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3章

22.子ニールの内緒話

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 ノーラン領の蚤の市は最後に、広場に火を焚いてその周りに集い、歌を歌う。生徒会の面々は焚火の前に散り散りになり参加出来なかったことを大変残念がった。
 マルファスは正式に退学して帰国することになったので、特に残念がっていた。でも来年、また皆んなで来よう、そう約束した。
 マルファスは、ノーラン領の始まりの森から靄や魔獣などをできる限り連れて帰った。ナオミが浄化をしても、ニールが悲しまないようにとの配慮らしい。

 ナオミはその後、ソフィアに連れられて各地を浄化して回っている。最初は渋々だったのだが、最近は聖女の自覚が芽生えたらしく積極果敢に行っているようだ。
 ナオミは同時に、城の貴賓室を出て魔法学校の寄宿舎に入った。将来の事を考えて、と言っていたが、ニールとレオンハルトに遠慮したのかもしれない。ニールはそう考えて、ナオミに申し訳なく思っていた。

「寄宿舎に入ったのはね、将来の事を考えて、もっと仲間を増やしたいって思ったからなの・・。」
「何の仲間なんだ?」
「レオンハルト×ニールを愛でる仲間・・といえば、分かるかしら?ふふふふふ!」
 相変わらず、ナオミとレオノーラは仲が良い。ニールがレオノーラに魔法を教える時はナオミもやってきて隣でお茶を飲んだりお喋りしたりしている。

 そう、ニールはまたレオノーラに魔法を教えているのだ。何故なら・・。

「でも、慣れないわ。レオノーラが金髪青眼になってしまって・・。」
「うん。私もすごく残念なんだ。闇属性、すごく気に入ってたのに・・。」
「それはそれは、申し訳ないことを・・。」
「あっ、ナオミのせいではない!浄化魔法を浴びずとも、いずれは無くなっていたと思うんだ。私の闇属性は染まっていただけの、仮初のものだったから。」

 レオノーラはナオミの浄化魔法を浴びて、闇属性から光属性へ、容姿も金髪青眼に変化した。
 ソフィアがノーラン領へ瘴気退治に行きマルファスに敗れた際、ソフィアはレオノーラを妊娠していた。妊娠中に瘴気まみれになり、その影響で今までレオノーラは闇属性だったようなのだが、ナオミの浄化魔法を浴びた事で本来の光属性に戻ったのだった。

 そのためレオノーラはまたニールに一から魔法を習っている。

「なあ結局、マルファス殿下はニールを諦めてどうなったんだ?」
「いやそれが、マルファス×ファビアンかと思いきや、まさかの本当の友達みたいでさ。つまんなーい!」

 ナオミは椅子にふんぞり返り、盛大に悪態をついた。

「もうあとはファビアン×フレデリックで行くしかないと思ってる。」
「それは無理そうだぞ?知らないのか、ナオミは・・?」
 
 レオノーラはニヤリと笑ってニールを見た。ニールもナオミも意味がわからず、首を傾げた。
 レオノーラの言葉の意味を理解するのは、フレデリックの爵位授与式になるのだが、ニールとナオミはまだ知る由もなかった。
   ニールは何となく、知らない方がいいような気がして別の話題に切り替えた。

「ナオミ様、以前私が新しい魔法を覚えた、と話した事を覚えてらっしゃいますか?」
「ああー?そういえば、そんな事言ってたっけ?」
「殿下は私の"新しい魔法"アレルギーでして。殿下の前では試せないのです。」
「ふんふん。いいわよ!あ、でも待って!部屋の中でも大丈夫なやつ?どんな魔法なの?」
「ええと、部屋の中でも大丈夫です。新しい魔法は"動物と話せるようになる"という術です。どうしても、話してみたい動物がおりまして・・。」
「分かったわ!」

 ナオミは即決すると、テーブルの上のティーセットを手早く片付けた。そして部屋の主、レオノーラより先に「どうぞ!」と言った。

 ニールはテーブルの上にクッションを置いて子ニールを座らせた。そして詠唱して魔法を発動させた。
 子ニールの下には魔法陣が現れ、子ニールは淡く発光した。

 ニールとナオミ、レオノーラは子ニールの第一声をじっと待った。

 子ニールはキョトン、と首を傾けている。

「失敗じゃないか?!」
「でもちゃんと光ったわよ!」
「そうですね、魔法陣もちゃんと・・。」

 三人が話し合っていると、突然、レオノーラの部屋の扉が開いて、けたたましい足音が響いた。

「兄上?!」
 許可なく部屋に入ってきたのはレオンハルトだった。

「殿下!まだ迎えの時間ではないはずですが?!」
「ニール、お前!分かっているんだぞ!魔法を使ったな?!お前が魔法を使ったらすぐ知らせるよう、子ニールに使役させているんだからな!」

 どうやらこっそり魔法を使っても、レオンハルトには筒抜けらしい。ニールは慌てて言い訳をした。

「あっ、でもこれはその・・”動物と話せるようになる”という平和な魔法です。どうしてもコニちゃんと話してみたくて・・。」
「子ニールと話す?!だめだ、だめだっ!」

 レオンハルトの拒絶ぶりを見てナオミとレオノーラは不思議がった。

「何がそんなにだめなの?可愛らしい魔法じゃない。私も飼い猫がいたら話してみたいけどなぁー?」
「何か、ニールに聞かれたくない話を、子ニールとしているとか・・?」
「ああ、自白剤の時みたいに、陰でニールの悪口を言ってるの??」

「悪口は言ってないよ!殿下はいつも、ニールがかわいいって寝顔を・・もがっ!」

 レオンハルトは子ニールの口を塞いだ。ナオミとレオノーラはもっと話をさせようと騒ぎ出したのだがレオンハルトは許さなかった。レオンハルトはニールと子ニールを強引に引っ張って、レオノーラの部屋を後にした。
 
 しばらくの間、レオノーラの部屋からはナオミの笑い声が響いていた。レオンハルトはナオミの笑い声が聞こえなくなると、「思い出した」と言って話し始めた。

「今度のフレデリックの爵位授与式にニールの家族が参加すると連絡があった。」
「家族?兄だけではなくて?」
「ああ、ケリー・ノーラン男爵と、お前の兄、母も来るそうだ。」
 ニールは驚いた。ケリーはエレノアとシェーンに任せきりで全く社交はして来なかったのだ。それにノーラン男爵家は瘴気を長年放置したという罪で、自領の三分の一を没収された。その直後なのに・・?

「ニールは知らないんだな?まあ、この世の中は知らない方がいいことも多い。」
「それは。コニちゃんが殿下の独り言を・・。」
 レオンハルトはニールをジロリと睨んだ。どうやらそのことには触れてほしくないらしい。
 
(でも、コニちゃんが言った通り、殿下は私の事を・・すると、始まりの森で本物の殿下が、いった私の好きなところはひょっとして・・?)

 ニールはその話を持ち出して、またレオンハルトに嫌な顔をされた。でもその顔は恥ずかしがっているのを隠しているだけだと知る事になるのだが、それはもっと、後の話・・。

 ニールはフレデリックの爵位授与式は自分も参加できるのだろうかと、どこか他人事のように考えながら帰路に着いた。

 
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