73 / 87
連載
第205話 現れた人影
しおりを挟むさらに先へ進んでいる最中も2度ほど魔物に遭遇した。幸いその魔物は2体ずつでそれほど強い魔物ではなかったため、どちらもガレンが対処してくれた。
本当に他の森を歩いていた時よりも数倍の頻度で魔物に遭遇してしまう。今回は道を見失わないため、道付近にいる魔物を避けて通ることができない。普段は道に沿って歩かずに印をつけながらコレットちゃんの力で魔物を避けて進んでいるから戦闘する割合は低いのだろう。
それにしてもこの森の魔物の数が多いことは間違いないか。ガレンを護衛として雇うことができて本当に良かった。
「……道の前から誰か来るけれど、もしかすると今度は人かも」
コレットちゃんが再び待ったをかける。どうやら今回は人の可能性があるらしい。音を聞いて4足歩行か2足歩行かで判断しているらしいが、本当によく分かるものだ。
「ほう、コレットは魔物と人の区別まで付くのか。おそらくはこの森で活動している冒険者だろうな。戦闘になる可能性は低いが、どんな時でも警戒は怠るなよ」
「はい、わかりました」
「了解だぜ」
冒険者か。この森の入り口までは木々の多い場所を迂回して来たから他の冒険者に遭遇することはなかったが、アルカンの街は冒険者が多い街だし、森の中で冒険者とすれ違うことはよくあるのだろう。
先日酒場で絡まれた銀狼の刃みたいな変な冒険者じゃなければいいんだが……。
「あれ、ガレンさんじゃないですか」
「なんだ、ダズリンたちか」
前から現れた冒険者らしき格好をした3人組。先頭を歩く茶髪のダズリンと呼ばれている男性はどうやらガレンの知り合いらしい。
ガレンが武器から手を離したことによりほっとした。
「もしかして冒険者に復帰したんですか?」
「おお、マジっすか!」
「ちげーよ。まあ、個人的な依頼みたいなもんだ。おっさんはもう身体中にガタがきてんだよ」
「なんだ残念……。ガレンさんなら死ぬまで現役でも大丈夫っすよ!」
「私たちは何度もガレンさんに教えていただきましたからね。冒険者じゃなくても冒険者ギルドの指導員とかなんてどうですか?」
「おいおい、おっさんはもう引退だっての。そういうのはもっと若いもんに任せるぜ……」
男性2人と女性1人の冒険者パーティと和やかに話すガレン。ガレンは長い間アルカンの街で冒険者として過ごしていたようだし、冒険者に顔がきくんだろうなあ。
「おっと、依頼中に失礼しました。俺たちはこちらで失礼します」
「ガレンさん、今度一緒に飲みに行きましょうね!」
「おう、そういう誘いなら大歓迎だ。帰り道も気を抜くんじゃねえぞ」
「はい、ありがとうございます!」
3人組の冒険者たちは俺たちに会釈をして道の反対方向へ進んでいった。
よかった、銀狼の刃とは違ってすごくまともな冒険者パーティみたいだ。
「出会った時は駆け出し冒険者だったあいつらが、今ではもう立派なCランク冒険者だ。時が経つのは早いもんだぜ……。おっと、今のはおっさん臭かったな」
そんなことをしみじみと言うガレン。
冒険者ギルドの職員さんや酒場の女将さんに今のような冒険者。あの街で長い間冒険者として活動してきたガレンにはその分人の縁もあるのだろう。そういう縁も実にすばらしいものだ。
「おっ、どうやらスターフェル村が見えてきたみたいだぜ」
「おおっ!」
何度か魔物に遭遇し、冒険者パーティとすれ違いながら森の中を歩き続けること数時間、ついに村が見えてきたようだ。
森の木々の隙間から開けた場所が現れ、大きな木の柵が顔を出す。これまで訪れてきた村よりもしっかりとした柵やバリケードがあるのは魔物が多い土地だからだろう。
「……というか今更だけど、なんでこんなに魔物の多い場所に村を作ったんだろうね?」
森でだいぶ魔物に遭遇したこともあって、ついそんな素朴な疑問が出てしまう。これじゃあ街へ行くのにも一苦労だ。
ハーキム村からオドリオの街へ行くよりも距離はないかもしれないが、これだけ魔物に遭遇するのなら大変だろうに……。
「いや、逆だ。この村はアルカンの街ができるよりもずっと昔からあったらしい。そのころは魔物の数も今ほど多いわけじゃなかった」
「なるほど」
どうやら魔物が増えた時期の方が後だったらしい。この柵とかも時間をかけて少しずつ強くしていったのだろう。
「シゲトが欲しがっている特産品の米ってやつも昔からあの村でずっと育てられていたらしいな。そこまで量がないらしいから、街まで卸してはねえみたいだが」
ふむ、確かに元の世界でも米は世界中かつ遥か昔から育てられていた。
そして稲作や作物を育てていく際は時が経つほどより強く、よりおいしいものを選別して育てていくものなので、多少は味の向上にも期待ができるというものだ。はたしてこの村で育てられている米はどんな味なのだろう。
413
あなたにおすすめの小説
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
【一秒クッキング】追放された転生人は最強スキルより食にしか興味がないようです~元婚約者と子犬と獣人族母娘との旅~
御峰。
ファンタジー
転生を果たした主人公ノアは剣士家系の子爵家三男として生まれる。
十歳に開花するはずの才能だが、ノアは生まれてすぐに才能【アプリ】を開花していた。
剣士家系の家に嫌気がさしていた主人公は、剣士系のアプリではなく【一秒クッキング】をインストールし、好きな食べ物を食べ歩くと決意する。
十歳に才能なしと判断され婚約破棄されたが、元婚約者セレナも才能【暴食】を開花させて、実家から煙たがれるようになった。
紆余曲折から二人は再び出会い、休息日を一緒に過ごすようになる。
十二歳になり成人となったノアは晴れて(?)実家から追放され家を出ることになった。
自由の身となったノアと家出元婚約者セレナと可愛らしい子犬は世界を歩き回りながら、美味しいご飯を食べまくる旅を始める。
その旅はやがて色んな国の色んな事件に巻き込まれるのだが、この物語はまだ始まったばかりだ。
※ファンタジーカップ用に書き下ろし作品となります。アルファポリス優先投稿となっております。
親友と婚約者に裏切られ仕事も家も失い自暴自棄になって放置されたダンジョンで暮らしてみたら可愛らしいモンスターと快適な暮らしが待ってました
空地大乃
ファンタジー
ダンジョンが日常に溶け込んだ世界――。
平凡な会社員の風間は、身に覚えのない情報流出の責任を押しつけられ、会社をクビにされてしまう。さらに、親友だと思っていた男に婚約者を奪われ、婚約も破棄。すべてが嫌になった風間は自暴自棄のまま山へ向かい、そこで人々に見捨てられた“放置ダンジョン”を見つける。
どこか自分と重なるものを感じた風間は、そのダンジョンに住み着くことを決意。ところが奥には、愛らしいモンスターたちがひっそり暮らしていた――。思いがけず彼らに懐かれた風間は、さまざまなモンスターと共にダンジョンでのスローライフを満喫していくことになる。
貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ
凜
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます!
貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。
前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?
猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める
遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】
猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。
そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。
まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
もふもふと始めるゴミ拾いの旅〜何故か最強もふもふ達がお世話されに来ちゃいます〜
双葉 鳴
ファンタジー
「ゴミしか拾えん役立たずなど我が家にはふさわしくない! 勘当だ!」
授かったスキルがゴミ拾いだったがために、実家から勘当されてしまったルーク。
途方に暮れた時、声をかけてくれたのはひと足先に冒険者になって実家に仕送りしていた長兄アスターだった。
ルークはアスターのパーティで世話になりながら自分のスキルに何ができるか少しづつ理解していく。
駆け出し冒険者として少しづつ認められていくルーク。
しかしクエストの帰り、討伐対象のハンターラビットとボアが縄張り争いをしてる場面に遭遇。
毛色の違うハンターラビットに自分を重ねるルークだったが、兄アスターから引き止められてギルドに報告しに行くのだった。
翌朝死体が運び込まれ、素材が剥ぎ取られるハンターラビット。
使われなくなった肉片をかき集めてお墓を作ると、ルークはハンターラビットの魂を拾ってしまい……変身できるようになってしまった!
一方で死んだハンターラビットの帰りを待つもう一匹のハンターラビットの助けを求める声を聞いてしまったルークは、その子を助け出す為兄の言いつけを破って街から抜け出した。
その先で助け出したはいいものの、すっかり懐かれてしまう。
この日よりルークは人間とモンスターの二足の草鞋を履く生活を送ることになった。
次から次に集まるモンスターは最強種ばかり。
悪の研究所から逃げ出してきたツインヘッドベヒーモスや、捕らえられてきたところを逃げ出してきたシルバーフォックス(のちの九尾の狐)、フェニックスやら可愛い猫ちゃんまで。
ルークは新しい仲間を募り、一緒にお世話するブリーダーズのリーダーとしてお世話道を極める旅に出るのだった!
<第一部:疫病編>
一章【完結】ゴミ拾いと冒険者生活:5/20〜5/24
二章【完結】ゴミ拾いともふもふ生活:5/25〜5/29
三章【完結】ゴミ拾いともふもふ融合:5/29〜5/31
四章【完結】ゴミ拾いと流行り病:6/1〜6/4
五章【完結】ゴミ拾いともふもふファミリー:6/4〜6/8
六章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(道中):6/8〜6/11
七章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(本編):6/12〜6/18
『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?
釈 余白(しやく)
ファンタジー
毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。
その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。
最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。
連載時、HOT 1位ありがとうございました!
その他、多数投稿しています。
こちらもよろしくお願いします!
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。