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母と子③

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 お菓子をお供えしてりつは言う。
「ラムレーズンのパウンドケーキ。お母さんの分もあるから、後で食べよう?」
「りつ、いつの間にそんなの作れるようになったの?この前のブラウニーもとっても美味しかったけど」
「土日とか、することなくて、図書館でレシピ本借りて作って見たの。家にある材料で出来たし。このラム酒は戸棚の奥のお父さんのやつ」
 言い訳は、だいぶ前から考えてあった。
 今回のは作ったのは時の館でだが、前回は休みの日に自宅で作ったし、全くの嘘でもない。
「すっかりお姉さんになったのね」
「そうだよ。もう2年も経ったんだから……」


 2年前、りつの父は交通事故で亡くなった。
 その日はりつのピアノの発表会の日だった。
 発表会に向かおうと、車を運転している時に居眠り運転のトラックに突っ込まれた。即死だったそうだ。
 りつとりつの母親の元に訃報が届いたのはりつの演奏が終わった直後。
 そこから数日の記憶はりつには無い。
 慌ただしく葬儀が過ぎ、気がついた時には全て終わっていた。
 がらんと広くなった家で、抜け殻のように数週間2人は過ごした。

 小学3年生。まだまだ親に甘えていい年頃。
 ただ、幸か不幸か、りつは聡かった。
 現実に戻った母親が、朝から晩まで働き出したのを見て、一家の大黒柱を失ったことの意味にりつは気づいた。

 だから、お金のためにも、嫌な記憶を思い出させない為にも、りつはピアノを辞めた。

 そして数週間ぶりに学校に戻った時、りつの友人はりつを腫れ物のように扱い、りつ自身も1人を好むようになった。
 それ以来りつはずっと1人で日々が過ぎるのを待っている。


「りつ、最近変わったわね。いつからかな?戸棚の中にあったインスタントのスープとかが減るようになって、たまに食材も減ってる。料理するようになったのかな?と思ったら今度はお菓子作り。
そして何より、笑うようになった。今日りつの笑顔を見るまで、お母さん全然気づかなかったの。
りつが今まで笑って無かったことに。お母さん失格ね」
「そんなことない!」
「りつはちゃんと変わって成長してる。だから、お母さんも変わらなきゃね」

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