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第54話 黒狼族
しおりを挟む「その黒狼族というのは何か問題がある種族なんですか?」
「いえ、問題というわけではないのですが……実際に見てもらうのが早いでしょうね。おい、コレットを連れてきてくれ」
「あ、ああ」
「あ、あの……コ、コレットと申します」
しばらくして村の人が連れてきたのはまだ小学生高学年くらいのまだ幼くて可愛らしい少女だった。黒狼族という名の種族の通り、くせっ気のある長い髪、頭からぴょこんと生えている耳、後ろから生えているモフモフとした尻尾はすべて真っ黒である。
ロッテルガの街にも獣人を見かけたが、もっとモフモフとした毛深い獣人さんだった。コレットという名前のこの子は全然毛深くなく、普通の小学生が犬……じゃなかった、狼のコスプレをしているようなそんな姿だ。
「この子の何がまずいんだ?」
確かに少し服や髪なんかは汚れているとは思うが、可愛らしい顔立ちをしていてなんの問題もないようにも見える。
もしかして、狼ということだし、フー太が食べられてしまうということだろうか? 確かにそれはかなりの問題だ。
「……えっと、お客様はこいつの姿を見ても何も思わないのですか? この不吉な黒色をした耳や尻尾をした黒狼族という不吉の象徴のような種族ですよ?」
「いえ、特には……それを言ったら、俺も黒色の髪と瞳の色をしていますし」
「お客様のような人族ならばまったく問題ないのですが、獣人で黒色の毛色なのですよ? この辺りの地方では黒色の毛色をした獣人、特に黒狼族は不吉の象徴とされているのですが……」
よく分からないが、この地方では黒い毛色をした獣人は良く思われていないらしい。なんでだろう、普通に可愛らしい少女に思えるけれどな。
「……ジーナとフー太はこの子に案内をしてもらうのは嫌だったりする?」
小声でジーナとフー太にも聞いてみた。
「私はまったく問題ありませんよ。ハーキムの村にはそんな風習はありませんでした」
「ホー!」
フー太も首をブンブンと振って否定してくれた。
「それじゃあこの子に案内をお願いします」
たとえこの地方では不幸の象徴であったとしても、異世界からやってきた俺にとっては関係のないことだ。
……まあ、同じ黒い髪の色をしているこの子への同情心がないわけではない。たぶん案内をしたら歩合制みたいなシステムなのかもしれないしな。
「わ、分かりました。案内料は本来銀貨3枚ですが、銀貨1枚で大丈夫です。その代わりに案内中何か起こったとしても、こちらは責任を取れませんので、ご了承ください」
「……分かりました」
銀貨1枚を村の人に渡す。
どうやら、この村の人たちはこの子にあまり良い感情を持っていないようだ。なんだかこういうのは嫌だな……
「あ、あの! この度はありがとうございます! 精いっぱいご案内させていただきます!」
フェビリーの滝を目指して、森の中に入ったところで、コレットちゃんが頭を下げてきた。
「ああ、気にしなくていいぞ。それよりも村ではいつもあんな感じで扱われているのか?」
「は、はい。でもみんなにそう言われても仕方がないんです……お父さんは数年前に病気で死んじゃって、僕ひとりだけ生き残っちゃって……」
途端にコレットちゃんの表情が曇る。どうやらこの子の父親は病で亡くなってしまったようだ。ひとりということは、母親はそれよりも昔に亡くなっていたということだろう。
「大変だったのだな……それにしても、いくらこの地方では不吉だからといって、村の者たちはこんなに幼くて可愛い子を邪険に扱うなんてひどい連中だ。私はそんな噂のようなものは信じていないから安心するといい」
コレットちゃんの頭を撫でながらそんなことを言うジーナ。
コレットちゃんと同じように村で育って、同じように母親を病で亡くしたジーナには思うところがあるのだろう。ハーキム村でジーナはとても大切に育てられていたようたけれど、どうやらこの子は違ったようだ。
確かにこの異世界のような文明レベルだと、悪いことが重なってしまうと、何かのせいにすることはあるのかもしれない。それが今回はこの子の黒狼族という種族だったのだろう。
ここは異世界だし、もしかしたら本当に不幸を呼ぶような魔法や呪いみたいなものが存在する可能性もゼロではないが、そんなものがあればもうとっくにあのフェビリーの村がどうにかなっている気がする。それに黒狼族を不幸の象徴としているのはこの地方だけらしいし、おそらく迷信に違いない。
「は、はい! ありがとうございます!」
コレットちゃんの表情が少し明るくなった。やっぱりこの年頃の女の子は笑顔の方がいい。
「私はジーナだ。案内をよろしく頼む」
「俺はシゲトでこっちはフー太だ。よろしくお願いするよ」
「ホー♪」
「ジーナお姉ちゃん、シゲトお兄ちゃんにフー太様ですね、よろしくお願いします!」
……うん、お兄ちゃん呼びはなんだかむず痒いものがあるが、それほど悪い気はしないな。おっと、俺は別にロリコンというわけではないのである。
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