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第十一章 再び生徒会室
クマちゃん VS パンツ
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「あの、先生……?」
生徒会長が小坂の腕の中で居ごこち悪そうに身じろぎした。
「あ、すまない……つい」
小坂は、慌てて抱きしめていた生徒会長を放した。
生徒会長は、赤くなった頬を隠すようにうつむいた。
少しほっとしたような様子で、ワイシャツの乱れを直してから、生徒会長は語った。
「僕は、大丈夫だったんです。連れこまれたとき、僕が暴れて騒いだのを気づいて救ってくれた人がいて。それが前の生徒会長だったんです」
「そうか」
生徒会長の話を聞いて、小坂は自分の早合点に気づいた。てっきり生徒会長が自分と同じ経験をしたのだと思ってしまった。だが違った。
「それは良かった」
生徒が酷い経験をしなかったことは喜ぶべきことだ。小坂は、ほっとした。だが同時に、泣きたいような孤独を感じた。そうか、誰も、自分と同じではない。自分と同じ人はいない。
そんなことは、わかっていた。慣れていた。だが期待してしまった。自分と同じ経験をした仲間がいることを。
仲間が、賢く美しい生徒であることに小坂は喜んだ。彼ならば、共感し合える。理解し合える。彼を慈しみたい。彼は賢い生徒だ。優しく育めば、きっと傷も癒され、健やかに成長してくれるだろう。癒えた傷の、傷の痛みを忘れないまま。そんな彼が、いずれ自分を救ってくれるかもしれないとまで期待してしまった。
「僕は、暴れて騒がなかったのが悪かったのか……」
むらむらと自己嫌悪の嫌な感情が、小坂の脳を汚染した。どこにも、ぶちまけようのない、秘めた怒りが、自分に向かっていた。
「先生、そんなことありませんよ」
宮本が、ふいに口をはさんだ。
「あいつら、暴れたり、騒いだりしたら、何をするかわかりません。もっと乱暴なことだって、しかねないやつらなんです」
宮本は、語気荒く怒った。
「そうか……宮本は、さっき、それを、体験したのか」
小坂の言葉に、宮本は頷いた。
「だから、小坂先生は、間違ってなんかいません」
宮本は、力強く小坂に言った。
小坂は、今度は宮本の身体を抱き寄せて言った。
「ありがとう」
小坂は宮本を抱きしめた。
「先生……」
思わぬ助けが、ここにあった。
宮本は、いつのまに、強くなったのだろう。何も言えない、ウブで弱い生徒だったのに。小坂は、泣きたい気持ちになった。
ところが、宮本は、小坂の腕の中で、えっくえっく泣き出した。
「ぼく……やつらに、ひどいことされました」
「いつ?」
泣き出した宮本に、生徒会長が聞いた。
「さっきです」
宮本が答えた。
「あ、それで」
生徒会長と風紀委員長が口を揃えて言い、うなずきあった。
「それで、殺すとか言ってたのか」
生徒会長が言った。
「あいつら……!」
風紀委員長がこぶしを握り締めた。
「なんか、一年生の子が先生のパンツ被らされてエッチなことされてました。僕が、先生にプレゼントしたパンツなのにっ……!」
宮本は、えくえくしながら言った。
「え? 先生にプレゼントしたパンツ!?」
生徒会長が、つっこんだ。
「あ……」
宮本は、恥ずかしそうにした。
「君、小坂先生に下着なんか贈ったんだな。抜けがけしてずるいぞ。先生にプレゼントなんかしたら、いけないんだぞ」
生徒会長が、子どものようになって、宮本に抗議した。
「そうだよな。風紀委員長」
生徒会長は、振り返って、風紀委員長にまで加勢を求めた。
「まあ、そうだが……」
風紀委員長は、あきれたように返事をした。
「小坂先生が、プレゼントなんか、受け取るわけないじゃないか! 決まりなんだぞ。それも、パンツだなんて。そんなものプレゼントするなんて、君は破廉恥だな。それに、なんて酷いセンスなんだ。きみを見損なったよ。そんなルール違反をするなんて!」
生徒会長は、いやにこだわる。
「生徒会長だって、先生に、クマちゃんのキーホルダー贈ったじゃないですか!」
宮本が暴露した。
生徒会長が真っ赤になった。
「あんな、かわいいクマちゃんなんか、大人の男で、かっこいい先生に、ぜんっぜん似合わないのにっ。会長のプレゼントセンスの方が、どうかしてますっ! 人のプレゼントのセンスにケチつけないでくださいっ」
宮本も、真っ赤になって負けずに言い返した。
「きみ、なんでそんなこと知ってるの。だって、あれは……その……僕も子どもだったから。まだ二年生だったからね……」
生徒会長が赤くなりながら、いいわけをした。
「僕だって二年生ですっ!」
宮本が言い返した。
「うん、そうだよね。なのに、パンツなんて贈るとか。きみって、相当エッチなんだね」
生徒会長がニヤニヤした。
「クマちゃんなんて渡す人に言われたくないです!」
宮本は真っ赤になって怒った。
「クマちゃんなんてとか言うな! クマちゃんに失礼じゃないか!」
生徒会長も赤くなって怒った。
「だってクマちゃんなんてっ……」
むぎゅうと宮本の唇を会長がひねりつぶした。
「クマちゃんをバカにするやつの口から、クマちゃんってことばを聞きたくない!」
風紀委員長があきれかえって言った。
「おい、いいかげんにしろよ。クマちゃんなんか、どうでもいいだろ?」
「クマちゃんなんかって言うな!」
風紀委員長まで、とばっちりを受けた。
「おいおい、お前、クマちゃんごときで、二年と喧嘩して、恥ずかしくないのか?」
風紀委員長が、うんざり顔で言った。
「クマちゃんごときとか言うな!」
「つまり、生徒会長は、クマちゃんが好きなんですね……」
宮本が、つままれて赤くなった唇を指で痛そうに押えながら言った。
「好きなものを好きな人にあげて、なにが悪いんだ!」
生徒会長が憤慨したように言った。
「へえ、おまえって、クマちゃんが好きなんだ。しかも、小坂のこと、好きだったんだぁ……。へぇぇ、小坂なんて、とか、さんざん言ってたくせに。へぇぇ」
風紀委員長が、こらえきれなくなったように、クスクスと笑いだした。
生徒会長が小坂の腕の中で居ごこち悪そうに身じろぎした。
「あ、すまない……つい」
小坂は、慌てて抱きしめていた生徒会長を放した。
生徒会長は、赤くなった頬を隠すようにうつむいた。
少しほっとしたような様子で、ワイシャツの乱れを直してから、生徒会長は語った。
「僕は、大丈夫だったんです。連れこまれたとき、僕が暴れて騒いだのを気づいて救ってくれた人がいて。それが前の生徒会長だったんです」
「そうか」
生徒会長の話を聞いて、小坂は自分の早合点に気づいた。てっきり生徒会長が自分と同じ経験をしたのだと思ってしまった。だが違った。
「それは良かった」
生徒が酷い経験をしなかったことは喜ぶべきことだ。小坂は、ほっとした。だが同時に、泣きたいような孤独を感じた。そうか、誰も、自分と同じではない。自分と同じ人はいない。
そんなことは、わかっていた。慣れていた。だが期待してしまった。自分と同じ経験をした仲間がいることを。
仲間が、賢く美しい生徒であることに小坂は喜んだ。彼ならば、共感し合える。理解し合える。彼を慈しみたい。彼は賢い生徒だ。優しく育めば、きっと傷も癒され、健やかに成長してくれるだろう。癒えた傷の、傷の痛みを忘れないまま。そんな彼が、いずれ自分を救ってくれるかもしれないとまで期待してしまった。
「僕は、暴れて騒がなかったのが悪かったのか……」
むらむらと自己嫌悪の嫌な感情が、小坂の脳を汚染した。どこにも、ぶちまけようのない、秘めた怒りが、自分に向かっていた。
「先生、そんなことありませんよ」
宮本が、ふいに口をはさんだ。
「あいつら、暴れたり、騒いだりしたら、何をするかわかりません。もっと乱暴なことだって、しかねないやつらなんです」
宮本は、語気荒く怒った。
「そうか……宮本は、さっき、それを、体験したのか」
小坂の言葉に、宮本は頷いた。
「だから、小坂先生は、間違ってなんかいません」
宮本は、力強く小坂に言った。
小坂は、今度は宮本の身体を抱き寄せて言った。
「ありがとう」
小坂は宮本を抱きしめた。
「先生……」
思わぬ助けが、ここにあった。
宮本は、いつのまに、強くなったのだろう。何も言えない、ウブで弱い生徒だったのに。小坂は、泣きたい気持ちになった。
ところが、宮本は、小坂の腕の中で、えっくえっく泣き出した。
「ぼく……やつらに、ひどいことされました」
「いつ?」
泣き出した宮本に、生徒会長が聞いた。
「さっきです」
宮本が答えた。
「あ、それで」
生徒会長と風紀委員長が口を揃えて言い、うなずきあった。
「それで、殺すとか言ってたのか」
生徒会長が言った。
「あいつら……!」
風紀委員長がこぶしを握り締めた。
「なんか、一年生の子が先生のパンツ被らされてエッチなことされてました。僕が、先生にプレゼントしたパンツなのにっ……!」
宮本は、えくえくしながら言った。
「え? 先生にプレゼントしたパンツ!?」
生徒会長が、つっこんだ。
「あ……」
宮本は、恥ずかしそうにした。
「君、小坂先生に下着なんか贈ったんだな。抜けがけしてずるいぞ。先生にプレゼントなんかしたら、いけないんだぞ」
生徒会長が、子どものようになって、宮本に抗議した。
「そうだよな。風紀委員長」
生徒会長は、振り返って、風紀委員長にまで加勢を求めた。
「まあ、そうだが……」
風紀委員長は、あきれたように返事をした。
「小坂先生が、プレゼントなんか、受け取るわけないじゃないか! 決まりなんだぞ。それも、パンツだなんて。そんなものプレゼントするなんて、君は破廉恥だな。それに、なんて酷いセンスなんだ。きみを見損なったよ。そんなルール違反をするなんて!」
生徒会長は、いやにこだわる。
「生徒会長だって、先生に、クマちゃんのキーホルダー贈ったじゃないですか!」
宮本が暴露した。
生徒会長が真っ赤になった。
「あんな、かわいいクマちゃんなんか、大人の男で、かっこいい先生に、ぜんっぜん似合わないのにっ。会長のプレゼントセンスの方が、どうかしてますっ! 人のプレゼントのセンスにケチつけないでくださいっ」
宮本も、真っ赤になって負けずに言い返した。
「きみ、なんでそんなこと知ってるの。だって、あれは……その……僕も子どもだったから。まだ二年生だったからね……」
生徒会長が赤くなりながら、いいわけをした。
「僕だって二年生ですっ!」
宮本が言い返した。
「うん、そうだよね。なのに、パンツなんて贈るとか。きみって、相当エッチなんだね」
生徒会長がニヤニヤした。
「クマちゃんなんて渡す人に言われたくないです!」
宮本は真っ赤になって怒った。
「クマちゃんなんてとか言うな! クマちゃんに失礼じゃないか!」
生徒会長も赤くなって怒った。
「だってクマちゃんなんてっ……」
むぎゅうと宮本の唇を会長がひねりつぶした。
「クマちゃんをバカにするやつの口から、クマちゃんってことばを聞きたくない!」
風紀委員長があきれかえって言った。
「おい、いいかげんにしろよ。クマちゃんなんか、どうでもいいだろ?」
「クマちゃんなんかって言うな!」
風紀委員長まで、とばっちりを受けた。
「おいおい、お前、クマちゃんごときで、二年と喧嘩して、恥ずかしくないのか?」
風紀委員長が、うんざり顔で言った。
「クマちゃんごときとか言うな!」
「つまり、生徒会長は、クマちゃんが好きなんですね……」
宮本が、つままれて赤くなった唇を指で痛そうに押えながら言った。
「好きなものを好きな人にあげて、なにが悪いんだ!」
生徒会長が憤慨したように言った。
「へえ、おまえって、クマちゃんが好きなんだ。しかも、小坂のこと、好きだったんだぁ……。へぇぇ、小坂なんて、とか、さんざん言ってたくせに。へぇぇ」
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