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王宮編
96の2.ウソでしょ!
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一、二歩前に出た後に、一度私のことを振り返りニコッと笑うと、クルリと前を向いて小走りに駆け出していく。
その姿が微笑ましくて、笑顔のまま小さく手を振り返した。
「あーあ、やっぱり握手もしてもらえないわよねぇ、私期待してたのに」
「私なんかほら、絵姿まで持ってきたのよ? これを出して目に留めていただければ、お話しできるかもしれないと思ったのに」
隣のお嬢様たちの会話を聞いて、クスッと小さく笑ってしまった。なんだか、アイドルか外国のスターがやってきた時のような浮かれっぷりだわ。
どこかの有名俳優に会いたくて、名前や写真を掲げてサインをもらうアレだ。
場所や世界が変わっても、有名人への接し方は一緒なのね。ちょっと安心したよ。
楽しい会話を小耳に挟みながら王家の方へと視線を戻すと、ハルが王様に声をかけ、王様がハルの肩に手を回したところだった。
それと同時に王太子が立ち上がり、ハルの頭を軽く撫でる仕草を見届ける。
そして次の瞬間、私の体は冷や水をかけられたかのように固まった。
驚きのあまり、自分が声をあげたのも気づかなかった。
「な、なんで? 王太子があの人なの……」
バランスを崩し、さっき喋っていたお嬢様の一人にぶつかった。不意にぶつかられたお嬢様は不快そうに眉をひそめて私に抗議してくる。
「ちょっとお、あなた、人にぶつかったならすぐに謝罪しなさい。無礼ですよ?」
「あ、ご、ごめんなさい……あの……お尋ねしますが、王太子はあの方で間違いありませんか?」
私の質問に怪訝な顔をして一層眉間に皺を寄せる。が、しょうがないという感じで説明してくれた。
「そうよ。ほら、絵姿もここにあるわ」
「あの……失礼ですが、絵姿と全く違う方ですよね、あそこにいるの。本当に王太子なんですか?」
「何言ってるの? あなたの目、大丈夫? 一度医師に診てもらった方がいいわ。絵姿と全く一緒じゃないの。あ、でも少しお痩せになったかしら。病床でさぞ心細かったからでしょうね。療養中に奥方様を三人とも亡くされましたし」
彼女が心配そうに自分の頬に手を当てて、ほうっとため息を吐くのを隣のお嬢様が聞きつけて、その手をぎゅっと握ってあげた。
「大丈夫、すぐにお元気になられるわ。だって私たちが応援しますもの」
「そうね、そうよね。アンドリュー様のお目に留まればお慰めもできますわ」
二人は盛り上がっているようだが、みんなこの状況がおかしいことに気づかないのだろうか。
顔が違う人間が王太子を名乗っている。しかもその一番身近な人間、つまり奥さんを排除しているのだ。
どう考えても不可解な現象だろうに。それとも、私の目と頭が変になってしまったのか?
今、みんなが浮かれているから理解できないのか?
まずは奥さんが亡くなった経緯を知らなければ。もしかしたら本当に不慮の死を迎えたのかもしれないし。
事実だけをピックアップして、この状況がおかしいことに気づいてもらわなければ。
私は探りを入れていることを悟られないように、さりげなく三人の死について尋ねた。
「奥さんを三人も? 事故か何か?」
「そんなのわかりませんよ。ただ、アンドリュー様もフリーになったことだし、私たちにも妻の座を獲得できるチャンスが来たってことですわっ」
ダメだ。この子たちは完全に考えることに蓋をしている。妻の座を狙っている女の子たちだから、思考にブロックをかけられているのかも。
別の考えに行き当たって、反対に並んでる男性貴族に声をかけた。
「すみません。私、王太子の姿を詳しく見たことがなかったんです。あの方が本当の王太子ですか? あ、これは王太子の絵姿だって言うんですけど」
「ああ、よく描けてるな。アンドリュー様が戻られた王家は安泰だ。景気もよくなるぞ?」
ニコニコしながら答える男性も、絵姿とあの王太子が同一人物だと信じて疑わない。
「くっ……」
私は歯噛みをしながら、王太子と名乗るヤツを睨む。
その目線の先には、無害な顔をしてハルに向かって微笑む、真っ白い肌をした燃えるような赤い髪の男がいた。
その姿が微笑ましくて、笑顔のまま小さく手を振り返した。
「あーあ、やっぱり握手もしてもらえないわよねぇ、私期待してたのに」
「私なんかほら、絵姿まで持ってきたのよ? これを出して目に留めていただければ、お話しできるかもしれないと思ったのに」
隣のお嬢様たちの会話を聞いて、クスッと小さく笑ってしまった。なんだか、アイドルか外国のスターがやってきた時のような浮かれっぷりだわ。
どこかの有名俳優に会いたくて、名前や写真を掲げてサインをもらうアレだ。
場所や世界が変わっても、有名人への接し方は一緒なのね。ちょっと安心したよ。
楽しい会話を小耳に挟みながら王家の方へと視線を戻すと、ハルが王様に声をかけ、王様がハルの肩に手を回したところだった。
それと同時に王太子が立ち上がり、ハルの頭を軽く撫でる仕草を見届ける。
そして次の瞬間、私の体は冷や水をかけられたかのように固まった。
驚きのあまり、自分が声をあげたのも気づかなかった。
「な、なんで? 王太子があの人なの……」
バランスを崩し、さっき喋っていたお嬢様の一人にぶつかった。不意にぶつかられたお嬢様は不快そうに眉をひそめて私に抗議してくる。
「ちょっとお、あなた、人にぶつかったならすぐに謝罪しなさい。無礼ですよ?」
「あ、ご、ごめんなさい……あの……お尋ねしますが、王太子はあの方で間違いありませんか?」
私の質問に怪訝な顔をして一層眉間に皺を寄せる。が、しょうがないという感じで説明してくれた。
「そうよ。ほら、絵姿もここにあるわ」
「あの……失礼ですが、絵姿と全く違う方ですよね、あそこにいるの。本当に王太子なんですか?」
「何言ってるの? あなたの目、大丈夫? 一度医師に診てもらった方がいいわ。絵姿と全く一緒じゃないの。あ、でも少しお痩せになったかしら。病床でさぞ心細かったからでしょうね。療養中に奥方様を三人とも亡くされましたし」
彼女が心配そうに自分の頬に手を当てて、ほうっとため息を吐くのを隣のお嬢様が聞きつけて、その手をぎゅっと握ってあげた。
「大丈夫、すぐにお元気になられるわ。だって私たちが応援しますもの」
「そうね、そうよね。アンドリュー様のお目に留まればお慰めもできますわ」
二人は盛り上がっているようだが、みんなこの状況がおかしいことに気づかないのだろうか。
顔が違う人間が王太子を名乗っている。しかもその一番身近な人間、つまり奥さんを排除しているのだ。
どう考えても不可解な現象だろうに。それとも、私の目と頭が変になってしまったのか?
今、みんなが浮かれているから理解できないのか?
まずは奥さんが亡くなった経緯を知らなければ。もしかしたら本当に不慮の死を迎えたのかもしれないし。
事実だけをピックアップして、この状況がおかしいことに気づいてもらわなければ。
私は探りを入れていることを悟られないように、さりげなく三人の死について尋ねた。
「奥さんを三人も? 事故か何か?」
「そんなのわかりませんよ。ただ、アンドリュー様もフリーになったことだし、私たちにも妻の座を獲得できるチャンスが来たってことですわっ」
ダメだ。この子たちは完全に考えることに蓋をしている。妻の座を狙っている女の子たちだから、思考にブロックをかけられているのかも。
別の考えに行き当たって、反対に並んでる男性貴族に声をかけた。
「すみません。私、王太子の姿を詳しく見たことがなかったんです。あの方が本当の王太子ですか? あ、これは王太子の絵姿だって言うんですけど」
「ああ、よく描けてるな。アンドリュー様が戻られた王家は安泰だ。景気もよくなるぞ?」
ニコニコしながら答える男性も、絵姿とあの王太子が同一人物だと信じて疑わない。
「くっ……」
私は歯噛みをしながら、王太子と名乗るヤツを睨む。
その目線の先には、無害な顔をしてハルに向かって微笑む、真っ白い肌をした燃えるような赤い髪の男がいた。
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