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【29】初めてのダンジョン

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 目を覚まして1回に降りると、既に3人とも起きていたようだ。アリシアとベルセナに昨夜のことを聞いてみたのだが、覚えていなかったようだ。覚えていないのであればと2人の名誉のためにも黙っておくことにした。

 ベルセナもそうだけど、アリシアがそんな状態だったなんて知ったら、どうなるか分かったもんじゃないからな……。

 席に着くと待っていたかのように朝食が運ばれてきた。王城の食事に比べると質素なもので食べるのがきつい部分があったが、人間案外長いこと同じ生活をしていると慣れるようで、最初の頃よりかは気にならなくなっていた。

「そうだ、2人とも体調は大丈夫なの?」

 昨夜結構飲んでいたこともあり、これからダンジョンに向かうため一応確認しておく。ダンジョン内で体調不良にでもなられたら目も当てられない。

「はい。大丈夫ですよ」

「あぁ、問題ない」

 意外にも2人とも2日酔いはしない体質なのかもしれない。ダンジョンで探索をするには問題がなさそうなため、ひとまず安心した。

「それなら良かったよ。朝食を食べたらすぐに向かうからね」

 朝食を食べ終えた後は、道具屋を回ることにした。ダンジョン探索に必要な物をアリシアとベルセナのアドバイスを聞きつつ買っていく。ダンジョン内とダンジョン外では魔物が出てくる頻度が違うため、必要な物も変わってくるとのことだったので、体力や魔力を回復するポーションをいつもよりも多く買っておく。

「あとは……。お、これとかどうだ?」

「魔力増強薬ですか。確かに持っておくのはお勧めしますが、いざというときに使うようにしてください。これを使うと確かに魔力の上限が増えますが、その後しばらくの間魔力が回復しなくなりますので」

「ふーん。そうなんだ。じゃあ、1本だけ買っておくか」

 いっぱい買っても仕方ないため1本だけ買って店を出る。他に必要な物はないか確認した後、ついにダンジョンへと向かうことになった。

 ダンジョンに向かう途中、ワクワクと緊張が混在した形容しがたい感情で頭の中がいっぱいになっていた。それに対してアリシアやベルセナは慣れているのか特に変化はなく余裕そうだ。エリンも緊張はしていないようで、何か自分だけこんな感情になっているのが恥ずかしく感じる。

 街から出て十数分。ようやく、ダンジョンにたどり着いた。

「ここが……、ダンジョン……?」

 思っていたのと違う……。

 ダンジョンだというのだから、洞窟や朽ち果てた遺跡なんかを想像していたのだが、目の前にあるダンジョンは綺麗な神殿のような建物だ。大理石で作られているのだろうか、神殿を支えている柱は真っ白で王城に負けないほど美しいと言わざるを得ない。そして、ダンジョンの入り口には『2人以上で入るように!! 冒険者ギルド』という看板が置かれていた。

「もしかして、洞窟とか朽ち果てた遺跡を想像してました?」

 アリシアの言葉にドキッとする。

「……どうしてわかった?」

 アリシアは時々俺の心を読んでいるんじゃないかと思う発言をするため心臓に悪い。

「ラベオンが考えていることぐらい分かりますよ」

 口元だけの笑みを浮かべるのだから余計に心を読んでいるんじゃないかと思ってしまう。

 出鼻をくじかれる形となってしまったが、気を取り直してダンジョンに向けて歩みを進める。未知の体験をするときは、期待と恐怖が合わさった感情に襲われる。中々味わうことができないこの感情を楽しみつつ、ダンジョンに足を踏み入れた。

「おぉ……!!」

 ダンジョン内は外観と同じような作りをしていた。もしかしたら、ダンジョン内は洞窟のように岩に囲まれていたり、朽ち果てた遺跡のようにボロボロになっていたりするかもとどこか期待していたのだが、これはこれで悪くない。

 入口からすぐは大広間のような場所で、俺達以外の冒険者もチラホラと見える。

「よし、2人が先導してくれ。頼んだぞ」

 そう言って俺はアリシアとベルセナの後ろに回った。自分勝手に先頭をどんどん進んで行きたいという気持ちはあるが、こういった道の場所に足を踏み入れる時は経験者に任せた方がいい。下手に何も知らない俺が先行して仲間を危険に晒すよりも、こっちの方が安全だからだ。

 2人の後ろを付いていく形でダンジョンの中に入って行く。ダンジョン内には元から備え付けられていた物なのか、それとも後から付けた物なのか分からないランプが壁にかかっていた。外観のみならず、内部も大理石でできているあたりこのダンジョンは人工物なのだと思う。

 ダンジョンって天然に生まれるものだと思ったけど、こんな人工的なものもあるんだなぁ……。

 自分の想像と全く異なるダンジョンの様子に疑問が浮かぶ。

「ダンジョンってどこもこんな感じなのか?」

「こんな感じとは?」

「いや、こんな人工物的なモノばかりなのかなと思って。俺が思ってたのはもっと自然な感じの、ほら、洞窟とかを想像してたからさ」

「あぁ、そういうことでしたか。でしたら、回答は否です。ダンジョンには様々な種類がありまして、例えば――――」

 ダンジョンには様々な種類があり、アリシアとベルセナが知っているダンジョンについて教えてくれた。人工物的なものとしてはここのような神殿や鉱山などがある。自然物的なものとしては森や山そのものがダンジョンになっていることあり、他にも地下に降りていくものや逆に上っていくものもあるとのことだ。

 その説明を受けて、尚更疑問に思う。神殿や鉱山などの何かしら閉鎖空間であればまだわかる。ただ、山や森などの範囲が曖昧なものもダンジョンになるのは不思議に感じる。

「不思議な存在なんだな。ダンジョンって」

「そうですね。ダンジョンについて研究している者もいますが、分かっていない事ばかりですからね」

 そんな会話をしつつダンジョンを進んで行く。今日は初めてのダンジョンということもあり、浅い階層までにするつもりだったが、浅い階層でもそこそこの魔物が出てきていた。4人で1体の魔物を狩るのではなく、1人か2人で魔物を相手にした方が効率がいいため、交代で魔物を狩ることにした。

 思っていたよりも、出てくる魔物の数が多いな……。

 1体1体は強くないものの、数が多くなってくると色々考えることが増えてくる。正面に現れた敵を対処しつつ、周囲の物陰を気にしなくてはならない。だから、ダンジョンの入り口に2人以上で入るようにという看板があったのかと納得した。

 周囲にいたゴブリンの最後の1体を倒したところで、ホッと一息つく。魔物の死体は跡形もなく消え去っており、魔物の証でもある魔石すら落ちていない。改めてダンジョンにいる魔物と外にいる魔物とが異なる存在なのだと実感する。

「ふぅ……。交代しようか」

 1対1の対人戦とはまた違った感覚に疲れを感じる。これもまたいい特訓だなと、王城に居た頃には味わえなかったであろう体験は刺激になった。

 エリンはどれぐらい成長しているかな?

 鑑定眼でエリンを見てみる。

〇――――――――――――――――――――――――――――――――――〇
【名前】エリン 【年齢】13 【Lv】19 【種族】人間
【HP】84/98 【MP】78/78
【能力】力:24 防:19 魔:25 速:35 運:18
【スキル】
〇――――――――――――――――――――――――――――――――――〇

 おぉ、結構上がったな。あとはスキルを覚えるだけだけど、まぁ、これは追々練習してもらえばいいか。アリシアもいることだし、問題はないだろうしな。

 やっぱりダンジョンはレベル上げに最適だなと感じつつ、王族でもダンジョンでレベル上げをすればいいのではと頭に浮かんだ。だが、わざわざ危険なダンジョンにいかせるような真似を王族がするわけないかとも考えた。王はあくまでも統治者であり、その国で一番強い者ではないのだ。レベルをガンガン上げるよりかは、国を治めるための勉強をする方が大切である。

 交代で戦いながらダンジョンを進んで行くと、少し広い場所に出た。そこでは冒険者たちが休憩しており、仲間たちと何やら色々話しているようだ。アリシアに聞いてみると、ダンジョン内にはセーフエリアという魔物が出てこない場所があり、冒険者たちの休憩場所に使われているのだという。

「それじゃあ、いい時間だし休憩しようか」
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