7 / 13
蜜月
六話
しおりを挟む
(潤弥さんはとても優しい、いや優しすぎると私は思う)
傷に薬をつけながら、美苑は心を痛めた。
「優しすぎます」
「・・・」
部下が死んで傷つき、人殺し呼ばわりされて傷つかない人がいるだろうか。
「オレからすれば、美苑の方が優しいが」
「私で良ければ、いつでも話し相手になりますよ」
ふ、と潤弥が胸元で笑う。
「誘っているのか?」
「へ?」
口づけられ、美苑は身体をよじる。
「だ、ダメです」
「他の男には、するなよ」
抱きしめられ、まだ潤弥が震えている事に胸が痛む。
ー ぁりがとう、美苑 ー
小さな呟きに、美苑は涙を流した。
(こんなに優しい人が、なぜ軍人にならなければならないのか?平成の平和な時代に育った私には理解出来なかった)
「何で、軍人になったか?」
洋右は、目を通していた書類から顔を揚げた。
「はい」
「おれは、家が軍人貴族だからかな。代々の長男・・ても、うちはオレ一人だが」
「俺は、知覧のお茶の老舗問屋だ。特にやりたいことがなくてな」
「今も、やりたいことが無いですか?」
美苑の顔が曇る。
「美苑さん、その言い方」
そう言ったのは、季世の想い人である藤岡智志だった。
「藤岡さんは?」
「え、あーなんだろう。招集が来て、ここに行けって言われたから?」
「気持ちはわかるよ。僕だって、ほんの一年か二年の兵役だと」
雪杜が翳りのある瞳をしていた。
柚子と結ばれ、生きたいと思う気持ちが強くなったのだ。
「オレは、あと何人・・送るんだろうな」
潤弥の悲しい呟きが、耳から離れなかった。泣くことも、公には許されない。
食事も喉を通らず、潤弥も一登も洋右も一回り痩せた。
泣き腫らした目を、他人に見られたくなかった。なのに、美苑は執務室に入った。
「こんな、姿・・お前に見られたく・・・」
潤弥は寝落ちした。
「潤弥さん、あなたは何故」
軍人になったんですか?
そう言いかけた言葉を、美苑は飲み込んだ。美苑の膝で静かに寝息を立てる潤弥を、今は休ませてやりたかった。
「大好き、潤弥さん」
額にそっと、口づけた。
どのくらい、時間が過ぎたのか。気づくと、潤弥が美苑を見つめていた。
「いつ、起きたんですか?」
「大好き、潤弥さん・・のあとかな」
「やだ」
あのあと、美苑も惰眠を貪った。
「恥ずかしい。起こしてくだされば」
「いや、美苑を眺めている時間ができた。ありがとう、美苑」
頭を引き寄せ、口づける。
「お前は、ホントに良い女だ」
「なに、言って」
「美苑、いつか・・産んでくれるか?」
突然の求愛に、美苑は瞬く。
「今すぐじゃない。女学校を卒業して、二十歳を過ぎてからでいい」
涙があふれ、美苑は俯く。
「考えてくれ。オレは、お前がいい」
傷に薬をつけながら、美苑は心を痛めた。
「優しすぎます」
「・・・」
部下が死んで傷つき、人殺し呼ばわりされて傷つかない人がいるだろうか。
「オレからすれば、美苑の方が優しいが」
「私で良ければ、いつでも話し相手になりますよ」
ふ、と潤弥が胸元で笑う。
「誘っているのか?」
「へ?」
口づけられ、美苑は身体をよじる。
「だ、ダメです」
「他の男には、するなよ」
抱きしめられ、まだ潤弥が震えている事に胸が痛む。
ー ぁりがとう、美苑 ー
小さな呟きに、美苑は涙を流した。
(こんなに優しい人が、なぜ軍人にならなければならないのか?平成の平和な時代に育った私には理解出来なかった)
「何で、軍人になったか?」
洋右は、目を通していた書類から顔を揚げた。
「はい」
「おれは、家が軍人貴族だからかな。代々の長男・・ても、うちはオレ一人だが」
「俺は、知覧のお茶の老舗問屋だ。特にやりたいことがなくてな」
「今も、やりたいことが無いですか?」
美苑の顔が曇る。
「美苑さん、その言い方」
そう言ったのは、季世の想い人である藤岡智志だった。
「藤岡さんは?」
「え、あーなんだろう。招集が来て、ここに行けって言われたから?」
「気持ちはわかるよ。僕だって、ほんの一年か二年の兵役だと」
雪杜が翳りのある瞳をしていた。
柚子と結ばれ、生きたいと思う気持ちが強くなったのだ。
「オレは、あと何人・・送るんだろうな」
潤弥の悲しい呟きが、耳から離れなかった。泣くことも、公には許されない。
食事も喉を通らず、潤弥も一登も洋右も一回り痩せた。
泣き腫らした目を、他人に見られたくなかった。なのに、美苑は執務室に入った。
「こんな、姿・・お前に見られたく・・・」
潤弥は寝落ちした。
「潤弥さん、あなたは何故」
軍人になったんですか?
そう言いかけた言葉を、美苑は飲み込んだ。美苑の膝で静かに寝息を立てる潤弥を、今は休ませてやりたかった。
「大好き、潤弥さん」
額にそっと、口づけた。
どのくらい、時間が過ぎたのか。気づくと、潤弥が美苑を見つめていた。
「いつ、起きたんですか?」
「大好き、潤弥さん・・のあとかな」
「やだ」
あのあと、美苑も惰眠を貪った。
「恥ずかしい。起こしてくだされば」
「いや、美苑を眺めている時間ができた。ありがとう、美苑」
頭を引き寄せ、口づける。
「お前は、ホントに良い女だ」
「なに、言って」
「美苑、いつか・・産んでくれるか?」
突然の求愛に、美苑は瞬く。
「今すぐじゃない。女学校を卒業して、二十歳を過ぎてからでいい」
涙があふれ、美苑は俯く。
「考えてくれ。オレは、お前がいい」
1
あなたにおすすめの小説
鬼上官と、深夜のオフィス
99
恋愛
「このままでは女としての潤いがないまま、生涯を終えてしまうのではないか。」
間もなく30歳となる私は、そんな焦燥感に駆られて婚活アプリを使ってデートの約束を取り付けた。
けれどある日の残業中、アプリを操作しているところを会社の同僚の「鬼上官」こと佐久間君に見られてしまい……?
「婚活アプリで相手を探すくらいだったら、俺を相手にすりゃいい話じゃないですか。」
鬼上官な同僚に翻弄される、深夜のオフィスでの出来事。
※性的な事柄をモチーフとしていますが
その描写は薄いです。
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
義兄様と庭の秘密
結城鹿島
恋愛
もうすぐ親の決めた相手と結婚しなければならない千代子。けれど、心を占めるのは美しい義理の兄のこと。ある日、「いっそ、どこかへ逃げてしまいたい……」と零した千代子に対し、返ってきた言葉は「……そうしたいなら、そうする?」だった。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる