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【24】不思議なゴブリン?

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 母さんが用意してくれた弁当を口にしつつ、この後のことについて考える。

「テラリィ。あとどれぐらいの魔力があればいい?」

「そうですねぇ。ビッグボアほどの大きさの魔物であれば、1体ほどで十分ですね」

「そうか、それじゃあ、軽く探して帰ることにしようか」

「はい。それが良いかと思います」

 テラリィの食事についてなのだが、以前テラリィに聞いてみたとき、食事というよりも貯金のようなものだと感じた。というのも、例えば、人間は1度に食べられる量が決まっていて、朝にもう食べられないというぐらい食べたとしても、その日のうちにお腹が空いて食事をする。対して、テラリィは1日にそんなに食事を取る必要はなく、1度に大量の食事を取れば、何日かは食事を取らなくても大丈夫なのだという。

 ただ、進化のためとなると話が変わってきて、進化には大量のエネルギーが必要だそうで、こうして頻繁に森に訪れては魔物を狩っているのである。そして、テラリィの進化に必要な量の魔物を狩っては魔力を貯めているのである。

「テラリィはまだ戦えないの?」

 契約直後は力を失っていたため戦えないとのことであったが、今となっては身体も大きくなったし、戦えるのではないかと考え聞いてみる。

「そうですねぇ……。戦えないことは無いのですが……」

「……どういうこと?」

 いつもであれば厳しいだとか無理だとかはっきりと答えるのだが、今回に限っては煮え切らない態度のテラリィを不思議に思った。

「シェイド様のおかげである程度力が戻ってはきましたが、今の状態で戦いますと進化が遅れてしまいますので……」

「あー、つまり、進化が遅れるから戦いは避けたいってこと?」

「まぁ、そうなりますね」

 聖獣や進化について、俺よりもリーシェやテラリィの方が詳しいから、テラリィの言う通りまだ戦わない方がいいのだろうと納得する。

 弁当も食べ終わって再び森の中へと歩いていると、聞きなれた声が聞こえたため、声のする方に近づいて近くの茂みに身をかがめた。

「お、あれは……」

 茂みから少し離れた木々の隙間から見えたのは、薄汚いローブを身にまとったゴブリンメイジと3体のゴブリンであった。

「4体か……」

 単体であればなんてことない相手であったが、流石に4体ともなるとどうやって倒すかあらかじめ作戦を立てなくてはいけない。ゴブリン達に気が付かれないようにコッソリ後を付いていく。

 ……あいつら、何やってんだ?

 どうしようかと観察していると、何やらいつもと雰囲気が違うことに気が付いた。何ていうか、ソワソワしているというか、怯えているというか……。

 ゴブリン達は森の中を移動しているのだが、その足取りはとてもゆっくりで、辺りを見渡しながら一歩一歩慎重に歩いている。

「どうしたのよ」

 いつの間にか機嫌が直っていたようで、何事もなかったかのようにリーシェが話しかけてくる。

「あいつら、何か変なんだよなぁ」

 そう言って、指を差すとリーシェがそちらの方を見る。そして、しばらくゴブリン達のことを観察していたリーシェは頭をかしげた。

「確かに、何か変ね」

「だろ?」

 いつもであれば、隙をついて魔法の先制攻撃から奇襲をかけて倒すのだが、今日のゴブリン達はそんな隙が微塵も無かった。こんなゴブリンを見たのは初めてであった。

「どうすんのよ。倒すの?」

「うーん。そうだなぁ……」

 隙は無くとも倒せる自信はあったのだが、

「……ちょっと様子見してみるか」

 どうしてゴブリン達がこんな様子になっているのかを調べることを優先した。

 ゴブリン達には気が付かれない距離を保って後を付いていく。ゴブリン達は見つけたときと変わらない様子で、ゆっくりゆっくり森の中を辺りを見渡しながら歩いていた。

「……やっぱり変だ」

 最初は何か恐ろしいモノ、自分達よりも強い魔物や人間から逃げてきて、後を追ってきていないかを確認しながら歩いているのかと思ったのだが、それにしては長すぎる。普通そんな状況になったとき、ある程度離れたら警戒を解くものだが、ゴブリン達は何十分も辺りを警戒していた。

「そうねぇ……」

 追跡を開始した時はワクワクしていたリーシェであったが、あまりにも長い時間追跡していることもあり飽きてしまったようで、俺の頭の上に寝ころんで気の無い返事をしてくる。

 これ以上追跡してもしょうがないかもなぁと思い始めた時、ゴブリンの体が光ったかと思うと、その体は段々大きくなっていき、そこに現れたのは黒装束の人間であった。

「……人間?」

 突如現れた人間にあっけにとられていると、

「あれは、多分魔法ね」

 リーシェが話しかけてくる。

「魔法?あんな魔法があるのか?」

「そうねぇ……魔法なんだけど、あそこまでのモノは聞いたことがないわ」

 リーシェが言うには、姿を変える魔法はあるにはある。だが、それは相手に作用して錯覚させる魔法であったり、姿形をまったくの別人に変える魔法といったもので、人間が魔物に魔物が人間に変わるといったものは聞いたことがないのだという。

「それじゃあ、あれはいったい何なんだ?」

「うーん……」

 リーシェはしばらく考えた後、

「……分からないわ」

 お手上げといった様子で両手を上げた。

「分からない?」

「多分魔法確定だろうけど、もしかしたらスキルか、はたまたそれ以外の何かかもしれないわね……。まぁ、はっきりとしたことは分からないわ」

 魔法について聞いてみれば、大抵のことはリーシェが教えてくれたのであったが、まさかそのリーシェが分からないというとは考えてもみなかった。

 リーシェが分からないとなると、スキル……もしくは特性……? あー、知らないことが多すぎる!!

 この現象を理解するにしろ、予測するにしろ自分の知識が圧倒的に足りてないことを痛感しながら、少しでも情報を得ようと人間達を観察する。

「……か?」

「……だが、そ……」

 何かを話しているようだが、肝心なところが聞こえてこない。もどかしく思い、何とか情報を得られないかと神経を集中させたところで、遠くの方から大きな物音、獣の鳴き声?人間の声?のようなものが聞こえた。

「おい!!行くぞ!!」

 黒装束の1人がそう言うと同時に黒装束全員が物音がした方角とは別の方角に走り出した。どんどん遠ざかっていく黒装束を追いかけないでいると、

「ちょっと、行っちゃたけど追いかけないの?」

 リーシェが尋ねてくる。

「あー、でも……」

 怪しさ満点の黒装束を追いかけたほうが良いのかもしれないが、先程の大きな物音も気になる。あの黒装束は明らかに先程の物音に反応して走り去っていった。ということは、あの物音とあの黒装束とが関係していることは明白であった。

「んー……!!」

 どちらに向かうべきなのか、答えを出せないままでいる。どんどん遠ざかり、これ以上は視認できなくなるであろう黒装束をチラッと見て、

「いや、こっちに行こう!!」

 選択をミスったかもしれないなぁと不安に思いつつも、大きな物音の方へと走り出した。
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