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第8話 治療士の現状

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「さて、困ったことになったね……」

 俺と蒼き久遠の3人はまたギルドマスター室に戻ってきた。あのあと、大騒ぎになった冒険者達をターリアさんが一括し、俺が治療士であることを大々的に言いふらさないことと、もし俺にちょっかいを出したら、即座に冒険者の資格を剥奪すると厳命が下った。

「すみません、できるだけ俺が治療士であることを秘密にしておくと言われたばかりなのに……それに治療費のこともまだ決めていないのに、勝手に後払いにしてしまって……」

「いや、ソーマが謝ることなど何ひとつない。困ったのはソーマが治療士であることが大々的に広まって、狙われる可能性が上がってしまったことだけだ。

 まずはメナスのやつを助けてくれて本当に感謝する。あれほどの大怪我だ、ソーマがいなければ間違いなくあの世行きだったさ。あの馬鹿も本当に運がいい」

「そうだぞ! あれだけの大怪我を傷ひとつなく治したんだ、本当にすごかったぞ!」

「ああ、あんな怪我ポーションじゃ絶対に治らなかったからな! すげえ力だった!」

「みなさん……」

 これだけ褒められるとちょっと照れてしまう。俺というよりはジョブのおかげなんだけどな。

「……そう、あの姿はまさに黒髪の天使!」

「フロラ、それはマジでやめて!」

 男に天使の呼び名はSAN値がガリガリ削れていくから本気でやめて!

「そういえばソーマ、体調は大丈夫かい? 普通の治療士なら、あれだけの大怪我を治したらかなりの魔力を消費しているはずなんだがね」

「いえ、全然大丈夫そうですけど」

 確かにターリアさんの親指を治した時よりも、多少は魔力というものを使ったような感覚はあったが、まだまだ何度も回復魔法を使えそうだ。

「ふむ、さすが治療士の上級職である男巫おとこみこといったところかね」

 ……本当はその最上級職の聖男せいだんなんだよな。しまったな、言うタイミングを完全に逃してしまった。

「そういえばこの国の通貨について教えてくれませんか。あと治療士の治療費の相場ってどれくらいなんでしょうか?」

「ああ、まだ教えていなかったね。この国では白金貨、金貨、銀貨、銅貨が通貨として使用されている。相場としては小さなパンが銅貨1枚、そこそこいい食事が銀貨1枚、そこそこいい宿が金貨1枚といったところか。銅貨が10枚で銀貨1枚、銀貨10枚で金貨1枚、白金貨に関しては金貨100枚で1枚の価値になる。市場で服を買う時に確認しておくといい」

 ふむふむ、本当に大雑把だが銅貨が100円、銀貨が1000円、金貨が10000円、白金貨だけ100倍の100万円といったところか。

「……治療士の治療費についてはそれぞれの治療士によって異なる。治療費はそれぞれの治療士が自由に定めて良いこととなっている。このあたりにいる唯一の治療士は一回の治療で白金貨2枚だ」

「白金貨2枚!?」

 さっきの相場の話だと約200万円!? そりゃさっき治療した人が払えないから許してくれと言うわけだよ。

「さすがに高すぎませんか? そんな治療費で治療を受ける人なんているんですか?」

「ああ、山ほどいる。だがその治療を受けられるのはこの街の貴族、有名な商人、一部の金を稼いでいる高ランク冒険者くらいでなければ治療を受けられん」

 なるほど、簡単にいうと金持ち以外はお断りというわけか。それでもこのあたりにたった1人しかいない治療士だし、この危険な世界では需要があるのだろう。

「それとお金がない者でも容姿が優れている女性で、やつが気に入ればその貞操を差し出すことにより治療を受けることもあるらしい」

 な、なんと羨ま……いや、けしからんやつだ! いかん、つい心の中で本音が漏れてしまった。

「……そんなことが許されているんですか?」

「そうだな。治療費はそれぞれの治療士が決めることとなっている。そしてその治療費に双方が納得しているわけで、無理やり貞操を奪っているわけではない。それに女の貞操なんてそれほど価値のあるものでもない」

 あ、そうか。そういえばこの世界は男の貞操のほうが価値があるんだっけか。でも大きな怪我と引き換えなんだから、そんなの脅迫しているのと同じようなもんじゃないか。

「本当に顔だけじゃなくて性根まで腐っている男だよ! ……おっと、今のは忘れてくれ。それに高額とはいえ、ポーションでは治せないような傷を治せるんだ。治療費が高額になってしまうのも無理のないことではあるさ。

 ……ソーマに無理を承知でお願いしたい。他の街の治療士であれば治療費は白金貨1枚ほどの者が多い。どうか治療費は他の治療士と同じ白金貨1枚にするか、先程の者のように後で支払うことを認めてほしい。それが可能になるだけで、より多くの人達の命が助かるはずなんだ。

 もちろん金の回収については冒険者ギルドでも責任を持って手伝うし、補填もしよう。だからどうかよろしく頼む!」

「私達からもよろしく頼む!」

 ターリアさん、そして3人も俺に向かって頭を下げてくる。

「……わかりました。それでは俺の治療に関してはいくつかの条件を付け加えることにします。まずひとつ目、もしもニホンという国の情報を知ったら、俺に教えること」

 もう帰れない可能性は高いが、魔法があるような世界だし、元の世界に帰れる可能性も0ではない。一応集められる情報は集めておきたい。

「そして2つ目、もしも俺に困ったことが起きたら、できる範囲で構わないので力を貸してくれること」

 もちろんお金も生きていく上では非常に大事だ。だがこんな世界だし、お金で解決できないような問題もたくさんあるに違いない。簡単にいうとひとつ貸しということだ。

「そして最後に治療費は……」
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