身代わりにされた少年は、冷徹騎士に溺愛される

秋津むぎ

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番外編

とある寒い日の話

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「いってきまぁす」

「いってらっしゃい!気を付けるっすよ!」

ポシェットを携えて、1人で出掛けるその小さな後ろ姿を見送る。アシェくんは今日、町の商店まで行くようだ。自分、リオットは心配である。

なんでも図書館司書エレナさんに『この日は大切な人に贈り物をする日』だと教えてもらい、地道にセリカを貯めていたようだ。そして今日目標額に到達したらしい。
掃除や勉強を急いで終わらせて、今日1人で出かけたというわけだ。でも――

「心配っす!アシェくんちっさいし、軽いし!やっぱり無理にでもついていくべきでしたかねえ」

「……いちいち報告しに来なくていいんだけど。僕も昨日聞いたから知ってるよ」

とりあえず話を聞いてもらいたいので、医務室に直行する。ルシアンさんは嫌そうにしつつも話を聞いてくれる。強引に追い出される時もあるけれど。

「ルシアンさん意外と情報通ですよね」

「おしゃべりな人が多いからね」

ルシアンさんはきしりと椅子に座り直す。

「ヴァルドさんはもう今日は、任務に出てしまったし……。早めに戻るとは言っていたけど」

「……君は見回りに行かないのかい?」

「これから行くっすよ!」

なんだかもう追い出されそうな気配を感じる。

しかし、ヴァルドさんがアシェくんに渡した魔石がある。あれで居場所もすぐに分かる。そんなに心配することもないだろう。

「まあ心配なのは天気くらい……」

ガチャリと音がする。別の騎士団員だ。どうやら先日怪我をした箇所の経過観察のようだ。
そろそろ見回りに行く時間だ。医務室から出て行くことにする。

____



「で?どれが欲しいんだ?坊主」

「あ、……」

ぼくは以前一緒に行ったことがある、武具店に来ていた。
丈夫そうなマントの留め金は小さくても、セリカは到底足りない値段。しっかりした革帯も……ぼくのセリカじゃ届かない金額だ。

「ご、ごめんなさい」

店主さんに謝って、お店を出て行く。ちらりとぼくを見ていたけど何事もなかったかのように、武器の整備を再開していた。

ヴァルドさんに買おうと思っていたプレゼントは、どれもセリカが足りなかった。エレナさんにその話を聞いてから、ずっとお給料を貯めていたんだけどな。

でも前を向く。違う物を渡せばいい。
他にもお店はたくさんあるんだから。
ぼくは次に行きたいと思っていたお店へと向かった。








「――買えた。えへへ」

ぼくの手には綺麗にラッピングされた、ヴァルドさんへのプレゼントがあった。喜んでもらえるといいな。

お店の外に出るとぴゅうと風が吹いてぶるりと身体が震えた。ヴァルドさんが着せてくれた服は暖かいけど、外はちょっとだけ寒いや。吐いた息が白くなる。

今日はヴァルドさんが早く帰ってくるって言っていた。お買い物も終わったし、早く帰ろう。おかえりなさいって言いたいんだ。来た道を戻ろうとする。すると遠くから名前を呼ばれ、振り返る。

「アシェ!」

「ヴァルドさん?」

「早く帰ると言っていたのに、こんなところにいたのか」

ヴァルドさんはぼくの前まで来てくれる。
ここで会えるなんて、思っていなかった。
プレゼント、渡してしまおうか。

「あ、あのね……あ」

冷たいものがひやりと顔に触れた。
しんしんとふりそそぐ小さな雪だった。

「道理で寒いわけだ。アシェもその格好では寒いんじゃないのか?」

「ううん。大丈夫。歩いてれば暖かく……わわっ」

ぐるり。と顔にふわふわしたものを巻き付けられる。

「ちょうど良かった。アシェにそれをやる」

顔に、首に、巻き付けられたのはマフラーだった。突然でびっくりしたけど、柔らかくて暖かいな。ぼくはずっと、ヴァルドさんからもらってばかりなんだ。

「あ、ありがとう。で、でも。ぼくも、ヴァルドさんに渡したくて……」

持っていたラッピングされた袋を渡す。
ぼくが最初に渡したかったのに。それに――
ヴァルドさんは驚いたように、プレゼントを見て中身を開ける。

「まさか、アシェもマフラーを……。ありがとう」

ぼくがプレゼントしたのも、同じマフラーだった。ヴァルドさんと同じ魔石の色をした、真っ赤なマフラーだ。でもぼくも同じ色をもらうなんて思わなかった。

「同じになっちゃうなんて、思わなかったよ」

「似合っているぞ」

ヴァルドさんはくすりと笑った。そのまま自身の首にマフラーを巻く。同じ色のマフラーでなんだかお揃いみたいだ。

「同じの、嬉しいな。ヴァルドさんみたくカッコよくなれるかな」

「あぁ」

自身のマフラーを持ったままヴァルドさんを見上げる。ヴァルドさんの手が近付いたかと思うと、髪を少し撫でられる。

「雪がついてる。……帰るか」

「うん」

手を差し出されて、ぼくは手を差し出す。
暖かいな。ヴァルドさんと一緒なら雪の寒さもどこかに飛んでいっちゃうみたいだ。

____



「――ほら、心配いらないって言っただろう。雪も降ってきたし帰るよ」

「見回り場所が近かったから寄ってみたけど……さすがヴァルドさん。アシェくんの居場所はバッチリですね」

雪も大したことはなかった。少し綺麗な景色を見せるだけだ。

「結局ルシアンさんも見に来てくれるなんて。寒いし送りますよ!」

「いいよ。早く見回り行きなよ」

雪なんてただ、寒いだけだ。
――でもまあ、そこの幸せそうな2人には、悪くない帰り道になるんじゃないかな。




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