上 下
8 / 81

第8話 キャンピングカー収納

しおりを挟む

 幸いなことにこのキャンピングカーには何かあった時のために非常食を積んだばかりだったので、その中にレトルトのお粥があった。まさかこんなにすぐに使うことになるとは思わなかったけれどな。

 確か極限までの飢餓状態にあるところで、普通の食事を取ると身体に悪いというのを聞いたことがある。まずは温めた消化の良いお粥を食べてから栄養のある食事を取らせてあげた方がいい。

「水……食べ物……」

 エルフさんも目の前に置いた水とお粥に気付いたようで、ゾンビのように前へ這いずっている。極限の空腹状態でナイフを投擲したり、あんなに大きなロングソードを構えたりしたから、一気に体力を消耗したんだろうな。

 そしてゆっくりとだが、水を口に含み、お粥を食べていった。



「この度は本当に失礼しました!」

「………………」

 俺の目の前にはそれはそれは綺麗な土下座を惜しげもなく披露している白銀色の髪をしたエルフさんがいた。

 あの後、差し出した水とお粥を食べた後、追加でオレンジジュースとレトルトのお粥に卵を落としたものをペロリと平らげたエルフさん。フー太が自由に飛び回っていることを見て、ようやく俺が密猟者ではないことをわかってくれたようだ。

 というか、なんで異世界に土下座があるんだよ……

「とりあえず、まずは顔を上げてくれ。あまり女性がそういうことをしているのは見たくないんだ」

「あ、ああ。承知した」

 そう言いながら顔を上げるエルフの女性。こちらの世界だと、リアルに土の上での土下座になるから見ていて気持ちのいいものじゃない。

 ……それにしても、この白銀の髪の色をしたエルフさんは本当に綺麗だ。やはりエルフという種族は美形のチート種族なのだろうか。

「私はジーナです。あなた方のおかげで命拾いをしました。本当にありがとうございます!」

「俺は……シゲトだ。こっちのウッズフクロウはフー太と呼んでいる」

「ホー♪」

 どうやら異世界だと苗字なんかは持たないようだ。俺も変に思われないよう、この世界ではシゲトと名乗ることにしておこう。

「シゲト殿にフー太様ですか。水と食料をありがとうございました。おかげさまで命拾いしました」

「………………」

 フー太だけは様付けなんだなと思いながら、とりあえず彼女はこちらの世界で初めて会った人物だ。いろいろと情報を聞いておきたい。

「それで、ジーナさんはどうして水や食料を持たずにあんなところへいたんだ?」

「私のことは呼び捨てで大丈夫です。実は森で狩りをしていたのですが、そこで道に迷って、荷物を失いました。なんとか森の外に出て村までの道を見つけることができたのですが、すでに体力は限界でした。そこに得体のしれない魔物が高速で近付いてきたので、とっさにナイフを投げてしまいました。本当に申し訳ありません!」

「なるほど、そういう事情だったのか。確かにいきなりあんなのが目の前に出てきたら驚くよな。それにお腹が空きすぎて冷静な判断なんかもできていなかったんだろ。とりあえずジーナの事情は分かったよ。こちらに攻撃してきたことはもう気にしなくていい」

 どうやらこのジーナというエルフさんは俺がこれから行こうとしていた村の住民らしい。森で狩りをしていたら、道に迷って数日間を森の中で過ごしたようだ。人は飢餓状態になるとまともな判断ができないと聞いている。

 そんな中でキャンピングカーが突然目の前に現れたら、いきなり攻撃を仕掛けてくる気持ちもわかる。もしかしたら食べることができる魔物かもしれないしな。

「それで……その……この見たことがない魔物はシゲト殿が召喚した魔物なのでしょうか?」

「………………」

 ジーナの視線の先にはキャンピングカーがある。さて、こいつをどう説明すればいいものか。

「ああ、その通りだよ。これは俺が召喚したキャンピングカーという魔物なんだ!」

「や、やはりそうでしたか!」

 ……信じてくれた。とりあえずそういうことにしておこう。少なくとも今であったばかりの人に別の世界から来たことやキャンピングカーの能力のことを話すつもりはない。まあ、フー太は普通のフクロウだと思っていたからノーカンだな。

「その証拠に……ほら、これでどうだ!」

「きっ、消えた!? す、すごい! これが召喚魔法なのですね、初めて見ました」

 俺がキャンピングカーに手を触れると、キャンピングカーの車体が一瞬で消えた。

 これは2ポイントで拡張した『キャンピングカー収納』である。朝出発をする前にいろいろと試してみたが、この機能は予想通りキャンピングカーを収納できる機能だった。

 異世界の村や街へ行く時にこんなに大きな車体があると目立つからな。いや、目立つどころかそもそも村や街に入れない可能性が高いから、これも必須の機能と言えるだろう。

 これで使用したポイントはナビゲーション、ガソリン自動補給、水自動補給が各1ポイント、車体強化とキャンピングカー収納が2ポイントずつで合計7ポイントになった。残りの3ポイントは何かあった時の緊急時に使う予定だ。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

彼とプリンと私と。

青春 / 完結 24h.ポイント:28pt お気に入り:21

転生少女は異世界でお店を始めたい

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:2,456pt お気に入り:1,715

聖女を愛する貴方とは一緒にいられません

恋愛 / 完結 24h.ポイント:930pt お気に入り:2,419

落ちこぼれの貴族、現地の人達を味方に付けて頑張ります!

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:71pt お気に入り:70

処理中です...