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ツムギ

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2人台本

『アいニュラス』(男1:女1)約25分

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登場人物(男:1、女:1)

・悠輝/優輝(ゆうき)/男
軟禁された大学生。一人暮らしでバイトをしている。温和な性格で少し狂っている。

・明里/灯里(あかり)/女
軟禁した悠輝より一つ下の大学生。一人暮らしでバイトをしている。普段は穏やかだが、疑り深い所があり少し狂っている。
明里が死んだのは④と⑤の間で、⑤の明里は悠輝の見ている幻想。

【時間】約25分
【ジャンル】サイコホラー、サスペンス、恋愛



【本編】



明里「私は明里、明るい里と書いて明里。貴方は悠久に輝くと書いて悠輝だから…ゆう君ね」

悠輝「君は……」

明里「私は…あだ名で呼ばれるのは恥ずかしいから…明里でいいよ?」

悠輝「明里…ちゃん……」

明里「えへへ…、ずっと一緒だよ。ゆう君」

悠輝モノ「そうして抱き付く彼女はとても暖かくて、冷えた俺の体が満たされていった気がした」

明里「愛してる…だから、何処にも行かないで。私だけのゆう君でいて…」



悠輝モノ「決して広くはないアパートの一室。僕はそこで目が覚めた。部屋を見渡すが誰の家なのか皆目見当もつかなかった。体が少し痺れてる感覚がある…まさかこれって……」

悠輝「監禁…されてるのか?…とにかく、此処から出なければ…。外への出入り口はあそこか…?」

扉が開く。

明里「あ!目が覚めたのね。おはよー」

悠輝「え…?」

明里「体、痛い所はない?体調が悪いとかは?」

悠輝「だ、大丈夫…」

明里「よかった!貴方を眠らせる為にスタンガンを使ったんだけど、初めて使ったから不安だったの」

悠輝「スタンガン…?じゃあ体が痺れた感覚があったのはそのせい…?」

明里「やっぱり痛かった!?ごめんなさい…、気絶させる方法が分からなくて強引な手段を取っちゃった…」

悠輝「気絶させる方法って…それ自体強引な気がするけど……って事は君が僕を気絶させて此処まで運んだの?」

明里「えぇ、貴方がバイト終わり、深夜近くに私の家の前を通る事は確認済みだったから、その時にね」

悠輝「……これって、監禁だよね?」

明里「縛り付けてないから軟禁というわ」

悠輝「そっか…、鎖とか付けられてないもんね…。何で僕を捕まえたの?俺、君に何かしたかな?」

明里「何かしたと言うより…してもらった」

悠輝「…何を?」

明里「これ」

悠輝「…うさぎのキーホルダー?……チェーンの部分が壊れてる……あれ、これって…」

明里「思い出した?これが壊れちゃって、落っことした事に気付かないで歩いてた私に、落ちましたよって走って追いかけてくれたの!」

悠輝「そっか、あの時の…」

明里「そして私、貴方に一目惚れしました」

悠輝「え!」

明里「好きになってからずっと貴方を見てた…ずっとずっと…どうしても手に入れたかった…だから、手に入れた」

悠輝「……」

明里「お願い、此処にずっといて。貴方の事、私が守るから…!」

悠輝「…!」

明里「好きだから…」

悠輝「……名前は?」

明里「!…私は明里!明るい里と書いて明里」



悠輝モノ「それから僕は彼女との生活を始めた。彼女は一人暮らしの大学生。学校は違うみたいだけど僕の一個下らしい。好きになったからと僕を軟禁した子だけど、優しくて可愛らしい女の子。こんな子が僕を好きになり軟禁するなんて、随分大胆な行動を取るなぁ…」

悠輝「…明里ちゃん。僕のスマホって何処にあるの?」

明里「え?」

悠輝「スマホ」

明里「何で?」

悠輝「え…」

明里「何でスマホがいるの?外と連絡を取る気?ゆう君、一緒にいてくれるって言ったのに?」

悠輝「一緒にいるって…僕は言ってないよ。それよりスマホ。バイト先に連絡入れないと…」

明里「ダメ!」

悠輝「何で?此処にいるならバイト辞めないと」

明里「え…」

悠輝「辞めるよ、バイト。大学からの連絡も来ない様にしなきゃ。親は…多分大学から連絡来ても何も言わないだろう…あいつらは僕に興味ないし」

明里「そう……ちょっと待って………はい、ゆう君のスマホ」

悠輝「ありがと…これ、友達の連絡先も消した方がいい?」

明里「で、出来れば…」

悠輝「分かった。あまりゲームもしてなかったし写真も大して撮ってないから、スマホいらないかもね。解約するかなぁ…」

明里「そこまでしてくれるの?」

悠輝「テレビと本があれば明里ちゃんがいない時間は凌げるからね」

明里「嬉しい…!ゆう君大好き!」

悠輝「わわっ、急に抱きつかれるとびっくりするよ、明里ちゃんは大胆だね」

明里「あ、これはその…ごめん、つい…」

悠輝「あはは、顔真っ赤だ」

明里「もう、からかわないで!」



悠輝モノ「彼女との生活に慣れてきた。彼女は本当に優しくて可愛らしい。少しからかったら顔を赤くする。笑顔が素敵で献身的。偽らない愛を僕に向けてくれる。外の世界はもはや、どうでもいい。彼女がいればそれで良い。それで良いとさえ思えてきた。僕も、きっと彼女が好きなんだろう。でも、彼女は用心深くて疑いやすい所がある。そりゃ、軟禁とは言え彼女がいない間僕は此処で一人。何をしてるか分かったものじゃないんだろう」

悠輝「どうすれば明里ちゃんの為になれるのかな…?もう少し家の事をしてあげれば…喜んでくれるかな?」

チャイムの音。

悠輝「……」

悠輝モノ「外からチャイムの音がした。時間指定が出来なかったから自分がいない間に宅配が来るかもしれないと彼女が言っていた。そうか、来たのか…。外には出ちゃ行けないって彼女は言ってたけど…」

チャイムの音。

悠輝「何度も鳴らさないで欲しいな…うるさい……明里ちゃん、早く帰って来て…。僕、君の為になりたい………」

チャイムの音。



明里「ねぇゆう君。私幸せ…」

悠輝「…突然どうしたの?」

明里「好きな人とずっと一緒に入れて…本当に幸せで、どうにかなっちゃいそう」

悠輝「…僕も、幸せだよ」

明里「ゆう君も幸せ?これからも一緒にいてくれる?」

悠輝「…うん、一緒だよ」

明里「ずっと一緒…何があってもゆう君は私と一緒にいるの」

悠輝「…ずっと一緒なんて、永遠の愛だね」

明里「永遠の愛…そう。私とゆう君は永遠の愛で結ばれてるの」

悠輝「…そっか、素敵だね」

明里「素敵よね。…愛してる」

悠輝「…僕も、愛してる」


悠輝モノ「僕は気付けば壊れていた」


悠輝「……そういえば、今日ってご飯食べったっけ?」

明里「ゆう君…」

悠輝「……まぁ、いっか」


悠輝モノ「それに気付かず、壊れ続けた」



悠輝モノ「それから数日が経った。僕は彼女と床に寝っ転がっていた。彼女は小さく寝息を立ててるみたいだ…」

悠輝「……お腹、空いた。食材やインスタントとか、もうなくなっちゃったね。…明里ちゃん、料理作るの好きだったのに疲れちゃった?…それでもいいよ。僕が美味しいの作ってあげたいけど、全然得意じゃなくてさ。外にもでれない…約束だからさ。もう二度と外には出ない。ここだけが僕と君の居場所なんだもんね……ねぇ、明里ちゃん」

明里「……」

悠輝「明里ちゃん…?」

明里「……」

悠輝「…っ、お腹が空いたし、掃除サボっちゃったせいか匂いが気になるね…そういえば明里ちゃんゴミ捨ては?あまり溜め込み過ぎちゃ……ダメ、だから…。僕が…出せれば一番…いいんだけど……明里ちゃん?……この匂い、明里ちゃんからしてる?…あっ、今僕デリカシーのない事言っちゃったかな!?……でも、気になっちゃって……ねぇ、寝てるんだよね?ねぇ、明里ちゃん…起きれる?明里ちゃん?あかっ……え?」

悠輝モノ「僕はそこでようやく思い出した」

悠輝「……あっ、あぁ……ああぁ…。そうだ、もう明里ちゃんはいないんだ。僕があの時、玄関への扉を開けてしまったばかりに…」

悠輝モノ「彼女が死んでいる事を、思い出したんだ」

回想

明里「なんで外に出たの!?」

悠輝「でも僕…」

明里「ゆう君、最低!私の言う事を聞けないなんて、私を信用してないの?」

悠輝「そんなことは…!」

明里「触んないでっ!」

悠輝「うわっ!?」

明里に突き飛ばされ、壁に頭を打ち気絶する悠輝。

悠輝「あぐっ!?」

明里「あ!……ゆ、ゆうくん?」

悠輝「……」

明里「え、嘘っ?へ、し、し……死んだ?待って、嘘よね?ゆう君、ゆう君起きて?ごめんなさい、私カッとなって…ねぇ、何で目を開けないの?起きて…起きて!…あ、あ……ああぁ…やだ、やだやだ、ゆう君がいない世界なんて、私…生きてられないよ…ゆう君、ゆう君……」

悠輝モノ「そうだ、あの時突き飛ばされた僕は頭を壁に打って気を失ってしまった。彼女は気が動転していたんだ」

明里「ゆう君…ごめんなさい、ごめんなさい。大好きなのに、愛してるのにこんな事しちゃって……今すぐそっちに行くから、今度こそ二人だけの世界で、もっと幸せになろうね?…おやすみ」



悠輝モノ「彼女の心臓にはナイフが刺さっており、血が溢れ、床に赤黒いシミが広がっていた。これが腐敗臭と言うのか?溜まったゴミの匂いと混ざって意識をすればするほど、その濃い匂いは彼女がいない現実に僕を連れて行った」

悠輝「明里ちゃん…は死んだ?僕が見てたのは何?幻か何かって言うのか?嘘だ。だって僕はずっと明里ちゃんといたのに…あ、明里ちゃん…冗談はキツイよ?目を開けて?目を開けてよ!僕にはもう、君しかいないんだよ!?君だけが僕を心の底から愛してくれたのに、何で僕を置いていくの?僕が君の言う事を聞かなかったから?…うぅ、明里ちゃん、明里ちゃん…」

悠輝モノ「それから僕は泣き続けた。血に塗れた彼女の亡骸を抱き締めながら、枯れるまで泣き続けた。思い出すのは彼女との短かくも愛しい思い出ばかり。僕より優秀な弟に構って、僕をいない物の様に扱ってきた家族達の事なんか、とうに忘れていた。僕にあるのは彼女との事だけ。喋って、笑って、傍に居て、眠って…それが全てになっていた。少し面倒な所もあったけどお互い様だと思ってたし、何より僕を見て、愛してくれるのはきっと、彼女だけだ。それなら僕もそれに応える。いや、僕も彼女に惹かれていたんだ…でも、幸せにはなれなかったんだね…残念だ…」

悠輝「お前が僕と明里ちゃんを引き合わせてくれた…」

悠輝モノ「僕は彼女と出会うきっかけになった、うさぎのキーホルダーを手に取った」

悠輝「うさぎは寂しいと死んでしまうって言うのは、都市伝説だけど、僕らは違うね。僕らはもうお互いがいないとダメみたいだ…。明里ちゃん、次は幸せになろうね?絶対見つけるから。絶対手離さないから、何をしてでも…幸せになるから」

悠輝モノ「そうして僕は彼女の隣で目を閉じた」



灯里モノ「少し広いマンションの一室。私はそこで目が覚めた。部屋を見渡すが誰の家なのか皆目見当もつかなかった。体が少し痺れてる感覚がある…まさかこれって……」

灯里「監禁…されてる?…とにかく、此処から出なくちゃ…。外への出入り口はあっちかな…?あれっ……鎖?」

扉が開く。

優輝「あ!目が覚めた?おはよう」

灯里「え…?」

優輝「体、痛い所はない?体調が悪いとかは?」

灯里「だ、大丈夫…」

明里「よかった。君を眠らせる為にスタンガンを使ったんだけど、初めて使ったから不安だったんだ。…こんな気持ちだったんだね」

灯里「スタンガン…?じゃあ体が痺れた感覚があったのはそのせい…?」

優輝「やっぱり痛かった?…気絶させる方法がこれしか思い付かなくて…やっぱ強引な方法だったね」

灯里「気絶させる方法って…それ自体強引な気がするけど……って事は貴方が私を気絶させて、此処まで運んだの?」

優輝「うん、君がバイト終わり、深夜近くに僕の家の前を通る事は確認済みだったから、その時に」

灯里「……これって、監禁だよね?」

優輝「そうだね、鎖で足を拘束してるから」

灯里「そっか…、何で私を捕まえたの?私、君に何かしたかな?」

優輝「何かしたと言うより…してもらった」

灯里「…何を?」

優輝「これ」

灯里「…うさぎのキーホルダー?……チェーンの部分が壊れてる……あ、これって…」

優輝「思い出した?これが壊れてしまって、落っことした事に気付かずに歩いてた僕に、落ちましたよって走って追いかけてくれたの」

灯里「そっか、あの時の…」

優輝「そして僕は、君に一目惚れしました」

灯里「え!」

優輝「君を見つけてから、ずっと君を見てた…ずっとずっと…どうしても手に入れたかった…だから、今度は僕から手に入れた」

灯里「…?」

優輝「お願い、此処にずっといて。君の事、僕が幸せにするから…!」

灯里「…!」

優輝「愛してるから…」

灯里「……お名前は?」

優輝「!…僕は優輝、優しく輝くと書いて、優輝。君は灯る里と書いて灯里…」

灯里「うん」

優輝「僕の事は好きに呼んで、呼び捨てでも、ゆう君とかでも何でもいいよ」

灯里「ゆう君…何だかしっくり来るから、ゆう君って呼ぶね」

優輝「……」

灯里「…ゆう君?」

灯里モノ「彼は私を見つめてぽろぽろと涙を溢した」

灯里「どうしたの?大丈夫?」

優輝「うん、うん…平気。嬉しいなぁ。君にそう呼ばれるの」

灯里モノ「私を見つめる彼の笑顔はこの世で一番の幸せ者だと言っている様だった」

優輝「ずっと一緒だよ。灯里ちゃん」

灯里モノ「そうして私を抱き締めた彼は少し冷たくて、でも私の体温と混ざって心地良かった」

優輝「愛してる…今度は僕が君を守る。絶対に手離しはしない。幸せにする」

灯里「…プロポーズされてるみたい。何だか、私嫌じゃないかも。…不思議、ずっと前からゆう君の事が好きだったみたい…」

優輝「そう言って貰えて嬉しいな。愛してるよ」

灯里モノ「愛してるなんて言葉、私はまだ使えないけど、いつか心の底から彼に向かって言う日が来るだろう。そう思って私は、私を抱き締める彼の背に腕を回した」

灯里「なんだか、幸せな気分。ずっとこうしてたい…」

優輝「あぁ、ずっとこうしていよう」


灯里モノ「私たちはこの狂ってる幸せが狂おしい程に愛しいのだ」



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