よくある出会い

あるまん

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 あ奴に押し付けられた桃色の折り畳み傘を差す我は、雨に打たれ道端に蹲る、白い毛と血の赤と土の茶色で斑となっている子猫を見る。
 車にでも撥ねられたか? 臓器が飛び散った様子はないが手足も折れ、短毛の内側は襤褸襤褸だろう。
 何時もならば放置するか、あ奴と一緒ならば其の行動に任せるのだが……生憎仕事が多忙で先に帰る様言われた。

「あはれなるちいさきものよ、汝の命は持って後数刻。生きたいか?」
 返事を期待して声を掛けた訳ではないが……息も絶え絶えだったこ奴は確かに「にゃおん」と哭いた。
「善し。生きたいという意思表示と見做す……猫としての生は失うが後悔するなよ?」

 我はそう呟くと傘を畳み、こ奴の身体を浮き上がらせ、
「造るのは20数年前のコック長以来か? いやメイドで其れよりも新しいのがいたか? どうでもいいか」
 指先で血塗れの身体に触れ、心臓の位置にずぶりと指を突き入れる。何度もやっているが相変わらずこの感触は嫌なものだ。

「ちいさきものよ、此処に真祖である我・暴雪のシィズと血の盟約を交わし、従魔となる事を許す!」

 其の言葉と同時にこ奴の肉体は一瞬で灰となり、濡れたアスファルトの上に落ちる。手元に残るのは5センチほどの、こ奴の血を集めた球……其れに口を近付け、ゴクリ、と飲み込む。
「嗚呼、不味い不味い……血の不味さは人も猫もそう変わらんのう……」
 我慢をして全て飲み込むと、こ奴の人生……猫生か、が脳裏に浮かぶ。我の無限とも思える生と比べるべくもないが、僅か数年のこ奴も随分と面白い……。

「安心しろ、我の為に働いては貰うが、今度は捨てる事もない……豪勢な食事も、暖かな寝床も用意してやるぞ……嗚呼、今は我もあ奴の家に同棲してるのだったな……あ奴の食事も美味いし……まあ偶にこんびにべんとうになるが、あれも中々味わい深い物じゃぞ?」
 我は口からふう、と赤い息を噴き出す……其れは目の前でぐるぐると、先程迄と同様に形造り……
「嗚呼、事後承諾だが毛色は其れ一択だ、許せよ。さ、一緒にあ奴の帰りを待とうではないか」
 再び桃色の傘を差した我の足元で、黒い子猫が若干不服そうに「にゃおん」と鳴いた。
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