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幕間・この世界の神話

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※ここは、読まなくても特に困りません。
一応、この世界の人が普通に知っているお話、的に捉えていただけるといいかと思います。

 ☆☆☆

かつて、世界は3人の神によって作られた。
兄クロムは大地を作った。
弟フォルタンは炎を作った。
妹アルマは水を作った。

大地と水は草花を生んだ。
水と炎は雲を生んだ。
炎と大地は金属を生んだ。

最後に、土を水で練って炎で焼いたものに、命を吹き込んで人と動物たちが生まれた。

大地は生き物たちをかいないだ
炎は空から大地を照らし
水は全てを優しく潤した。

どこからか、なかったはずの闇が生まれた。
闇は神たちと同じ姿をとり、唯一違うのは背中にふたつの翼をもっていたことだった。
闇は自身をシルブレードと名乗った。

シルブレードは世界に闇の種を撒いた。
それは人の心に根付き、芽吹き、争いの花を咲かせた。
人々は争い、世界に憎しみと悲しみが生まれた。

「一度全てを焼き尽くそう」
フォルタンは言った。

「そして新しく作り直そう」
クロムは言った。

「いいえ、それはいけません」
アルマはそう言って、涙を流した。
涙は光の種となり、それは世界に降り注いだ。
光の種は人の心に根付き、芽吹き、愛の花を咲かせた。
人々は愛し合い、世界に喜びと幸せが生まれた。


「だが、これで人は心に、光と闇を併せ持つ存在となった。
この先も彼らは、光と闇、その二つの心の間で揺れ動き、苦しむだろう。
その苦しみを与えたのはアルマよ、貴女だ」
シルブレードの言葉に、アルマは悲しげに、それでも微笑んで答えた。

「それでも、人は最後に光を求めるのです。
心の闇を知ることで、光はますます強まりましょう。」

「わからないのか。
光と闇を併せ持つ、人は全て、貴女と私の子だ。
私と貴女が結ばれれば、世界は全き平穏を取り戻そう。
アルマよ、私のものとなれ」
シルブレードはそう言って、アルマを抱き寄せようとした。
アルマは首を横に振って、その腕から逃げた。

「お断りいたします。
争いと憎しみを糧とする者と、結ぶ事はできません」

「いずれ必ず、貴女を拐いにゆく」
シルブレードはそう言って飛び去った。

兄神たちは一計を案じた。

雲をたくさん作り、雨を降らせた。
空の炎が、それを照らした。
それは七色に輝くヴェールを生み、それをアルマに与えた。

シルブレードはその姿を見て、美しいと思った。
アルマのことをますます欲しくて、たまらなくなった。
そしてある日、兄神のもとにひとりで向かう、七色のヴェールを纏ったアルマを見つけて、彼女を拐おうと、翼をはためかせて空から降りてきた。

その瞬間。
アルマのふりをしてヴェールを被っていたフォルタンが、シルブレードの片方の翼を、剣で斬り落とした。
飛ぶ力を失い、大地に叩きつけられたシルブレードは、クロムの編んだ草の籠に閉じ込められた。

「私にはもう、闇を撒く力はない。
すべての力を失ってしまった。
けれど、その私の心になお残る、この温かいものはなんだ。
アルマの顔が見たい。声が聞きたい。
そんな事はもはや、叶わぬというのに」
力を失い、もはや消えるばかりだったシルブレードの悲しみの声は、アルマの心に響いた。
アルマは兄神たちに、シルブレードを助けるよう懇願した。
兄神たちは、悩んだ末にこう言った。

「シルブレードがこの世界に、必要なものを作って捧げたならば、我々はあの者を、神の一人として認めよう」

シルブレードはそれを聞くとフォルタンに、自分に残ったもう一つの翼を斬り落とすよう頼んだ。
フォルタンがそのようにすると、シルブレードはそれを材料にして、風を作って世界に捧げた。
更に、先に切り落とした翼は、天に投げて欲しいとシルブレードが頼むと、クロムはそのようにし、翼は天に登ると、空の炎とともに大地を照らした。

風は種を、そして雲を運んで、雨と実りを全ての大地に届けた。
天の炎は太陽に、天の翼は月となり、昼と夜が生まれた。
昼は暖かな光を、夜は眠りによる安らぎを、世界にもたらした。

世界は、4人の神によって作られたという。


マーメイド書房刊「四神創世神話」(ライブラ王国国立図書館所蔵)より










この物語は、この世界の女の子たちに、世界最古のラブストーリーとして認識されています。
物語の舞台となるライブラ王国はアルマを主神とし、隣国のバルゴ王国は、その恋人であり夫であるシルブレードを主神とします。
更に、今は滅びた東の国と、その周辺の島国に、フォルタンを主神とする国がありますが、クロムを信仰する国は現在はありません。
現在スコルピオ帝国と名乗る国は、かつては集落が点在する広大な土地で、そこで細々と信仰されていたのですが、ある時、空から落ちてきた星によって、その土地の生き物は全て死に絶えたと伝えられており、今ではその『落つる星』が、帝国では神格化されて信仰対象となっています。
ちなみに星が落ちた場所が現在の帝国の首都であり、名を『クレート』といいます。
世界観の参考までに。


※本日18:00、次話投稿予定。
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