小説 ひとり親物語

蔵屋

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第二章

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師走に入ったある朝、息を吐いたら白かった。今朝の気温は0度であった。最近は便利な世の中だ。iPhoneのアプリで『天気』をクリックするとすぐに開いて晴れマークを見て、最低気温と最高気温がすぐに分かる。
ゴミ袋を片手にアパートの外廊下を歩きながら、寒さの為に前屈まえかかまみになって、首をぎゅっと縮める。
周囲はまだ薄暗い。
早起きがとても辛く感じる季節になってきた。なかなか布団から出るのも億劫おっくうだ。
もっとも、寝起きの悪い結衣は、早起きは「辛い」か「とても辛い」かのどちらかである。
1階に設置されているアパート専用のゴミステーションが混沌こんとんとしていた。
今日は『プラ』しか出してはいけないはずなのだが。
そんな事はみんなお構いなしの様子で、宅配ピザの箱とワインの瓶や缶ビールの空き缶が同じ袋に押し込まれ、捨てられていた。
分別と騒がれているのに、なぜ分別をしないのだろうか?と、ふと不思議に思った。
住人の誰かだろうが?。一足早ひとあしはやいクリスマスパーティーでも催したのだろうか?
分別を知らないゴミ袋の隣に、これまた、本の束がビニール紐で縛られていた。
その本の表紙には『絶対合格する 司法試験過去の問題集』と書かれていた。
「おはようございます」
振り返ると、スーツケースを引いた男の人が立っていた。
隣の部屋に住んでいる男性だった。
スーツケースにはゴミのシールが貼ってある。
早めに大掃除をしているのかもしれない。
「引っ越しするんですよ。だから荷物の整理をしてるんです」
無意識のうちに、スーツケースを見つめていたらしかった。
隣の人が弁解するように肩を縮めた。
「そうなんですか。それは大変ですね」
それは大変ですねと言ったが、その後の言葉が出てこない。こういう場合、どのような言葉を出したら良いのだろうか?
「大変ですね。年末なのに」
「そうですね。まぁ、引っ越しは1年中大変なんで。サラリーマンの宿命ですよ」
「転勤なんですか?」
「そうなんです。この時期に転勤なんて、私に対する嫌がらせかもわかりませんね」
「まぁ、そんな事はないでしょう」
「だったらいいんですけど。サラリーマンは辛いですよ。釣りバカ日誌のような浜ちゃんになりたいですね」
その男性は、駅のほうに向かう後ろ姿が見えた。ご近所付き合い的なものは一切していなかったので、名前すら分からない。
しかし、隣の人がいなくなると思うと、なんとなく寂しいような気がしなくもない。
「住友さん、おはよう」
大家さんが、ゴミ袋を片手に現れた。
本の束を見て、「あらまっ!」と片方の眉が跳ね上がる。
「それ捨てたの、私じゃないですから」
「それは分かってるんだが」
ゴミ袋、どっさりと置いて、大家さんが私を振り返った」
「すずちゃんは?」
「まだ寝てます」
「そう」
と大家さんはうなずいた。
「今は一番可愛い時よね。すずちゃんはおとなしいけど、ちゃんと挨拶出来るよ。会ったら必ず挨拶するよ。お母さんの教育がいいからよね。ほらよく言うでしょ。子供はお母さんの鏡だって。このままずっとお母さんを見ながら育つのよね。特に女の子だから。私も女の子が欲しかった。男の子ばっかり3人。もうみんな成人して、この家にも寄り付いてくれない。みんな独身なんで心配だわ。誰か結婚でもしてくれて、早く孫の顔が見たいのに」
大家さんは、私にそう言うとアパートに隣接する自分の住宅に帰っていった。
もうすぐ、クリスマスがやってくる。



毎年、すずはクリスマスを楽しみにしている。なぜなら、クリスマスイブの日に、美味しいデコレーションケーキを食べて、美味しいファーストフードのフライドチキンを食べて、そしてすずの大好きなクリームシチューを食べることが出来る。
そして、朝、目が覚めたときには、いつも枕元にサンタさんが持ってきた赤い大きな長靴が置かれている。
しかも、その大きな長靴の中には、たくさんのお菓子や、ファミコンのゲームのカセットが入っている。
すずは、いつも大喜びだ。
必ず、すずは私にこういうのだ。
「サンタさんて、私が欲しいもの、なぜわかるのかなあ?すごいわ。サンタさんは幼稚園の先生が言ってたけど、サンタさんは天から降りてくる天使なんだって」
すずは、まだ小学1年生です。しかも7歳になったばっかりです。
すずの夢を壊すことがないように、結衣はいつも次のように話している。
「そうだよ。サンタさんは、トナカイに乗った天使なんだよ。天から降りて来るんだよ」
この話は、去年のクリスマスの話である。
去年は大雪であった。
『今年は、雪は降るのだろうか?』
結衣は、空を見上げるのであった。
まだ周囲は薄暗い。

to be  continued

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