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第57話 分かりやすい反応

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「ええ。これほどの綺麗な景色を見たのは生まれて初めてです」

「ホーホー」

 ジーナもフー太もこれほどの雄大な自然を見るのは初めてのようだ。俺もここまで立派な滝を見たのは前世を含めて初めてである。

「それにどのホットサンドもとてもおいしいです。本当にシゲトは料理が上手ですね!」

「ホー♪」

「気に入ってくれたようなら良かったよ。多めに作ってあるからたくさん食べてね」

 くうううう~

「わわっ!?」

 俺たちがホットサンドを食べていると、横に座っていたコレットちゃんから可愛らしいお腹の音が鳴った。

 俺たちがおいしそうにお昼を食べているのを見て我慢ができなくなったんだろうな。やっぱりお腹が空いていないというのは嘘のようだ。

「はい、コレットちゃんもせっかくなら食べてよ」

「え、えっと、僕は大丈夫ですから!」

 お腹を押えながらブンブンと頭を振るコレットちゃん。もしかすると村の人たちにお客さんからご飯を貰ってはいけないと言われている可能性もあるな。

「コレットちゃんが案内してくれたおかげで、ここまで無事に楽しく来られたから、チップ代わりに受け取ってほしいな。それに多く作り過ぎちゃったから、もしかすると捨てなくちゃいけなくなるかもしれないんだよ」

 実際には余ってもキャンピングカーに収納して保存しておけば、またお腹が空いたときに食べることができるのだが、こうでも言わないとコレットちゃんは受け取ってくれなそうだ。

「……本当にいいんですか?」

「うん、もちろんだよ。もしもお客さんから食べ物をもらっちゃいけないとか言われているなら内緒にしておくよ」

「……あ、あの! それじゃあひとつだけいただいてもいいですか!」

「ああ、もちろん。こっちのジャムのやつが甘くておいしいよ」

 ジーナもそうだったが、こちらの世界の人はあまり甘いものを食べたことみたいだし、この果物のジャムのホットサンドがいいかな。

「……っ!? あ、甘いです! こんなに甘くておいしいパンは初めて食べました! 焼かれたパンはサクサクしていて、中にとっても甘い果物が溢れてきます!」

 ジャムのホットサンドを一口食べると、キラキラとした目で食べかけのホットサンドを見つめ、そのあと一瞬でジャムのホットサンドを食べ尽くした。黒いモフモフとした狼の耳がピーンとなって、立派な黒い尻尾をブンブンと振るコレットちゃん。

 ものすごく分かりやすい反応をしているな。獣人の感情は耳や尻尾で丸わかりなのかもしれない。

「気に入ってくれてよかったよ。それじゃあこっちのホットサンドも食べてみて」

「あっ……え~と、こんなにおいしいパンをそんなにいただくわけには……」

 また遠慮をしているようだ。まだ俺たちを警戒しているのだろうか。それとも案内をしたお客さんから食べ物をもらうことに慣れていないのかな?

「この料理は今回初めて作ってみたんだ。いろんな人から味の感想をもらいたいから、ぜひ食べてみてよ」

 今度はディアクの生姜焼きホットサンドをコレットちゃんに押し付けるように渡す。こうでもしないと受け取ってくれなさそうだ。

「……本当にありがとうございます!」

 そう言いながらコレットちゃんは俺が差し出したホットサンドを受け取ってくれた。

「っ!? こっちのパンも本当に美味しいです! お肉がとってもおいしいし、今まで食べたことのない味が付いています!」

 さすがにこっちの世界に生姜焼きのタレなんてないだろうし、ディアクの肉も高級肉だからな。さっきのジャムのホットサンドと同じくらい美味しそうに食べてくれている。

「最後はこっちのホットサンドだよ」

「……あ、ありがとうございます!」

 最後のポテトとほうれん草ソテーのホットサンドはすんなりと受け取ってくれた。

「こっちのパンも美味しいです! お野菜にとっても美味しい味が付いています!」

 こちらのホットサンドもとても美味しそうに食べてくれるコレットちゃん。しかし、耳は先ほどよりもピーンと張っておらず、尻尾の振り方はさっきよりも勢いがなかった。

 どうやらこっちのホットサンドよりもさっきのジャムのホットサンドと生姜焼きのホットサンドのほうが気に入ってくれたようだな。う~ん、なんとも分かりやすい。

「コレットちゃんはこの中だとどれが一番好きだった?」

「……えっとこっちのお肉のと甘いのがとっても美味しかったです」

「ふむふむなるほど、とても参考になったよ。やっぱりジャムと生姜焼きがいいみたいだね。それじゃあこっちは感想を教えてくれたお礼だよ」

 リュックの中に入れていたクッキーを取り出す。もしかしたらこの村で何かの交渉ごとに使えるかなと思って持ってきておいてよかった。

「これはクッキーっていうんだ。数日間は持つと思うから、お腹が空いたら食べてね」

「えっ!? いいんですか!」

「ああ。その代わりに帰りも案内をしっかりと頼むよ」

「は、はい! シゲトお兄ちゃん、精一杯頑張ります!」

 うん、やっぱり子供は笑顔が一番である。
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