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3章
15.ニール版白雪姫
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夕方、観客席は人で埋め尽くされた。
ニールが台本を書き換えた生徒会の劇「白雪姫」の幕はついに上がった。
むかしむかし・・
先代王妃を亡くした国王様は、まだ幼い白雪姫に母親が必要だと考え、後妻として新しいお妃様をお迎えになりました。しかしその新しい王妃様は大変嫉妬深く自惚れやでした。
王妃様は決して嘘をつかない鏡だけを信用していました。そしてその鏡に向かって毎日話しかけていました。
「鏡よ鏡、世界で一番うつくしいのははだーれ?」
「それは王妃様です。」
鏡はいつもそう答えていましたが、白雪姫が十四歳になったある日のこと、いつものように王妃様が鏡に尋ねると、鏡はこう答えました。
「あなたは美しい。しかし白雪姫はあなたの千倍美しい。」
「何ですって?!」
王妃様は怒り狂いました。
王妃様は白雪姫の暗殺計画を立てます。
まず第一に猟師による銃殺。それが駄目なら締め紐での絞殺、毒の櫛、毒林檎・・。
王妃様は白雪姫暗殺計画について、鏡に尋ねました。
「白雪姫を殺して、私は幸せになれるの?」
しかし答えは返ってきません。
鏡は嘘をつかない。何故なら鏡はもう一人の自分自身だったからです。
王妃は白雪姫を殺して自分が幸せになれるのか、分かりませんでした。
白雪姫の方が美しい・・それも、王妃が心の中で思っていたこと。
外見の美しさは若さには敵わない。
年老いればシワもでるし肌もたるむ、贅肉もおちにくくなる・・王妃はその事を知っていました。王妃は若く美しい白雪姫に嫉妬していたのです。
しかも夫は後妻の王妃より実の娘をかわいがっていて、愛されず、心が満たされていませんでした。
「白雪姫を殺しても、また別の若く美しい姫が現れる。」
そう考えると白雪姫を殺そうと思ったことがとても滑稽に思えました。王妃様は白雪姫暗殺計画を撤回することにしました。
暗殺計画を中止したものの、既に猟師は雇ってしまっていたため、王妃は猟師に猪をとって来させました。
「王妃様、こちらが猪の心臓のソテー、ニンニク添えでございます。」
「血抜きしているな?いいのに、血は抜かなくて。」
「恐ろしい事を言わずにどうぞお召し上がり下さい。」
「うん。なかなか、赤ワインとよく合うではないか。」
王妃様は猟師が持ってきた猪のジビエ料理に舌鼓をうちました。王妃様は、ジビエ料理の店を出すのも悪くない・・そう思いました。
そして妻に仕事だけおしつけて自分に関心がない夫、国王を捨てて、自分が幸せになる計画を立てる事にしました。
まず、ジビエ料理の店を出す事にしました。この国は森に囲まれて猪が多いのです。新鮮な美味しい野菜もあります。また、鉱石の採掘場があり商人や労働者の出入りも多いので、気取らずボリュームのあるジビエ料理店は繁盛しました。
次に王妃は、白雪姫を殺そうとした締め紐に注目しました。胸元を紐で締めるタイプのドレスを作り、色々な色の締め紐を作ってアクセサリー代わりに胸元を飾ることを思いつきました。早速貴族の夜会で、白雪姫にそのドレスを着せたところ可愛いと評判になりました。
そして櫛。櫛には毒をつけるのではなく、可愛い石やリボンを付けて髪飾りのように装飾しました。これも白雪姫につけると好評で、たちまち多くの注文が舞い込みました。
王妃の懐は潤いました。もう、後妻として養われずとも済むくらいの収入を得るようになったのです。
「もう王妃でなくても、いいのではないか?」
王妃は、王妃から解放され自由に生きるため、最後の仕事として白雪姫と隣国王子との縁談をまとめる事にしました。王子と白雪姫の縁談は順調に進みました。
ほどなくして、王妃は陰ながら支えてくれた猟師の優しさに気付き、手と手を取り合って城をでて行ってしまいました。
今まで王妃様にさせていた仕事を一人でこなさなくてはならなくなった国王様はひどく落ち込んだそうです。
どこかから「ざまあ~」の声が聞こえたとか聞こえなかったとか・・。
めでたし、めでたしーー。
ニールの台本はここで、大団円。
客席からは、割れんばかりの拍手が送られた。
王妃役のマルファスと猟師役のファビアン、白雪姫役のナオミとレオンハルトも舞台上で肩を寄せ合った。
だがナオミは幸せな表情とは程遠い、深刻な表情でレオンハルトに向き合った。
「レオンハルト殿下。私と結ばれましょう?でないと、まずいのよ。本当に。」
「・・?ああ?」
レオンハルトはまだナオミが劇を続けていると思って曖昧に返事をした。
ナオミはレオンハルトに抱き着くと、瞳を閉じて顔を近づけた。暫くして、二人は口付けをかわしそうにな体勢になっていった。
ニールは思わず「殿下!」と舞台袖から叫び、舞台上へと飛び出した。
「だめよニール!あなたにレオンハルトは渡さない!」
ニールに気付いたナオミは、魔法でニールを突き飛ばした。
レオンハルトは「何するんだ!」と、ナオミの腕を掴んで魔法を止めた。怒りに任せて、ナオミの腕を強く掴んで突き放そうとしたのだが、ナオミが涙を流しているのを見て動きを止めた。
「ナオミ様?」
ニールはナオミの意図が分からず、レオンハルトと顔を見合わせた。舞台上の演者と観客は沈黙し、大団円に水を差す格好となった。
すると、ファビアンとマルファスが小道具の鏡を持ってナオミの側までやってきた。
「白雪姫、これは嘘がつけない鏡です。」
「話しかけてみてください。きっと答えてくれます。」
ファビアンとマルファスはナオミを鏡の前に立たせた。劇を続行するような雰囲気で、レオンハルトもナオミに優しく語りかけた。
「大丈夫だ。鏡は自分自身を写すもの・・絶対にお前の味方だから。」
「殿下が言うと説得力が違いますね。」
レオンハルトが鏡に向かって愚痴を言っていたのを思い出したニールはレオンハルトに同調した。レオンハルトは「一言多い!」とニールを肘でつついた。
しかしナオミはまだ鏡の前で震えている。
「だから、このままじゃまずいのよ!このままだと私・・・。みんなに嫌いになってほしいの!私を・・!」
「それで、殿下と結ばれようとしたのですか?白雪姫の役をやったのも、そのため?」
「ニール・・。私はこの世界の聖女なのよ、腐っても・・いえ、ある意味もう腐ってはいるんだけど、聖女なの!だから・・・。」
「でも、ナオミ様はおっしゃったではないですか。神の台本さえ無視した、完全オリジナルのナオミ様の未来を目指すって!だからそんな悲しい顔をしないでください!それが本当にナオミ様の望む未来なのですか?問いかけて下さい、嘘はないか、後悔しないのか・・鏡の中の、自分自身に・・!」
ニールの言葉にナオミはまた泣き出した。マルファスはそんなナオミを見つめて、そっと、ナオミの涙を拭った。
「ひょっとして浄化のことを気にしている?浄化魔法を使うと私がナオミを襲ってしまうから・・?」
「マルファス・・違うの、そうじゃない・・。」
「大丈夫だよ。浄化魔法を使っても、私はもうナオミを襲ったりしない。朝の神様に貰った”この世の未練”は・・この世界を良くしたいという気持ちであふれてるんだ。ナオミの魔法も、そうだろう?」
「でも、私の浄化魔法でマルファスが傷付いてしまうわ・・。」
「うん。だから、私は宵闇の国に帰ることにした。宵闇の国は国王様の結界があるから大丈夫だ、心配いらない。・・みんなとは、離れてしまうけど・・・その・・。」
マルファスは少し照れている。ファビアンはマルファスに近づいて肩を組んだ。
「短い間だったけど、みんなで勉強したり、選挙があったり夜会に劇・・楽しかったよな!だから、俺たちもう友達だろ!これから、離れてても、聖女も魔族も王子も家が貧しくても!あとニールは・・。」
「ニールは”魔力なしモブ”、ね!」
「ナオミ様?!”モブ”ってなんです?!」
ナオミは涙を自分で拭いて笑った。
「じゃーもう、私、白雪姫は王子との婚約を破棄します!!もう知らないわよ!?どんな未来になっても!」
ナオミの笑顔に、今度こそ、大団円。
観客からも沢山拍手を貰って、ニール版白雪姫は幕を閉じた。
ニールが台本を書き換えた生徒会の劇「白雪姫」の幕はついに上がった。
むかしむかし・・
先代王妃を亡くした国王様は、まだ幼い白雪姫に母親が必要だと考え、後妻として新しいお妃様をお迎えになりました。しかしその新しい王妃様は大変嫉妬深く自惚れやでした。
王妃様は決して嘘をつかない鏡だけを信用していました。そしてその鏡に向かって毎日話しかけていました。
「鏡よ鏡、世界で一番うつくしいのははだーれ?」
「それは王妃様です。」
鏡はいつもそう答えていましたが、白雪姫が十四歳になったある日のこと、いつものように王妃様が鏡に尋ねると、鏡はこう答えました。
「あなたは美しい。しかし白雪姫はあなたの千倍美しい。」
「何ですって?!」
王妃様は怒り狂いました。
王妃様は白雪姫の暗殺計画を立てます。
まず第一に猟師による銃殺。それが駄目なら締め紐での絞殺、毒の櫛、毒林檎・・。
王妃様は白雪姫暗殺計画について、鏡に尋ねました。
「白雪姫を殺して、私は幸せになれるの?」
しかし答えは返ってきません。
鏡は嘘をつかない。何故なら鏡はもう一人の自分自身だったからです。
王妃は白雪姫を殺して自分が幸せになれるのか、分かりませんでした。
白雪姫の方が美しい・・それも、王妃が心の中で思っていたこと。
外見の美しさは若さには敵わない。
年老いればシワもでるし肌もたるむ、贅肉もおちにくくなる・・王妃はその事を知っていました。王妃は若く美しい白雪姫に嫉妬していたのです。
しかも夫は後妻の王妃より実の娘をかわいがっていて、愛されず、心が満たされていませんでした。
「白雪姫を殺しても、また別の若く美しい姫が現れる。」
そう考えると白雪姫を殺そうと思ったことがとても滑稽に思えました。王妃様は白雪姫暗殺計画を撤回することにしました。
暗殺計画を中止したものの、既に猟師は雇ってしまっていたため、王妃は猟師に猪をとって来させました。
「王妃様、こちらが猪の心臓のソテー、ニンニク添えでございます。」
「血抜きしているな?いいのに、血は抜かなくて。」
「恐ろしい事を言わずにどうぞお召し上がり下さい。」
「うん。なかなか、赤ワインとよく合うではないか。」
王妃様は猟師が持ってきた猪のジビエ料理に舌鼓をうちました。王妃様は、ジビエ料理の店を出すのも悪くない・・そう思いました。
そして妻に仕事だけおしつけて自分に関心がない夫、国王を捨てて、自分が幸せになる計画を立てる事にしました。
まず、ジビエ料理の店を出す事にしました。この国は森に囲まれて猪が多いのです。新鮮な美味しい野菜もあります。また、鉱石の採掘場があり商人や労働者の出入りも多いので、気取らずボリュームのあるジビエ料理店は繁盛しました。
次に王妃は、白雪姫を殺そうとした締め紐に注目しました。胸元を紐で締めるタイプのドレスを作り、色々な色の締め紐を作ってアクセサリー代わりに胸元を飾ることを思いつきました。早速貴族の夜会で、白雪姫にそのドレスを着せたところ可愛いと評判になりました。
そして櫛。櫛には毒をつけるのではなく、可愛い石やリボンを付けて髪飾りのように装飾しました。これも白雪姫につけると好評で、たちまち多くの注文が舞い込みました。
王妃の懐は潤いました。もう、後妻として養われずとも済むくらいの収入を得るようになったのです。
「もう王妃でなくても、いいのではないか?」
王妃は、王妃から解放され自由に生きるため、最後の仕事として白雪姫と隣国王子との縁談をまとめる事にしました。王子と白雪姫の縁談は順調に進みました。
ほどなくして、王妃は陰ながら支えてくれた猟師の優しさに気付き、手と手を取り合って城をでて行ってしまいました。
今まで王妃様にさせていた仕事を一人でこなさなくてはならなくなった国王様はひどく落ち込んだそうです。
どこかから「ざまあ~」の声が聞こえたとか聞こえなかったとか・・。
めでたし、めでたしーー。
ニールの台本はここで、大団円。
客席からは、割れんばかりの拍手が送られた。
王妃役のマルファスと猟師役のファビアン、白雪姫役のナオミとレオンハルトも舞台上で肩を寄せ合った。
だがナオミは幸せな表情とは程遠い、深刻な表情でレオンハルトに向き合った。
「レオンハルト殿下。私と結ばれましょう?でないと、まずいのよ。本当に。」
「・・?ああ?」
レオンハルトはまだナオミが劇を続けていると思って曖昧に返事をした。
ナオミはレオンハルトに抱き着くと、瞳を閉じて顔を近づけた。暫くして、二人は口付けをかわしそうにな体勢になっていった。
ニールは思わず「殿下!」と舞台袖から叫び、舞台上へと飛び出した。
「だめよニール!あなたにレオンハルトは渡さない!」
ニールに気付いたナオミは、魔法でニールを突き飛ばした。
レオンハルトは「何するんだ!」と、ナオミの腕を掴んで魔法を止めた。怒りに任せて、ナオミの腕を強く掴んで突き放そうとしたのだが、ナオミが涙を流しているのを見て動きを止めた。
「ナオミ様?」
ニールはナオミの意図が分からず、レオンハルトと顔を見合わせた。舞台上の演者と観客は沈黙し、大団円に水を差す格好となった。
すると、ファビアンとマルファスが小道具の鏡を持ってナオミの側までやってきた。
「白雪姫、これは嘘がつけない鏡です。」
「話しかけてみてください。きっと答えてくれます。」
ファビアンとマルファスはナオミを鏡の前に立たせた。劇を続行するような雰囲気で、レオンハルトもナオミに優しく語りかけた。
「大丈夫だ。鏡は自分自身を写すもの・・絶対にお前の味方だから。」
「殿下が言うと説得力が違いますね。」
レオンハルトが鏡に向かって愚痴を言っていたのを思い出したニールはレオンハルトに同調した。レオンハルトは「一言多い!」とニールを肘でつついた。
しかしナオミはまだ鏡の前で震えている。
「だから、このままじゃまずいのよ!このままだと私・・・。みんなに嫌いになってほしいの!私を・・!」
「それで、殿下と結ばれようとしたのですか?白雪姫の役をやったのも、そのため?」
「ニール・・。私はこの世界の聖女なのよ、腐っても・・いえ、ある意味もう腐ってはいるんだけど、聖女なの!だから・・・。」
「でも、ナオミ様はおっしゃったではないですか。神の台本さえ無視した、完全オリジナルのナオミ様の未来を目指すって!だからそんな悲しい顔をしないでください!それが本当にナオミ様の望む未来なのですか?問いかけて下さい、嘘はないか、後悔しないのか・・鏡の中の、自分自身に・・!」
ニールの言葉にナオミはまた泣き出した。マルファスはそんなナオミを見つめて、そっと、ナオミの涙を拭った。
「ひょっとして浄化のことを気にしている?浄化魔法を使うと私がナオミを襲ってしまうから・・?」
「マルファス・・違うの、そうじゃない・・。」
「大丈夫だよ。浄化魔法を使っても、私はもうナオミを襲ったりしない。朝の神様に貰った”この世の未練”は・・この世界を良くしたいという気持ちであふれてるんだ。ナオミの魔法も、そうだろう?」
「でも、私の浄化魔法でマルファスが傷付いてしまうわ・・。」
「うん。だから、私は宵闇の国に帰ることにした。宵闇の国は国王様の結界があるから大丈夫だ、心配いらない。・・みんなとは、離れてしまうけど・・・その・・。」
マルファスは少し照れている。ファビアンはマルファスに近づいて肩を組んだ。
「短い間だったけど、みんなで勉強したり、選挙があったり夜会に劇・・楽しかったよな!だから、俺たちもう友達だろ!これから、離れてても、聖女も魔族も王子も家が貧しくても!あとニールは・・。」
「ニールは”魔力なしモブ”、ね!」
「ナオミ様?!”モブ”ってなんです?!」
ナオミは涙を自分で拭いて笑った。
「じゃーもう、私、白雪姫は王子との婚約を破棄します!!もう知らないわよ!?どんな未来になっても!」
ナオミの笑顔に、今度こそ、大団円。
観客からも沢山拍手を貰って、ニール版白雪姫は幕を閉じた。
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