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夢
その日の夜――
いつも以上に寝付けなかった俺は、隣で眠る祐樹を起こさないようこっそり毛布から抜け出し、真夜中の学校を一人歩いていた。
向かった先は、お気に入りのあの場所。
生徒会室。
別に何をするわけでもなく大好きなこの場所から、闇と静寂に包まれた俺達の町の変わり果てた姿を、ただボーっと眺めていた。
街灯も家の明かりもない町は、ただ真っ暗で、殆ど何も見えはしなかったけど……ただ俺は、ほんの一時でもいいから頭を空っぽにして、一人になりたかったんだ……。
暗闇と静寂だけが広がる空間。
俺だけが存在するはずの場所。
俺以外、誰も存在しないはずの場所。
その中で、不意に“ガラガラ”とドアが開く音がした。
ビックリした俺は、慌てて後ろを振り向いた。
するとそこには――
「やっぱりここにいた」
「……真奈? ……どうしてここにお前が……」
ずっと会いたいと、待ち焦がれていた真奈が立っていて――
「浩太を探してたんだよ。何かあると、浩太はいつもここに来るでしょ? だからまたここにいるのかなって。進路に悩んでた時も、よくここに来てたもんね」
「……バカ言え、探してたのは俺の方だ。何だよお前、やっぱり生きて……生きてたのか? ……良かっ」
「どっちも違う。正解は謝りに来た。でした。……ゴメンね。私のせいで恥ずかしい思いさせちゃって」
「…………真奈?」
噛み合わない会話。
聞き覚えのある台詞。
真奈が生きていたと喜んだのもつかの間、俺はこれが夢の世界なのだと悟った。
いつの間に眠ってしまったのか、俺はまた真奈の夢を見ているのだと。
真奈が俺に会いに来てくれたのか。
それとも俺が会いたいと強く願っているせいか。
まぁ、今はどっちでも良いか、そんな事。
こうして真奈に会えるなら、真奈と話せるのなら何だって。
どうか夢なら覚めないで。
もう少しだけ、真奈との時間を楽しませてくれ。
だが、たとえ夢の中でも、俺の望みは叶いそうにない。
「安心して。浩太との腐れ縁も今日で終わりにするから」
真奈は再び俺から離れて行こうとする。
「ダメだ! やめろ真奈!」
「もう、浩太に話しかける事はしない。私と浩太はもう単なるクラスメート」
「やめろ。やめてくれ。それ以上は言わないでくれ」
あの日と同じように、どこか泣きそうな顔をしながらニッコリと微笑んで見せる真奈の姿に俺はドキっとする。
この先に続く言葉は――
「バイバイ、浩太」
あの日と全く同じ台詞を小さく残しながら、真奈は俺の前から走り去って行く。
ここで彼女を追いかけなかったら、この先も本当に会えなくなる気がして、俺は慌てて真奈の後を追いかけ生徒会室を出た。
だが、出た先で俺は驚きに声を上げた。
「うわ~?! 何だこれは!」
足元は膝の高さまでの水に漬かっていて、その水の流れは早く、うまく前へ進めない。
その間にも真奈の背中はどんどん遠ざかって行く。
「真奈、行くな。 行くな真奈っ! 頼むから戻って来い。頼むから……戻って来てくれよ……真奈! 真奈っ!!」
何とか離れて行こうとする真奈を呼び戻したくて、俺は水に足を止められながらも必死に叫んだ。
そんな自分の叫ぶ声に、俺ははっと目を覚ました。
ボーっとする頭で周囲を見回すと、そこは見慣れた生徒会室で。
すっかり太陽が登った空が目の前に青々と広がっていた。
太陽に照らされ、キラキラと輝く穏やかな海も広がっていた。
けれど……俺が好きだったのどかな田園風景や、煙をはきながら海を走る船は、もうそこにはない。
この部屋で共に過ごした真奈の姿も。
変わらないものと、変わってしまったものを共に感じながら、俺は今まで過ごして来た何でもない日常が、実は凄く幸せな事だったのだと、ぼんやりする頭で思った。
だって……どんなにあの時間に戻りたいと願っても、戻ってはこないのだから。
一度壊れてしまったものは、そう簡単には戻らない。この数日で嫌と言う程思い知った事。
ならば、俺達があの日常に戻れるのは、一体いつになってからなのだろう。
本当に戻れる日は、くるのだろうか。
夢から覚めて、俺は言い様のない不安に襲われた。
地震から一週間経った。
そんなある日の朝。
いつも以上に寝付けなかった俺は、隣で眠る祐樹を起こさないようこっそり毛布から抜け出し、真夜中の学校を一人歩いていた。
向かった先は、お気に入りのあの場所。
生徒会室。
別に何をするわけでもなく大好きなこの場所から、闇と静寂に包まれた俺達の町の変わり果てた姿を、ただボーっと眺めていた。
街灯も家の明かりもない町は、ただ真っ暗で、殆ど何も見えはしなかったけど……ただ俺は、ほんの一時でもいいから頭を空っぽにして、一人になりたかったんだ……。
暗闇と静寂だけが広がる空間。
俺だけが存在するはずの場所。
俺以外、誰も存在しないはずの場所。
その中で、不意に“ガラガラ”とドアが開く音がした。
ビックリした俺は、慌てて後ろを振り向いた。
するとそこには――
「やっぱりここにいた」
「……真奈? ……どうしてここにお前が……」
ずっと会いたいと、待ち焦がれていた真奈が立っていて――
「浩太を探してたんだよ。何かあると、浩太はいつもここに来るでしょ? だからまたここにいるのかなって。進路に悩んでた時も、よくここに来てたもんね」
「……バカ言え、探してたのは俺の方だ。何だよお前、やっぱり生きて……生きてたのか? ……良かっ」
「どっちも違う。正解は謝りに来た。でした。……ゴメンね。私のせいで恥ずかしい思いさせちゃって」
「…………真奈?」
噛み合わない会話。
聞き覚えのある台詞。
真奈が生きていたと喜んだのもつかの間、俺はこれが夢の世界なのだと悟った。
いつの間に眠ってしまったのか、俺はまた真奈の夢を見ているのだと。
真奈が俺に会いに来てくれたのか。
それとも俺が会いたいと強く願っているせいか。
まぁ、今はどっちでも良いか、そんな事。
こうして真奈に会えるなら、真奈と話せるのなら何だって。
どうか夢なら覚めないで。
もう少しだけ、真奈との時間を楽しませてくれ。
だが、たとえ夢の中でも、俺の望みは叶いそうにない。
「安心して。浩太との腐れ縁も今日で終わりにするから」
真奈は再び俺から離れて行こうとする。
「ダメだ! やめろ真奈!」
「もう、浩太に話しかける事はしない。私と浩太はもう単なるクラスメート」
「やめろ。やめてくれ。それ以上は言わないでくれ」
あの日と同じように、どこか泣きそうな顔をしながらニッコリと微笑んで見せる真奈の姿に俺はドキっとする。
この先に続く言葉は――
「バイバイ、浩太」
あの日と全く同じ台詞を小さく残しながら、真奈は俺の前から走り去って行く。
ここで彼女を追いかけなかったら、この先も本当に会えなくなる気がして、俺は慌てて真奈の後を追いかけ生徒会室を出た。
だが、出た先で俺は驚きに声を上げた。
「うわ~?! 何だこれは!」
足元は膝の高さまでの水に漬かっていて、その水の流れは早く、うまく前へ進めない。
その間にも真奈の背中はどんどん遠ざかって行く。
「真奈、行くな。 行くな真奈っ! 頼むから戻って来い。頼むから……戻って来てくれよ……真奈! 真奈っ!!」
何とか離れて行こうとする真奈を呼び戻したくて、俺は水に足を止められながらも必死に叫んだ。
そんな自分の叫ぶ声に、俺ははっと目を覚ました。
ボーっとする頭で周囲を見回すと、そこは見慣れた生徒会室で。
すっかり太陽が登った空が目の前に青々と広がっていた。
太陽に照らされ、キラキラと輝く穏やかな海も広がっていた。
けれど……俺が好きだったのどかな田園風景や、煙をはきながら海を走る船は、もうそこにはない。
この部屋で共に過ごした真奈の姿も。
変わらないものと、変わってしまったものを共に感じながら、俺は今まで過ごして来た何でもない日常が、実は凄く幸せな事だったのだと、ぼんやりする頭で思った。
だって……どんなにあの時間に戻りたいと願っても、戻ってはこないのだから。
一度壊れてしまったものは、そう簡単には戻らない。この数日で嫌と言う程思い知った事。
ならば、俺達があの日常に戻れるのは、一体いつになってからなのだろう。
本当に戻れる日は、くるのだろうか。
夢から覚めて、俺は言い様のない不安に襲われた。
地震から一週間経った。
そんなある日の朝。
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