壁乳

リリーブルー

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ビジネスホテルの朝。朝食。

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 静かな日曜の朝。
 窓から差し込む光で、目を覚ました。

 隣には、すうすう寝息を立てている涼真。

 ぐしゃっと乱れた黒髪。
 半分肩から落ちたシーツ。
 素肌が白くて、どこか儚く見えた。

 「……」

 そんな姿を見せるくせに、
 昨日はあんな声を出してたんだ。



 部屋はツイン。
 だけど、今二人が寝てるのは――片方のセミダブル。

 狭い。
 でも、それがちょうどよかった。

 温もりを、全部近くで感じられるから。



 涼真が、目を覚ました。
 寝ぼけ眼で、俺の顔を見て、にこっと笑う。

 「……おはようございます、先輩」

 「おう」

 「……今日、休みでよかったですね」

 「お前のせいで、腰が痛いわ」

 「えぇ~、それは俺じゃなくて、ベッドが狭いからじゃないですか? 次はキングサイズのベッドの部屋にすれば?」



 くすくす笑いながら、シーツを引き上げて胸まで隠す涼真。

 「……ね、朝ごはん、食べに行きません?」

 「食堂か?」

 「うん。朝食付きだから。どうしてそんな顔するんですか? 俺と一緒に行くの、嫌ですか? 大丈夫ですって。
 ……一緒に行っても、たぶん出張の同僚っぽく見えますよ?」



 朝食会場は、ロビー横の小さなレストラン。

 ビジネスホテルのバイキング――
 パン、サラダ、ソーセージ、スクランブルエッグ。
 湯気の立つコーヒー。



 二人で並んで料理を取って、
 窓際のテーブルに座る。

 傍目には、どう見ても“出張中の男ふたり”。

 けれど――

 俺たちは、昨夜、すべてを知り合った恋人同士だった。



 「うまいな、これ」

 「でしょ? このソーセージ、意外と肉厚なんですよ」

 「……そういうの、昨日の夜にも言ってなかったか?」

 「えっ、何のことですか?♡」

 顔を赤くして俯いた俺の手を、
 テーブルの下でそっと握ってくる。

 誰にも見られていない。
 でも――誰かに見られても、もう、離したくなかった。



 「なあ、涼真」

 「はい?」

 「……また、こうして泊まってもいいか?」

 「うん、いいですよ。
 でも今度は、先輩がホテル取ってくださいね?」

 「……検討する」

 「“検討”じゃなくて、“予約済みです”って言われたいな~」



 ふたりだけの、静かな朝だった。

 壁のない朝。
 触れ合ったあとも、こうして隣にいられる。

 それが、こんなに幸せなことだったなんて――
 きっと俺は、昨日の夜まで知らなかった。



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