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3章
18.四人のニールとレオンハルト
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ニールの後ろにいたのは、レオンハルトだった。
(え?!殿下は前を歩いていたはずだ!)
ニールが再び前を見ると、確かにレオンハルトはニールの前を歩いている。
(で、殿下が二人?!)
ニールは混乱した。
ニールが動揺していると、左側から優しい声がした。
「ニールどうした?怖いのか?手を握ってやるから、その手を離せ。」
ニールが左側を見ると、左側もレオンハルトだった。
(え!?三人目?!)
さらに右側からも声がした。
「怖いなんて、おまえいくつだ?子供じゃあるまいし。しかもここはお前の領地だろう?本来、お前が前を歩いて私を案内するんだぞ!」
「た、確かにごもっともです。」
右側からニールに話しかけた人は、ニールをまるで虫を見るような目で見ている。ニールは久しぶりにその表情を見たが、忘れるはずがない。右側もレオンハルトだった。
(殿下が四人?!まさか?!)
ニールが立ち止まると、四人のレオンハルトも立ち止まり、ニールを振り返った。
「ニール!大丈夫か怪我でもしたとか・・?」
「はあー、疲れてるのはおまえだけじゃないんだぞ?」
「おい!急に止まるな!どんくさいやつだ!」
「急に立ち止まって、気になるものでもあったのか?」
四人が四人とも違うことを言っている。ニールは青ざめた。
「殿下っ!どうしてしまわれたのですか!殿下は確かに裏表が激しくいろんな顔をお持ちですが、まさか四人に分裂してしまうなんてっ!」
ニールはレオンハルトが四人に分裂したのだと思った。何故なら四人が四人とも見紛う方なき本物なのである。
(幻術?いやでも、手の感触も・・今はきつねハルトもいないし、ここまでの変身は出来ないはず!)
「分裂だと?ああっ!」
四人のうちの一人が他の三人に気が付いて驚きの声を上げた。
「なんだお前は?!」
「お前こそなんだ!」
「私が本物だっ!」
四人はそれぞれ主張を始めた。そして四人で揉みあって言い合いが始まり、初めの位置関係が分からなくなった。
(分裂でないとすると・・初めの・・前を歩いていた殿下が本物?ああ、でもこれではもう場所からは判断がつかない!)
ニールはどれが本物のレオンハルトか分からず途方に暮れた。もう少しで”どれにしようかな神様の言う通り・・”と言いそうになったところで、ニールはまた後ろから声をかけられた。
「どれが殿下か分からないなんて、夫失格だ!あれだよ!一番右!あれに決まってる。」
「いや一番左だよ!すごく優しそう!あの人に決まってる!」
「馬鹿だな、右から二番目だよ。ほらあの手・・あの手で抱かれたじゃないか・・。」
ニールはぎょっとして振り向いた。するとそこにはニール以外にもニールが三人いた。
(え・・?!私・・?!でも声がちょっと違う・・?!)
「ニールお前・・・!どれが本物だ?!」
揉めていたレオンハルト達も一斉にニール達をみて驚いている。
「殿下!よく聞いてみてください!ちょっと声が違います!私が本物ですっ!」
ニールはそう主張したのだが、レオンハルト達は訝しんでいる。
「自分で聞いている自分の声と他人に聞こえている声というのは違うものだ。空間魔法を使って客観的に自分の声を録音して聴いたとき驚いた経験はないか?お前は違うと主張するが、今のお前たちの声は全く同じだぞ。」
レオンハルトの一人が呆れたようにいった。
「く・・!ではどうやって私が本物だと証明すればいいのでしょう・・!?」
「簡単だ。私たち二人しかしらない話をすればいい。」
「二人の秘密・・?例えば?」
「それを言ったら答えになってしまうんだから、言えるわけがないだろう!」
「うーんでは、私が先に秘密を言ったら、その他のレオンハルト殿下にも秘密が分かってしまうではないですか?」
「お前、思い違いをしているな・・?ちょっと待て、お前・・?」
「もっと別のものにしませんか、”すきな食べ物”とか?」
「じゃあなんだ、言ってみろ。」
まずは本物のニールが答えた。
「えーと私は・・・クッキー!」
ニールはとうもろこしと迷ったが、”二人の思い出”に重きを置いて、眠れない夜にレオンハルトに貰ったクッキーを選択した。
「うーんなんでも好きだけど、あえて言うなら猪の心臓?」
「えーとね、しょう・・・き・・じゃーなくて、しょうが!」
「私は殿下の体液!」
偽物たちは好き勝手なことを言っている。ニールはこれならレオンハルトは絶対、本物のニールを見つけると確信したのだが・・。
「ちょっと待て、一番最後のニールにもっと話を聞きたい。」
「そうだな。もう少し聞いてみよう。」
「体液でもいろいろあるではないか。どの体液だ?」
「そうだそうだ。しかもその、どこで食べたんだ?」
レオンハルト達は一斉に四番目のニールを取り囲んだ。
「どこでって、夜、殿下の閨・・もがっ!」
「だ、だめー!なんてことを言わせるんですかっ!」
ニールは慌てて四番目のニールの口を塞いだ。
「こら!もう少し聞かないと、本物かどうかわからないだろう!?」
レオンハルトがそう言って譲らないので、ニールは恐る恐る四番目のニールの口から手をどけた。
「殿下の閨で、私の奥にたっぷり注がれた、殿下の子種・・。」
四番目のニールは恍惚とした表情で答えた。
「たっぷり注がれてどうなった?」
レオンハルトたちは四番目を囲んで、また質問した。真剣そのものだった。
「すごくあつくて・・おいしくて・・。奥で感じて果てました。」
「わーーーっ!!!!」
ニールは耐え切れなくなって、レオンハルト達の前に立ちはだかった。
「で、では今度はこちらの番です!えーとじゃあ・・殿下の好きな食べ物は・・。」
「それはニールが言ったから別のものにしろ。」
「うーん・・なんだろう、殿下が殿下たる所以てきなものがいいですよね・・・?」
「そうだな。」
「うーん・・。」
ニールが考え込んで答えられないでいると、レオンハルトの四人のうち一人が言った。
「じゃあ”ニールの好きなところ”にしよう!」
「そうだそうしよう!」
「ちょ、ちょっと待て!」
「ニールにもわかりやすいし、いいんじゃないか?」
ニールが了承するより前に、レオンハルト達は”ニールの好きなところ”を話し出した。
「能天気で、騙しやすそうなところ。」
「馬鹿なところ。馬鹿な子ほどかわいいって言うだろ?」
「かわいいところ。容姿も、性格も。」
「感じやすいところ。私のもので・・」
「わーっ!も、もうわかりましたからっ!」
ニールは四番目のレオンハルトの口を塞いだ。息を整えて手を離すと、一番目から四番目までのレオンハルトをじっと見つめた。
(殿下は自白剤を飲んだ時に、私の悪口・・・私に対する不平不満ばかりおっしゃっていた。あとよく”お前は馬鹿だ”ともおっしゃる。それらを総合すると・・!)
「本物は二番目!二番目が本物のレオンハルト殿下です!」
ニールが叫ぶと、二番目のレオンハルトはにこりと笑った。
「正解だよニール!お前にしてはよくやった!」
そうしてニールは二番目のレオンハルトと手をつないで、岬を目指し、また歩き出した。
三番目のレオンハルトのニールを呼ぶ声は闇にかき消された。
(え?!殿下は前を歩いていたはずだ!)
ニールが再び前を見ると、確かにレオンハルトはニールの前を歩いている。
(で、殿下が二人?!)
ニールは混乱した。
ニールが動揺していると、左側から優しい声がした。
「ニールどうした?怖いのか?手を握ってやるから、その手を離せ。」
ニールが左側を見ると、左側もレオンハルトだった。
(え!?三人目?!)
さらに右側からも声がした。
「怖いなんて、おまえいくつだ?子供じゃあるまいし。しかもここはお前の領地だろう?本来、お前が前を歩いて私を案内するんだぞ!」
「た、確かにごもっともです。」
右側からニールに話しかけた人は、ニールをまるで虫を見るような目で見ている。ニールは久しぶりにその表情を見たが、忘れるはずがない。右側もレオンハルトだった。
(殿下が四人?!まさか?!)
ニールが立ち止まると、四人のレオンハルトも立ち止まり、ニールを振り返った。
「ニール!大丈夫か怪我でもしたとか・・?」
「はあー、疲れてるのはおまえだけじゃないんだぞ?」
「おい!急に止まるな!どんくさいやつだ!」
「急に立ち止まって、気になるものでもあったのか?」
四人が四人とも違うことを言っている。ニールは青ざめた。
「殿下っ!どうしてしまわれたのですか!殿下は確かに裏表が激しくいろんな顔をお持ちですが、まさか四人に分裂してしまうなんてっ!」
ニールはレオンハルトが四人に分裂したのだと思った。何故なら四人が四人とも見紛う方なき本物なのである。
(幻術?いやでも、手の感触も・・今はきつねハルトもいないし、ここまでの変身は出来ないはず!)
「分裂だと?ああっ!」
四人のうちの一人が他の三人に気が付いて驚きの声を上げた。
「なんだお前は?!」
「お前こそなんだ!」
「私が本物だっ!」
四人はそれぞれ主張を始めた。そして四人で揉みあって言い合いが始まり、初めの位置関係が分からなくなった。
(分裂でないとすると・・初めの・・前を歩いていた殿下が本物?ああ、でもこれではもう場所からは判断がつかない!)
ニールはどれが本物のレオンハルトか分からず途方に暮れた。もう少しで”どれにしようかな神様の言う通り・・”と言いそうになったところで、ニールはまた後ろから声をかけられた。
「どれが殿下か分からないなんて、夫失格だ!あれだよ!一番右!あれに決まってる。」
「いや一番左だよ!すごく優しそう!あの人に決まってる!」
「馬鹿だな、右から二番目だよ。ほらあの手・・あの手で抱かれたじゃないか・・。」
ニールはぎょっとして振り向いた。するとそこにはニール以外にもニールが三人いた。
(え・・?!私・・?!でも声がちょっと違う・・?!)
「ニールお前・・・!どれが本物だ?!」
揉めていたレオンハルト達も一斉にニール達をみて驚いている。
「殿下!よく聞いてみてください!ちょっと声が違います!私が本物ですっ!」
ニールはそう主張したのだが、レオンハルト達は訝しんでいる。
「自分で聞いている自分の声と他人に聞こえている声というのは違うものだ。空間魔法を使って客観的に自分の声を録音して聴いたとき驚いた経験はないか?お前は違うと主張するが、今のお前たちの声は全く同じだぞ。」
レオンハルトの一人が呆れたようにいった。
「く・・!ではどうやって私が本物だと証明すればいいのでしょう・・!?」
「簡単だ。私たち二人しかしらない話をすればいい。」
「二人の秘密・・?例えば?」
「それを言ったら答えになってしまうんだから、言えるわけがないだろう!」
「うーんでは、私が先に秘密を言ったら、その他のレオンハルト殿下にも秘密が分かってしまうではないですか?」
「お前、思い違いをしているな・・?ちょっと待て、お前・・?」
「もっと別のものにしませんか、”すきな食べ物”とか?」
「じゃあなんだ、言ってみろ。」
まずは本物のニールが答えた。
「えーと私は・・・クッキー!」
ニールはとうもろこしと迷ったが、”二人の思い出”に重きを置いて、眠れない夜にレオンハルトに貰ったクッキーを選択した。
「うーんなんでも好きだけど、あえて言うなら猪の心臓?」
「えーとね、しょう・・・き・・じゃーなくて、しょうが!」
「私は殿下の体液!」
偽物たちは好き勝手なことを言っている。ニールはこれならレオンハルトは絶対、本物のニールを見つけると確信したのだが・・。
「ちょっと待て、一番最後のニールにもっと話を聞きたい。」
「そうだな。もう少し聞いてみよう。」
「体液でもいろいろあるではないか。どの体液だ?」
「そうだそうだ。しかもその、どこで食べたんだ?」
レオンハルト達は一斉に四番目のニールを取り囲んだ。
「どこでって、夜、殿下の閨・・もがっ!」
「だ、だめー!なんてことを言わせるんですかっ!」
ニールは慌てて四番目のニールの口を塞いだ。
「こら!もう少し聞かないと、本物かどうかわからないだろう!?」
レオンハルトがそう言って譲らないので、ニールは恐る恐る四番目のニールの口から手をどけた。
「殿下の閨で、私の奥にたっぷり注がれた、殿下の子種・・。」
四番目のニールは恍惚とした表情で答えた。
「たっぷり注がれてどうなった?」
レオンハルトたちは四番目を囲んで、また質問した。真剣そのものだった。
「すごくあつくて・・おいしくて・・。奥で感じて果てました。」
「わーーーっ!!!!」
ニールは耐え切れなくなって、レオンハルト達の前に立ちはだかった。
「で、では今度はこちらの番です!えーとじゃあ・・殿下の好きな食べ物は・・。」
「それはニールが言ったから別のものにしろ。」
「うーん・・なんだろう、殿下が殿下たる所以てきなものがいいですよね・・・?」
「そうだな。」
「うーん・・。」
ニールが考え込んで答えられないでいると、レオンハルトの四人のうち一人が言った。
「じゃあ”ニールの好きなところ”にしよう!」
「そうだそうしよう!」
「ちょ、ちょっと待て!」
「ニールにもわかりやすいし、いいんじゃないか?」
ニールが了承するより前に、レオンハルト達は”ニールの好きなところ”を話し出した。
「能天気で、騙しやすそうなところ。」
「馬鹿なところ。馬鹿な子ほどかわいいって言うだろ?」
「かわいいところ。容姿も、性格も。」
「感じやすいところ。私のもので・・」
「わーっ!も、もうわかりましたからっ!」
ニールは四番目のレオンハルトの口を塞いだ。息を整えて手を離すと、一番目から四番目までのレオンハルトをじっと見つめた。
(殿下は自白剤を飲んだ時に、私の悪口・・・私に対する不平不満ばかりおっしゃっていた。あとよく”お前は馬鹿だ”ともおっしゃる。それらを総合すると・・!)
「本物は二番目!二番目が本物のレオンハルト殿下です!」
ニールが叫ぶと、二番目のレオンハルトはにこりと笑った。
「正解だよニール!お前にしてはよくやった!」
そうしてニールは二番目のレオンハルトと手をつないで、岬を目指し、また歩き出した。
三番目のレオンハルトのニールを呼ぶ声は闇にかき消された。
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