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10:epilogue

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 大陸一の栄華を極めた帝国の、若き皇帝の傍らに立つ女神と見紛う美しき皇妃。
 シャス王国の由緒ある公爵家と正当なる王家の血を引く姫君は、愛の女神アディーラの祝福を賜った唯一の正妃。
 優秀な後継者として幼少より国民に期待されていた現皇帝の、たった一人の最愛。
 留学先である王国で出会い、愛の女神の祝福を賜った婚約期間を経て、帝国の大聖堂にて盛大な結婚式を行ったのは帰国してから一年後。
 国中の祝福を受けての婚姻は、愛の女神をはじめとする神々の祝福を受け、帝国の栄華を約束された。

「皇帝陛下と並ぶ皇妃陛下は、まさに一対という言葉がふさわしい」

 婚姻から早五年。
 三人の皇子に恵まれた二人は、即位の儀を経て皇帝と皇妃に立場を変えた。
 国は安定し次代の心配もない帝国は、賢帝となるであろう皇帝と、その皇帝を一途に支える皇妃によって正に栄華の時を迎えている。
 バルコニーへと出てきた二人の姿に熱狂する詰めかけた国民たち。
 口々に祝いの言葉をつく民たちに、二人はにこやかに手を振り返していた。

「シャス王国からは、国王自らが祝福に来たとか」

 居並ぶ大臣の一人から漏れた言葉に、周囲の大臣たちは不快を露わにする。
 当時、まだ皇子であった皇帝がシャス王国の公爵令嬢であった皇妃を娶るために行った両国を巻き込んだ求婚は、王国第二王子の愚行と共に話題となった。
 愚かな無能者の犠牲者であった美しき公爵令嬢を見初めた帝国の次期皇帝が、神々を味方につけ愛する令嬢を得るさまは物語に舞台にと姿を変えて民にまで浸透している。
 そんな二人の祝儀に、諸悪の根源ともいえるシャス王国の国王が自ら赴いてきたというのだから驚きである。

「無能者を排除し、皇妃陛下のご実家を帝国領としたことで贖罪が済んだとでも思っているのでは?」

 愚かな王家は、代が変わっても愚かなままか、と嘲笑を隠さない大臣たちの様子に、周囲の貴族たちも苦笑する。
 皇妃の両親である公爵夫妻も楽し気に笑っていることから、場の空気が悪くなることはない。

「私の即位を区切りに、併合の申請があったので許した」

 口々に王国への不満を言う貴族たちにかけられた、皇帝の声。
 ソレに、集まっていた貴族たちは一様に首を垂れる。

「シャス王国はイファ帝国の領地となり、シャス領へと名を変える」

 最期の王となる国王は一領主として臣下に降り、その血を繋ぐことはない。
 シャス領は皇妃の直轄地となり、その全ては皇妃のものとなる。
 決定事項として伝えられたソレに、貴族たちからの不満はない。
 皇帝即位の日に帝国の領土が増えるという慶事は、治世の繁栄が約束されたようなものなのだから。



「やはり無能の子は無能であったか」

 ぽつりと漏らされた皇帝にの言葉を聞いた者は、傍らに立つ皇妃のみ。
 愚者たちが処刑されたその時から、王家への忠誠など無くなって。
 臣下や民たちが統治者として戴いたのは、公爵夫妻たちだった。
 その時から決められていた併合の話。
 すべてを失った王族に、生きている価値はない。

「愚者は不要ですもの」

 やっと解放されたのだから、後は幸せになるだけと。
 全ての憂いを取り除いた皇妃はその美貌をなお輝かせ、最愛の夫である皇帝に寄り添う。
 晴れやかな笑みを浮かべる最愛の妻の姿に、皇帝は満足気に頷いた。

「全てはヴィアのモノ。後は好きにするといい」

 過ぎし日の約束通り、王国は正当なる後継者の手へと戻った。


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