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第5話 もふもふ天国

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「……よし、こんなところか」

 じっくりと今後のことを考えて、キャンピングカーの拡張するべき機能をいくつか選択した。それと合わせて、ここから近くて、そこまで大きくない村の場所をカーナビによって確認した。

 いろいろと考えていたら、だいぶ時間がたってしまったようで、外が少し赤くなってきた。どうやらこの世界でも日は暮れるらしい。

「ホー!」

「ずっと待っていてもらって悪かったな、フー太。その分うまい飯を作ってやるからな」

「ホー♪」

 さて、いろいろと考えていたら、だいぶお腹が空いてきた。昼は簡単な肉とサラダしか食べていなかったからな。晩ご飯を作るとしよう。



「よし、できた。今日作る予定だったステーキだぞ!」

「ホー!」

 晩ご飯はキャンピングカー内にあるキッチンでステーキを焼いた。本当は肉を焼くときは炭火で焼く方がうまく焼けるのだが、キャンピングカーの外で焚き火をして、変な動物やさっきのゴブリンなんかを引き寄せたらまずい。

 野生動物は火を怖がると思われがちだが、火を見たことがない野生動物は好奇心に惹かれて逆に寄って来ることもあるそうだ。少なくともまだこの世界が何もわかっていない現状では余計なことはしない方が良い。すでにカーテンも閉めて、キャンピングカー内の明かりが漏れないようにもしてある。

「スキレットで焼き上げたステーキだからうまいはずだ。理想を言えば炭で焼ければ、なおうまかったんだけれどな。まあ、それは今度機会があればだ」

 スキレットとは、鋳鉄製の厚みがあるフライパンのことである。ステンレス製やアルミ製の一般的なフライパンよりも蓄熱性に優れているのが特徴で、食材をムラなく加熱でき、肉の旨みや肉汁をギュッと凝縮してくれるわけだ。

 肉を予め包丁で筋切りをしておき、みじん切りをしたタマネギと一緒にジップロックへ入れておく。こうすることで肉の繊維が柔らかくなり、焼いた後に箸で切れるほど柔らかくなる。それほど良い肉でなく、スーパーの安い肉だからこそ、余計にその違いが分かるだろう。

 そして牛脂をスキレットに塗り、肉に塩コショウで味を付けてからスキレットへ投入。強火で一気に両面を焼き上げてからすぐにアルミホイルで肉を包み、火から離れたところで数分休ませる。こうすることで焼いた余熱を利用して、中までじっくりと熱を通して肉汁を封じ込めることができる。

「うん、なかなかいけるな! スーパーの安い肉でこの味なら十分だ」

 熱々のステーキの中身はまだ赤くレアの状態だが、口の中で簡単に噛み切ることができた。それと同時に口の中に肉の旨みがじんわりと広がっていく。そしてまた、ステーキにこのオニオンソースがよく合うんだよ。

 ステーキをアルミホイルに包んで休ませている間、肉を柔らかくするときに使用したタマネギのみじん切りを肉を焼いたステーキの肉汁に入れて、加熱しながら醤油とみりんを加え、さらにひと煮立ちさせて作ったソースが肉の味を引き立てている。

「ホー! ホー♪」

「そうか、フー太もうまいか」

 フー太もおいしそうにステーキを食べている。しかし、くちばしを使って器用に一切れずつ食べていくな。食べている姿もとても可愛らしい。ちなみにフー太の分のステーキは俺がカットしてあげた。

 本当は他にもいろいろと作って食べる予定だったが、キャンピングカーに積んである食料は限られている。日持ちする米や缶詰などの食材は今後のことを考えて取っておかなければな。

「さて、明日はここから移動するから、食べ終わったらすぐに寝ような」

「ホー」

 今日はこのままキャンピングカー内で一夜を明かし、明日はカーナビに従って村などに移動する。この世界にはどんな人がいるのか、言葉は伝わるのかなどの不安材料は多いが、このまま異世界で一人――いや、一人とフー太だけで生き延びるのは不可能だろうから、どこかで人に会わなければならない。

 今日はさっさと寝て、明日に備えるとしよう。





 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

「うう~ん、うわっ!?」

 そして次の日、目を開けるとそこには大きなが目の前にあり、ベッドから飛び起きた。

「ホー?」

「びっ、びっくりした! お前はフー太なのか?」

「ホー!」

 コクリと頷くフー太。

 どうやらこの1メートルくらいに大きくなったフクロウはフー太だったようだ。

「……触ってもいいか?」

「ホー!」

 頷くフー太にゆっくりと近付いて、右手でフー太の身体に触れる。すると柔らかくふわふわとした羽毛に右手が飲み込まれた。

 なんという柔らかさだ! 羽毛布団とかの柔らかさの比ではない!

 今度は両腕を広げて抱きついてみる……ここは天国かな? あまりの抱き心地に一瞬でまた夢の世界に入り込むところだった!

「……そうだ、今日はやらなきゃいけないことが色々とあるんだった。これは元のサイズに戻ることもできるのか?」

「ホー!」

 再び頷くとフー太がみるみるうちに小さくなって、昨日と同じ30センチメートルほどの大きさに縮んでいった。

「そんなことができたとは……」

 どうやらフー太は自分の身体のサイズを変えることができるらしい。いや、もうこれは完全に異世界じゃん……

「ホー?」

「いや、驚いただけだから大丈夫だ。そんなことができるなんてすごいな、フー太。ってあれ、翼の傷も治っているのか!?」

「ホー!」

 昨日怪我を治療して緩めに巻いていたはずの包帯が取れており、怪我をしていたはずの右の翼の傷が綺麗に塞がっていた。

 普通の動物の回復力とは全然違うな。焼いた肉をおいしそうに食べていたし、フー太は元の世界のフクロウとはだいぶ異なるようだ。

 ……異世界だったり、ゴブリンだったり、とんでもない出来事ばかりだったから、もう何が起きても驚かんぞ。

 さて、まずは昨日拡張したキャンピングカーの機能がどうなっていたか確認してみるとしよう。
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