キャンピングカーで往く異世界徒然紀行

タジリユウ

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第204話 森の中

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「そんじゃあ、森へ入るが準備はいいか?」

「ええ、問題ないです」

「おう、さっさと行こうぜ!」

「だ、大丈夫だよ」

 朝食を食べたあとはいよいよ森の中へ入る。

 すでに森の中を歩く準備はできており、ガレンはいつもの俺たちの隊列の最前列を進む。基本的には護衛のガレンが魔物に対処してくれるが、数の多い時は俺たちも戦闘に加わる。

 ジーナやカルラもガレンと一緒に戦いたいと言っていたのだが、行きはガレンと魔物との戦闘を見て学ぶようになんとか説得した。この森は魔物の数が多く、強い魔物も生息しているみたいだからな。

「こっちも準備できたよ。予定では夕方までにスターフェル村へ到着するはずだ」

「ホーホー」

 キャンピングカーの車体を収納して俺の方もオッケーだ。少し先にスターフェル村へと続く森への入り口がある。この森で活動をしている冒険者もおり、ロンデル遺跡を訪れる者も少しだけいるため、入り口の手前でキャンピングカーを降りている。

 スターフェル村への距離はそこまで遠くないので、日が暮れる前には村へと到着できるはずだ。

「なんだか少し空気が重い気もするな」

 森の中に入ってから数分。

 これまでにいくつか森へ入ったが、それらとはなんとなく雰囲気が違う。もちろん俺は魔力もないし五感が優れているというわけじゃないから、具体的にどこがということはできないが、なんだかぞわっとしてしまう。

「シゲトお兄ちゃん、この森は魔物が多すぎて全部の場所を把握するのは難しいかも……」

「そうか、やっぱり周囲にいろんな魔物がいるからなのか。今回は道もあるからあんまり遠くの魔物まで把握しなくて大丈夫だからね」

「わかった」

 俺の前を歩くコレットちゃんが黒い両耳をピンと立てながら進む。

 なるほど。魔物が多すぎるため、あちこちから音がして魔物の位置を把握するのが難しいのだろう。

「ほう、コレットは音で魔物の位置がわかるのか」

「うん」

「コレットちゃんのおかげで、魔物からの奇襲は受けたことがありませんよ」

「おう。それにちっこいけれど、根性もあるんだぜ」

「えへへ~」

 この森では魔物の位置がわからず少し残念そうにしていたコレットちゃんだが、みんなに褒められて嬉しそうにしている。

「獣人は他の種族よりも感覚は鋭いが、その中でも森の中で魔物の位置まで把握できるやつはあまりいないんだ。その年でそこまでできるとはやるじゃないか」

「ありがとう、ガレンおじちゃん!」

 ガレンに褒められてさらに嬉しそうだ。

 ……ただ、コレットちゃんがまだ幼いのにそこまで五感が鋭いのはフェビリー村にいたころ、生きるためにひとりで森の中に入って鍛えていたからだろうな。いかん、フェビリー村のことは思い出すだけでイラっとしてくる。今のコレットちゃんが楽しく元気に過ごせているという事実だけを嬉しく思うとしよう。



「ガレンおじちゃん、右前方から魔物が近付いてくるよ!」

「ほう、どれどれ。……むっ、魔物が1体か。指示があるまで戦闘態勢を取りながらそこで待機してくれ」

「わかりました」

「おう」

 さらに森を進んでいくと、魔物が現れたらしい。

 俺の目からはまだ見えないが、ガレンもすでに魔物の存在を把握しているようだ。そういうのも音だけでなく経験などでわかるのだろうか。

 ジーナは武器に手をかけ、カルラも戦闘態勢を取る。俺も腰に差していたクマ撃退スプレーを手に取った。

「キキィ!」

「ふんっ!」

 ザンッ。

「おおっ!」

 昨日のシルバーウルフの時と同じように森の中からいきなり襲い掛かってきた茶色い大猿の首が一刀のもとに宙へと舞った。

 相変わらず剣を振るうのが速すぎて俺には見えない。相手は1.5メートル以上ある大きな魔物だったにもかかわらず、ガレンの相手にはならなかったようだ。

「すごいですね。ガレン殿が剣を振るうのを見ているだけで勉強になります」

「俺も早く戦いたいぜ!」

「気持ちは分かるが、カルラは帰り道までは大人しくしておいてくれよ。ワイルドエイプか。こいつはまずくて食えたもんじゃねえから、毛皮くらいしか素材にならねえな」

 ガレンがカルラをなだめつつ、倒した猿型の魔物を確認していく。どうやらこの魔物は食べることができないらしい。

「毛皮だけ回収して先を進むぜ」

「あれ、昨日みたいに埋葬はしないのか?」

 昨日のシルバーウルフのように解体した残りは手間だが地面に埋めるのかと思っていた。俺たちも今まで倒してきた魔物の不要な部位は地面を掘って埋葬してきた。そうしないと疫病なんかの原因になると聞いていたからな。

「ああ。この森はこういった死骸まで他の魔物が綺麗さっぱりと片付けてくれる。この森では必要な素材だけ確保したら、放置して大丈夫だ。血の匂いで他の魔物を惹きつけちまうから、道から外れたところに置いておけばいい」

「なるほど……」

 森によっていろいろと違うものなんだな。いろいろと勉強になる。
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