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蜂蜜の思い出【1】
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山羊のミルクを火にかけて温め、レネに手渡した。受け取ると、手の平で包んで息を吹きかけている。
鼻を近づけると、はっとしたようにユシウスの方へ顔を向けた。
「蜂蜜を入れました。レネ様、飲み物は甘いのがお好きですよね」
「そうでもありません」
なんで嘘吐くんだろう。くすくす笑っていると、レネの声に不機嫌が混じった。
「蜂蜜は高価でしょう。わたくしのために不要なものを買うのはおよしなさい。……ちゃんと食べているのですか」
ユシウスはぱちりと瞬きした。すぐに、自然と笑みが浮かんできた。むすっとした顔の魔法使い様は暖炉横の揺り椅子の上で毛布にくるまっている。冬の間、備蓄の準備や片付けものをしているユシウスの傍で丸くなっているレネは本当に猫みたいだ。
火の熱が恋しいだけだと分かっていても、まるでユシウスの傍にいたがってくれているようで、顔が緩んでしまう。
「考えすぎですよ。保存食を作るときに便利だから買ったんです。別にレネ様のためにじゃないですよ」
しかめ顔で、さらに唇を尖らせているのがおかしい。自分の顔がそうなっていることに気付いてないのだろうか。表情の変化がいちいち丸分かりだ。
「それに、レネ様よりしっかり食べてますよ。だってそうしないと、うたた寝したレネ様を抱っこしてお部屋に運べないし」
実際、出会った頃に比べると、自分でも背が伸びて肩幅も広くなった気がする。今ではもう、身長がレネの肩に届くくらいまでになった。
「そうですか……腹を空かせていないなら良いのです。わたくしの家に置いてやっているのに、飢えさせているなんて外聞が悪いですから」
両手で持ったカップに口をつけ「熱い」と文句を言った。
ユシウスはレネの手からカップを取り上げると、自分の息を吹きかけて冷ましてやった。
「そういえば、俺が子供の頃、蜂蜜を取ろうとして崖から落っこちたことがありましたね」
まだ体が小さくて、この家に来て一年と少し経たった頃だった。森の外で毒矢に射られるより少し前の事だったと思う。
「子供なのは今も変わりませんが」
レネはすぐに記憶が蘇ったようで、当時を思い返して大きなため息を吐いた。
「夜になっても帰ってこないから、お前が逃げ出したのかと思いました」
「あの時のレネ様、ものすごい怖かったですもんね。俺、とっさに隠れちゃいましたもん」
それがいけなかった。探しにやってきた自分から隠れようとしたユシウスに気付いて、レネの周りに生えていた草木に一斉に霜が降りて凍り付いたのを覚えている。
今だから笑い話になるが、当時は本当にレネに絞め殺されるんじゃないかと思った。
「一年近く一緒にいたのに、まだ逃げると思われてたなんて。レネ様は疑り深いなあ」
当時のユシウスが今の自分の軽口を聞いたら卒倒しそうだ。
「一年近く一緒にいたのに、わたくしを不安にさせたお前が悪いのです」
レネはフンと鼻を鳴らした。どうやら当時を思い出して苛立っているようだった。
「せっかく見つけてやったというのに、森の中をちょこまかと逃げるから、わたくしの手間が増えました。どうせ逃げれるわけもないのに」
「いや、だからあれは逃げたんじゃなくて」
ユシウスは苦笑した。蜂の巣を探しに走ったのだ。レネに疑われたのが悲しくて、殺されてしまうんじゃないかと恐ろしくて。信じて貰おうと思って、崖から落ちた時どこかに転がっていってしまった蜂の巣を探そうと走り出したのだった。
鼻を近づけると、はっとしたようにユシウスの方へ顔を向けた。
「蜂蜜を入れました。レネ様、飲み物は甘いのがお好きですよね」
「そうでもありません」
なんで嘘吐くんだろう。くすくす笑っていると、レネの声に不機嫌が混じった。
「蜂蜜は高価でしょう。わたくしのために不要なものを買うのはおよしなさい。……ちゃんと食べているのですか」
ユシウスはぱちりと瞬きした。すぐに、自然と笑みが浮かんできた。むすっとした顔の魔法使い様は暖炉横の揺り椅子の上で毛布にくるまっている。冬の間、備蓄の準備や片付けものをしているユシウスの傍で丸くなっているレネは本当に猫みたいだ。
火の熱が恋しいだけだと分かっていても、まるでユシウスの傍にいたがってくれているようで、顔が緩んでしまう。
「考えすぎですよ。保存食を作るときに便利だから買ったんです。別にレネ様のためにじゃないですよ」
しかめ顔で、さらに唇を尖らせているのがおかしい。自分の顔がそうなっていることに気付いてないのだろうか。表情の変化がいちいち丸分かりだ。
「それに、レネ様よりしっかり食べてますよ。だってそうしないと、うたた寝したレネ様を抱っこしてお部屋に運べないし」
実際、出会った頃に比べると、自分でも背が伸びて肩幅も広くなった気がする。今ではもう、身長がレネの肩に届くくらいまでになった。
「そうですか……腹を空かせていないなら良いのです。わたくしの家に置いてやっているのに、飢えさせているなんて外聞が悪いですから」
両手で持ったカップに口をつけ「熱い」と文句を言った。
ユシウスはレネの手からカップを取り上げると、自分の息を吹きかけて冷ましてやった。
「そういえば、俺が子供の頃、蜂蜜を取ろうとして崖から落っこちたことがありましたね」
まだ体が小さくて、この家に来て一年と少し経たった頃だった。森の外で毒矢に射られるより少し前の事だったと思う。
「子供なのは今も変わりませんが」
レネはすぐに記憶が蘇ったようで、当時を思い返して大きなため息を吐いた。
「夜になっても帰ってこないから、お前が逃げ出したのかと思いました」
「あの時のレネ様、ものすごい怖かったですもんね。俺、とっさに隠れちゃいましたもん」
それがいけなかった。探しにやってきた自分から隠れようとしたユシウスに気付いて、レネの周りに生えていた草木に一斉に霜が降りて凍り付いたのを覚えている。
今だから笑い話になるが、当時は本当にレネに絞め殺されるんじゃないかと思った。
「一年近く一緒にいたのに、まだ逃げると思われてたなんて。レネ様は疑り深いなあ」
当時のユシウスが今の自分の軽口を聞いたら卒倒しそうだ。
「一年近く一緒にいたのに、わたくしを不安にさせたお前が悪いのです」
レネはフンと鼻を鳴らした。どうやら当時を思い出して苛立っているようだった。
「せっかく見つけてやったというのに、森の中をちょこまかと逃げるから、わたくしの手間が増えました。どうせ逃げれるわけもないのに」
「いや、だからあれは逃げたんじゃなくて」
ユシウスは苦笑した。蜂の巣を探しに走ったのだ。レネに疑われたのが悲しくて、殺されてしまうんじゃないかと恐ろしくて。信じて貰おうと思って、崖から落ちた時どこかに転がっていってしまった蜂の巣を探そうと走り出したのだった。
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