16 / 74
1章
15.闇魔法
しおりを挟む
翌日、ニールはレオノーラの部屋にいた。
「ナオミ様は?」
「ナオミは、マナーにダンス・・教師達と缶詰だ。とにかく見た目を整えることにしたらしい。」
「成る程・・。」
ナオミは魔法など覚えるのに時間がかかるものは、一旦後回しにしたらしい。聖女お披露目の夜会まで一ヶ月を切っているのだから、当然といえば、当然だ。
「しかしなあ、時間がかかるとなると、まずい事になる。聖女召喚に大金を注ぎ込んだのに、回収出来ないとなると、主導した王宮の責任が問われる。」
(そう言えば、レオンハルト殿下のイマジナリーも"金がかかった"と愚痴を言っていたっけ・・)
「国庫の資金繰りも回復していない。だから兄上は今日も金集めに出掛けてるんだ。」
レオンハルトが公務だと言って朝早くから出掛けたのは資金集めだったらしい。
ニールはレオンハルトの苦労を思いやった。愚痴を言わなければやっていられないのに、その愚痴も他人に聞かせられない、レオンハルトの苦悩も。
(ナオミ様には早く魔法の使い方を覚えてもらわなければ!・・まずは・・レオノーラ様だ。)
魔法が使えないレオノーラが、次第に使えるようになっていく行程を見れば、ナオミにとっていい参考になるだろうとニールは考えた。
「王女殿下が使いたい魔法は何ですか?今日はそれをやってみましょう。私は幼い頃鳥が好きで、魔法で鳥を出したかったんです。」
ニールは魔法で小鳥を出した。小鳥はパタパタと飛んで、レオノーラの肩に止まり毛繕いをしている。
「魔法は想像だ。思い描いてください。レオノーラ王女殿下の実現したいことを。」
「ニール・・、私の魔力は"闇"だぞ?父や兄のように"光"じゃないから、おどろおどろしいものが出てしまうのではないか?」
レオノーラはいつもの勝気な様子を引っ込めて、肩に止まった鳥を弄っている。涙が出てしまいそうなのを隠しているみたいに。
「恐れないで下さい。闇は属性の一つだ。それに、黒くて美しいものも沢山あります。闇がおどろおどろしいというのは、それこそ想像力が足りていない。」
ニールは詠唱すると、魔法で黒い色の宝石、オニキスを出した。
「オニキスという黒い宝石は、美を司る女神の爪だと言われています。美しいでしょう?もしこの宝石を、貴方の魔力で作ったらどれだけ美しいか・・。」
「私にも出来るだろうか?」
「出来ます。私の手を握って。魔力を流してみて下さい。」
ニールはレオノーラからの魔力を待ったが、強張っているレオノーラは上手く魔力を流せないようだった。
ニールはレオノーラの肩にそっと触れて、魔力を吸い取った。
「身体の中から、魔力が出ていくのを感じませんか?この流れが、"魔力を流す"ということです。」
「・・分かりやすい、すごく・・」
すると、レオノーラから、ニールに魔力が注がれるのを感じた。
「レオノーラ殿下!ス、ストップ!大丈夫!できています!」
ニールはまさかレオノーラの前で、はしたないことになる訳には行かないと、飛び退いた。
「次は、外に出してみましょう。少しだけですよ・・?少しだけ・・小さいものをイメージしてみましょう。」
「うーん?黒くて小さいもの?」
黒くなくても良いんですよ、と、ニールが声をかける暇もなく、それは現れた。
しかも、レオノーラがコントロールを失ったため、大量に。
黒くて小さくてすばしこい、たまに飛ぶあいつが大量に!
側に控えていた召使の女が「きゃー!」と悲鳴を上げたことで、ニールは我に返った。
「レオノーラ様!落ち着いて!」
ニールは解術の魔法をかけて、黒いアイツを残らず消し去った!涙目だった召使は、ニールにグッと親指を突き出した。ニールも頷いて・・・通じ合った気がした。
「あははははっ!魔法って楽しいな!ニール!」
レオノーラは笑っていたけれど、泣いてもいた。
魔力を殆ど持たないニールは、レオノーラのこれまでの苦悩がわかった。しかもレオノーラは王族だ。
(私なんて、比べ物にならないくらいの苦労をされたはずだ。)
レオノーラは次に、黒い宝石、オニキスを出した。
レオノーラが出したオニキスは魔法としては、まだまだ未完成。でもレオノーラの涙と混ざりあって美しく輝いていた。
「ありがとう、ニール。生まれた時に"魔力なし"と診断されてから、腫れ物扱いで、誰も私に魔法を教えてくれなかったんだ。ずっと、父上、兄上が羨ましかった・・。」
「きっと、闇属性を診断していなかったのだと思います。見つけられて良かった!ヴィルトウェルの黒い宝石を!」
「・・・!!」
レオノーラは真っ赤になって肩を振るわせた。
「ニール!お前なあ!そうやって兄上を落としたな?!」
「落とした?」
「・・・ああ、タチが悪い。やはり無自覚か。」
レオノーラは、やれやれと肩をすくめた。
「ニールは大切で希少な私の魔法教師だから・・兄上とのことは、反対なんだ。
昨今の瘴気被害の影響は甚大でな、母上は自分の実家の公爵家だけでは心許ないと考えて、皇太子との結婚をちらつかせて、貴族達から資金を集めたんだ。色々な家から金をひっぱったから、あちらを立てればこちらが立たずと言った具合に、むしろその中からは正妃を選べない状況になっている。それらの貴族との約束を反故にできて、みんなが納得する結婚相手は召喚された聖女だけだ。だから・・ナオミの前世の話以前に、兄上はナオミと結婚するしかないんだ。」
「・・・。」
「ニール・・その眼鏡でも隠せないくらい、そんな顔をして・・。でも今の方がまだ、傷は浅いだろう?純潔を失う前に、やめておけ。」
「じゅんけつ・・?」
「そこから?!」
ニールはレオノーラの言葉を反芻すると、目の前が暗くなったような気がした。
(・・でも、本当の気持ちに気がつかないでいれば、このままでいられる。)
「ナオミ様は?」
「ナオミは、マナーにダンス・・教師達と缶詰だ。とにかく見た目を整えることにしたらしい。」
「成る程・・。」
ナオミは魔法など覚えるのに時間がかかるものは、一旦後回しにしたらしい。聖女お披露目の夜会まで一ヶ月を切っているのだから、当然といえば、当然だ。
「しかしなあ、時間がかかるとなると、まずい事になる。聖女召喚に大金を注ぎ込んだのに、回収出来ないとなると、主導した王宮の責任が問われる。」
(そう言えば、レオンハルト殿下のイマジナリーも"金がかかった"と愚痴を言っていたっけ・・)
「国庫の資金繰りも回復していない。だから兄上は今日も金集めに出掛けてるんだ。」
レオンハルトが公務だと言って朝早くから出掛けたのは資金集めだったらしい。
ニールはレオンハルトの苦労を思いやった。愚痴を言わなければやっていられないのに、その愚痴も他人に聞かせられない、レオンハルトの苦悩も。
(ナオミ様には早く魔法の使い方を覚えてもらわなければ!・・まずは・・レオノーラ様だ。)
魔法が使えないレオノーラが、次第に使えるようになっていく行程を見れば、ナオミにとっていい参考になるだろうとニールは考えた。
「王女殿下が使いたい魔法は何ですか?今日はそれをやってみましょう。私は幼い頃鳥が好きで、魔法で鳥を出したかったんです。」
ニールは魔法で小鳥を出した。小鳥はパタパタと飛んで、レオノーラの肩に止まり毛繕いをしている。
「魔法は想像だ。思い描いてください。レオノーラ王女殿下の実現したいことを。」
「ニール・・、私の魔力は"闇"だぞ?父や兄のように"光"じゃないから、おどろおどろしいものが出てしまうのではないか?」
レオノーラはいつもの勝気な様子を引っ込めて、肩に止まった鳥を弄っている。涙が出てしまいそうなのを隠しているみたいに。
「恐れないで下さい。闇は属性の一つだ。それに、黒くて美しいものも沢山あります。闇がおどろおどろしいというのは、それこそ想像力が足りていない。」
ニールは詠唱すると、魔法で黒い色の宝石、オニキスを出した。
「オニキスという黒い宝石は、美を司る女神の爪だと言われています。美しいでしょう?もしこの宝石を、貴方の魔力で作ったらどれだけ美しいか・・。」
「私にも出来るだろうか?」
「出来ます。私の手を握って。魔力を流してみて下さい。」
ニールはレオノーラからの魔力を待ったが、強張っているレオノーラは上手く魔力を流せないようだった。
ニールはレオノーラの肩にそっと触れて、魔力を吸い取った。
「身体の中から、魔力が出ていくのを感じませんか?この流れが、"魔力を流す"ということです。」
「・・分かりやすい、すごく・・」
すると、レオノーラから、ニールに魔力が注がれるのを感じた。
「レオノーラ殿下!ス、ストップ!大丈夫!できています!」
ニールはまさかレオノーラの前で、はしたないことになる訳には行かないと、飛び退いた。
「次は、外に出してみましょう。少しだけですよ・・?少しだけ・・小さいものをイメージしてみましょう。」
「うーん?黒くて小さいもの?」
黒くなくても良いんですよ、と、ニールが声をかける暇もなく、それは現れた。
しかも、レオノーラがコントロールを失ったため、大量に。
黒くて小さくてすばしこい、たまに飛ぶあいつが大量に!
側に控えていた召使の女が「きゃー!」と悲鳴を上げたことで、ニールは我に返った。
「レオノーラ様!落ち着いて!」
ニールは解術の魔法をかけて、黒いアイツを残らず消し去った!涙目だった召使は、ニールにグッと親指を突き出した。ニールも頷いて・・・通じ合った気がした。
「あははははっ!魔法って楽しいな!ニール!」
レオノーラは笑っていたけれど、泣いてもいた。
魔力を殆ど持たないニールは、レオノーラのこれまでの苦悩がわかった。しかもレオノーラは王族だ。
(私なんて、比べ物にならないくらいの苦労をされたはずだ。)
レオノーラは次に、黒い宝石、オニキスを出した。
レオノーラが出したオニキスは魔法としては、まだまだ未完成。でもレオノーラの涙と混ざりあって美しく輝いていた。
「ありがとう、ニール。生まれた時に"魔力なし"と診断されてから、腫れ物扱いで、誰も私に魔法を教えてくれなかったんだ。ずっと、父上、兄上が羨ましかった・・。」
「きっと、闇属性を診断していなかったのだと思います。見つけられて良かった!ヴィルトウェルの黒い宝石を!」
「・・・!!」
レオノーラは真っ赤になって肩を振るわせた。
「ニール!お前なあ!そうやって兄上を落としたな?!」
「落とした?」
「・・・ああ、タチが悪い。やはり無自覚か。」
レオノーラは、やれやれと肩をすくめた。
「ニールは大切で希少な私の魔法教師だから・・兄上とのことは、反対なんだ。
昨今の瘴気被害の影響は甚大でな、母上は自分の実家の公爵家だけでは心許ないと考えて、皇太子との結婚をちらつかせて、貴族達から資金を集めたんだ。色々な家から金をひっぱったから、あちらを立てればこちらが立たずと言った具合に、むしろその中からは正妃を選べない状況になっている。それらの貴族との約束を反故にできて、みんなが納得する結婚相手は召喚された聖女だけだ。だから・・ナオミの前世の話以前に、兄上はナオミと結婚するしかないんだ。」
「・・・。」
「ニール・・その眼鏡でも隠せないくらい、そんな顔をして・・。でも今の方がまだ、傷は浅いだろう?純潔を失う前に、やめておけ。」
「じゅんけつ・・?」
「そこから?!」
ニールはレオノーラの言葉を反芻すると、目の前が暗くなったような気がした。
(・・でも、本当の気持ちに気がつかないでいれば、このままでいられる。)
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
295
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる