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3章
19.今あるもの
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ニールはそれから二番目のレオンハルトと森を歩いていたのだが、全く目的地に着く気配がなかった。目的地に着くどころか、辺りはどんどん闇に染まって行く。
レオンハルトは光の魔力で、ぼんやりと明るいはずなのだが・・。
(ひょっとして・・・この殿下は偽物ではないだろうか?!勢いで、私の方から選んでしまったが、レオンハルト殿下が私を選ぶのを待つべきだったのでは・・。いやでも、この方が偽物だとまだ決まったわけではないし・・。)
外見は全く同じレオンハルトが本物かどうか、どうやって見極めたらいいのかニールは考えていた。
「ああっ!!」
「どうした、ニール?」
(思い出したっ!私と殿下には、こんな時のために、あれがあったではないか!なんて馬鹿なんだ私はー!)
「で、殿下・・私たちは合言葉を決めていましたね?今一度、確認させていただきたいのですが・・”きつね”といえば?!」
「”きつね”と言えば・・?・・たぬき?」
「ブー!違いますっ!!お前、レオンハルト殿下に化けたりして・・何者だっ!?姿を現せ!」
ニールはレオンハルトの偽物とわかるや否や、握っていた手を振りほどいて飛び退いた。
「ふふっ!馬鹿だなあ、ニールは・・。あの頃と全然変わっていない。」
「と・・言いますと・・?」
「今頃気が付いてももう遅い。私たちは、もうすぐなくした宝石を取り戻して、お前を手に入れるんだから・・。」
「・・マルファス殿下のようなことをおっしゃいますね・・。まさか・・!」
「マルファス・・?そう、奴もここで生まれた・・。人型を成して、出ていったが。」
二番目のレオンハルトはうっそりと笑うと、笑顔は次第に綻びを見せ、レオンハルトの仮面は崩れ落ち真っ黒な靄が現れた。
(朝の神様の闇・・・!ということはまずい!レオンハルト殿下が多勢に無勢で・・!)
ニールは踵を返し、全速力で走った。
「ここは闇の中。迷いの森だよ。どんなに走っても疲れるだけ。」
「はあ、はあ・・・でも、私のせいで、殿下が・・。」
ニールは思わず泣き出した。
(殿下はあの時、私に合言葉を言わせるために”二人の秘密を”といったのだろう。私がもっと早く思い出していたら・・!殿下に何かあったら私は・・!)
「そんなに心配しなくても大丈夫だよ。あいつの”光”を手に入れるだけだから、あいつは私たちの中で生き続けるんだ。」
「しかしそれでは、もとの殿下はどうなるのです?」
「・・さあ・・闇に呑まれた人間がどうなるかなんて、わからないけど。消滅するわけじゃないことは確かだ。」
「ひょっとして殿下があなた方を凌駕する可能性だってありますよ?!そうしたらあなた方はどうなるのです?まったく別の人格になってしまうのですよ?!いいんですか?!」
「私たちに”人格”なんてない。あるのはただの闇・・深い悲しみと嘆きだけ。」
「でもさきほど現れた六人は見事に別々のことをおっしゃって、それぞれに個性がありました!」
「個性・・?」
「そうです。あなたとマルファス殿下だって違う。別の人格を持ってる。」
ニールは涙を拭いて、靄に向かって語りかけた。
「レオンハルト殿下はこの世にただ一人。殿下の身体も心も殿下だけのものです。だから、あなたが手に入れられるものではありません。マルファス殿下も、もう、殿下を手に入れるとはおっしゃいませんでした。それはないものに目を向けるのではなく、今あるものに目を向けたからだと思います。」
「今あるもの?」
「そう、私でいうと魔力はないもの、あるのは”魔力をとりこめる魔力臓器”・・。」
「私にも何かあると思う?」
「ええ。先ほどの、変身・・。あとは、あなたをそれ以上知らないからわからないけど・・。」
靄はしばらく渦を巻いたり揺れたりしていたが、またレオンハルトの姿に変化した。
「ニール・・こっちだよ。連れて行ってあげる。」
「え・・?」
ニールは戸惑いながらもまた、靄の手をとって歩き出した。
「ねえ、ニールはレオンハルト殿下を好きなんでしょ?なのにどうしてレオンハルト殿下と靄を間違えたりしたの?」
「殿下はそのお立場から、裏表の激しい方でして。靄の皆さんが演じたレオンハルト殿下は全員、レオンハルト殿下であってもおかしくなかったのです。」
「ふうん。”光”のくせに、靄と同じなんてな・・?」
「それは・・朝の神様もそうだったように、困難にぶつかれば心に闇はできるのではないでしょうか?でもけっして明るい部分がなくなるわけではない。殿下もそうです。殿下はそういった自分の中のいろいろな感情を”すべて私だ”とおっしゃっいました。わたしはそんな、いろいろな殿下が好きなのです。光も闇も、共存している殿下が・・。」
ニールは言いながら照れてしまいうつむいた。靄は無言で、ニールの手をぎゅっと握った。
レオンハルトは光の魔力で、ぼんやりと明るいはずなのだが・・。
(ひょっとして・・・この殿下は偽物ではないだろうか?!勢いで、私の方から選んでしまったが、レオンハルト殿下が私を選ぶのを待つべきだったのでは・・。いやでも、この方が偽物だとまだ決まったわけではないし・・。)
外見は全く同じレオンハルトが本物かどうか、どうやって見極めたらいいのかニールは考えていた。
「ああっ!!」
「どうした、ニール?」
(思い出したっ!私と殿下には、こんな時のために、あれがあったではないか!なんて馬鹿なんだ私はー!)
「で、殿下・・私たちは合言葉を決めていましたね?今一度、確認させていただきたいのですが・・”きつね”といえば?!」
「”きつね”と言えば・・?・・たぬき?」
「ブー!違いますっ!!お前、レオンハルト殿下に化けたりして・・何者だっ!?姿を現せ!」
ニールはレオンハルトの偽物とわかるや否や、握っていた手を振りほどいて飛び退いた。
「ふふっ!馬鹿だなあ、ニールは・・。あの頃と全然変わっていない。」
「と・・言いますと・・?」
「今頃気が付いてももう遅い。私たちは、もうすぐなくした宝石を取り戻して、お前を手に入れるんだから・・。」
「・・マルファス殿下のようなことをおっしゃいますね・・。まさか・・!」
「マルファス・・?そう、奴もここで生まれた・・。人型を成して、出ていったが。」
二番目のレオンハルトはうっそりと笑うと、笑顔は次第に綻びを見せ、レオンハルトの仮面は崩れ落ち真っ黒な靄が現れた。
(朝の神様の闇・・・!ということはまずい!レオンハルト殿下が多勢に無勢で・・!)
ニールは踵を返し、全速力で走った。
「ここは闇の中。迷いの森だよ。どんなに走っても疲れるだけ。」
「はあ、はあ・・・でも、私のせいで、殿下が・・。」
ニールは思わず泣き出した。
(殿下はあの時、私に合言葉を言わせるために”二人の秘密を”といったのだろう。私がもっと早く思い出していたら・・!殿下に何かあったら私は・・!)
「そんなに心配しなくても大丈夫だよ。あいつの”光”を手に入れるだけだから、あいつは私たちの中で生き続けるんだ。」
「しかしそれでは、もとの殿下はどうなるのです?」
「・・さあ・・闇に呑まれた人間がどうなるかなんて、わからないけど。消滅するわけじゃないことは確かだ。」
「ひょっとして殿下があなた方を凌駕する可能性だってありますよ?!そうしたらあなた方はどうなるのです?まったく別の人格になってしまうのですよ?!いいんですか?!」
「私たちに”人格”なんてない。あるのはただの闇・・深い悲しみと嘆きだけ。」
「でもさきほど現れた六人は見事に別々のことをおっしゃって、それぞれに個性がありました!」
「個性・・?」
「そうです。あなたとマルファス殿下だって違う。別の人格を持ってる。」
ニールは涙を拭いて、靄に向かって語りかけた。
「レオンハルト殿下はこの世にただ一人。殿下の身体も心も殿下だけのものです。だから、あなたが手に入れられるものではありません。マルファス殿下も、もう、殿下を手に入れるとはおっしゃいませんでした。それはないものに目を向けるのではなく、今あるものに目を向けたからだと思います。」
「今あるもの?」
「そう、私でいうと魔力はないもの、あるのは”魔力をとりこめる魔力臓器”・・。」
「私にも何かあると思う?」
「ええ。先ほどの、変身・・。あとは、あなたをそれ以上知らないからわからないけど・・。」
靄はしばらく渦を巻いたり揺れたりしていたが、またレオンハルトの姿に変化した。
「ニール・・こっちだよ。連れて行ってあげる。」
「え・・?」
ニールは戸惑いながらもまた、靄の手をとって歩き出した。
「ねえ、ニールはレオンハルト殿下を好きなんでしょ?なのにどうしてレオンハルト殿下と靄を間違えたりしたの?」
「殿下はそのお立場から、裏表の激しい方でして。靄の皆さんが演じたレオンハルト殿下は全員、レオンハルト殿下であってもおかしくなかったのです。」
「ふうん。”光”のくせに、靄と同じなんてな・・?」
「それは・・朝の神様もそうだったように、困難にぶつかれば心に闇はできるのではないでしょうか?でもけっして明るい部分がなくなるわけではない。殿下もそうです。殿下はそういった自分の中のいろいろな感情を”すべて私だ”とおっしゃっいました。わたしはそんな、いろいろな殿下が好きなのです。光も闇も、共存している殿下が・・。」
ニールは言いながら照れてしまいうつむいた。靄は無言で、ニールの手をぎゅっと握った。
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