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カルル村のメア
しおりを挟むうわ、ハズレ引いた。
初めて見た運命の番(つがい)はそんな表情をしていた。
この小さな村、カルルには神から幸運を与えられた者に痣が浮かび上がる。
その痣はふたり合わせるとひとつの模様になるため運命の番(つがい)
『フォルトゥナ』と呼ばれ、男女に限らず婚姻を結ぶのが決まりだった。
ここでは「15」は神聖な数字として扱われている。
つがいは毎年、十五になった男女に十五組ほど出現するからだ。
カルルの村に生まれついた者は十五が成人とされ、必ず身体中を確認して痣を探す。
そして年の終わりに集められ、そこで痣の模様が繋がる相手と結ばれるのだ。
僕も十五になりドキドキしながら自分の身体を確認したが、どこにも痣なんか見当たらず。それを残念に思いながらも少しホッとした。
村といっても広く、川を挟んだ東西で分かれているカルルでは知らない顔も多い。
自給自足で事足りる田舎で、勉強ができる環境にいるのは裕福な族長や村長の家系の者たちがほとんど。あとは狩りや漁、畑を耕して暮らしている。
大きな村をまとめ、外との交流を代表して行うのが村長。自然の中にある土地を外敵や獣から守るのが族長一族だ。基本的に村は閉鎖的で、若者も外へ出て行こうとしない。そもそも貧しく毎日食べるのに必死なのでそこまで考えが回らないのだ。
うちも毎日親兄弟みんなで働いてなんとか暮らしている。男手があり猟ができるぶん、食べるには困らないので誰も学ぼうともせず日々を消化する。そんな日常。
僕は上にふたりガタイのいい兄がおり、一番上の兄は小さな船で海へ漁に出て、二番目は父と山へ入り獣を狩っている。三番目の僕は母親と畑を耕し、一番下の妹の子守りをして毎日忙しい。
今日のぶんの収穫を終えた母が、採れた野菜を香辛料と交換しに出掛けた。
そのあいだに家のことを済ませないと。やることはいっぱいあるんだ。
洗濯物を取り込んで湯を沸かし、まずは自分の土まみれの身体を洗う。湯がぬるくなってきたのを確かめて、休む間もなく二歳の妹のニアを風呂に入れた。
こいつも僕の側で虫食いのひどい葉を千切って遊んでいたから泥んこだ。二人して素っ裸になり、父の作った浅く大きな桶に入って湯と戯れる。
「にいちゃんヘンなの~」
「なにがだ!こら!走り回るな!」
「ヘンなの~」
ヘンなのヘンなのと歌いながら僕の周りをくるくる走る。ニアは、捕まえようとして膝立ちになった僕の尻を叩いて遊ぶのが好きだ。女の子なのに男だらけの中で育ってヤンチャになってしまった。
「やーめーろ!」
くるくる走り回って転がる前に取っ捕まえ、頭からお湯をかけてやろうとしたとき
「ヘンなアザ~」
ニアが歌いながらそう言った。
「あ、あざ?!」
つがいの証の痣は、みんな体の正面の見えるところに浮かび上がると聞いている。
だから背中になんて、そんなまさか。
「母さん!母さん!!」
帰ってきた母を大声で呼び、素っ裸のまま背中を見てくれと頼む。
「あら!アンタそれって!」
「痣?!なぁ本当に模様になってる??」
打ち付けて出来た、ただの痣かもしれない。もし運命の番の痣だとしても半年も気付かないなんてことがあるのか?
しかもあと数日で年が明けるというタイミングで見つかるなんてこと…。
「なんだか不思議な模様ね……明後日の集まりに一応出てみたらどう?」
「どう?って違ったら恥ずかしいよ!なぁ本当にただの痣っぽくない?!ちゃんとみて!」
「母さん痣無しだからどんな風なのかわからないのよね。記念にもなるし集まり参加しなさいよ」
焦る息子に呑気な母。
「まぁ、でもそんなとこにねぇ…」
ここよ、とつつかれた場所に頭を抱える。
「あああ……うそだろ…」
気付かないはずだ。
僕の痣は尻の割れ目の上にあった。
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