきている滝川助太郎が立ち止まって通りの向こう側を見ている。
「如何した、助太郎」
「は…いえ…」
弟の助九郎によく似た者が走っていく姿が見えたような気がした。
(まさか都にいるはずもない)
いつも気にかけているから、見ず知らずの者でさえも弟に見えただけかと思い、忠三郎の後に付き従って南蛮寺に入った。
会堂の中では大勢の人が着座して問答の最中だった。見まわしてみると、牧村長兵衛らしき後姿が見えた。
聞く者の中に、ひときわ熱い視線を送る若者がいた――
「終わるまで、このまま待とう」
忠三郎が小声で町野長門守に声をかける。
話し手はロレンソ。皆、ロレンソの話に熱心に耳を傾けている。ロレンソが肥後(熊本)から托鉢をしながら都へたどり着き、布教をはじめたとき、都では誰も家を貸す人がいなかったという。ようやく借りた崩壊寸前の家は雨漏りがひどく、隣は大きな厠で異臭を放っていた。
奇跡的に将軍に拝謁したロレンソは布教許可を得たものの、キリスト教を敵視する人々によって都を追われた。進退窮まったロレンソと宣教師たちは堺に行き、そこでキリシタンであった堺の豪商、日比屋了慶に助けられる。日比屋了慶が自らの屋敷をキリスト教の教会堂として提供したことで、堺の町にキリスト教が広まった。そして同じ堺の豪商、小西隆佐が洗礼を受けた。秀吉の側近、小西行長の父だ。
ロレンソは宣教師たちとともに堺から大和に行き、そこでは高山右近の父、高山図書がキリシタンになった。次に河内へ行き、そこでは三箇老人をはじめとして多くの人々がキリシタンになった。
ロレンソによってキリシタンになった者たちは多い。日本語を習得した宣教師もいたが、ロレンソをはじめとする日本人修道士たちがいなければ難しい教理の話をすることはできない。貧相な外見からでは想像もできないほど、ロレンソの話は分かりやすく真理を的確についており、なによりもロレンソ自身がキリスト教を体現していたことが、多くの人々の心を惹きつけた。
こうしていると信長がロレンソを召し出し、宗論したときを思い出す。
この地を表しているという球体の形をした図面。伴天連たちから献上された地球儀は信長のお気に入りのひとつで、地球儀を回しながら、南蛮人がどこから来たのか、日の本へたどり着く道すがらどのような危険な目にあったのか、ロレンソは丁寧に説明した。
(あのとき、確か…)
信長はそれほどの危険を冒してまで来た理由を尋ねた。キリシタンの教えというのはそれほどに価値あるものなのか、それともこの日の本から何かを持ち去るために来たのか、と。それに対してロレンソは何と答えたか。
(盗みだすために来たのだと、そう答えた)
多くの人々の魂を悪魔の手の中から奪い、創造主なる神の元へ返すために来たのだと答えた。それに対し、信長は大変感じ入り、ロレンソの答えに満足げに頷いた。
――あのときの球体は、今もどこかで静かに回っているのだろうか。
「なぜ、ロレンソ殿なのであろう」
遠い昔、岐阜で一益からロレンソを正式に紹介されたときから、不思議に思っていた。ロレンソは足が不自由で片目は見えておらず、もう片方の目もかろうじて見えているかどうか。この上もなく貧相で、お世辞にも霊験あらたかとはいいがたい。
「この世の取るに足りない者や見下されている者を、神は選ぶ。有るものをない者のようにするため、無に等しいものを選ぶ」
背後で声がして、振り返ると三九郎が立っていた。
「三九郎……」
まさか都にいるとは思っていなかった。しかも白昼堂々と南蛮寺に出入りしているとは。
「おぬしのようなものに神の摂理は分かるまい。何を探りに来た?」
「随分な物言いではないか。都におったのか。一人か?」
忠三郎が常の笑顔でそう言うが、三九郎はにこりともせず、
「馴れ馴れしく話しかけるな。もう縁も所縁もなき他人。おぬしに答えるつもりもない」
ちらりと背後にいる助太郎を見て、その場を後にした。
「三九郎のやつ、もう少し柔らかい物言いができぬものか」
忠三郎が町野長門守に同意を求めるように言うと、長門守は苦笑して、
「なんともそれは……」
なんと返事をしたらよいかと困っていると、散会となったらしく、忠三郎に気づいた牧村長兵衛が近づいてきた。
「忠三郎殿もお見えとは」
「おぉ、長兵衛殿。お屋敷にお伺いしたところ、こちらと聞き及びましたゆえ。長兵衛殿は最近、熱心に南蛮寺に通っておるとか。まさかキリシタンになるおつもりではありますまいな」
まさかとは思ったが確認してみると、長兵衛は笑顔で頷く。
「そのまさかでござるよ。家中にも同心しておる者がおり、ともにキリシタンになるべく、これよりロレンソ殿から講義を受けることとになっておりまする」
「されど、側室方は如何なされる所存で?」
「皆、暇を出すことと致しました」
これにはさすがの忠三郎も驚いて声もでない。三人もいる側室に暇を出すとは。
「直に右近殿も参られる。忠三郎殿も話を聞いて帰られては?」
一体、牧村長兵衛にどんな心境の変化があったのだろうか。先ほどの三九郎の捨て台詞も気になり、勧められるまま、高山右近の到着を待つことにした。
日が暮れたころ、南蛮寺の裏手にある母屋では、三九郎、義太夫、助九郎の三人が顔を突き合わせて話し合っていた。
「何故、忠三郎がかようなところにおるのであろうか」
忠三郎が上洛してくることは想定にない。今日上洛したのであれば、しばらく都に留まるつもりだろう。
「これはうっかり失念しておりました。あやつは暇さえあれば都に来て、屋敷に女子を呼んで戯れておるのでござります」
義太夫は妻帯して以来、忠三郎の誘いを断っていたために、そんなこともあったなと今更ながらに思い出した。
「如何いたしましょう。忠三郎様が屋敷におられるうちは家人も多いものかと。これは日を改めた方がよいような…」
にわかに自信がなくなってきた助九郎が不安げにそう言う。兄の助太郎が忠三郎と供にいるのであれば、こちらの手の内を悟られる可能性がある。
「やっと子の顔を見られると思うていたが…」
三九郎が落胆するのを見て、義太夫は少し考えた後、
「あやつが南蛮寺に現れたのは、恐らく牧村長兵衛か高山右近あたりに声をかけられたのでございましょう。してみれば、今日明日は南蛮寺で伴天連の話を聞き、その後に屋敷に戻るものと見えます。鶴が南蛮寺にいるうちに御台様と和子様をすり替えてしまえば、それと悟られることもなく、お二人を取り戻すことができましょう」
「義太夫の申す事、尤もである。…で、替え玉の用意はできておるのか」
「ハッ、ご案じめさるな。それがしにお任せを」
義太夫が自信満々に胸を叩くので三九郎も安心して頷いた。
(殿であれば、今ごろ鼻で笑っておられようが――)
「では手筈どおり明日夜に決行する。藤十郎にも伝えおけ」
「ハハッ」
にわかに忠三郎が姿をあらわしたので動揺したが、屋敷にいなければ何の問題もない。多少不安は残るものの明日の夜には二人を奪い返すことになった。
三九郎がすっかり細くなった月を見上げる。
(虎も同じ月を見ているだろうか)
臥せっているという虎のことが案じられる。虎は兄の忠三郎とは違う。常にひっそりと生きているような虎には都の水はあわない。華やいだ生活はかえって心労が重なるばかりだろう。伊勢に連れ戻り、静かな暮らしを取り戻すことができれば、きっと回復してくれる。
明日は新月。月のない夜だ。うまくいけば、明日の今頃は虎と過ごすことができるだろう。
翌日の夜――。
都を除く地では、黄昏時は逢魔時(おうまがとき)と呼ばれ、魑魅魍魎が徘徊する時間と恐れられ、往来するものは盗人か素破のみで、武士、町人、農夫でさえも外を歩くことはない。それに比べ、比較的治安のいい京の都は、夜になっても往来する人がちらほらと目に付く。
南蛮寺に見張りをつけていたが、忠三郎はしばらく出てくる気配もなく、三九郎、義太夫、助九郎の三名は南蛮寺に藤十郎を置いて三条にある蒲生家の屋敷に向かった。
「義太夫、もう少し年若い女子はおらなんだか」
義太夫が連れてきた虎の替え玉は都の外れを徘徊していた年老いた尼僧で、虎とは似ても似つかない。
「いやはや、年若い女子に声をかけて歩くと、女房にこっぴどく叱られまするゆえ」
苦しい言い訳をする。致し方なく、それらしい小袖を着せ、化粧をさせたが、義太夫の施した化粧がまたいただけない。能面のように白く、紅を差した口ばかりが強調されている。
「若殿とわしで老女を連れてあれなる木に登り、塀を乗り越え、屋敷の中へ入る。その間、助九郎は見張りを頼む」
助九郎が頷くと、義太夫は辺りを伺いつつ、小柄な老女をおぶって木に登る。
「ひぇぇぇ……おそろしや……夜は鬼が出ると聞いたに……」
老女が小さく悲鳴をあげて義太夫にしがみつく。
「く、くるしぃ…首をしめるな…。後で金子を弾むゆえに、もう少し静かにしてくれぬか」
義太夫が背中の老婆に声をかけると、老婆が口をつぐむ。三九郎が先に塀を乗り越え、中へと侵入する。辺りを伺うと、下から義太夫を手招きする姿が見える。どうやら蒲生家の家人の姿はないようだ。
義太夫も木から飛び降り、屋敷の中へ入ると、助九郎もその後に続いた。
「義太夫、赤子の替え玉は如何した?」
「抜かりはござりませぬ。助九郎が…」
後ろを振り向くと、確かに助九郎が大事そうに懐に抱えている姿が見えた。
「さすが義太夫。では、参ろう」
忠三郎が供を連れて屋敷の外にでているせいか、館に入っても蒲生家の家人の姿は見えない。そっと中を伺うと時折、侍女の姿が見えるだけだ。
「若殿、こちらへ」
あらかじめ屋敷の間取りを調べていた助九郎が先に立って二人を案内する。
「無駄に広い屋敷じゃ」
「義太夫殿、お静かに」
虎が秀吉の側室になったときに建てられた屋敷だ。秀吉が立ち寄ることがあるため、豪華な造りになっており、案内なしでは虎の元にはたどり着くことが難しい。辺りを伺いながら館の中に入り、静かに廊下を歩いていくと、
「ここに御台様が…」
助九郎が小声で襖を指さした。三九郎は頷き、そっと襖を開けた。
(虎…)
薄暗い部屋の中を灯明の明かりが照らしている。その微かな明かりの下で、虎が臥せっている姿が見えた。
「虎、大事ないか」
そっと声をかけると虎が目を開けた。
(やつれたな)
顔色が悪く見えるのは暗がりのせいばかりではない。骨ばった頬がこれまでの心労を物語る。
「若殿…これは一体…夢でありましょうか」
驚く虎に、三九郎が微笑みかける。
「遅くなったが迎えに来た。伊勢に戻ろう」
そう声をかけると、喜ぶかと思っていた虎は困惑した表情を浮かべた。
「如何した?わしと供に伊勢に戻りとうはないか?」
「それは…戻りとうござりまする。されど…」
虎は手をついて立ち上がると、
「小侍従。若君を…」
侍女に声をかける。侍女が察したようにうなずいて、奥へと向かっていく。
「虎、供に来てはくれぬのか。都暮らしはそなたには合わぬであろう。伊勢に帰ろう。伊勢に帰れば病いもよくなる」
虎は何も言わずに、戻って来た侍女から赤ん坊を受け取ると、顔を三九郎に見せた。
「若殿。赤子に名を…」
「名は決めておる。久助。滝川家の嫡子じゃ」
虎の生気のない顔にかすかな笑顔が浮かぶ。虎はそっと久助を三九郎に渡した。
「わらわは供には行けませぬ。どうか久助を育ててやってくださりませ」
「虎、何故じゃ。何故共に行かぬと?わしの元に戻るよりも、筑前の側女でいたほうがよいと、そう申すか?」
虎はうつむいたまま何も言わず、三九郎に背を向けた。
「若殿、長居はできませぬ。そろそろ引き上げませぬと…」
背中から老婆を下した義太夫が促し、助九郎が大事に抱えてきた替え玉を虎に渡した。
「虎!」
三九郎が再度呼びかけるが、虎は背を向けたまま
「もうお戻りくださりませ。直に兄が戻りましょう」
震える声でそう言った。
「若殿!若君を連れ、早う戻りましょう」
義太夫と助九郎に促され、三九郎が部屋を出ようとしたとき、頭上の天井板が音を立てて外され、南蛮寺に置いてきた藤十郎が顔を出した。
「まだおられたか!早う屋敷から出てくだされ。忠三郎様が戻ってくる途中でござりまする」
「早う退散すべし」
「義太夫殿、替え玉の老女は?」
「よいよい。鶴への土産に置いていこう。女子好きゆえ、喜ぶであろう」
「え?あの尼僧を…」
皆、次々に姿を消す中、三九郎は何度も虎を振り返り振り返り、名残惜しそうに館の外へでていった。
部屋の中がにわかに静まり返ると、虎はその場に座り込んで、大粒の涙を零した。
灯明がわずかに揺れた。
二日に渡り、南蛮寺に通ってキリシタンの教理を聞いた忠三郎は屋敷に帰る道すがら、高山右近やロレンソたちから聞いた話を反芻していた。
遠くで犬の遠吠えが響いた。――京の夜にしては珍しい。
(にしても長兵衛殿の変わりようには驚かされた)
人付き合いがよく、明るい性格の長兵衛とは何年にも渡って親しく接してきたが、まさか本気でキリシタンになるとは思いもよらないことだ。
「助太郎」
忠三郎が振り返ると、助太郎が慌てた様子で駆け寄ってくる。
「ハッ。何か?」
「何か気がかりなことでもあるか?」
助太郎は昨日から落ち着かないそぶりを見せる。三九郎に会ったことが原因かと声をかけたときに、にわかに子犬の鳴き声が屋敷から聞こえてきた。
「はて?」
犬を飼った覚えはない。不思議に思って屋敷に入ると、侍女が慌てて迎えにでてきた。どこか不自然で、どうも様子がおかしい。
(妙な…)
何か気になり、虎の元へと向かった。
「虎、もう寝ておるか?」
襖を開けると、入るなり真っ白に塗りたくった能面のような化粧の老女が座っていた。
一瞬、魂が抜けたように立ち尽くし――次の瞬間、腰を抜かすほど驚いた。
「な、何じゃ、その面相は! ……だ、誰じゃ。その方は!」
老女の後ろで虎が赤子をあやしているのが目に入った。
「おや??」
よくよく見ると、虎があやしているのは赤子ではない。目をこすって改めて見ようとする。
灯明がわずかに揺れ、影が歪んだ。
その影の中で、虎が抱いているのは――犬だった。
「クーン」
と赤子が鳴いたので、忠三郎は虎に駆け寄った。
「子犬ではないか!」
子犬は虎の腕の中で、円らな瞳でじっと忠三郎を見つめている。
「赤子は如何した?」
「それは…」
虎が言い淀んだので、昨日会った三九郎の顔が浮かんだ。
「さては滝川の者が屋敷に来たか」
胸の奥で何かが繋がる。――この不審な老女といい、子犬と赤子の入れ替えといい。
(まさか……あやつか?)
やがて確信に変わる。
(赤子と犬の子をすり替えるなどと、かような人を侮るたわけたことをするのは――義太夫しかおらぬ!)
「長門!助太郎!」
忠三郎は二人に声をかけると屋敷を飛び出した。
思わず口をついて出た。
「どこへ行きおった、あの阿呆――義太夫!」
夜空に声が弾み、どこからともなく風が鳴った。
左右を見渡すと、すぐそばで獣の遠吠えが響き、次の瞬間――大きな山犬に押し倒された。
「な、長門!」
忠三郎の叫び声を聞き、長門守が慌てて飛び出してくる。
見ると山犬が口を開け、今にも忠三郎の喉元に噛みつこうとしていた。
「ひゃあ、食われる!」
叫ぶや否や、長門守は逃げ腰になって助太郎にしがみついた。
「いや、食われるのはわしじゃ!」
忠三郎の怒鳴り声が夜気を裂いた。
「こ、これは、六郎殿か!」
三匹の山犬に押し倒されて押さえつけられたまま、忠三郎が向こうから近づいてくる人影に向かってそう叫ぶと、十歳くらいの少年が二人、連れ立って歩いてきた。杖をつく六郎の手を取って歩いているのは九郎だろう。
「九郎殿…」
近づいてくる二人を、息を飲んで凝視する。
何度か顔を見たいと風花にも一益にも頼んでいたが、そのたびに断られた。
(暘谷庵か)
章姫が滞在していた暘谷庵。一度、足を向けたときは同じように山犬に飛びつかれ、九郎の顔を見ていない。山犬から解放されたときには、子供たちも消えていた。
本能寺の変のときに二人は南蛮寺に保護されたと聞いていた。その後、どうしているかと気になってはいたが、暘谷庵に戻っていたとは思わなかった。
(よりにもよって、我が子にかような情けなき姿をさらす羽目になるとは…)
もう少し立派な姿を見せたかった。
夜風がひとすじ吹き抜け、草の音がした。
「義姉上と約束しておったのじゃ」
九郎は忠三郎の傍までくると、上から見下ろしてそう言った。
「約束?虎と?」
「子犬が産まれたら、一匹、義姉上にお渡しする約束じゃ。可愛がってくれ」
十歳とは思えぬ物言いに、かつての自分を彷彿とさせられる。
「六郎、九郎、もうよい。放してやれ」
新たな人影が現れ、二人の少年に声をかける。
六郎が口笛を吹くと、山犬たちが忠三郎から離れ、草を揺らしながら歩み去った。
「生涯、会わせるつもりはなかったが…」
「かようなところで会わせていただけるとは思いもよりませなんだ」
一益は苦笑して、傍らに控える助太郎の方を見る。
「助太郎、息災か?」
「ハッ。以前同様、忠三郎様によくしていただいております」
助太郎が深々と頭を下げると、一益は頷き、再度、忠三郎の方に向き直る。
「我が子に会いたい思いは皆、同じ。わかってやってくれ」
それは誰の思いなのか。三九郎なのか。それとも、一益自身のことなのだろうか。忠三郎がその真意を知ろうとジッと一益を見上げていると、一益は無言で右手を差しだす。忠三郎はその手を取り、立ち上がった。
「義兄上…。葉月殿は妙顕寺城でお過ごしでござりまする。奪い返すのであれば、大坂城本丸が完成する前がよいかと」
「妙顕寺城か。章は?」
「章殿は山崎城。されど章殿は…」
信長の娘とあって見張りが多い上に正式に忠三郎の養女として秀吉の側室にされている。奪い返すのは難しい。
「相わかった」
短くそう言った。一益は何をわかったというのだろうか。忠三郎が何と言おうかと迷った末に、
「章殿は義兄上の…」
娘なのかと聞こうとすると、一益がそれを制する。
「鶴千代はつつがなく育っておるか」
「は、はい。雪が我が子同様にして乳母をつけ、我が家の嫡子として育てておりまする」
一益はそれを聞くと頷き、忠三郎に背を向けた。
「義兄上!いずこへ?」
「わしに用あらば、ロレンソを訪ねよ」
その声が聞こえてきたときにはもう、一益の姿は暗闇の中に消えていた。
闇の奥で、火打石のように光がひとつ、瞬いた。
洛外にある暘谷庵。三九郎が久助を連れて戻り、にわかに賑わいを見せている。
「なんとも高貴なお顔立ちの和子様じゃ。これは母親似じゃな」
玉姫が久助の顔を見て言うと、風花も笑って、
「ほんに、虎殿に似ておるようじゃ」
というので、谷崎忠右衛門がどれどれと立ち上がる。
「皆、我らの活躍のことは、何も言うてくれぬのか」
先ほどから久助にばかり注目が集まり、義太夫と助九郎は声もかけてもらえない。義太夫がやれやれと腰を下ろすと、助九郎が
「いくら忠三郎様が相手とはいえ……赤子の代わりに犬の子とは、さすがに度が過ぎませぬか」
「案ずるな。常より薄ぼんやりとしておるあやつにとっては、人の子も犬の子もそう変わりはあるまい――女子の涙もな」
ようやく滝川家の嫡子を取り戻し、皆、喜びが隠せないでいるが、三九郎は一人、広縁に腰を下ろし、庭先を見て虎のことを思い起こしていた。
久助はともかく、秀吉の側室になった虎が姿を消せば、蒲生家が糾弾されることはもちろん、滝川家にも類が及ぶ。虎の性格を考えれば、事を荒立てるようなことはできないだろう。それが分かっていても、なお、釈然としない思いが残った。
迎えに来たと告げたとき、一瞬だけ見せた嬉しそうな顔。そしてその後の、涙を堪え、背を向けた姿。
(わしに力があれば…)
風が庵の竹垣を鳴らした。
秀吉を凌ぐ力があれば、こうはならなかった。しかしもうそれも叶わない。今や日の本において秀吉を凌ぐものはいない。担いだ筈の織田信雄をも凌ぐ勢いで、信雄との間に不穏な空気が流れている。
(もう無理なのか。虎を奪い返すことなどできぬのか)
秀吉はもちろん、いとも簡単に滝川家との縁を捨てた忠三郎が憎い。これまでどれほど忠三郎のために骨を折って来たのか分からない。忠三郎はそれを全て忘れたかのように手のひらを返して秀吉に虎を差し出してしまった。如何に戦国の世とはいえ、こんな不法が許されていいのだろうか。
その夜、皆が寝静まったころ、庵の外は虫の音ひとつせぬほど静まり返っていた。
一益が藤十郎を連れて戻って来た。
「父上、何処へ行かれていたので?」
三九郎が出迎える。
「妙顕寺城の様子を伺ってきた」
「妙顕寺城?」
妙顕寺城は妙顕寺の跡地に作られたことからその名がついた秀吉の京滞在中の城で、堀、天守を備えた強固な城郭だ。
「虎殿は供に来なかったのか?」
「虎はそれがしに久助を託し、屋敷に残りました」
三九郎が憔悴しきった顔をしているのはそのせいか、と合点がいき、円座に座った。
「葉月が妙顕寺城におる」
「なんと!では明日にでも押し入り、葉月を奪い返さねば」
「それはならぬ。うまく忍び込めたとしても葉月の居場所もわからぬ。無理をすれば誰かが命を落とすことにもなりかねん。時を待て」
蒲生家の屋敷に忍び込むのと秀吉の城に忍び込むのとでは大きな違いがある。万が一にも秀吉の家人に見つかれば、矢田山での惨事の二の舞になる。
しかし三九郎はじれたように膝の上でこぶしを握り締めた。
「父上は葉月が不憫とは思われぬのか。幼い身で敵に捕らわれ、怯えて暮らしておるやもしれませぬ。一日も早う救い出してやらねば、筑前にどのような目にあわされるか…」
「三九郎。矢田山の件を忘れたか。皆、そなたのために己の命を捨てて付き従っておる。これ以上の犠牲を出すことはまかりならぬ」
虎の件があり、三九郎はいつになく感情が高ぶっているようだ。静かに諭し、落ち着かせようとするが、三九郎はイライラとして拳で床を叩いた。
「そのように甘いことばかり仰せになっていては、葉月まで筑前の側女にされてしまうではありませぬか!父上は己の娘が二人もあのような者の側女にされても、黙って耐えるとおおせになるのか!」
「二人とは…」
「章のことでござります。章に対する父上の態度を見ていて気付かぬ筈がありませぬ」
忠三郎は咲菜に話を聞くまでは気づいていなかったようだが、三九郎はとうの昔に気付いていたようだ。だからこそ、章姫を妹のように可愛がってきたのだろう。
三九郎の後ろの襖が静かに開き、義太夫が顔を覗かせた。三九郎の声が大きい。狭い庵では皆に聞こえてしまう。
「若殿。お気持ちはよく分かりまする。されど、少しお声が大きいようで…」
義太夫がなんとか三九郎をなだめようとするが、三九郎は憮然として刀を掴み、立ち上がった。
「どこへ行く」
三九郎はそれには答えず、足早に部屋を出ると外に飛び出していった。
「あ、若殿!」
「義太夫、止めるな」
今しばらく、一人になって考えるときを与えてやらなければ、三九郎も気持ちの整理がつかないだろう。
「されど、あの勢いでは、あるいはもうお戻りにならぬやもしれませぬが…」
「案ずるな。三九郎ももう幼子ではない。深淵はその知識によって張り裂け、雲は露を注ぐという。時をかければ、やがては知恵を見いだし、英知を得て戻ってくる」
三九郎であれば、必ず、暴虐の者をうらやむことなく、正しい道を選び取って戻ってくるだろう。
――その帰り道に、光が射すことを、誰もまだ知らぬままでいた。
岐阜以来の忠三郎の友人の一人、美濃の牧村長兵衛も都に来るたびに声をかけ、つい先日までは屋敷に洛中の傾城屋から遊女を呼んで楽しく酒を飲んでいたが、最近になって誘いを断るようになった。
忠三郎は不審に思い、上洛すると洛外にある長兵衛の屋敷に赴いた。すると主の長兵衛は留守で、南蛮寺にいるという。
(高山右近殿が度々、南蛮寺に誘っているという話であったな)
致し方なく、南蛮寺へ向かうこととした。
「牧村様はもしや、キリシタンになろうとしておるのでは?」
町野長門守の言葉を忠三郎は笑い飛ばす。
「まさか、左様なことはあるまい。長兵衛殿には側室が三人おる。ロレンソ殿は側室は認められぬというし、三人の側室を追い出すわけにも行くまいて」
振り返ってそう言うと、長門守の後ろからついてきている滝川助太郎が立ち止まって通りの向こう側を見ている。
「如何した、助太郎」
「は…いえ…」
弟の助九郎によく似た者が走っていく姿が見えたような気がした。
(まさか都にいるはずもない)
いつも気にかけているから、見ず知らずの者でさえも弟に見えただけかと思い、忠三郎の後に付き従って南蛮寺に入った。
会堂の中では大勢の人が着座して問答の最中だった。見まわしてみると、牧村長兵衛らしき後姿が見えた。
聞く者の中に、ひときわ熱い視線を送る若者がいた――
「終わるまで、このまま待とう」
忠三郎が小声で町野長門守に声をかける。
話し手はロレンソ。皆、ロレンソの話に熱心に耳を傾けている。ロレンソが肥後(熊本)から托鉢をしながら都へたどり着き、布教をはじめたとき、都では誰も家を貸す人がいなかったという。ようやく借りた崩壊寸前の家は雨漏りがひどく、隣は大きな厠で異臭を放っていた。
奇跡的に将軍に拝謁したロレンソは布教許可を得たものの、キリスト教を敵視する人々によって都を追われた。進退窮まったロレンソと宣教師たちは堺に行き、そこでキリシタンであった堺の豪商、日比屋了慶に助けられる。日比屋了慶が自らの屋敷をキリスト教の教会堂として提供したことで、堺の町にキリスト教が広まった。そして同じ堺の豪商、小西隆佐が洗礼を受けた。秀吉の側近、小西行長の父だ。
ロレンソは宣教師たちとともに堺から大和に行き、そこでは高山右近の父、高山図書がキリシタンになった。次に河内へ行き、そこでは三箇老人をはじめとして多くの人々がキリシタンになった。
ロレンソによってキリシタンになった者たちは多い。日本語を習得した宣教師もいたが、ロレンソをはじめとする日本人修道士たちがいなければ難しい教理の話をすることはできない。貧相な外見からでは想像もできないほど、ロレンソの話は分かりやすく真理を的確についており、なによりもロレンソ自身がキリスト教を体現していたことが、多くの人々の心を惹きつけた。
こうしていると信長がロレンソを召し出し、宗論したときを思い出す。
この地を表しているという球体の形をした図面。伴天連たちから献上された地球儀は信長のお気に入りのひとつで、地球儀を回しながら、南蛮人がどこから来たのか、日の本へたどり着く道すがらどのような危険な目にあったのか、ロレンソは丁寧に説明した。
(あのとき、確か…)
信長はそれほどの危険を冒してまで来た理由を尋ねた。キリシタンの教えというのはそれほどに価値あるものなのか、それともこの日の本から何かを持ち去るために来たのか、と。それに対してロレンソは何と答えたか。
(盗みだすために来たのだと、そう答えた)
多くの人々の魂を悪魔の手の中から奪い、創造主なる神の元へ返すために来たのだと答えた。それに対し、信長は大変感じ入り、ロレンソの答えに満足げに頷いた。
――あのときの球体は、今もどこかで静かに回っているのだろうか。
「なぜ、ロレンソ殿なのであろう」
遠い昔、岐阜で一益からロレンソを正式に紹介されたときから、不思議に思っていた。ロレンソは足が不自由で片目は見えておらず、もう片方の目もかろうじて見えているかどうか。この上もなく貧相で、お世辞にも霊験あらたかとはいいがたい。
「この世の取るに足りない者や見下されている者を、神は選ぶ。有るものをない者のようにするため、無に等しいものを選ぶ」
背後で声がして、振り返ると三九郎が立っていた。
「三九郎……」
まさか都にいるとは思っていなかった。しかも白昼堂々と南蛮寺に出入りしているとは。
「おぬしのようなものに神の摂理は分かるまい。何を探りに来た?」
「随分な物言いではないか。都におったのか。一人か?」
忠三郎が常の笑顔でそう言うが、三九郎はにこりともせず、
「馴れ馴れしく話しかけるな。もう縁も所縁もなき他人。おぬしに答えるつもりもない」
ちらりと背後にいる助太郎を見て、その場を後にした。
「三九郎のやつ、もう少し柔らかい物言いができぬものか」
忠三郎が町野長門守に同意を求めるように言うと、長門守は苦笑して、
「なんともそれは……」
なんと返事をしたらよいかと困っていると、散会となったらしく、忠三郎に気づいた牧村長兵衛が近づいてきた。
「忠三郎殿もお見えとは」
「おぉ、長兵衛殿。お屋敷にお伺いしたところ、こちらと聞き及びましたゆえ。長兵衛殿は最近、熱心に南蛮寺に通っておるとか。まさかキリシタンになるおつもりではありますまいな」
まさかとは思ったが確認してみると、長兵衛は笑顔で頷く。
「そのまさかでござるよ。家中にも同心しておる者がおり、ともにキリシタンになるべく、これよりロレンソ殿から講義を受けることとになっておりまする」
「されど、側室方は如何なされる所存で?」
「皆、暇を出すことと致しました」
これにはさすがの忠三郎も驚いて声もでない。三人もいる側室に暇を出すとは。
「直に右近殿も参られる。忠三郎殿も話を聞いて帰られては?」
一体、牧村長兵衛にどんな心境の変化があったのだろうか。先ほどの三九郎の捨て台詞も気になり、勧められるまま、高山右近の到着を待つことにした。
日が暮れたころ、南蛮寺の裏手にある母屋では、三九郎、義太夫、助九郎の三人が顔を突き合わせて話し合っていた。
「何故、忠三郎がかようなところにおるのであろうか」
忠三郎が上洛してくることは想定にない。今日上洛したのであれば、しばらく都に留まるつもりだろう。
「これはうっかり失念しておりました。あやつは暇さえあれば都に来て、屋敷に女子を呼んで戯れておるのでござります」
義太夫は妻帯して以来、忠三郎の誘いを断っていたために、そんなこともあったなと今更ながらに思い出した。
「如何いたしましょう。忠三郎様が屋敷におられるうちは家人も多いものかと。これは日を改めた方がよいような…」
にわかに自信がなくなってきた助九郎が不安げにそう言う。兄の助太郎が忠三郎と供にいるのであれば、こちらの手の内を悟られる可能性がある。
「やっと子の顔を見られると思うていたが…」
三九郎が落胆するのを見て、義太夫は少し考えた後、
「あやつが南蛮寺に現れたのは、恐らく牧村長兵衛か高山右近あたりに声をかけられたのでございましょう。してみれば、今日明日は南蛮寺で伴天連の話を聞き、その後に屋敷に戻るものと見えます。鶴が南蛮寺にいるうちに御台様と和子様をすり替えてしまえば、それと悟られることもなく、お二人を取り戻すことができましょう」
「義太夫の申す事、尤もである。…で、替え玉の用意はできておるのか」
「ハッ、ご案じめさるな。それがしにお任せを」
義太夫が自信満々に胸を叩くので三九郎も安心して頷いた。
(殿であれば、今ごろ鼻で笑っておられようが――)
「では手筈どおり明日夜に決行する。藤十郎にも伝えおけ」
「ハハッ」
にわかに忠三郎が姿をあらわしたので動揺したが、屋敷にいなければ何の問題もない。多少不安は残るものの明日の夜には二人を奪い返すことになった。
三九郎がすっかり細くなった月を見上げる。
(虎も同じ月を見ているだろうか)
臥せっているという虎のことが案じられる。虎は兄の忠三郎とは違う。常にひっそりと生きているような虎には都の水はあわない。華やいだ生活はかえって心労が重なるばかりだろう。伊勢に連れ戻り、静かな暮らしを取り戻すことができれば、きっと回復してくれる。
明日は新月。月のない夜だ。うまくいけば、明日の今頃は虎と過ごすことができるだろう。
翌日の夜――。
都を除く地では、黄昏時は逢魔時(おうまがとき)と呼ばれ、魑魅魍魎が徘徊する時間と恐れられ、往来するものは盗人か素破のみで、武士、町人、農夫でさえも外を歩くことはない。それに比べ、比較的治安のいい京の都は、夜になっても往来する人がちらほらと目に付く。
南蛮寺に見張りをつけていたが、忠三郎はしばらく出てくる気配もなく、三九郎、義太夫、助九郎の三名は南蛮寺に藤十郎を置いて三条にある蒲生家の屋敷に向かった。
「義太夫、もう少し年若い女子はおらなんだか」
義太夫が連れてきた虎の替え玉は都の外れを徘徊していた年老いた尼僧で、虎とは似ても似つかない。
「いやはや、年若い女子に声をかけて歩くと、女房にこっぴどく叱られまするゆえ」
苦しい言い訳をする。致し方なく、それらしい小袖を着せ、化粧をさせたが、義太夫の施した化粧がまたいただけない。能面のように白く、紅を差した口ばかりが強調されている。
「若殿とわしで老女を連れてあれなる木に登り、塀を乗り越え、屋敷の中へ入る。その間、助九郎は見張りを頼む」
助九郎が頷くと、義太夫は辺りを伺いつつ、小柄な老女をおぶって木に登る。
「ひぇぇぇ……おそろしや……夜は鬼が出ると聞いたに……」
老女が小さく悲鳴をあげて義太夫にしがみつく。
「く、くるしぃ…首をしめるな…。後で金子を弾むゆえに、もう少し静かにしてくれぬか」
義太夫が背中の老婆に声をかけると、老婆が口をつぐむ。三九郎が先に塀を乗り越え、中へと侵入する。辺りを伺うと、下から義太夫を手招きする姿が見える。どうやら蒲生家の家人の姿はないようだ。
義太夫も木から飛び降り、屋敷の中へ入ると、助九郎もその後に続いた。
「義太夫、赤子の替え玉は如何した?」
「抜かりはござりませぬ。助九郎が…」
後ろを振り向くと、確かに助九郎が大事そうに懐に抱えている姿が見えた。
「さすが義太夫。では、参ろう」
忠三郎が供を連れて屋敷の外にでているせいか、館に入っても蒲生家の家人の姿は見えない。そっと中を伺うと時折、侍女の姿が見えるだけだ。
「若殿、こちらへ」
あらかじめ屋敷の間取りを調べていた助九郎が先に立って二人を案内する。
「無駄に広い屋敷じゃ」
「義太夫殿、お静かに」
虎が秀吉の側室になったときに建てられた屋敷だ。秀吉が立ち寄ることがあるため、豪華な造りになっており、案内なしでは虎の元にはたどり着くことが難しい。辺りを伺いながら館の中に入り、静かに廊下を歩いていくと、
「ここに御台様が…」
助九郎が小声で襖を指さした。三九郎は頷き、そっと襖を開けた。
(虎…)
薄暗い部屋の中を灯明の明かりが照らしている。その微かな明かりの下で、虎が臥せっている姿が見えた。
「虎、大事ないか」
そっと声をかけると虎が目を開けた。
(やつれたな)
顔色が悪く見えるのは暗がりのせいばかりではない。骨ばった頬がこれまでの心労を物語る。
「若殿…これは一体…夢でありましょうか」
驚く虎に、三九郎が微笑みかける。
「遅くなったが迎えに来た。伊勢に戻ろう」
そう声をかけると、喜ぶかと思っていた虎は困惑した表情を浮かべた。
「如何した?わしと供に伊勢に戻りとうはないか?」
「それは…戻りとうござりまする。されど…」
虎は手をついて立ち上がると、
「小侍従。若君を…」
侍女に声をかける。侍女が察したようにうなずいて、奥へと向かっていく。
「虎、供に来てはくれぬのか。都暮らしはそなたには合わぬであろう。伊勢に帰ろう。伊勢に帰れば病いもよくなる」
虎は何も言わずに、戻って来た侍女から赤ん坊を受け取ると、顔を三九郎に見せた。
「若殿。赤子に名を…」
「名は決めておる。久助。滝川家の嫡子じゃ」
虎の生気のない顔にかすかな笑顔が浮かぶ。虎はそっと久助を三九郎に渡した。
「わらわは供には行けませぬ。どうか久助を育ててやってくださりませ」
「虎、何故じゃ。何故共に行かぬと?わしの元に戻るよりも、筑前の側女でいたほうがよいと、そう申すか?」
虎はうつむいたまま何も言わず、三九郎に背を向けた。
「若殿、長居はできませぬ。そろそろ引き上げませぬと…」
背中から老婆を下した義太夫が促し、助九郎が大事に抱えてきた替え玉を虎に渡した。
「虎!」
三九郎が再度呼びかけるが、虎は背を向けたまま
「もうお戻りくださりませ。直に兄が戻りましょう」
震える声でそう言った。
「若殿!若君を連れ、早う戻りましょう」
義太夫と助九郎に促され、三九郎が部屋を出ようとしたとき、頭上の天井板が音を立てて外され、南蛮寺に置いてきた藤十郎が顔を出した。
「まだおられたか!早う屋敷から出てくだされ。忠三郎様が戻ってくる途中でござりまする」
「早う退散すべし」
「義太夫殿、替え玉の老女は?」
「よいよい。鶴への土産に置いていこう。女子好きゆえ、喜ぶであろう」
「え?あの尼僧を…」
皆、次々に姿を消す中、三九郎は何度も虎を振り返り振り返り、名残惜しそうに館の外へでていった。
部屋の中がにわかに静まり返ると、虎はその場に座り込んで、大粒の涙を零した。
灯明がわずかに揺れた。
二日に渡り、南蛮寺に通ってキリシタンの教理を聞いた忠三郎は屋敷に帰る道すがら、高山右近やロレンソたちから聞いた話を反芻していた。
遠くで犬の遠吠えが響いた。――京の夜にしては珍しい。
(にしても長兵衛殿の変わりようには驚かされた)
人付き合いがよく、明るい性格の長兵衛とは何年にも渡って親しく接してきたが、まさか本気でキリシタンになるとは思いもよらないことだ。
「助太郎」
忠三郎が振り返ると、助太郎が慌てた様子で駆け寄ってくる。
「ハッ。何か?」
「何か気がかりなことでもあるか?」
助太郎は昨日から落ち着かないそぶりを見せる。三九郎に会ったことが原因かと声をかけたときに、にわかに子犬の鳴き声が屋敷から聞こえてきた。
「はて?」
犬を飼った覚えはない。不思議に思って屋敷に入ると、侍女が慌てて迎えにでてきた。どこか不自然で、どうも様子がおかしい。
(妙な…)
何か気になり、虎の元へと向かった。
「虎、もう寝ておるか?」
襖を開けると、入るなり真っ白に塗りたくった能面のような化粧の老女が座っていた。
一瞬、魂が抜けたように立ち尽くし――次の瞬間、腰を抜かすほど驚いた。
「な、何じゃ、その面相は! ……だ、誰じゃ。その方は!」
老女の後ろで虎が赤子をあやしているのが目に入った。
「おや??」
よくよく見ると、虎があやしているのは赤子ではない。目をこすって改めて見ようとする。
灯明がわずかに揺れ、影が歪んだ。
その影の中で、虎が抱いているのは――犬だった。
「クーン」
と赤子が鳴いたので、忠三郎は虎に駆け寄った。
「子犬ではないか!」
子犬は虎の腕の中で、円らな瞳でじっと忠三郎を見つめている。
「赤子は如何した?」
「それは…」
虎が言い淀んだので、昨日会った三九郎の顔が浮かんだ。
「さては滝川の者が屋敷に来たか」
胸の奥で何かが繋がる。――この不審な老女といい、子犬と赤子の入れ替えといい。
(まさか……あやつか?)
やがて確信に変わる。
(赤子と犬の子をすり替えるなどと、かような人を侮るたわけたことをするのは――義太夫しかおらぬ!)
「長門!助太郎!」
忠三郎は二人に声をかけると屋敷を飛び出した。
思わず口をついて出た。
「どこへ行きおった、あの阿呆――義太夫!」
夜空に声が弾み、どこからともなく風が鳴った。
左右を見渡すと、すぐそばで獣の遠吠えが響き、次の瞬間――大きな山犬に押し倒された。
「な、長門!」
忠三郎の叫び声を聞き、長門守が慌てて飛び出してくる。
見ると山犬が口を開け、今にも忠三郎の喉元に噛みつこうとしていた。
「ひゃあ、食われる!」
叫ぶや否や、長門守は逃げ腰になって助太郎にしがみついた。
「いや、食われるのはわしじゃ!」
忠三郎の怒鳴り声が夜気を裂いた。
「こ、これは、六郎殿か!」
三匹の山犬に押し倒されて押さえつけられたまま、忠三郎が向こうから近づいてくる人影に向かってそう叫ぶと、十歳くらいの少年が二人、連れ立って歩いてきた。杖をつく六郎の手を取って歩いているのは九郎だろう。
「九郎殿…」
近づいてくる二人を、息を飲んで凝視する。
何度か顔を見たいと風花にも一益にも頼んでいたが、そのたびに断られた。
(暘谷庵か)
章姫が滞在していた暘谷庵。一度、足を向けたときは同じように山犬に飛びつかれ、九郎の顔を見ていない。山犬から解放されたときには、子供たちも消えていた。
本能寺の変のときに二人は南蛮寺に保護されたと聞いていた。その後、どうしているかと気になってはいたが、暘谷庵に戻っていたとは思わなかった。
(よりにもよって、我が子にかような情けなき姿をさらす羽目になるとは…)
もう少し立派な姿を見せたかった。
夜風がひとすじ吹き抜け、草の音がした。
「義姉上と約束しておったのじゃ」
九郎は忠三郎の傍までくると、上から見下ろしてそう言った。
「約束?虎と?」
「子犬が産まれたら、一匹、義姉上にお渡しする約束じゃ。可愛がってくれ」
十歳とは思えぬ物言いに、かつての自分を彷彿とさせられる。
「六郎、九郎、もうよい。放してやれ」
新たな人影が現れ、二人の少年に声をかける。
六郎が口笛を吹くと、山犬たちが忠三郎から離れ、草を揺らしながら歩み去った。
「生涯、会わせるつもりはなかったが…」
「かようなところで会わせていただけるとは思いもよりませなんだ」
一益は苦笑して、傍らに控える助太郎の方を見る。
「助太郎、息災か?」
「ハッ。以前同様、忠三郎様によくしていただいております」
助太郎が深々と頭を下げると、一益は頷き、再度、忠三郎の方に向き直る。
「我が子に会いたい思いは皆、同じ。わかってやってくれ」
それは誰の思いなのか。三九郎なのか。それとも、一益自身のことなのだろうか。忠三郎がその真意を知ろうとジッと一益を見上げていると、一益は無言で右手を差しだす。忠三郎はその手を取り、立ち上がった。
「義兄上…。葉月殿は妙顕寺城でお過ごしでござりまする。奪い返すのであれば、大坂城本丸が完成する前がよいかと」
「妙顕寺城か。章は?」
「章殿は山崎城。されど章殿は…」
信長の娘とあって見張りが多い上に正式に忠三郎の養女として秀吉の側室にされている。奪い返すのは難しい。
「相わかった」
短くそう言った。一益は何をわかったというのだろうか。忠三郎が何と言おうかと迷った末に、
「章殿は義兄上の…」
娘なのかと聞こうとすると、一益がそれを制する。
「鶴千代はつつがなく育っておるか」
「は、はい。雪が我が子同様にして乳母をつけ、我が家の嫡子として育てておりまする」
一益はそれを聞くと頷き、忠三郎に背を向けた。
「義兄上!いずこへ?」
「わしに用あらば、ロレンソを訪ねよ」
その声が聞こえてきたときにはもう、一益の姿は暗闇の中に消えていた。
闇の奥で、火打石のように光がひとつ、瞬いた。
洛外にある暘谷庵。三九郎が久助を連れて戻り、にわかに賑わいを見せている。
「なんとも高貴なお顔立ちの和子様じゃ。これは母親似じゃな」
玉姫が久助の顔を見て言うと、風花も笑って、
「ほんに、虎殿に似ておるようじゃ」
というので、谷崎忠右衛門がどれどれと立ち上がる。
「皆、我らの活躍のことは、何も言うてくれぬのか」
先ほどから久助にばかり注目が集まり、義太夫と助九郎は声もかけてもらえない。義太夫がやれやれと腰を下ろすと、助九郎が
「いくら忠三郎様が相手とはいえ……赤子の代わりに犬の子とは、さすがに度が過ぎませぬか」
「案ずるな。常より薄ぼんやりとしておるあやつにとっては、人の子も犬の子もそう変わりはあるまい――女子の涙もな」
ようやく滝川家の嫡子を取り戻し、皆、喜びが隠せないでいるが、三九郎は一人、広縁に腰を下ろし、庭先を見て虎のことを思い起こしていた。
久助はともかく、秀吉の側室になった虎が姿を消せば、蒲生家が糾弾されることはもちろん、滝川家にも類が及ぶ。虎の性格を考えれば、事を荒立てるようなことはできないだろう。それが分かっていても、なお、釈然としない思いが残った。
迎えに来たと告げたとき、一瞬だけ見せた嬉しそうな顔。そしてその後の、涙を堪え、背を向けた姿。
(わしに力があれば…)
風が庵の竹垣を鳴らした。
秀吉を凌ぐ力があれば、こうはならなかった。しかしもうそれも叶わない。今や日の本において秀吉を凌ぐものはいない。担いだ筈の織田信雄をも凌ぐ勢いで、信雄との間に不穏な空気が流れている。
(もう無理なのか。虎を奪い返すことなどできぬのか)
秀吉はもちろん、いとも簡単に滝川家との縁を捨てた忠三郎が憎い。これまでどれほど忠三郎のために骨を折って来たのか分からない。忠三郎はそれを全て忘れたかのように手のひらを返して秀吉に虎を差し出してしまった。如何に戦国の世とはいえ、こんな不法が許されていいのだろうか。
その夜、皆が寝静まったころ、庵の外は虫の音ひとつせぬほど静まり返っていた。
一益が藤十郎を連れて戻って来た。
「父上、何処へ行かれていたので?」
三九郎が出迎える。
「妙顕寺城の様子を伺ってきた」
「妙顕寺城?」
妙顕寺城は妙顕寺の跡地に作られたことからその名がついた秀吉の京滞在中の城で、堀、天守を備えた強固な城郭だ。
「虎殿は供に来なかったのか?」
「虎はそれがしに久助を託し、屋敷に残りました」
三九郎が憔悴しきった顔をしているのはそのせいか、と合点がいき、円座に座った。
「葉月が妙顕寺城におる」
「なんと!では明日にでも押し入り、葉月を奪い返さねば」
「それはならぬ。うまく忍び込めたとしても葉月の居場所もわからぬ。無理をすれば誰かが命を落とすことにもなりかねん。時を待て」
蒲生家の屋敷に忍び込むのと秀吉の城に忍び込むのとでは大きな違いがある。万が一にも秀吉の家人に見つかれば、矢田山での惨事の二の舞になる。
しかし三九郎はじれたように膝の上でこぶしを握り締めた。
「父上は葉月が不憫とは思われぬのか。幼い身で敵に捕らわれ、怯えて暮らしておるやもしれませぬ。一日も早う救い出してやらねば、筑前にどのような目にあわされるか…」
「三九郎。矢田山の件を忘れたか。皆、そなたのために己の命を捨てて付き従っておる。これ以上の犠牲を出すことはまかりならぬ」
虎の件があり、三九郎はいつになく感情が高ぶっているようだ。静かに諭し、落ち着かせようとするが、三九郎はイライラとして拳で床を叩いた。
「そのように甘いことばかり仰せになっていては、葉月まで筑前の側女にされてしまうではありませぬか!父上は己の娘が二人もあのような者の側女にされても、黙って耐えるとおおせになるのか!」
「二人とは…」
「章のことでござります。章に対する父上の態度を見ていて気付かぬ筈がありませぬ」
忠三郎は咲菜に話を聞くまでは気づいていなかったようだが、三九郎はとうの昔に気付いていたようだ。だからこそ、章姫を妹のように可愛がってきたのだろう。
三九郎の後ろの襖が静かに開き、義太夫が顔を覗かせた。三九郎の声が大きい。狭い庵では皆に聞こえてしまう。
「若殿。お気持ちはよく分かりまする。されど、少しお声が大きいようで…」
義太夫がなんとか三九郎をなだめようとするが、三九郎は憮然として刀を掴み、立ち上がった。
「どこへ行く」
三九郎はそれには答えず、足早に部屋を出ると外に飛び出していった。
「あ、若殿!」
「義太夫、止めるな」
今しばらく、一人になって考えるときを与えてやらなければ、三九郎も気持ちの整理がつかないだろう。
「されど、あの勢いでは、あるいはもうお戻りにならぬやもしれませぬが…」
「案ずるな。三九郎ももう幼子ではない。深淵はその知識によって張り裂け、雲は露を注ぐという。時をかければ、やがては知恵を見いだし、英知を得て戻ってくる」
三九郎であれば、必ず、暴虐の者をうらやむことなく、正しい道を選び取って戻ってくるだろう。
――その帰り道に、光が射すことを、誰もまだ知らぬままでいた。
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