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8.感じちゃう身体

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 主任に押し倒され、胸を揉まれている状況に、もうどうしたらいいのかわからない。
 相手はいつもお世話になっている会社の上司だ。
 しかも不甲斐ないわたしのために、時間を割いて練習に付き合ってもらっている。
 どう考えても失礼な言動は慎むべきだろう。
 でもでもでも、明らかにこの状況はおかしい!
 
(どうしようどうしようどうしよっ。それに『俺で感じたいの?』ってどういう意味!?)

 いろいろ考えていると、主任の手がするりと服の中に入ってきて、下着の上から胸を鷲掴みにされた。

(っっっ!!! 嘘でしょ!!!)

 あまりの急展開に……いやこれも漫画通りの流れなんだけど、わたしの考えは追いつかず自分の胸元と主任の顔を何度も交互に見た。
 でもそのときふと気づく。
 さっきはからかうようにうっすら笑っていたのに、いまは打って変わって真剣な顔をしていることに。

(……これはもしかして、『タクヤ』と呼ばないことへのバツ……?)
 
 主任はできないことをできるように導くのが上手い人だ。
 多少強引なやり方で、だけど。
 つまりいまのこの状況も、できないわたしを導くためにしているのかもしれない。

(うん、きっとそうだ。そうに違いない)

 そう自分に言い聞かせ、一旦気持ちを落ち着かせることにした。
 服の中に入っている主任の手は、胸を掴んだまま動かない。
 これ以上されたくなかったら、ちゃんと『タクヤ』と呼べと言っているようだ。
 仕切り直さなくては。

『タクヤ、待って……』

 わたしは小さく深呼吸すると、もう一度セリフを繰り返した。
 軌道修正したのだから、これで主任は手を離してくれるだろう。

『……待てない』

 主任から答えが返ってきたが、そんなセリフあったっけ?

『タクヤ……?』

 思わずわたしも、台本にないセリフを口にしてしまう。
 でも練習をはじめる前に、『感じをつかめればいい。台本通りじゃなくても構わない』と言っていたから大丈夫だろう。

『ミオ……』

 ほら大丈夫だ。
 大丈夫だけど、優しい主任の声が降ってきたことできゅんと胸が震えた。
 こんなの、錯覚してしまいそうだ。
 自分に言ってくれているのだと。

(違う違う、わたしじゃない。これはミオに言ってるんだから)
 
 でも、ちゃんと『タクヤ』と呼んだのに、主任は胸から手を離してくれない。
 そんなにずっと触られていると、だんだん恥ずかしくなってきて目が潤んできた。
 訴えるように、服から手を出してくださいと潤んだ瞳を向けると、主任もわたしを見つめ返し手の力を緩めてくれる。
 よかった、気持ちが通じたようだ。
 
 ところが安堵したのも束の間で、次の瞬間、主任は手を抜くどころか下着の隙間から指を入れてきたではないか!
 その動きに迷いはまったくなかった。

「主任っ!?」

 制御する間も抵抗する間もなく、直接触れてきた指の腹で先端に触れてくる。

「ぁっ……!」

 刹那、ビリビリッと甘い電流が全身に走って、口から聞いたことのない声がこぼれた。
 いまの何!? わたしが出したの!?
 信じられないくらい甘さを含んでいて、自分でも動揺してしまう。
 
 そうしているうちに、主任の指先は円を描くように動き、先端を弄ぶように転がし始めた。

「っ、あ……!」

 触れただけのときよりも強い刺激に、小さな突起はジンジンと熱を持ち硬くなっていく。
 耐久性がないわたしは、恥ずかしいのに甘い刺激には逆らえず、否応なしに次々と声をもらしてしまった。

「あ……っ……やっ……」

 脳みそが痺れて、与えられる快感に飲み込まれていく。
 こんな刺激は初めてで、自分でもどうなってしまうのかわからないし怖くてしょうがない。
 力の入らない手で主任の肩を押してみたけれど、動きを止めてくれる気配はまったくなかった。
 それどころか、先端に触れる指は転がすだけでは飽きたらず、硬くなった芯をつまんでグリグリ擦ってくる。

「や、あ……っ!」

 つままれるとお腹の奥がきゅんとして、もどかしさから無意識に太腿をこすりあわせてしまう。

「あっ……やだ……主任……っ」

 じわりとショーツが濡れたのを感じた。
 もう『タクヤ』と呼ぶことを忘れてしまうくらい、恥ずかしさと快感がせめぎあって呼吸が乱れていく。 
 やだ、これ以上感じたくない。
 おかしくなっていく自分を見せたくない。
 それなのに、主任はわたしをじっと見つめて目を逸らそうとしない。
 
 こんな状況でなければ元々主任の顔の造りが好きだし、ここぞとばかりにわたしも見つめ返していたに違いない。
 主任の顔ならどれだけでも見飽きない自信がある。
 けれどいまは、何もかも見透かすような主任の視線に下腹部が疼いて、まともに見ることができなかった。
 
「やっぱり『主任』に戻っちゃうんだな。そんなに俺で感じたいのか?」
「それは……ちが……」
「違うって言うわりにはとろけた顔してるぞ」
「っ……」
「いい声出てるし、このまま続けるか」

 えっ、続けるって触るのを続けるってこと?
 尋ねたいのに、熱を持った身体からは甘い吐息しか出ない。

「っ、あ……ッ」
「ほら、ちゃんと声出てるのわかるか? もっと出してみろ」
「や……です……っ」
「安心しろ。この部屋の壁は厚い」
「っ……そうじゃ……なくて……」
「出さないと練習にならないだろ。それとも会社みたいに命令口調じゃないと従えないのか?」

 わたしの言葉なんてさらりと聞き流されてしまう。
 主任はずいっと顔を近づけて、

「もっと感じろ」

 と甘い低音ボイスで囁き、パクリと耳を食んできた。

「ひゃッ……んっ……ゃ、あっ……」

 胸の刺激で身体が敏感になっているせいか、わたしは従うように高い声を上げてしまう。
 飴でも舐めるように耳を舐められ、鼓膜に響く水音が理性をどんどん奪っていく。

「あっ……あ……ッ……」

 これ以上されたら、自分じゃなくなってしまいそうだ。
 そんなの耐えられなくて主任を引き離そうとするけれど、ダメだと言わんばかりに舌先が耳の中に入ってきてくちゅりと責め立ててくる。

「や……ぁっ……あッ……」

 どうにもならなくなったわたしは、もう甘い声を抑えることができなくなっていた。
 
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