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【閑話】創世

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ーーーその昔、古き一柱の神が星を造った。
古き神は大海に身を沈め一つの大地となった。


その星に若き一柱の神が舞い降り、草木や星を育てる為の循環する生命を育む。

星の状態が整ってきたところで全ての元となる、劣悪な環境でも生き延びる強い生命を誕生させた。

その生命は棲家に応じた進化を遂げる。

海辺、乾いた場所、高い山々、広い草原、深い森、ぬかるんだ湿地、暑さ寒さの厳しい場所……

それぞれに応じ進化し、繁殖し増え続け、繁栄していった。

生活環境を整え、数が増えた分土地や食糧を求め、種の間に戦いが始まっていく。

戦い、奪い、滅ぼし……

戦いは大地となった古き神の身体も砕いていく。

若き神は嘆き、古き神は止まらぬ争いに怒りを覚え、その身体を海に沈め全ての命を滅した………


古き神は若き神に問う

ーーー生命を育む神になる事を辞め、命と関わりの無い神となるか、今一度やり直し主の理想とする世界を造ってみるかーーー

若き神は懸命に生きる命が好きだった。
これが最後と古き神に、初めからやり直しを願う。

古き神の身体は崩れ、大地はいくつかの大陸と島々となり、その一つの大陸に元となる命……ゴブリンを発生させる。

大陸に散ったゴブリンは進化を始めるが、ゆっくりとやり直す為に繁殖力の無い、単一の性にしか進化できない様にする。

我欲を抑える為思考も無くす。

繁殖力も思考も無い、ただ生きているだけの生命体だが、少しずつ少しずつ進化させ、種を増やし、以前より穏やかな世界となった。

そのうち、力を持たぬ劣等種が生まれたが、せっかく生まれた命だからと、力の代わりに少しばかりの知恵を与えてみる。

力をもたぬその種は酷く短命だが、集まり知恵を寄せ合い、助け合い、少しでも長く生きる為に知識を募らせていった。

食べ物を美味しく食べれる様に工夫し、急所を守る為にも動物の毛皮などを身に纏い、雨風に晒されない場所に住み、コミュニケーションをとり…

やがてその種は、他の種にはない繁殖力も手に入れる。


若き神の脳裏に浮かぶのは滅んでしまった初めての世界。
同じ道を歩まぬ様、力強き種は思考力をそれ以上伸びぬ様に、繁殖力を手に入れ知識を増やしていく種は力や体力を奪い、争いの無い世界になる様にと調整をした。


少し歪で不自然な世界……

見守る古き神はそれでも口を出さない。
世界の有り様は神の数だけ有れば良い、こうあるべきと言うものは無いと沈黙を続ける。
 

年月は流れ、世界は少し歪で不自然なまま停滞してしまう。

停滞してきた星造りの新たな一歩とし、各種族の中で一定の条件を乗り越える事により、それぞれの種族の進化種を誕生させた。

一定の条件と言うものが厳しい為、増える数は少ないけれど、ゆくゆくは別の大陸で進化種のみで世界を造らす算段だった。

しかし進化種は何故か皆、自分の拘りを追求する風変わりな者ばかりで思う様にはならない。

そのうちに力有る種が力試しと、劣種に勝負を挑む様になってきた。

思うようには進まない星造りに、これが最後と考えている若き神は古き神に助言を求める。

ーーー全く別の思考を充てがってみるのはどうだろうーーー

古き神の助言に、若き神は他の世界を覗いてみる。

成功している世界、危なき道を進んでいる世界、終わりかけている世界…
数多の世界の中で探し回る。

柔軟な思考力、多少の事には対応できる体力、優しさ、思慮深さ、冷め過ぎず、熱くなり過ぎず、バランスの良い生命力の有る者……


そして地球で一人の少年に目をつけた…………


*****


「何も説明しなかったのですね」

広い洞窟の中、目を閉じているドラゴンの目前に女神が舞い降りる。

「もっと詳しく説明するのではなかったのですか?」
ゆっくり瞼を開いたドラゴンは思念で答える。

『そうしようと思っていたのだが、過ぎ去った過去を長々と告げなくとも良いと思った』

「本当に簡単な説明しかしていないのですが、良いのでしょうか」
先程まで居た、小さな異世界の少年を思い浮かべドラゴンは笑う。

『いや、余計な過去を告げるより、彼奴には思う様にやらせる方が上手くいくだろう』
確かに大した加護も詳細な事情も伝えてはいないのに、少年は想像以上の働きをしてくれている。

「何故あれほど好かれるのでしょう」
人族も魔族も純血種、特別種まで、出会った相手は全て少年に好意的だ。

『そうだな……主が吟味して選んだ相手だから、と思っておけば良い。
彼奴なら自分で最適な行く末を見つける事だろう』
「……貴方も随分と気に入られた様ですね」
ドラゴンの言葉に少し照れた様子で女神は細やかに言い返す。

『ハハハハハ、声を出して笑ったなどいつぶりか』

顕現してからずっと世話になりきりの古き神…ドラゴンの笑い声など未だ嘗て耳にした事は無かった。

「…………今度は上手くいきますかねえ……」

女神の呟きに何も返さずドラゴンは瞳を閉じた。





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