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3章
23.ハッピーエンド
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フレデリックの爵位授与式は、浄化の成果を貴族達に報告する夜会の席で行われた。
聖女ナオミによる浄化はソフィアの指導の甲斐もあって非常にうまく行っているらしい。その聖女を召喚したフレデリックに爵位が授与されると会場からは万雷の拍手が贈られた。
そして最も驚かされたのは、その領地。
瘴気を長年放置した罰として没収されたノーラン男爵領の領地と隣接する国の直轄地が与えられたのだ。二つの領地を合わせて新たに"デイモン領"として、フレデリックが統治することになった。
父ケリーはあの事件の後、レイノルドに全てを打ち明け、ノーラン男爵領全てを国に明け渡すと申し出たのだが、ケリーがした事の真偽は証明が難しいとして、レイノルドは三分の一のみ没収とした。領都は変わらず、影響は軽微で罰というには優しい措置だった。
憔悴していたケリーを支えたのがフレデリックだった。フレデリックに深く感謝したケリーは、ノーラン領をフレデリックの領土にして欲しいとレイノルドに頼んだらしい。
レイノルドは、終始不機嫌そうにことの経緯をニールに話して聞かせた。
「全てお前の責任だぞ!お前の無茶な行動により二人が仲を深めてしまったんだ・・!どう責任を取るつもりだ?!」
「仲を深めた・・?!まさかそんな・・!」
「そのまさかだ。そもそもあの南京錠の鍵は私が拾っていつかケリーに返して復縁しようと機会を伺っていたものだ!それをお前、フレデリックに渡しただろう!」
「え?鍵を・・?」
ニールはそういえば、フレデリックが空間魔法でレイノルドの大切なものを隠していた事を思い出した。その空間魔法をニールが壊して、中の物をフレデリックに預けたのだ。
「あっ!」
「馬鹿者!それでフレデリックが鍵を渡して、ケリーと・・くっ・・!」
「でも信じられません。私には何も・・。」
ニールが戸惑っていると、鈴を転がしたような声がした。振り返ると、エレノアとニールの母メリダだった。
「ニール!あなたは知らなくて良いのよ。親の恋愛なんて、子供は知らない方がいいわ。ふふふ。」
「確かになぁ・・。」
そう言ってレイノルドはエレノアとメリダに交互に視線を送った。
「二人揃って現れるなんて、どういうことだ?会場の注目を集めていたぞ。まさか、正妻と妾が手と手を取り合って王家主催の夜会に現れるなんて。」
「今日は特別な夜ですから。メリダ・・あれをニールに。」
「はい。エレノア様。」
メリダは返事をすると、小さな包みをニールに差し出した。
「ニール開けて見て?」
ニールは包みを慎重に開いた。すると中には銀細工のタッセルブローチが入っていた。銀細工の部分には菫の花があしらわれており、ニールの目の色と同じ貴石が輝いている。
「素敵ですね・・これは?」
「やっぱり、ニールは何も用意していないのね?仕方のない子・・。これを、レオンハルト殿下に付けて差し上げて?」
「えーと?」
「ニール・・、この後何があるのか、聞いていないの?」
「えっ、まさか?!」
「いや、ありえる!」
エレノアとレイノルドはニールを見て呆れたように笑った。ニールは状況が飲み込めず、戸惑った。
ニールがレオンハルトを探すと、レオンハルトは大勢の人に囲まれていた。
レオンハルトはニールに気がつくと手招きした。
「ニール、今日はマルファスとファビアンも呼んでおいたんだ。」
レオンハルトの隣にはマルファスとファビアンがいた。マルファスはニールを見ると笑顔になった。
「ナオミに釘を刺さなきゃと思ってね。あんまり浄化しすぎるなよ、と・・。それに。」
マルファスがそこまで言うと、ファビアンが口を挟んだ。
「レオンハルトが振られるかも知れないから、それを見届けようと思ってさ!」
「殿下が振られる?」
レオンハルトは、小さく咳払いした。
「レオンハルト、そろそろ発表するのか?」
そして、レイノルドとソフィアが連れ立ってやって来た。ナオミとレオノーラも一緒だ。
「考え直しても良いんだぞ?!」
そう言ったのは兄のシェーンだ。ニールの家族、母二人に、父ケリーとフレデリック。ニールとレオンハルトの周りに皆、集まって来た。
「はい。」
レオンハルトはそう返事すると、ニールの肩を抱いた。
「私、第一王子レオンハルトはニール・ノーランと婚約いたします。」
「ええー?!」
ニールは一人、驚きの声を上げた。
「ニール、なんで驚いてるの?みんな知ってたよ?ニールだけ知らないとか、ある?!」
ナオミは冷静に突っ込んだ。
「聞いていません。だって、父も反対して・・それにソフィア王妃殿下もきっと良く思っていないって・・。」
ニールは動揺のあまり、目に涙が浮かんだ。
レオンハルトはニールの顔を覗き込むと、ニールの涙を優しく拭った。
「この場にみんな揃ってるんだから、心配いらない。大丈夫だ。・・まさか、嫌だった・・?」
レオンハルトは美しい顔を曇らせた。ニールはもう一度自分で涙を拭って、メリダから貰った包みを開けた。中のタッセルブローチを取り出すとレオンハルトの胸に飾った。
「かわいい・・ニールと同じだ。」
レオンハルトは菫の花を指で優しく撫でた。
ニールはレオンハルトに顔を近づけて、そっと囁いた。
「これからの事は、私にも話してください。二人のことは、一緒に考えませんか?その方が、ずっと楽しいと思うから・・。」
レオンハルトは笑顔で頷いて、ニールを抱きしめると口付けた。
ニールとレオンハルトは大勢に祝福されて、無事に婚約した。
「でもさ、一瞬、ニールは断るのかなって思ったよな?」
「うん。レオンハルトは強引だから・・今後もこんな調子で・・ニールに嫌われる可能性もあるんじゃないか?」
ファビアンとマルファスはそう言って、ニールに近付いた。
「お前達を呼んだのは、諦めろ、って事だぞ?」
レオンハルトはニールを抱き寄せて、二人を睨んだ。
「そう思ってたんだけど、でも未来のことなんて、分からないじゃん。ひょっとしてひょっとするかも知れないしな?」
「そうだな、そう思った。別に、無理して諦める必要なんてない。結果、どうなったとしても。」
二人が楽しそうに笑ったので、ニールもつられて笑顔になった。
(そうだ、未来がどうなるかなんて、分からない。台本なんて、ないんだから。)
ニールはレオンハルトにもう一度口付けて、甘く囁いた。
「レオ、一緒に生きていきましょう。一緒に考えたい。貴方と私のこれからを・・。」
ニールとレオンハルトは二人で目を閉じて想像した。
二人で生きていく未来を。
ーーーーーーーーーーーーーー
最終話のようなタイトルと終わり方ですが、次が最終話です。
もう一話だけお付き合い頂けると嬉しいです。
聖女ナオミによる浄化はソフィアの指導の甲斐もあって非常にうまく行っているらしい。その聖女を召喚したフレデリックに爵位が授与されると会場からは万雷の拍手が贈られた。
そして最も驚かされたのは、その領地。
瘴気を長年放置した罰として没収されたノーラン男爵領の領地と隣接する国の直轄地が与えられたのだ。二つの領地を合わせて新たに"デイモン領"として、フレデリックが統治することになった。
父ケリーはあの事件の後、レイノルドに全てを打ち明け、ノーラン男爵領全てを国に明け渡すと申し出たのだが、ケリーがした事の真偽は証明が難しいとして、レイノルドは三分の一のみ没収とした。領都は変わらず、影響は軽微で罰というには優しい措置だった。
憔悴していたケリーを支えたのがフレデリックだった。フレデリックに深く感謝したケリーは、ノーラン領をフレデリックの領土にして欲しいとレイノルドに頼んだらしい。
レイノルドは、終始不機嫌そうにことの経緯をニールに話して聞かせた。
「全てお前の責任だぞ!お前の無茶な行動により二人が仲を深めてしまったんだ・・!どう責任を取るつもりだ?!」
「仲を深めた・・?!まさかそんな・・!」
「そのまさかだ。そもそもあの南京錠の鍵は私が拾っていつかケリーに返して復縁しようと機会を伺っていたものだ!それをお前、フレデリックに渡しただろう!」
「え?鍵を・・?」
ニールはそういえば、フレデリックが空間魔法でレイノルドの大切なものを隠していた事を思い出した。その空間魔法をニールが壊して、中の物をフレデリックに預けたのだ。
「あっ!」
「馬鹿者!それでフレデリックが鍵を渡して、ケリーと・・くっ・・!」
「でも信じられません。私には何も・・。」
ニールが戸惑っていると、鈴を転がしたような声がした。振り返ると、エレノアとニールの母メリダだった。
「ニール!あなたは知らなくて良いのよ。親の恋愛なんて、子供は知らない方がいいわ。ふふふ。」
「確かになぁ・・。」
そう言ってレイノルドはエレノアとメリダに交互に視線を送った。
「二人揃って現れるなんて、どういうことだ?会場の注目を集めていたぞ。まさか、正妻と妾が手と手を取り合って王家主催の夜会に現れるなんて。」
「今日は特別な夜ですから。メリダ・・あれをニールに。」
「はい。エレノア様。」
メリダは返事をすると、小さな包みをニールに差し出した。
「ニール開けて見て?」
ニールは包みを慎重に開いた。すると中には銀細工のタッセルブローチが入っていた。銀細工の部分には菫の花があしらわれており、ニールの目の色と同じ貴石が輝いている。
「素敵ですね・・これは?」
「やっぱり、ニールは何も用意していないのね?仕方のない子・・。これを、レオンハルト殿下に付けて差し上げて?」
「えーと?」
「ニール・・、この後何があるのか、聞いていないの?」
「えっ、まさか?!」
「いや、ありえる!」
エレノアとレイノルドはニールを見て呆れたように笑った。ニールは状況が飲み込めず、戸惑った。
ニールがレオンハルトを探すと、レオンハルトは大勢の人に囲まれていた。
レオンハルトはニールに気がつくと手招きした。
「ニール、今日はマルファスとファビアンも呼んでおいたんだ。」
レオンハルトの隣にはマルファスとファビアンがいた。マルファスはニールを見ると笑顔になった。
「ナオミに釘を刺さなきゃと思ってね。あんまり浄化しすぎるなよ、と・・。それに。」
マルファスがそこまで言うと、ファビアンが口を挟んだ。
「レオンハルトが振られるかも知れないから、それを見届けようと思ってさ!」
「殿下が振られる?」
レオンハルトは、小さく咳払いした。
「レオンハルト、そろそろ発表するのか?」
そして、レイノルドとソフィアが連れ立ってやって来た。ナオミとレオノーラも一緒だ。
「考え直しても良いんだぞ?!」
そう言ったのは兄のシェーンだ。ニールの家族、母二人に、父ケリーとフレデリック。ニールとレオンハルトの周りに皆、集まって来た。
「はい。」
レオンハルトはそう返事すると、ニールの肩を抱いた。
「私、第一王子レオンハルトはニール・ノーランと婚約いたします。」
「ええー?!」
ニールは一人、驚きの声を上げた。
「ニール、なんで驚いてるの?みんな知ってたよ?ニールだけ知らないとか、ある?!」
ナオミは冷静に突っ込んだ。
「聞いていません。だって、父も反対して・・それにソフィア王妃殿下もきっと良く思っていないって・・。」
ニールは動揺のあまり、目に涙が浮かんだ。
レオンハルトはニールの顔を覗き込むと、ニールの涙を優しく拭った。
「この場にみんな揃ってるんだから、心配いらない。大丈夫だ。・・まさか、嫌だった・・?」
レオンハルトは美しい顔を曇らせた。ニールはもう一度自分で涙を拭って、メリダから貰った包みを開けた。中のタッセルブローチを取り出すとレオンハルトの胸に飾った。
「かわいい・・ニールと同じだ。」
レオンハルトは菫の花を指で優しく撫でた。
ニールはレオンハルトに顔を近づけて、そっと囁いた。
「これからの事は、私にも話してください。二人のことは、一緒に考えませんか?その方が、ずっと楽しいと思うから・・。」
レオンハルトは笑顔で頷いて、ニールを抱きしめると口付けた。
ニールとレオンハルトは大勢に祝福されて、無事に婚約した。
「でもさ、一瞬、ニールは断るのかなって思ったよな?」
「うん。レオンハルトは強引だから・・今後もこんな調子で・・ニールに嫌われる可能性もあるんじゃないか?」
ファビアンとマルファスはそう言って、ニールに近付いた。
「お前達を呼んだのは、諦めろ、って事だぞ?」
レオンハルトはニールを抱き寄せて、二人を睨んだ。
「そう思ってたんだけど、でも未来のことなんて、分からないじゃん。ひょっとしてひょっとするかも知れないしな?」
「そうだな、そう思った。別に、無理して諦める必要なんてない。結果、どうなったとしても。」
二人が楽しそうに笑ったので、ニールもつられて笑顔になった。
(そうだ、未来がどうなるかなんて、分からない。台本なんて、ないんだから。)
ニールはレオンハルトにもう一度口付けて、甘く囁いた。
「レオ、一緒に生きていきましょう。一緒に考えたい。貴方と私のこれからを・・。」
ニールとレオンハルトは二人で目を閉じて想像した。
二人で生きていく未来を。
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最終話のようなタイトルと終わり方ですが、次が最終話です。
もう一話だけお付き合い頂けると嬉しいです。
応援ありがとうございます!
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