無口な愛情

結衣可

文字の大きさ
7 / 7

最終話 幸せをくれる人

しおりを挟む
 夜が明けきる前の静かな時間、律は深い眠りに落ちていた。
 隼人はそんな律の横で、静かにタオルを手に取っていた。

 ――無理、させたかもしれない。

 いつも冷静で凛とした律が、今は力を抜いて眠っている。
 その姿に胸が締め付けられる。

 隼人は濡らしたタオルで、律の肌をそっと拭った。
 乱れたシャツを脱がせ、新しいものに着替えさせる。
 できるだけ律を起こさないように、慎重に、丁寧に。

 作業を終えると、テーブルに置いてあったミネラルウォーターを取り、キャップを緩めてベッドサイドに置いた。
 いつ目を覚ましてもすぐ飲めるように。

 そしてベッドの縁に腰を下ろし、眠る律の髪を撫でた。
 濡れた黒髪を指先で梳くたび、胸の奥がじんわりと温かくなる。

「……すいません、大事にしたいと思ってたのに、俺……」

 誰に聞かせるでもなく、小さく呟く。
 そのとき、律のまぶたがわずかに震え、ゆっくりと開いた。

「……はやと?」

 かすれた声。まだ眠気の残る瞳が隼人を捉える。

「起こしましたか」

「……ん、なんか……撫でられてた気がする」

 微笑むように呟いて、律は目を細めた。

「……きもちいい」

「体は大丈夫ですか?」

 隼人は静かに聞くと、もう一度律の髪に指を通した。
 律は赤くなった頬を枕に埋めながら、小さく囁く。

「……ん、ちょっと…痛い」

「すいません。止まれませんでした」

「ふふ、隼人の気持ちが伝わってくるみたいで、うれしかった」

 律はそのまままた眠りについた。
 隼人の胸の奥が熱くなる。
 その言葉に応えるように、彼はさらに優しく律の髪を撫で続けた。


 カーテンの隙間から差し込む朝の光に、律はまぶたを震わせて目を覚ました。
 視界の端に映ったのは、ベッドの端に腰を下ろしてコーヒーを飲む隼人の姿。

「……おはようございます」

 低い声が穏やかに響く。

「……おはよ」

 寝起きの声で返した瞬間、昨夜の出来事が一気に脳裏に蘇った。

 ――自分からキスをした。
 ――そのあと、隼人の理性を吹き飛ばした。
 ――体を拭かれて、着替えまで……。

「っ……!」

 律は布団を頭まで引き上げた。

「どうしました」

 隼人の落ち着いた声が追いかけてくる。

「な、なんでもないっ!」

 布団の中から返すが、耳まで真っ赤になっているのは隠しようがない。
 隼人はコーヒーを置き、ゆっくりと布団の端を引っ張った。

「……顔、見せてください」

「や、やだ!」

「どうしてですか」

「昨夜のこと思い出したら……恥ずかしいに決まってるだろ!」

 叫ぶように言ったあと、自分で余計に赤面してしまう。
 隼人はわずかに口元を緩め、布団越しに律の頭を撫でた。

「……俺は、幸せでした」

「っ……!」

 律はさらに布団に潜り込み、声にならない呻きを漏らした。
 照れ隠しのために、律は枕を抱きしめながら小さく呟いた。

「……俺だって……」

 その呟きに、隼人の大きな手が優しく律を布団ごと抱き締める。

「はい」

 もぞもぞと顔を出し、隼人に手を伸ばす。

「……もっとぎゅって」

「はは、律さん、本当に可愛いですね」

 隼人は律を力いっぱい抱き、意地悪な顔で囁く。

「それだけ動けるなら、もう少し強く抱いても大丈夫そうですね?」

「~~~っ!?」

 昨夜の熱がまだ残ってるような隼人の声に、律は言葉を失う。
 こぼれた笑い声が二人の間を柔らかく包んだ。 
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

サラリーマン二人、酔いどれ同伴

BL
久しぶりの飲み会! 楽しむ佐万里(さまり)は後輩の迅蛇(じんだ)と翌朝ベッドの上で出会う。 「……え、やった?」 「やりましたね」 「あれ、俺は受け?攻め?」 「受けでしたね」 絶望する佐万里! しかし今週末も仕事終わりには飲み会だ! こうして佐万里は同じ過ちを繰り返すのだった……。

素直じゃない人

うりぼう
BL
平社員×会長の孫 社会人同士 年下攻め ある日突然異動を命じられた昭仁。 異動先は社内でも特に厳しいと言われている会長の孫である千草の補佐。 厳しいだけならまだしも、千草には『男が好き』という噂があり、次の犠牲者の昭仁も好奇の目で見られるようになる。 しかし一緒に働いてみると噂とは違う千草に昭仁は戸惑うばかり。 そんなある日、うっかりあられもない姿を千草に見られてしまった事から二人の関係が始まり…… というMLものです。 えろは少なめ。

声なき王子は素性不明の猟師に恋をする

石月煤子
BL
第一王子である腹違いの兄から命を狙われた、妾の子である庶子のロスティア。 毒薬によって声を失った彼は城から逃げ延び、雪原に倒れていたところを、猟師と狼によって助けられた。 「王冠はあんたに相応しい。王子」 貴方のそばで生きられたら。 それ以上の幸福なんて、きっと、ない。

ビジネス婚は甘い、甘い、甘い!

ユーリ
BL
幼馴染のモデル兼俳優にビジネス婚を申し込まれた湊は承諾するけれど、結婚生活は思ったより甘くて…しかもなぜか同僚にも迫られて!? 「お前はいい加減俺に興味を持て」イケメン芸能人×ただの一般人「だって興味ないもん」ーー自分の旦那に全く興味のない湊に嫁としての自覚は芽生えるか??

愛と猛毒(仮)

万里
BL
オフィスビルの非常階段。冷え切った踊り場で煙草をくゆらせる水原七瀬(みずはらななせ)は、部下たちのやり取りを静かに見守っていた。 そこでは村上和弥(むらかみかずや)が、長年想い続けてきた和泉に別れを告げられていた。和泉は「ありがとう」と優しく微笑みながらも、決意をもって彼を突き放す。和弥は矜持を守ろうと、営業スマイルを貼り付けて必死に言葉を紡ぐが、その姿は痛々しいほどに惨めだった。 和泉が去った後、七瀬は姿を現し、冷徹な言葉で和弥を追い詰める。 「お前はただの予備だった」「純愛なんて綺麗な言葉で誤魔化してるだけだ」――七瀬の毒舌は、和弥の心を抉り、憎悪を引き出す。和弥は「嫌いだ」と叫び、七瀬を突き放して階段を駆け下りていく。 「……本当、バカだよな。お前も、俺も」 七瀬は独り言を漏らすと、和弥が触れた手首を愛おしそうに、そして自嘲気味に強く握りしめた。 その指先に残る熱は、嫌悪という仮面の下で燃え盛る執着の証だった。 毒を吐き続けることでしか伝えられない――「好きだ」という言葉を、七瀬は永遠に飲み込んだまま、胸の奥で腐らせていた。

2度目の恋 ~忘れられない1度目の恋~

青ムギ
BL
「俺は、生涯お前しか愛さない。」 その言葉を言われたのが社会人2年目の春。 あの時は、確かに俺達には愛が存在していた。 だが、今はー 「仕事が忙しいから先に寝ててくれ。」 「今忙しいんだ。お前に構ってられない。」 冷たく突き放すような言葉ばかりを言って家を空ける日が多くなる。 貴方の視界に、俺は映らないー。 2人の記念日もずっと1人で祝っている。 あの人を想う一方通行の「愛」は苦しく、俺の心を蝕んでいく。 そんなある日、体の不調で病院を受診した際医者から余命宣告を受ける。 あの人の電話はいつも着信拒否。診断結果を伝えようにも伝えられない。 ーもういっそ秘密にしたまま、過ごそうかな。ー ※主人公が悲しい目にあいます。素敵な人に出会わせたいです。 表紙のイラストは、Picrew様の[君の世界メーカー]マサキ様からお借りしました。

【完結】社畜の俺が一途な犬系イケメン大学生に告白された話

日向汐
BL
「好きです」 「…手離せよ」 「いやだ、」 じっと見つめてくる眼力に気圧される。 ただでさえ16時間勤務の後なんだ。勘弁してくれ──。 ・:* ✧.---------・:* ✧.---------˚✧₊.:・: 純真天然イケメン大学生(21)× 気怠げ社畜お兄さん(26) 閉店間際のスーパーでの出会いから始まる、 一途でほんわか甘いラブストーリー🥐☕️💕 ・:* ✧.---------・:* ✧.---------˚✧₊.:・: 短期でサクッと読める完結作です♡ ぜひぜひ ゆるりとお楽しみください☻* ・───────────・ 🧸Twitterもぜひ遊びに来てください🫧 ❥❥❥ https://x.com/ushio_hinata_2?s=21 ・───────────・ 応援していただけると励みになります💪( ¨̮ 💪) なにとぞ、よしなに♡ ・───────────・

悋気応変!

七賀ごふん
BL
激務のイベント会社に勤める弦美(つるみ)は、他人の“焼きもち”を感じ取ると反射的に号泣してしまう。 厄介な体質に苦しんできたものの、感情を表に出さないクールな幼なじみ、友悠(ともひさ)の存在にいつも救われていたが…。 ────────── クール&独占欲強め×前向き&不幸体質。 ◇BLove様 主催コンテスト 猫野まりこ先生賞受賞作。 ◇プロローグ漫画も公開中です。 表紙:七賀ごふん

処理中です...