無口な愛情

結衣可

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第6話 お風呂上がり

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 休日の夜、律の部屋に隼人が来て、二人で夕食を済ませたあと、順番でお風呂に入ることにした。
 隼人が先に済ませ、リビングのソファに座ると、律が「入ってくるね」とバスルームへ向かった。

 しばらくして、バスルームのドアが開く。
 湯気とともに現れた律は、濡れた髪をタオルで拭きながら部屋に戻ってきた。
 白いTシャツにラフなハーフパンツ姿。
 湯上がりのせいで頬はほんのり赤く、滴る水滴が首筋を伝っていく。

「……」

 隼人は思わず固まった。
 無防備なその姿を眺めていると、律が居心地悪そうにする。

「……な、なに?」

 律が眉をひそめる。
 頬を赤くしながら、律はタオルで乱暴に髪を拭いた。

「そんなに見るなって」

「……すみません」

 謝りながらも、隼人の視線は逸れなかった。

「き……」

 隼人は遮るように低い声で答える。

「綺麗ですね」

「っ……!」

 律はタオルで顔を覆った。
 耳まで真っ赤になっているのが、自分でもわかる。

「……もぉ、なんでそういうこと……」

 震える声を、隼人は静かに受け止めた。
 そして立ち上がり、濡れた髪をタオルごとそっと取る。
 大きな掌で、優しく拭いてやる。

「律さん、隠さないで……俺だけに見せてください」

 囁きに、律の胸は一気に熱を帯びた。
 抗うこともできず、ただ隼人の手に委ねるしかなかった。


 リビングのソファに腰を下ろした律は、まだ少し落ち着かない顔をしていた。
 さっきまでの「お風呂上がりを見られた恥ずかしさ」が残っているのだろう。

「座っててください」

 隼人がドライヤーを持って戻ってくる。

「……え、いいって。自分でやるから」

「俺がやります」

 淡々と告げられ、律は観念してソファに深く座り直した。
 隼人の大きな手が髪に触れる。
 温風と一緒に優しく指が通り、さらさらと濡れた髪がほぐれていく。

「……ん……」

 思わず小さな声が漏れた。
 くすぐったさと、心地よさが入り混じっている。

「痛くないですか」

「大丈夫……。ていうか、お前、なんでこんなに手慣れてんだ」

「妹がいるので」

 隼人は淡々と答えながら、律の髪を整えていく。

「……なるほど」

 律は小さく笑い、目を細めた。
 普段は人前で絶対に見せない、無防備で甘えた表情。
 隼人はそんな横顔を見て、胸の奥が温かくなる。

 ――こんな顔を、俺だけが見られる。

 律がぼそりとつぶやく。

「なんか……子ども扱いされてるみたいだ」

 隼人はきっぱりと言った。

「恋人を、大事にしてるだけですよ」

「……っ」

 律の耳まで赤くなる。
 ドライヤーの音にかき消されながらも、隼人の言葉はしっかりと胸に響いていた。


 ドライヤーの音が止むと、部屋に静けさが戻った。
 律は肩をすくめ、濡れていた髪に指を通して確かめる。

「……ふふ。すごいな、サラサラになった」

 子どもみたいに笑うその顔は、普段の律からは想像できないほど柔らかかった。

 ――可愛い

 その一言が頭の中に響き、次の行動を抑えられなかった。
 気づけば、隼人は律の顎をそっと持ち上げていた。

「……え?」

 問いかけが終わる前に、隼人の唇が律の唇に触れる。
 ほんの短く、優しい口づけ。

「……っ」

 律は驚いたように目を見開いた。

「……すみません」

 唇を離した隼人は、少しだけ視線を伏せた。

「あまりにも……可愛くて」

「……っ!」

 律はタオルで顔を覆い、耳まで真っ赤になったが、胸の奥に湧き上がったのは照れだけではなく――「自分からも触れたい」という強い気持ちだった。
 タオルで顔を隠しながら、ちらりと隼人を見上げる。
 大きな体をソファに預け、落ち着いた表情でこちらを見ている。
 いつも通りの無口で冷静な顔。
 それが、逆に律の心を揺さぶった。

「……桐生」

「はい」

「……俺からも……してみたい」

 一瞬の沈黙。
 隼人の瞳がかすかに揺れたのを見て、律は勇気を振り絞った。
 タオルを膝に置き、そっと身を寄せる。
 自分から唇を重ねた瞬間、胸の奥がじんわり熱に包まれた。

「……律さん」

 名前を呼ぶ声が低く震える。
 すぐに隼人の腕に強く抱きすくめられた。

「っ……!」

 驚く間もなく、深い口づけが落ちる。
 優しかったはずの唇が、熱を帯びて強く求めてきた。

「……律さん、この先に進んでもいいですか?」

 耳元で漏れる声に、律の体は小さく震えた。

「早く答えてくれないと、手遅れになります」

 大きな手が背に回り、逃げ場をなくすように抱き寄せられる。
 その強さに、胸の奥までかき乱される。

「桐生……っ、ちょっと……」

 抗議めいた声も、またすぐに口づけで塞がれる。

 ――答えられないんだけど!?

 でも、少しも嫌ではなかった。
 律は答えられない代わりに「察してくれ」とでも言うように、隼人のキスに応えた。
 そんな律に煽られた隼人は、律をソファから抱き上げ、そのままベッドに座る。
 隼人の膝の上に乗せられ、向かい合うと、すぐ近くにお互いの顔がある。
 律を、熱を含んだ目で見上げると

 「隼人って呼んでください」

 「……っ」

 「早く呼んで」

 「……と」

 「ん?」

 「は、やと」

 隼人は破顔して、「よくできました」と律をぎゅっと抱き締めた。

 「律さん、好きです。……貴方の全部、ください」

 「ん、あげるっ……から、もう触って」

 隼人の熱を全身で受け止めながら、律はこの上ない幸せを感じていた。
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