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おじさん♡囚われました②
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セス♡
私の目の前で…
妻は麗しき或る貴公子の、胸に抱かれていた。
妻はその…
夫では無い男の胸に抱かれ、薄く微笑んでいる!
私が妻の元に駆けつけた時には…
もう、遅かった。
そこには抜け殻の『リリィ』が有り、『視作生』はすでに無かった。
今の妻は、私の愛する『視作生』ではない。
この妻は『西欧のΩ女王』である。
「…何と、いう、ことを、、」
酷く、しゃがれた声だった。
…これは、私のものなのか。
この様に打ちのめされた事は、私の人生に一度たりとも無い。
だから、とても意外だった。
私とも在ろうものがこの様に…
惨めたらしい負け犬に成り下がり…
それでも食い下がる羽目になろうとは…
想像もつかぬ事だった。
しかし今、想像を絶する事態に直面して居るのだ。
いや…
想像する事も悍ましいと、危惧していた現実であった。
妻は、残酷にも『リリィ』とされた。
…私の視作生は、殺された。
策略は成った。
私は愛する人を、守れなんだ…
酷く、打ち拉がれた。
膝が折れ、傷に塗れた身体が頽れていく。
私はすでに満身創痍で、意識を保つのもようやっとなのだ。
この美しい、女王の屋敷の応接の間を、私は酷く穢している。
それなのに…
その様な者を大事なる女王から遠ざけぬのには、意図があろう。
この場にお集まりの皆様は、私に見せつけたいのだ!
そして、解らて下さろうとしているだ。
もう、止せ。
何もかも手遅れで、何をしようと意味がない。
この一件は、済んだことである。
大人しく諦めよ、と…
…黙れ。
ならぬ。
私は、叫んだ。
「視作生ッ、返事をなさい!」
血と涙を撒き散らし、絶望を打ち消さんと!
希望を見出さんと、必死に取り縋った!
しかし、妻は微動だにしない。
ただ、ただ、美しく…
そこに在るのみだ。
私の気に入りの、妻の、あの…
深き夜の、帷の、空の色の…
安らぎを、感じさせる…
あの瞳が、まだそこに居ないだろうか。
願いを込めて、妻の可愛い顔を捉えた。
…居ない。
冷えた黒曜石の、純然たる輝きが見えるのみだ。
あの、溌剌とした温もりは微塵も無い。
「視作生、視作生、視作生…」
もう、言葉に、ならない…
恋しい君を呼ぶ気力しか、私には無い。
「セバスティアン。君とも在ろうものが…実に無様だ」
困惑の色濃い、平坦な口調だった。
私にその様な…
とても非情な言葉をかけたその方は、それでも…
「君には失望した」
吐き捨てる様に言ったその後で、つい…
「…しかし、痛ましい事だ」
私を慮る、情がお有りです。
これもまた、意外だった。
私の知る貴方は冷徹で、大義が為には無慈悲を貫く、主権者である。
…これは、希望だ。
貴方には、視作生を愛する余地が有る。
きっと、そうです。
貴公は素晴らしい。
貴方は良きα男性の、お手本でいらっしゃる。
一国を統べる君主として、貴公は私にも手本でした。
いつの日か、貴方の様な領主に成ろうと決意したものです。
貴方は私の少年期の憧憬の君である。
そして貴方と私は昔から…
よう似ておると、評判でしたね。
その事が、私はずっと誇らしかった。
髪や目の色が全くと違っているにも関わらず、顔立ちや振る舞いの雅やかさに通づるものがある。
だから、不本意ながら…
貴方は視作生の好みの男、という事だ。
妻は私を心根より愛してくれておるが、彼はこの容姿がそれは気に入りなのだ。
『セス♡セス♡格好いいね♡君の顔、大好き♡』
妻はいつでも愛し気にそう言っては、私の顔中に口づけの雨を降らせたものだ。
だから、視作生は…
貴方のそのかんばせを気に入るでしょう。
私の妻は、貴方にきっと、恋をする。
「…貴方は知るべきだ」
視作生は素晴らしい。
「向き合い、、なさい」
そして貴方ほどの貴公子は、妻に相応しい。
だから、酷く不本意ながら…
貴方を夫君として認めよう。
「夫として、、彼を、愛しなさい」
そこに、望みを賭ける。
実に情け無い事だ。
最早、妻のあの可愛いさに、望みを託す他は無いとは!
だが、あれは…
強い。
私自身が思い知っておる。
「同士よ、、」
歓迎の意味を込めて、新夫に向かい、笑んだ。
…つもりだが、もう、分からぬ。
人生の先輩であり、憧れの君。
この先は妻の側で並び立つ同志たる、男よ。
どうか、わかり、たまえ。
貴方は、幸運な男だ!
その至福を手離しては、ならぬ。
…畜生め。
この大事に!
うまく、言葉に、ならぬ…
「塔へ」
母上の冷たい命令が下るのが、薄らと聞こえた。
彼女は私を容赦なく繋ぐのだろう。
あの尖塔の、冷え切った牢獄の、深部にまで落とし…
その上で、蟄居を申し付けるのであろう。
…まあ、良い。
私には、休息が必要だ。
最後に、彼の人の、例の麗しき顔を仰ぎ見た。
何という、顔だ。
貴方らしくも、無い。
…これは、良い。
非常に不確かなものだ。
なけなしの、虚勢に過ぎぬ。
しかし、これは希望だ!
酷くささやかでも、構わない。
\\\٩(๑`^´๑)۶////
私の目の前で…
妻は麗しき或る貴公子の、胸に抱かれていた。
妻はその…
夫では無い男の胸に抱かれ、薄く微笑んでいる!
私が妻の元に駆けつけた時には…
もう、遅かった。
そこには抜け殻の『リリィ』が有り、『視作生』はすでに無かった。
今の妻は、私の愛する『視作生』ではない。
この妻は『西欧のΩ女王』である。
「…何と、いう、ことを、、」
酷く、しゃがれた声だった。
…これは、私のものなのか。
この様に打ちのめされた事は、私の人生に一度たりとも無い。
だから、とても意外だった。
私とも在ろうものがこの様に…
惨めたらしい負け犬に成り下がり…
それでも食い下がる羽目になろうとは…
想像もつかぬ事だった。
しかし今、想像を絶する事態に直面して居るのだ。
いや…
想像する事も悍ましいと、危惧していた現実であった。
妻は、残酷にも『リリィ』とされた。
…私の視作生は、殺された。
策略は成った。
私は愛する人を、守れなんだ…
酷く、打ち拉がれた。
膝が折れ、傷に塗れた身体が頽れていく。
私はすでに満身創痍で、意識を保つのもようやっとなのだ。
この美しい、女王の屋敷の応接の間を、私は酷く穢している。
それなのに…
その様な者を大事なる女王から遠ざけぬのには、意図があろう。
この場にお集まりの皆様は、私に見せつけたいのだ!
そして、解らて下さろうとしているだ。
もう、止せ。
何もかも手遅れで、何をしようと意味がない。
この一件は、済んだことである。
大人しく諦めよ、と…
…黙れ。
ならぬ。
私は、叫んだ。
「視作生ッ、返事をなさい!」
血と涙を撒き散らし、絶望を打ち消さんと!
希望を見出さんと、必死に取り縋った!
しかし、妻は微動だにしない。
ただ、ただ、美しく…
そこに在るのみだ。
私の気に入りの、妻の、あの…
深き夜の、帷の、空の色の…
安らぎを、感じさせる…
あの瞳が、まだそこに居ないだろうか。
願いを込めて、妻の可愛い顔を捉えた。
…居ない。
冷えた黒曜石の、純然たる輝きが見えるのみだ。
あの、溌剌とした温もりは微塵も無い。
「視作生、視作生、視作生…」
もう、言葉に、ならない…
恋しい君を呼ぶ気力しか、私には無い。
「セバスティアン。君とも在ろうものが…実に無様だ」
困惑の色濃い、平坦な口調だった。
私にその様な…
とても非情な言葉をかけたその方は、それでも…
「君には失望した」
吐き捨てる様に言ったその後で、つい…
「…しかし、痛ましい事だ」
私を慮る、情がお有りです。
これもまた、意外だった。
私の知る貴方は冷徹で、大義が為には無慈悲を貫く、主権者である。
…これは、希望だ。
貴方には、視作生を愛する余地が有る。
きっと、そうです。
貴公は素晴らしい。
貴方は良きα男性の、お手本でいらっしゃる。
一国を統べる君主として、貴公は私にも手本でした。
いつの日か、貴方の様な領主に成ろうと決意したものです。
貴方は私の少年期の憧憬の君である。
そして貴方と私は昔から…
よう似ておると、評判でしたね。
その事が、私はずっと誇らしかった。
髪や目の色が全くと違っているにも関わらず、顔立ちや振る舞いの雅やかさに通づるものがある。
だから、不本意ながら…
貴方は視作生の好みの男、という事だ。
妻は私を心根より愛してくれておるが、彼はこの容姿がそれは気に入りなのだ。
『セス♡セス♡格好いいね♡君の顔、大好き♡』
妻はいつでも愛し気にそう言っては、私の顔中に口づけの雨を降らせたものだ。
だから、視作生は…
貴方のそのかんばせを気に入るでしょう。
私の妻は、貴方にきっと、恋をする。
「…貴方は知るべきだ」
視作生は素晴らしい。
「向き合い、、なさい」
そして貴方ほどの貴公子は、妻に相応しい。
だから、酷く不本意ながら…
貴方を夫君として認めよう。
「夫として、、彼を、愛しなさい」
そこに、望みを賭ける。
実に情け無い事だ。
最早、妻のあの可愛いさに、望みを託す他は無いとは!
だが、あれは…
強い。
私自身が思い知っておる。
「同士よ、、」
歓迎の意味を込めて、新夫に向かい、笑んだ。
…つもりだが、もう、分からぬ。
人生の先輩であり、憧れの君。
この先は妻の側で並び立つ同志たる、男よ。
どうか、わかり、たまえ。
貴方は、幸運な男だ!
その至福を手離しては、ならぬ。
…畜生め。
この大事に!
うまく、言葉に、ならぬ…
「塔へ」
母上の冷たい命令が下るのが、薄らと聞こえた。
彼女は私を容赦なく繋ぐのだろう。
あの尖塔の、冷え切った牢獄の、深部にまで落とし…
その上で、蟄居を申し付けるのであろう。
…まあ、良い。
私には、休息が必要だ。
最後に、彼の人の、例の麗しき顔を仰ぎ見た。
何という、顔だ。
貴方らしくも、無い。
…これは、良い。
非常に不確かなものだ。
なけなしの、虚勢に過ぎぬ。
しかし、これは希望だ!
酷くささやかでも、構わない。
\\\٩(๑`^´๑)۶////
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