拗らせ問題児は癒しの君を独占したい

結衣可

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第5話 街へ

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相変わらず、アレクシスは僕を呼び出した。いつも静かで、誰にも邪魔されない場所で、二人で過ごす。

毎日、少しずつ――だが確実に、僕たちの距離は縮まっていった。彼は相変わらず無愛想で、時々意地悪なことも言う。けれど、その一つ一つの行動に、なぜか温かさを感じるようになっていた。

一方の僕も、少しずつ変わっていった。最初は緊張してばかりだったが、次第にリラックスして彼と接することができるようになった。時には、冗談を言うことさえあった。

「……お前、意外と皮肉な奴だな」

ある日、僕の言った冗談に、彼が驚いたように言った。

「すみません、調子に乗って……」

「謝るな。……その方が、面白い」

彼はクスリと笑う。その笑顔は、初めて見た時よりもずっと柔らかく見えた。

月日は流れ、学院では期末試験が近づいてきた。僕は相変わらずアレクシスと放課後を過ごしていたが、最近は勉強することが多くなった。

「……ここ、間違っている」

ある日、魔導陣の設計図を見ていたアレクシスが、突然指さした。

「え? でも、教科書にはこう書いて……」

「教科書が間違っているんだ。実際に動かしてみればわかる」

彼はそう言うと、空中に簡単な魔導陣を描いて見せた。確かに、彼の言う通りだった。

「……どうして、そんなことが?」

「経験だ。本だけ読んでいては、わからないこともある」

彼はそう言って、少し得意げな顔をした。僕は思わず笑ってしまった。

「……笑うな」

「すみません。でも、アレクシス様、そういう時だけは子供っぽくて……」

言ってから気づいた。まずいことを言ってしまった。しかし、彼は意外にも怒らなかった。

「……お前こそ、子供のくせに大人びている」

その言葉に、僕はハッとした。確かに、僕は内心では30代の大人だ。時折、そのギャップに自分でも戸惑うことがある。

「……そうですか?」

「ああ。時々、お前の目が……ずっと年上のように見えることがある」

彼は真剣な表情でそう言う。僕は少しどきりとした。もしかしたら、彼は僕の本質に気づいているのだろうか。

「……それは、きっとアレクシス様の勘違いです」

「そう……だよな」

彼はそれ以上追求せず、再び魔導陣の話に戻った。僕はほっとすると同時に、少しばかり物足りなさも感じた。もし彼が本当に知ったら、どうするだろうか。

試験前の最後の放課後、僕たちは中庭にいた。最近は暖かくなり、外套も必要なくなっていた。

「明日から試験か……」

僕はぼんやり呟く。

「緊張するのか?」

「少しは……そうです」

「大丈夫だ。お前の実力なら問題ない」

彼の言葉に、僕は驚いて彼を見た。褒められるとは思っていなかった。

「……そんなことありません。アレクシス様ほどは……」

「ふ、俺とお前では専門が違うだろう」

彼は吐き捨てるように言うが、その目は優しかった。

「それに……お前は、俺が思っている以上に賢いよ」

その言葉に、僕は胸が熱くなった。こんな風に認められること――前世では、いつもプレッシャーにしかならなかった。けれど、彼の言葉はなぜか純粋に嬉しかった。

「……ありがとうございます」

小声でそう言うと、彼は少し照れくさそうに顔を背けた。

「……礼を言われるようなことじゃない」

沈黙が流れる。けれど、もはやそれは苦しいものではなく、寧ろ居心地のいいものだった。

彼がこっちを見ている気がして、僕は視線を上げた。彼は確かに僕を見ていて、その蒼い瞳には何か言いたげなものが浮かんでいた。

「セナ」

「はい」

「試験が終わったら……街に出掛けないか?」

その誘いに、僕は息を詰まらせた。これまで以上に、個人的な誘いだ。

「街……ですか?」

「ああ。たまにはそういうのもいいだろう? お前、いつも学院に籠っているからな」

確かにその通りだった。僕はできるだけ目立たないように、学院と寮の往復だけを続けていた。

「で、でも……アレクシス様と一緒に街に出るなんて、もし誰かに見られたら……」

「何か問題があるのか?」

彼は真っ直ぐに僕を見る。その視線は、まるで僕の心の迷いを見透かすようだった。

「いえ、それは……アレクシス様の評判に傷がつくかもしれませんし……」

「どうでもいい」

彼の言葉はきっぱりとしていた。

「俺は、お前と街に出たい。それだけだ」

その言葉に、もう反論できなかった。むしろ――内心では、とても行きたいと思っていた。

「……では、お言葉に甘えて」

「よし」

彼は満足そうに頷いた。そして、なぜか少し誇らしげに見えた。

試験期間の一週間、僕たちは放課後を共に過ごせなかった。けれど、時折食堂ですれ違うと、彼はわずかに頷くだけだった。それだけで、何故かとても安心した。

試験最終日、最後の科目が終わると、ほっと一息ついた。

寮に戻ろうとすると、背後から聞き慣れた声がした。

「セナ」

振り向くと、アレクシスが立っていた。相変わらずだらしない格好だが、何故か清々しそうに見えた。

「お前、約束忘れたのか?」

「約束……あっ!」

街に出る約束をすっかり忘れていた。顔が熱くなる。

「すみません! 完全に失念してしまって……」

「ほら、今から行くぞ」

「い、今からですか? でも、まだ制服のままで……」

「構わん。そのまま来い」

彼はそう言うと、さっさと歩き出した。僕は慌てて後を追った。

学院の門を出ると、そこはもう街だった。石畳の道には商人たちの店が並び、人々の活気ある声が響いている。僕は少し緊張しながらも、わくわくする気持ちを抑えきれなかった。

「どこから回る?」

アレクシスが尋ねる。彼はすっかり街の様子に慣れているようだった。

「えっと……ぼ、僕は何でも……よくわからないから」

「そうか。なら、俺について来い」

彼はそう言うと、迷わず歩き出した。僕は彼の後をついていった。

まず連れて行かれたのは、古本屋だった。店内は天井まで本が積み上げられ、ほこりっぽいけれどどこか懐かしい匂いがした。

「お前、こういうの好きだろ?」

アレクシスが得意げに言う。確かに、僕はわくわくしながら店内を見回した。ここには、学院の図書室にはないような珍しい本がたくさんあった。

「すごい……こんなにたくさん……」

「好きなだけ見てろ。俺は外で待っている」

彼はそう言うと、店の外に出ていった。僕は驚いた。彼は僕が本を見るのを待ってくれるつもりなのだろうか。

しばらく本を眺めた後、一冊の古い魔導書を見つけた。値段を見ると、奨学生の僕には手の届かない金額だった。

「……何か見つけたか?」

外に出ると、アレクシスが壁にもたれかかって待っていた。

「はい、とても素敵な本が……でも、高くて」

「どれだ?」

彼は店内に入ると、僕が指さした分厚い本を見て眉をひそめた。

「……これが欲しいのか?」

「あ、いえ! ただ、見つけたというだけで……」

彼はしばらく本を見つめると、突然店主を呼んだ。

「この本をくれ」

「あ、あの! だめです! こんな高価なもの……」

「黙れ。俺が買うと言っているんだ」

彼はきっぱりと言い、財布から金貨を取り出した。僕はただ呆然とそれを見つめるしかなかった。

本を包んでもらい、店を出ると、僕はようやく口を開いた。

「ア、アレクシス様、ありがとうございます……。でも、なぜ、こんな……」

「気に入ったんだろう? ならそれでいい」

彼はいたって平然としている。僕は胸が一杯になった。

「……お、お返し、どうすれば」

「返す必要はない。……だが、そうだな」

彼は突然立ち止まり、私を見下ろした。

「これからも、俺と一緒にいてくれれば、それでいい」

その言葉に、私は目を見開いた。彼の蒼い瞳は真剣そのものだった。

「……それだけですか?」

「それだけだ。……お前は、俺にとって……」

彼は「やっぱ何でもねえ」と言葉を濁し、再び歩き出した。僕は慌てて後を追いながら、彼の言わんとした言葉を想像した。

街歩きは続いた。彼は時折、面白い店や隠れた名店を教えてくれた。彼のそんな一面に、何度も驚かされた。

「よく、ご存じなんですね」

「まぁ。子供の頃からよく来ていたからな」

彼はそう言うと、少し遠い目をした。何か思い出があるようだった。

夕方になり、街灯に火が灯り始めた。僕たちは小さな広場のベンチに腰を下ろし、買った軽食を食べた。

「……今日は、ありがとうございました」

僕は小声で感謝を伝えた。

「あぁ……俺も楽しかった」

彼はそう言い、空を見上げた。夕焼けが彼の顔を優しく染めていた。
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